須磨観光ハウス~花月と猫の物語

1937年(昭和12年)に神戸市迎賓館として誕生した須磨観光ハウス「花月」と猫ちゃんたちを応援するブログです。

花月と猫の物語(2)~キジトラ

2020-05-04 15:19:59 | 猫の物語
しばらくして、お嫁さんは「若女将」と呼ばれるようになりました。須磨観光ハウス花月を守りぬいて来た家族の三代目、幸運な夫を「マネちゃん」と呼ぶことにしましょう。

若女将は毎日毎日、遠くから猫たちに優しい言葉をかけました。若女将とお客様が大好きなマネちゃんは、若女将の姿を見て、段々猫を好きになりました。そして、若女将が喜ぶ顔が見たくて、お客様にも猫に好意を持ってもらいたくて、一生懸命、匂いの出ないフードを探して来たりしました。

そうして、山の捨て猫・野良猫たちは、少しずつ若女将とマネちゃんに近づきました。

人に棄てられ懸命に命を繋いできた末裔、それに混じって新しく飼い主に棄てられた猫たち・・・命を寄せ合って必死で生きている猫たちが、人に対して良い気持ちを持っているはずがありません。しかし、山の野良猫たち、棄て猫たちは元々、人と共に生き、一緒に温かい時を過ごしてきた猫たちの末裔でもありました。

ある日、一匹のキジトラが若女将に近寄って、手に頬ずりを始めました。他の猫たちよりも年老いて弱々しい猫でした。その日からキジトラは建物の一室に住むことになりました。

部屋には出窓があり、近くには足場があって、今でも毎日、猫たちは木に登ったり、足場に登ったりして、先輩キジトラを訪ねています。昼間に二人が忙しく働いているとき、キジトラは窓辺に座り、訪問客たちと猫語で話しています。仲間と野山を駆け巡れなくなって少し寂しいけれど、直接話せなくて寂しいけれど、部屋の出窓でお日様の光を浴びながらウトウトとお昼寝をするのが嬉しいのでした。

こうして年老いたキジトラは若女将とマネちゃんの家族になりました。猫たちも毎日毎日キジトラに会いに来てくれます。

皆さま、花月レストランホールは大きなガラス張りです。見渡せば素晴らしい景色に胸がいっぱいになります。でもちょっと耳を澄ませてみてください。どこからか若い猫たちがキジトラを懐かしんで訪問し、ミャーミャーと小さく猫語で呼びかける声が、時々聞こえるんですよ。



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花月と猫の物語(1)~はじまり

2020-05-04 15:14:51 | 猫の物語
須磨浦公園は、須磨一の谷から塩屋にかけての海辺沿いに細長く広がります。山と海に挟まれた細長い公園で、東から鉄拐山、旗振山を経て鉢伏山が海へと流れ込む場所が西の終点です。この終点、鉢伏山のふもとの高台に「須磨観光ハウス花月」はあります。

西国街道を使っていた旅人は、長い間多井畑回りで明石方面、つまり迂回して西へ向かいました。摂津の国と播磨の国とちょうど国境にあたるこの海岸は交通の難所としても有名でした。

そんな理由で、令和の御代・21世紀になっても東西の開発地に挟まれて、豊かな自然が残こされた珍しい場所でもあります。この場所を昭和の初めから三代に渡り、守り続けた来た家族と猫の出会いがことの始まりです。

場所がらもあってか、ペットブームが一段落し、景気も悪くなった平成の時代、須磨浦公園には動物の遺棄が始まりました。アニメ等に影響されて見た目の可愛さで手に入れたものの、野性が抜けにくい性質で飼いきれなくなったアライグマ、そしてお決まりの犬や猫がここに棄てられました。動物たちは山へ入り、野生化していきました。野犬はオオカミのような群れになりました。しかし、身体の小さい猫たちは野性化しても弱い存在で、生まれる子供たちは度々キツネに食べられることもありました。そして猫たちは少しずつ「須磨観光ハウス花月」に近づいてきたのです。

ある時、ここに「ひな人形」のように美しいお嫁さんが来ることになりました。お嫁さんは優しい人で、たいそう猫好きでした。お嫁に来たものの、風光明媚な住いと引きかえに、普段は人通りの少ない寂しい場所で過ごすことになりました。

そうして、安心と安全を求めた猫たちと、慣れない場所で頑張ることになったお嫁さんは出会いました。
お嫁さんにはすぐに猫たちの願いが分かりました。安心と安全は、生きとし生きるもの全ての願いでした。ここに来てお嫁さんは幸せでした。だから猫たちにも、自分の幸せをあげたいと願ったのでした。



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