昭和初期の大阪 二十六
金谷点柱 十四
紅白まんじゅう
いつもは朝早くからタンタンタンタタンと竹のたがをたたく音が今朝はしずかやった。 …母ちゃんウメちゃんち音せえへんでェ!…
…ほんに変じゃ!風邪でもひいつろうかのぅ!…
…ぼく見てくる!…
戸はしまったままやった。
…ウメちゃんウメちゃん、いてるかい!…
ぼくがおおきな声で呼ぶと…いま、開けるさかいちょっと待っちよって!とてんちゃんの声がして戸が開いた。
…今日はどないしたんやおんちゃんは!…
ぼくは心配して聞いた。
…どないこないもせぇへん、今日はチェサの日やから仕事休みよ!…
…ふーん、チエサってなんや!…
…ヒロちゃんは知らんやろ、今日は朝鮮のわが家で大事な日やさかいあとでヒロちゃん 呼ぶつもりやった…
ぼくを呼ぶというのはなにかええものでも…と胸がどきどきしてきた。
…母ちゃん!ウメちゃんち、今日はチサの日やから仕事はせぇへんのやって…
…フフフフ!そりゃぁチェサ言うて祖先をまつる大事な日じゃ、亡うなった学者の祖父 さんから朝鮮は昔から孔子と言う偉い人の教えをずうっと守ってきた国じゃったき、 祖先をたいせつにするのは日本もかなわんそうじゃ!…
…ほんならなんでぎょうさんおいしいもんをそなえるんじゃ!…
…亡うなった祖先の人たちに食べてもろうためヨ…
ぼくはてんちゃんの後ろの棚に仰山のごちそうが三段もそなえてあったのを見た。
しばらくするとオマスさんよ、ほんの少しやけどこれどうぞ!とてんちゃんが大きな紅白まんじゅうと餅をもってきてくれはった。
金谷点柱 十四
紅白まんじゅう
いつもは朝早くからタンタンタンタタンと竹のたがをたたく音が今朝はしずかやった。 …母ちゃんウメちゃんち音せえへんでェ!…
…ほんに変じゃ!風邪でもひいつろうかのぅ!…
…ぼく見てくる!…
戸はしまったままやった。
…ウメちゃんウメちゃん、いてるかい!…
ぼくがおおきな声で呼ぶと…いま、開けるさかいちょっと待っちよって!とてんちゃんの声がして戸が開いた。
…今日はどないしたんやおんちゃんは!…
ぼくは心配して聞いた。
…どないこないもせぇへん、今日はチェサの日やから仕事休みよ!…
…ふーん、チエサってなんや!…
…ヒロちゃんは知らんやろ、今日は朝鮮のわが家で大事な日やさかいあとでヒロちゃん 呼ぶつもりやった…
ぼくを呼ぶというのはなにかええものでも…と胸がどきどきしてきた。
…母ちゃん!ウメちゃんち、今日はチサの日やから仕事はせぇへんのやって…
…フフフフ!そりゃぁチェサ言うて祖先をまつる大事な日じゃ、亡うなった学者の祖父 さんから朝鮮は昔から孔子と言う偉い人の教えをずうっと守ってきた国じゃったき、 祖先をたいせつにするのは日本もかなわんそうじゃ!…
…ほんならなんでぎょうさんおいしいもんをそなえるんじゃ!…
…亡うなった祖先の人たちに食べてもろうためヨ…
ぼくはてんちゃんの後ろの棚に仰山のごちそうが三段もそなえてあったのを見た。
しばらくするとオマスさんよ、ほんの少しやけどこれどうぞ!とてんちゃんが大きな紅白まんじゅうと餅をもってきてくれはった。