東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

消化管(胃十二指腸)穿孔に対する保存的治療について

2015-12-04 21:37:13 | 勉強会

 在宅や施設の患者さん方は、合併症があるような虚弱高齢者も当然多いのですが、そのような方に消化管穿孔が起こることもあります。そのようなときに、手術が困難と外科が判断した場合、もしくは私たちからみて手術は困難と考えられかつ患者側も手術の希望がないときなどに保存的に治療することが今までも何回かありました。幸いほとんどの患者さんは治癒して退院でき、そのような中で、保存的治療でもある程度治療可能な場合もあるのではないかと感じました。特に先ほど述べたような手術が困難な患者さんに対してどのように保存的治療を行っていくのかなどは今後高齢化がさらに進む中で1つの視点なのではないかと思い、今回調べてみました。

<消化管(胃十二指腸)穿孔に対する保存的治療について>

•胃十二指腸潰瘍穿孔に対する保存的治療の予後は?

★Crofts TJらの報告(N Engl J Med 1989)

手術群(43例)と非手術群(40例)とを比較したRCT

非手術群は補液・胃管・抗菌薬・H2ブロッカー投与、11例が12h後に改善なく手術必要となった。死亡率・合併症率で2群に差はなかった。70歳以上は有意に保存的治療への反応が悪かった。

⇒論文の結論:70歳未満であれば、初期治療として保存的にみても注意深く経過をみれば安全かもしれない。

★Dascalescu Cらの報告(Hepatogastroenterology 2006)

消化管穿孔を起こした患者のうち、発症から短期間で気腹が少量である64例(全体の10%)を対象に、胃管・補液・抗菌薬・制酸薬投与の保存的治療を施行し、評価。7例に合併症あり(腹腔内膿瘍、うち4例は外科的ドレナージが必要であった)。死亡はなし。

⇒論文の結論:胃十二指腸潰瘍穿孔のケースでも症例を選べば、保存的治療が代替となりえるし、麻酔や外科侵襲を避けることが可能。

•どのような患者が保存的治療が成功しにくいか?

★Songne Bらの報告(Ann Chir 2004)

消化性潰瘍穿孔と診断された82例を前向きに調査。最初に保存的治療(胃管と制酸薬の経静脈的投与)を行い、24h後に改善しない場合には手術施行。

→約半数が保存的治療のみで改善。保存的治療失敗の予測因子は、多変量解析では、①気腹のサイズ(第1腰椎より大きい)②心拍数(>96/分)③鼓腸 (単変量では④直腸診の圧痛、⑤60歳以上も有意差あり)

①・②・④・⑤を満たしていると全員手術となった。

 ここまで調べてみると・・・比較的軽症であり、若年者であれば最初保存的に治療を行うという方法もあるのかなと。しかし、自分たちが診ているような手術リスクの高い患者においてはどうなのかという検討はあまりありませんでした。そこでその点については下記の論文が一番参考になりました。

 

•手術治療のリスクが高い合併症ある虚弱高齢者は?

Pascal Bucberらの報告(Swiss Med 2007)

胃十二指腸潰瘍穿孔で入院となった533例のうちpoor conditionのため(重度心不全・腎不全・肝硬変・糖尿病の重度合併症など)保存的治療となった30例を後ろ向きに調査。 (保存的治療:胃管・抗菌薬・制酸薬)

→平均年齢79歳。死亡率は30%(同時期の手術群は13%)、PPIの方がH2ブロッカーよりも有意に死亡率低かった。保存的治療群で死亡の予測因子は、多変量解析で、入院時のShock Index≧1・制酸薬の種類(H2ブロッカー)が有意であった。⇒論文の結論:手術ができないような状態の消化管穿孔患者にはPPIを使用した保存的治療は妥当な治療選択肢であろう。しかし、ショック状態の場合にはそれでも手術を検討しなくてはいけないかもしれない。

 自分たちの経験上も死亡率は3割程度くらいかなという実感でしたので、ある程度一致した感じがありました。Shock Index≧1のような患者さんは予後が悪いというのも過去の症例を考えてもあてはまりました。手術をできないような患者さんに対しても必ずしも治療自体をあきらめるのではなく、患者さんのもとの状態にもよると思いますが、保存的治療をきちんと行っていくのでよいのだ(それが根拠のない治療ではないのだ)と少し裏付けができた気がしました。