ハヤコと一緒に居始めて、もうすぐ3年になるが、ハヤコに腹が立ったのは、初めてだ。
5日前にした手の甲のイボ取り手術、3回目の縫い合わせでようやく傷の保護がなんとかできそうだと、昨日一昨日と、ハヤコ、頑張って我慢していたんだ、夜は袖を縛った長そでシャツを着させ、昼は靴下を履かせ、あと少し我慢してくれたら大丈夫と、思ってたんだ。
だけど、今日、夕方、ハヤコと散歩へ行こうと足早に帰宅する、出迎えてくれたハヤコ、足に靴下がない、だけどガーゼを巻かれてはいる、だけど、なんか朝巻いてやった感じと違う、私の帰りを喜んで迎えてくれているのだが腰が低い、そして顔は何か後ろめたいことがある表情だ。
「はちゃん靴下は?」
ハヤコ、ますます顔が引きつる。
「靴下とったんか、ベロベロしたんか?」
ハヤコ、足を低くし首を下げ頭をかろうじてあげる、背中の毛は一部乱れている。
私は、靴下がないことはどうでもいい、少々ベロベロしても傷口さえ開いていなければいい、朝見た傷の状態からそんな変わっていないだろうと漠然と思っていた。
ばあちゃんが、家の中から陽気に言う、「穴があいたぁ」。
私は、靴下に穴が開いたのかと漠然と想像していた。
ばあちゃん、まだ言う、「穴がぁ、穴が開いたんよー、ねーはーちゃん」あくまで陽気だ。
私は少し不審に感じた、「穴?」
ばあちゃんが言う、「手の穴~、真ん丸の穴ー」
!!まさか!!??
私は、状況を理解した途端、甲高い声で嘆いた、「えええええーーーーー!!」、同時に、腹が立った。
ハヤコの手に撒いてあったガーゼを取り、ハヤコの手を見る、また傷がぱっくり開いている、もういい加減手術から時間も経っている、4度目の縫合はない、自然と肉が盛るのを待つのみ、あああ、キレイに傷を治してやりたかったのに、キッポになる、毛が生えてこん、もおおおおおおっ。
私は、ハヤコを怒った、これまでにない、怒りをぶつけた。
ハヤコは、かあさんの憤慨ぶりに、固まっている。
いつもの叱りは、ほとんど演技だ、本気で腹が立って叱るわけではない、ダメなことはダメと伝えるためのものだが、今日のはただの私の怒りだ、自分の願いが叶わないことへのお門違いの怒りだ。
冒頭の「ハヤコに腹が立った」というのは、実は、筋違いのものだ。「ハヤコに関わる状況にひどく腹が立った」が正解だ。
ハヤコは、何もしてはいないのに、ただただ私の怒りを受けるべくジッと座っているだけなのに、気が付くと「はぁはぁ」言い出した、小さな心が締め付けられているようだ。
私は、さすがに怒りを鎮めようとするが、悔しさから涙が出そうになった。
でも、一応「いいよ」と許さなければ、ハヤコは私のエゴに涙を流す勢いだった。
ハヤコにとって、私が怒ることは、嫌なことなのだ、たぶん、「怖い」というより、「嫌」なんだと思う。
怒りすぎた、今頃、反省している。
ハヤコの傷保護のために買ったブーツ、今日届いた。家の中と、散歩用にと2足。
もう一日ネット注文を早くしておけば、昨日届いていて傷は閉じたままだったかもれしれない、そう考えると、やっぱり悔しい。
が、後の祭りだ。
はちゃん、ごめんね、明日はかあさん、機嫌直すからね。