吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

カウライ男の随想 二十九

2005年11月02日 10時58分10秒 | カウライ男の随想
カウライ男の随想 二十九  
 
 茂助は複式教育のせいですでに六年生の実力を持つ少年で学校前のいつも埃りのたつ道に沿った農家の一人っ子である。二階の手摺はいつも埃で真っ白になっている。父が五年前に肺結核で亡くなった母子家庭だがとても明るい子だった。E校長のカツラを発見したのも茂助だった。…先生よ!オレ、困っちまっただわ…校長先生!と声かけたら校長は慌てて起きる時にカツラを逆様にかぶってしまっただわ…オレおかしくて弱っただわ!と急用ができて茂助をO市まで使いにだした時に戻ってそんな報告をしたのだ。
 西峰時代を思い出させるように茂助は朝倉へ私が行く前までほとんど毎晩のように私の住宅にやってきて遊んで帰るのだった。この山村では薩摩だけが豊富にあった。
…先生!一、二年教室の屋根に時々お化けが歩くっちゅうぜ!ミシミシ音立ててよ!ある日茂助が言った。…馬鹿者!この世に化け物なんかおらん!風がふいて古い屋根がきしむ音じゃ!と一笑にふした。その日から十日ほどして私は不思議な体験をした。
 答案作成で遅くまで職員室に残り住宅に戻った月夜のことだった。 ふかした薩摩を食べてすぐ布団にもぐりこんで間もなく、玄関の障子がガタガタ音をたて始めた。その音は次第に激しくなったのでパッと電気をつけた。
 静寂が戻った。私は猫か犬でも玄関にいるのだろうと思ってガラス戸をいきなりあけた。ふと見上げた旧校舎の屋根は月光で白く輝いているほか、一切の気配がない。
 電気を消してふたたび横になって十分ほどするとさっきと同じ障子のガタガタ振動する音が聞こえた。音はしだいに激しくなってくる。私はいきなり立ち上がって電気のスイッチをひねると同時に障子を開けた。鼠一匹、猫一匹も見えない。いったいだれが、なにものが障子を振動させたのか謎だ。
 その夜、私は電気をつけっぱなしにして横になった。

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