竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

緊迫する東アジア情勢の中で(第1部)

2010年12月05日 | 自然エネルギー
日米安保の存在意味・第1部を書いた直後に鳩山総理の突然の辞任劇があり、菅直人内閣が誕生し、新内閣の品定めなどしているうちに、民主党の党首選で菅直人と小沢一郎の一騎打ちがはじまり、その最中に尖閣諸島での中国漁船の衝突事件が起こる。中国で反日デモの嵐が吹き荒れたと思ったら、海上保安庁職員による中国漁船衝突映像の流出事件、それで終わらず北朝鮮からの延坪島(ヨンピョンド)への砲撃事件と続く。北朝鮮に面した黄海西側ででは米韓軍事演習が空母ジョージ・ワシントンを擁して展開し、引き続き日本海では日米合同の軍事演習中。東アジア情勢が一気に緊迫の度合いを深めている。ウィキリークスによるアメリカの外交公電の暴露という「おまけ」までついて、中国や北朝鮮がらみの内部文書の暴露もまた、東アジアの政治バランスを大きく揺るがしている。(長くなってしまったので第1部と第2部、2回に分けて流す。)

尖閣諸島問題では軸足が定まらなかった平和勢力

いちおう私自身も日本の平和勢力の一員であるという立場でこの文章を書いている。民主党の新政権に対する平和勢力と見られているグループからの評価はさまざまである。鳩山総理が普天間基地の国外移転、最低でも県外移転を掲げたのだから、最初の評価は高かった。もちろん額面通りでは評価しないよ、という“やぶにらみ”スタンスではあったものの、自民党よりはなんとかしてくれるだろうとの淡い期待も抱いていた。

それが腰砕けとなり、事実上の辺野古移設追認の日米合意に基づいて菅直人総理が誕生したときには、当然がっかりである。それでも、菅直人は「市民運動出身」だし何かをしてくれるのではという期待を持ち続けるグループと、もう話にならないと、明確にアメリカにもの言える内閣を望むというグループに大きくは分かれていく。
そして党首選。平和勢力の多くの人たちから「小沢一郎への期待」を聞いた。かなりの人が「小澤応援団」を自認していた。そのよりどころは普天間問題での「国外、県外移設」をまだ小澤がかげているという点にあった。なぜ、あれほど明確に国外・県外を掲げていた鳩山が、それを実現できなかったかの検証をすべきなのに、そのことは依然未解明のままだった。私には、平和勢力はまた「言葉に拘っている」と感じた。

鳩山腰砕けの顛末に潜む日米間の闇を解明しないことには、鳩山でも小沢でも、もしかして福島みずほ総理でも、この実現は難しいのではないかと思う。ところが鳩山の個人的資質で問題が片付けられてしまった観があった。

そこに尖閣諸島での中国漁船衝突事件が起こる。平和勢力の意見はさらに分かれていく。その最たるものがK弁護士による中国批判、尖閣諸島問題で抗議デモを繰り広げた勢力(一般的に「右翼勢力」と呼ぶ。)との連帯提起であった。K弁護士の中国批判はここにはじまったものではなく、筋金入りの年季ものである。中国擁護、日本の戦争責任追求(つまりは自らへの自己反省)に軸足を置く平和勢力中では一風変わった、しかし平和に安住して「思考停止」しがちな平和勢力の中では「小粒の山椒」、1本のカンフル剤としての意味も大いにあると私は感じていた。

しかし「右翼との連帯」はカンフル剤の域を超えたようで、私が参加しているメーリングリストは大騒ぎになり、ほかでも同じようなことが起こったらしい。平和勢力の意見が大きく割れる原因は、どうやら「領土問題」の捉え方にあるように思われる。平和勢力は領土問題をどうするかという思考を(私も含めて)あまりして来ていない。世界は一つであり、争ってはいけないのだから領土問題なんて存在しない。いや、存在してはいけないのだ。
しかし領土問題は現実に存在する。菅内閣は「尖閣諸島問題は領土問題ではない」と主張するが、歴史の解釈がどうであれ、その領有権をめぐって争う国がある以上、それは領土問題であり、何らかの軟着陸をしないと戦争になる。

領土問題に平和勢力はどんな対応をすべきなのか

菅直人新政権の幹部たちの多くも出自は平和勢力であり、領土問題について同じ思考停止状態ではなかったかと思う。前原誠司外相は、尖閣諸島での衝突事件時は、これを所管する国土交通大臣であった。たしか第一声が「尖閣諸島は日本の固有の領土」であり「領土問題は存在しない」との発言だったと思う。キッパリとしていて明確では、と思うかもしれないが、これが「領土問題を考えていない」典型的発言だった。

いろいろな歴史を踏まえ「固有の領土」と主張するのは良い。しかし領有権を主張している国が目の前にあり、そのことが原因で中国漁船の衝突事件も起きているのに、「存在しない」はまずかった。その後のトラブルが長引き、いまだに中日関係がギクシャクしている原因は、多分にこのひと言にあると言っても良いだろう。
「問題が存在しない」とは「解決する必要もなし」「話し合う必要もなし」という態度に等しい。尖閣諸島に領土問題が発生する原因は、そこが豊かな漁場であり、石油や鉱物資源が豊富にあると思われており、さらに中国にとっては東シナ海から太平洋への出入り口(軍事的要攻)であるからだ。領有権は日本と中国だけでなく台湾も主張している。しかし、前原外務大臣、そして仙石官房長官も「領土問題は存在しない」という言葉を何度も口にした。

外交関係で主張がぶつかりあうのは、ある種当然である。だから外交交渉が必要で、領土問題のような戦争と紙一重のようのな問題は慎重に歩み寄り合意点を探すものではないのか。関係国が二国間だけで、両者の力関係が圧倒的に違っていても、弱い方が一方的に譲るということは少ない。尖閣諸島の場合も、そのあとに持ち上がった北方領土問題でも、「事実の明確化」というのはほとんど解決策にならない。ぶつかりあう決定的な争点(明確な違い)を避け、できるところでの協力(平和な関係)を太く強くすることで「焦点化」を避けるというのが、優れた外交ではないのか、と思う。
前原、仙石両氏の方針は、これと全く逆の「焦点化」を選んだかのようだ。それが中国をして、あの靖国参拝を強行し続けた小泉でもこんなひどいことはしなかったと憤らせたのではないだろうか。尖閣諸島問題では、多くの先達が指摘をされている。領土問題は存在しているのだ。

海上保安庁職員による情報流出

新政権の誤った対応により、中国国内では反日デモが各地で沸き起こり、日本への中国人観光ツアーの一斉中止、日本側からの訪中団の拒否、SMAPの中国公演中止、レアアースなど工業原料の日本への輸出制限、日中の首脳会談の拒否、そしてフジタ社員4人の拘束・・と中国の打つ手はエスカレートしていく。

そして菅総理が国連総会に行った夜に、尖閣諸島の衝突事件でただ1人逮捕されていた漁船の船長が唐突に釈放される。政府判断ではなく、一地方機関にすぎない石垣島を管轄する地元検察の現場判断として。政府は国内法に基づいて処理と言っており、それに従わない地方のお役人の判断による「超法規的措置」であった。一人のお役人にそんな権限のあるわけもなく、お咎めもないところから、これは事態の収拾をはかるための政府の苦肉の策だったと思われている。

ところが問題はここで終焉しなかった。尖閣諸島での中国漁船の衝突場面を撮影した記録映像の公開をめぐって野党からの厳しい追及を浴びる。これをすぐに公開しなかったのは、実は中国からの要請があったからとも言われているが、政府がなぜすぐに公開しなかったのか不明である。
この映像の存在を口にして、野党追及の道を引いたのも前原外相である。事件が発生した国土交通相のときに、映像を見る限り中国漁船が体当たりしたのは明らかであると明言し、世の中に「その映像とはどんなものだ」と思わせてしまった。

こういう現場情報(動かぬ証拠)は貴重な外交カードで、みだりに公開するものではない。存在を示すにしても、水面下で伝えながら相手の対応を見つつ、決定的な勝負となれば公開する。前原外相は、そういう「喧嘩の仕方」はほとんどご存じないようだ。何でも公開、事実は事実、正論は正論と主張する。裏舞台での駆け引きがすべてを決するような外交交渉には、およそふさわしくない思考法をお持ちである。彼は民主党内右派と目されているが、思考方法は平和勢力に近そうだ。保守政治家というのは、もっとずる賢い。

与野党のやりとりに業を煮やしたのか海上保安庁職員が暴発する。ウィキリークスばりに、問題の衝突映像をインターネット上に流してしまう。海上保安庁職員であれば誰でも見ることができるような映像管理であったのだから、確かにそれをあとから機密扱いにするのは無理がある。この国には、民主党政権ということではなく、そもそも情報を管理することへのルールや秩序が確立されていないのだ。だから逆に重要文書が勝手に破棄されたりもする。
しかし結果的に、映像の内容は国民誰もが知るところとなり、この公開が国会の重大な争点となることはなくなった。なんだか政府側にとってはめでたし・・見たいな帰結だ。一職員の暴発ということであれば、秘匿を要請した中国も外交問題にはできない。国民だけが狐につままれたような気持ちとなった。

(第2部に続く)

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