横須賀うわまち病院心臓血管外科

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心臓胸部大血管手術後の乳び胸

2019-03-31 21:19:00 | 心臓病の治療
 心臓胸部大血管手術で稀ではありますが、乳び胸が術後に発生することがあります。
 乳び胸は胸腔内に乳び=消化管から吸収された脂肪リッチなリンパ液が漏出する現象です。脂肪を含む食事をとると、乳びは白濁するので、通常のドレーンの排液とは違う、黄色くまたは牛乳を混じらせたように濁った排液がみられます。
 これは、消化管から吸収した脂肪分を腸管のリンパ管を通じて乳び漕から胸管を通じて、左静脈角に流入するルートで体循環に吸収する流れがあり、このルートのどこかで損傷をうけると、脂肪吸収した乳び液が胸腔内などに漏出する現象です。実際にはほとんどの場合は、左開胸の下行大動脈置換や胸腹部大動脈置換術の際に、大動脈の操作や周辺の剥離操作の際に、気づかずに胸管を損傷することで発生します。
 胸管の損傷の仕方も、完全断裂から、不完全の断裂、分枝の損傷などさまざまで、その漏出量によって、治癒するまでの期間も、排液量も差があります。排出量が胸水の吸収量を超えると、いつまでも胸水貯留が残存するということになります。
 まれに胸骨正中切開の症例でも乳び胸が発生することがあります。これは胸腺と胸管をつなぐリンパ管が損傷され、十分に結紮処理されていないときに発生します。

 乳び胸の治療は
① 脂肪制限食にして自然に停止するのを待つ
② 再開胸して外科的に損傷部位を結紮するなりして漏出部を閉鎖する(牛乳などを飲ませると、白濁したリンパ液が漏出するので、その漏出部を処理する)
③ リンパ管造影から損傷部位を同定し、胸管塞栓術を行う

①②は古典的な方法ですが、最近は放射線科の専門医による胸管塞栓術③の症例報告も少なくありません。胸管塞栓術のほうが低侵襲ですぐに効果がみられるので、有効な方法です。
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