昭和初期の大阪 二十九
金谷点柱(こんたにてんちゅう) 十七
…ウメキチは汽車が怖い、ヒロちゃんよう教えてんか!… ある日、阿倍野駅まで機関車を二人で見に行こうとするとチョンチュおんちゃんが言った。 …機関車の煙すうと気持ちようなる、まかしといて!…
ぼくは自信たっぷりだった。
とさの田舎からここへ来た翌日からなんどもなんども阿倍野駅へ遊びに行った。
シャーシャーと大きな車のしたから機関車はつよそうな白い息をしよった。突然、ホゥエーホゥエー!と吠えると、ジョッ!ジョッ!ジヨッ!ジョ!と仰山、お客がいっぱいの客車をひいてはしりだす。
頭のさきにある煙突から黒い煙がいきよいよく空へ上ってゆく。
ぼくは大急ぎで陸橋の階段を駈け登って橋のまんなかから下をみおろすと物凄い煙を吹き上げながら橋の下を通過した機関車のけむりで忍術つかいみたいだった。
暖かい煙は機関車の焼ける匂いがした。
母が言うにはその匂いは石炭の匂いじゃ…と言った。
…ウメちゃん暖ったかい煙が気持ちええでェ!風呂にはいってるようなもんや!…
ウメちゃんはふだん竹馬に胸はって得意げに乗る時とはまるで違った青い顔になった。 …怖うない!すぐ煙はきえるさかい!…
ぼくは得意顔でウメちゃんの顔を見ていった。
ウメちゃんはこっくり首をふってついてきた。
ぼくがウメちゃんに負けないのは機関車の煙吸いだけや。
竹馬、独楽回し、ラポ、目白、黄チョウ、穴セミ、ミンミンセミ、大バッタ、夕空のメスラポをとったり、ビー玉、回り将棋、読本、算術、…全部負けやった。
でもウメちゃんはヤンパン貴族ノ子やから負けるのはあたりまえやと思った。
金谷点柱(こんたにてんちゅう) 十七
…ウメキチは汽車が怖い、ヒロちゃんよう教えてんか!… ある日、阿倍野駅まで機関車を二人で見に行こうとするとチョンチュおんちゃんが言った。 …機関車の煙すうと気持ちようなる、まかしといて!…
ぼくは自信たっぷりだった。
とさの田舎からここへ来た翌日からなんどもなんども阿倍野駅へ遊びに行った。
シャーシャーと大きな車のしたから機関車はつよそうな白い息をしよった。突然、ホゥエーホゥエー!と吠えると、ジョッ!ジョッ!ジヨッ!ジョ!と仰山、お客がいっぱいの客車をひいてはしりだす。
頭のさきにある煙突から黒い煙がいきよいよく空へ上ってゆく。
ぼくは大急ぎで陸橋の階段を駈け登って橋のまんなかから下をみおろすと物凄い煙を吹き上げながら橋の下を通過した機関車のけむりで忍術つかいみたいだった。
暖かい煙は機関車の焼ける匂いがした。
母が言うにはその匂いは石炭の匂いじゃ…と言った。
…ウメちゃん暖ったかい煙が気持ちええでェ!風呂にはいってるようなもんや!…
ウメちゃんはふだん竹馬に胸はって得意げに乗る時とはまるで違った青い顔になった。 …怖うない!すぐ煙はきえるさかい!…
ぼくは得意顔でウメちゃんの顔を見ていった。
ウメちゃんはこっくり首をふってついてきた。
ぼくがウメちゃんに負けないのは機関車の煙吸いだけや。
竹馬、独楽回し、ラポ、目白、黄チョウ、穴セミ、ミンミンセミ、大バッタ、夕空のメスラポをとったり、ビー玉、回り将棋、読本、算術、…全部負けやった。
でもウメちゃんはヤンパン貴族ノ子やから負けるのはあたりまえやと思った。