しばらくして、お嫁さんは「若女将」と呼ばれるようになりました。須磨観光ハウス花月を守りぬいて来た家族の三代目、幸運な夫を「マネちゃん」と呼ぶことにしましょう。
若女将は毎日毎日、遠くから猫たちに優しい言葉をかけました。若女将とお客様が大好きなマネちゃんは、若女将の姿を見て、段々猫を好きになりました。そして、若女将が喜ぶ顔が見たくて、お客様にも猫に好意を持ってもらいたくて、一生懸命、匂いの出ないフードを探して来たりしました。
そうして、山の捨て猫・野良猫たちは、少しずつ若女将とマネちゃんに近づきました。
人に棄てられ懸命に命を繋いできた末裔、それに混じって新しく飼い主に棄てられた猫たち・・・命を寄せ合って必死で生きている猫たちが、人に対して良い気持ちを持っているはずがありません。しかし、山の野良猫たち、棄て猫たちは元々、人と共に生き、一緒に温かい時を過ごしてきた猫たちの末裔でもありました。
ある日、一匹のキジトラが若女将に近寄って、手に頬ずりを始めました。他の猫たちよりも年老いて弱々しい猫でした。その日からキジトラは建物の一室に住むことになりました。
部屋には出窓があり、近くには足場があって、今でも毎日、猫たちは木に登ったり、足場に登ったりして、先輩キジトラを訪ねています。昼間に二人が忙しく働いているとき、キジトラは窓辺に座り、訪問客たちと猫語で話しています。仲間と野山を駆け巡れなくなって少し寂しいけれど、直接話せなくて寂しいけれど、部屋の出窓でお日様の光を浴びながらウトウトとお昼寝をするのが嬉しいのでした。
こうして年老いたキジトラは若女将とマネちゃんの家族になりました。猫たちも毎日毎日キジトラに会いに来てくれます。
皆さま、花月レストランホールは大きなガラス張りです。見渡せば素晴らしい景色に胸がいっぱいになります。でもちょっと耳を澄ませてみてください。どこからか若い猫たちがキジトラを懐かしんで訪問し、ミャーミャーと小さく猫語で呼びかける声が、時々聞こえるんですよ。
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