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詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

四月大歌舞伎第1部『通し狂言 天一坊大岡政談』

2022-04-05 22:48:38 | 日記
先月は十分に演出ができなかったが久しぶりのスーパー歌舞伎『新・三国志』で大人気だった猿之助ら澤瀉屋勢と松緑、愛之助ら中堅役者が集結して、初代神田伯山が得意とした人気の講談を元に河竹黙阿弥が書き下ろした『天一坊大岡政談』を上演。残念ながら観客動員では地味な印象の演目だったからか先月には遠く及ばなかったようである。

歌舞伎美人に掲載されていたあらすじは次の通り。坊主の法澤は、村に住む老婆お三からある秘密を聞かされます。実はお三の亡くなった孫は八代将軍徳川吉宗の子で、証拠の品もあるというのです。話を聞いた法澤の脳裏に浮かび上がる壮大な企て…。老婆を手にかけ、将軍・吉宗の子になりすました法澤は、関白家の元家臣で才知に長けた山内伊賀亮を味方に引き入れると、名前を天一坊と改め、将軍のいる江戸に乗り込みます。この天一坊を詮議するのは、名奉行として名高い大岡越前守。しかし、越前守をもってしても天一坊の正体は明らかになりません。果たして裁きの行く末やいかに――。

『天一坊大岡政談』序幕。将軍吉宗のご落胤天一坊事件の発端。猿之助の法澤が偶然に聞いた醜聞と証拠品を前にして殺人をも厭わない悪事に大きく心を動かしてしまう若者を演じて巧み。巳之助と新悟がどのように関わっていくのか期待を持たせる好助演。来月92歳の寿猿が元気な姿を見せて安堵した。

『天一坊大岡政談』二幕目。ご落胤になりすました法澤の猿之助。黙阿弥らしい台詞と趣向を自分のものとして観客を嬉しがらせるべき場面。もっと思い切りがあってもよかったが発散しない内輪な演技に終始。愛之助の伊賀亮で悪と悪とのぶつかり合いは小粒なものに終わり普通だった。三方に乗った動き出す鯉の仕掛けには驚かされたけれど。

『天一坊大岡政談』三幕目。「網代問答」で松緑の大岡越前守と愛之助の伊賀亮が対決。猿之助の天一坊も含め三者の位置関係の微妙な変化を楽しむ。誰が中央にいるかが重要な歌舞伎の美学を目の当たりにした。気がつけば自分より若い役者ばかり。こういう芝居は自分より歳上の役者のものと思っていただけに完成度が高くないのも納得。

『天一坊大岡政談』四幕目。松緑、左近、門之助が切腹の直前に亀蔵の大助が証拠の品を携えて駆けつける場面。当然間に合うと思っていても色々な意味でハラハラとさせられた。介錯の役目の歌昇が柱に取り付いての大芝居。照れずにそれらしく演じたのはお手柄。裏方は多場面を手際よく舞台転換していて上々。

『天一坊大岡政談』大詰。証拠の品と巳之助の証人も現れて悪事が露見しての大団円。ここでも役者の位置関係が一変する手法を楽しんだ。猿之助が高いところから転がり落ちりる体当たりの演技。体を張らずにそう見せるのが本当の芸だろうけれど元気の良さだけが取り柄の芝居だったのだろうか。

(2022年4月5日(火)歌舞伎座 序幕11:00~11:32、二幕目11:42~12:02、三幕目・四幕目・大詰12:32~13:35)

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