掌(てのひら)に藍(あゐ)染込(しみこん)で夜寒哉
掌(てのひら)に酒飯(さかめし)けぶる今朝の霜
手枕や蝶は毎日来てくれる
手をすりて蚊屋の小すみを借りにけり
田楽のみそにくつつく桜哉
天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ
出代(でがはり)や迹の汁の実(み)蒔(まい)ておく
でゝ虫の捨家いくつ秋の風
手に足におきどころなき暑(あつさ)哉
手拭(てぬぐひ)のねぢつたまゝの氷哉
手のごひで引かついだるわかな哉
一茶は五十二歳で妻菊を迎え、三男一女をもうけたが、
不幸にしてつぎつぎに夭死している。最愛の娘さとは、
文永二年(千八百十九年)六月廿一日に天然痘を罹って
亡くなっている。
(終に六月二十一日の蕣の花と共に、此世をしぼみぬ、母は
死別にすがりてよゝと泣もむべなるかな、この期に及んでは、
行水のふたゝび歸らず、散る花の梢にもどらぬくひ事などと
あきらめ顔しても、思ひ切りがたきは恩愛のきづななりけり)
露の世はつゆの世ながらさりながら
辻堂や掛つ放しのねはん像
づぶ濡れの大名を見る炬燵かな
妻なしが草を咲かせて夕凉
夫(つま)なしにけふなられしよ日傘(ひがらかさ)
つやつやと露のおりたるやけ野哉
次の間(ま)に行灯(あんど)とられしこたつ哉
次の間の灯(ひ)で飯を喰ふ夜寒哉
月花や四十九年のむだ歩き
頭巾きて見てもかくれぬ白髪哉
つくづくと鴫我(しぎわれ)を見る夕べ哉
つく羽を犬が咥(くは)へて参りけり
一日(ついたち)や仕様事(しやうこと)なしの更衣
(亡師の石塔を拝して)
塚の花にぬかづけば古郷(こきやう)なつかしや
月かげや夜も水売る日本橋
月さすや紙の蚊やでもおれが家
月ちらり鶯ちらり夜は明(あけ)ぬ