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山の恵み里の恵み

キノコ・山菜・野草・野菜の採取記録

カラカサタケ

2005-02-21 16:17:32 | 山の恵み(保存版)
 通称:おにぎり、又はにぎりたけ。 注意:紛らわしいのにドクカラカサタケがあり、よーく知らない人は手を出さないほうが。 見分け方:ドクカラカサタケとの違いは微妙で、図鑑でもよくわかりません。強いてひとつだけ挙げるとすれば、肉が赤変するのが「毒」、白いままなのが「食」だそうですが、確かめたことはありません。
 【英語名 Parasol Mushroom】


 カラカサタケは姿形がとてもユニークで、まさに唐傘(パラソル)。傘の下のリング(つば)は柄のてっぺんから下のほうまでスルスル動かせ、ちょっとしたおもちゃ、歩きながら傘をさしたりすぼめたりして遊べます。傘の直径が30センチ、背丈が50センチ近い大物もあり、時折気味悪がって棄てていく人がいて、その際は喜んで拾わせていただいています。
 傘の上からぎゅっと握りしめるとまるで食パンの塊りでも握ったようにぎゅっと縮まり、手を放すとゆっくり元に戻ります。これもまた面白くて、握ったり開いたりして遊びます。通称の「おにぎり」「にぎりたけ」はここからきているに違いありません。
 味も抜群。柄はポソポソしていて不味いし、すぐに折れてしまうので、傘だけ持ち帰ります。開いたままの傘にパン粉をまびし、傘が大きいときは大きいフライパンで、小さいときは小さいので揚げます。大皿にのっけて、ピザのようにナイフとフォークで頂ますが、ヒラメかカレイのフライでも食べているようで、とーっても美味しいですよ。
 「おいしい話には裏がある」と言われますが、昨年だか一昨年だか、間違ってドクカラカサのほうを食べてしまった話が新聞に載りました。図鑑で見ても違いがよく分かりません。実は昨年「ちょっとヤバイ」のを採ってきた経験があります。やや小ぶりで、何だかみすぼらしく、色もほんのちょっと赤みが強く、表面のうろこ(鱗片)がいつも見るのと違うような気がしました。竜のうろこのように小さなのが全面に散らばっていなくて、紙切れをちぎったような大きめなのが5~6枚貼りついていました。図鑑で調べたら、どうやらドクのほうらしい、とまでは見当がつきました。図鑑には「竹林の近くにも出る」とあり、確かにそれも竹やぶのそばで採ったものでしたし。
 ヨーロッパでも大人気のようです。図鑑には「食用キノコの中ではベスト」とか、「抜群」などの誉め言葉が書いてあります。ただし誤食(中毒)例もかなりあるらしく、微に入り細に入り詳細に見分け方が解説してあります。紛らわしい例ものの写真もいくつか載っていて、イギリスのでは髑髏マーク付きが8つ、イタリアのでは×印付きが5つも載っています。(日本の図鑑にはドクカラカサだけしか出ていません。)

ヒラタケ

2005-02-20 10:56:15 | 山の恵み(保存版)
 採取場所:長野市葛山(かつらやま)。 採取日時:2002年11月末。 見分け方:ほかに紛らわしいキノコはありません。 写真説明:木の上のほうまでキノコがついているのが遠くから見えました。前の年にはまだ葉が繁っていたのが、いっきに全身ヒラタケに乗っ取られてしまったようです。一週間もすれば株はまだまだずっと大きく成長したでしょうが、ひとに採られるのも癪なので、大き目の株だけ頂いてきました。翌年見に行ったら既に倒れてしまっていました。
 【英語名:Oyster Mushroom(牡蠣キノコ)】


 ヒラタケに関しては忘れがたい思い出が数々あります。善光寺の西2キロほどのところにある頼朝山で、生涯最大の大株、直径30センチものヒラタケが、10段ぐらい重なった大株でした。しかも2株。両腕いっぱいに抱えて、ふもとの家まで(もちろん歩いて)運びおろしたこと。同じく善光寺のすぐ西、しぐれ沢で、(たぶんブナの)大木が沢をまたいで倒れたところに、最初の年は丈が10センチもあるエノキタケがびっしり生えていたのが、次の年には代わって同じ倒木にヒラタケの大株がぎっしりつき、3年目にはやや小ぶりながら同じようにヒラタケ、4年目は15分ほどの差でどこかのおっさんに先を越されて涙をのみ、5年目にはあの太かった木がぼろぼろになって沢に崩れ落ちてしまっていたこと、などなど。
 ヒラタケは古今東西、最も親しまれてきたキノコのようです。平家物語にも有名な話が出ていますし、今昔物語だったか古今著聞集だったかに出てくる「マイタケ」も、どうやらヒラタケのことだったとか。ヨーロッパ人も大好きらしく、イタリアの図鑑に「すこぶる美味、人々が争って探し求める」と出ていました。スペインはグラナダで、果物屋のショーウインドーに、一抱えもありそうなヒラタケの大株が飾って(?)あるのを見かけたこともあります。
 なんせヒラタケは美味しいですからねえ。匂いにも味にもクセがなくて「煮ても焼いても食える」し、出し汁を良く吸うので好みの味を付けられるし、身が厚くて歯ごたえがあるし、大きいので食べごたえがあるし、煮崩れしないので何回も煮返しができるし。ウチでは最上級品は網で焼いてオロシで食べ、次は大きく裂いて鍋物にどっさり入れます。余れば塩漬けにしておいてお雑煮の具になります。バター炒めもいけますねえ。スペインやギリシャなら、たぶん例によってオリーブ油まみれにして食べているんでしょう。
 極めて繁殖力(菌力?)の強いキノコで、樹種を問わず、立ち枯れの木の幹にも、倒木にも、まだ生きている木にさえ(たぶん弱っているのでしょうが)出ます。奥山にも里山にも、平地にも出ます。強いだけあって、よほどの大木でない限り、1年で木を「食い尽くして」しまい、次の年に同じ場所に行っても見つかりません。その代わり、大抵の場合、近くの別の木に「取りついて」います。じゅうぶんな湿り気が必要なので、北斜面とかじめじめした感じの林で探します。
 採る時期は冬です。11月も末になって、木枯らしが吹き、初霜がおり、できれば初雪が降る頃になると、熊も冬眠に入るし、木の葉もすっかり落ち草薮も枯れて、遠くまで見通しがきくようになります。防寒具で厚く身を包んで、いよいよ御出陣。あっちの沢、こっちの谷、とうろつきながら、立ち枯れの木や倒木を探しまわります。気象条件(低温多湿)さえ合えば、けっこう沢山見つかります。もっと早い時期にも出るのですが、何しろ虫たちの大好物でもあるので、たいてい先を越されてしまいます。表面はナメクジが食い荒らすし、傘の裏には羽虫が卵を産みつけるし、中には小さな蛆虫が這い回っています。場所さえ分かっていれば、2月の雪の中でも冷凍保存されているのが採れます。いつかテレビで、東北だったか北陸だったか、「カンタケ」と称して雪深い中で採っているのを見たことがあります。
 菌力が旺盛なせいで、栽培も容易なようです。昔は「信州しめじ」と称してビン栽培したや不味そうなのを売っていましたが、この頃は「原木栽培」に変わって、「天然もの」と遜色ないものが大量に出回るようになりました。うまくいけば良い値が付くので、山村の副収入源としてはナメコやクリタケより人気があるようです。しかしながら、なかなか安定した収入源にならないだろう、と見ています。経費もばかにならないようです。栽培しているところをしばしば見かけますが、(たぶん)乾燥防止と虫除けのために「畑」全体に寒冷紗をかぶせる必要があるのに加え、原木は毎年取り替えなければならないし、ちょっと時期を外せば「流れてしまって売り物にならない」しで、なかなか大変なようです。里のまわりの山林を歩いていると、収穫の時期をのがして、そのまま放ったらかしになったヒラタケの畑がごろごろしています。
 
 

 

あかんぼ

2005-02-17 10:10:08 | 山の恵み(保存版)
 図鑑名:サクラシメジ。 採取場所:長野市頼朝山。 採取時期:2002年9月初め。 見分け方:図鑑には似たような仲間がいくつか載っていますが、みんな同じく「あかんぼ」と思って食べて構わないでしょう。そう考えれば、悩むこともありません。そのほか紛らわしいキノコはありません。
 【英語名:無いようです。イタリアの図鑑には学名だけで出ていて、暖かい地方特有で北の方には出ないとあるので、寒いイギリスあたりには出ないのでしょう。】


 小さいときは赤紫色の可愛らしい石のお地蔵さんが、地面にちょこんと並んで立っているような姿から「赤ん坊」という名が付いたのでしょう。少し大きくなると、真っ白な肌に薄紅を刷いたような高貴な観音様にも見え、見た目はいかにも美味しそうなしめじです。古くなると、赤茶けて虫食いだらけの山姥になってしまいます。ムラサキシメジと同じく、ほかに紛らわしいキノコが無く安心して採れるので、初心者に大人気のキノコです。一箇所で採れる量も多いし。
 大抵は半径5~10メートルの輪になって並んで生えています。山形から来た人が、東北では土俵の周りに並んだ豆力士のような姿から「土俵もたし」と呼んでいるとか。足元に1本でも見つけたら、その場にビクを置いて目印にし、左右を良く見て、列が延びている方向を見定めます。1列に遠くまで延びていることもありますが、大抵は円を描くように並んでいますので、円の直径と中心の見当をつけ、円周に沿って丹念に探します。とにかく執拗に追いかけるのがアカンボ採りのコツです。
 沢山採れる年には、夏の終わり頃、真っ赤なドクベニタケが林内一面に出て、アカンボの豊作を予告してくれます。ドクベニが出て1週間ぐらいしたら、いよいよ本番。毎年ほぼ同じ場所に出ます。初めての林では、窪地や沢の上部のような、湿り気があるあたりを探します。標高の高いところにも低いところにも、雑木林なら、そこらじゅうに出ます。
 ところがこの「貴婦人」、外見とは裏腹に、加熱すると「地が出る」というか、「本性が表れる」というか、黄色っぽくくすんだ冴えない姿に成り下がります。味もいただけません。噛むとパサパサしているし、苦味が強くて、ほかのキノコと一緒に煮ることもできません。山形から来た人にきいたら、「土方鍋(どかたなべ)」にすれば苦味が消えるんだとか。大きな中華鍋にニンニクやタマネギやキャベツと一緒にぶっこんで油で炒め、それから脂身の多い肉(羊・豚・牛)を入れ、最後に胡椒をたっぷりふれば出来上がり。こういう山家風/山賊風/山賤(やまがつ)風で野趣満点な料理もまた一興というところでしょうか。

ナラタケ

2005-02-16 14:27:44 | 山の恵み(保存版)
 採取場所:戸隠村銚子口。 採取日時:2001年10月初め。 注意:どの図鑑にも、過食禁止、生食禁止と出ています。 見分け方:株立ちしていて、傘の中心付近が砂をまぶした感じでささくれだっていて、茎にツバがはっきり残っていればナラタケ、ツバがはっきりしていなければナラタケモドキです。「モドキ」のほうは「ホンモノ」よりずっと早く、夏の終わりのまだ暑い頃に出ますし、たとえ混同しても、どちらも食べられるので心配要りません。
 【英語名:Honey Fungus(ハチミツタケぐらいの意味か)】


 極めて大きな群れをなすキノコです。株立ちすることもあれば、分かれて出ていることもありますが、大きなコロニーを作って群生・叢生します。枯れ木でも、倒木でも、埋もれ木でも、それらの周辺でも、時には生きている木(たぶん弱りかけている)にも、ぎっしり生えます。林の中一面、野原一面に広がっていることもしばしばです。まだ葉が青々としている落葉松の根元から上の枝のほうまでぎっしりとナラタケに蔽われているのを見た時は、人間も弱って菌に冒されたらああなるのかとさすがに不気味な感じがしました。まあ人間にナラタケが取り付くなんて聞いたことはありませんが。
 何年か前、アメリカで「世界最大のキノコが見つかった」と報じられたのが、このナラタケです。一本の大きさではなく、何ヘクタール(エーカーだったかも、アメリカ尺貫法は困りもの)にも及ぶ森林全体に生えたナラタケのDNAが同じだったので、ひとつのキノコと認定されたのだとか。
 加熱すると真っ黒になりますが、つるつるしていて、歯ごたえはしゃきしゃき。味も良く、汁物にすると良い「出し」が出て、これほど三拍子も四拍子も揃ったキノコはざらには無いでしょう。一度に大量に採れるため、戸隠あたりのお蕎麦屋さんで、「雑きのこ汁」とか「雑きのこおろし合え」とメニューにあったら、入っているキノコの大部分がこれだと思って間違いありません。戸隠に限らず、大発生した年には長野市内の居酒屋にもしばしば登場します。ちなみに「雑きのこ」とは、マツタケとホンシメジ以外の天然キノコを指すようです。
 キノコと言えばムラサキシメジぐらいしか知らなかった頃、「株立ちするキノコは食べられる」という俗信に従って、大岡村の山中に沢山生えている「カブツキノコ」を見つけて、連れとふたり、(マイカーブームが始まる前だったので)両手で抱えるようにして里に下りてきたら、村のおじさんが「ヤブタケせって、これ以上安全なキノコはねえよ」と保証してくれたんですが、家に帰って酒と醤油で煮付け、どんぶり一杯食べたら、夜中になって心臓がドキドキし出し、1時間経っても止まらなく、死ぬかと思った経験があります。
 その時は「食べ過ぎたんだろう」と思っただけで済み、以後今日まで採り続けていますが、近年出た『日本の毒キノコ150種』(ほおずき書籍)を読んだら、「要注意」の部に入選しているではありませんか。中毒例もいくつか具体的に載っていて、「やはりあの時はナラタケに当ったんだ」と知りました。食べ過ぎもあるが、有毒成分もいくらか入っているのだとか。ほかの図鑑類でもおおむね「要注意」となっているようです。ちなみにイギリスの図鑑では「不食」、アメリカの図鑑では「要注意」、セルビアのでは「食」のマークが付いていました。
 でもナラタケは採り続けます。(たぶん)大昔から「安心安全キノコ」とされてきたんだし、何よりおいしいキノコですから。大量に採ってきて塩漬けにし、冬じゅうかけて食べる人も沢山います。市内には「ナラタケ自慢」の料理屋やお握り屋が何軒もあったのですが、今は廃業してしまいました。店主が年を取って「山に入れなくなった」のでしょう。そう言えば、キノコ山の近くの里で「昔はオラもこの山でたんと採ったんだが、このごろは足腰が弱ってしまってなあ」と嘆く爺っさまにしばしば出会います。
 山里などで最近はやりの無人スタンドに「ヤブタケ」と出ていたら要注意。しばしばナラタケとナラタケモドキを区別しないで並べていますし、たとえきちんと「ナラタケ」と書いてあっても、茎がひょろ長くて傘が開いてそり返り気味なものは、古くて不味くて「ちょっとヤバイ」ですから。
 一般論ではありますが、山村の人は案外キノコを知らないようです。キノコなんか採っている暇なんか無い(「そんなヒマジンじゃねえ」)というところでしょうか。ビクを下げて山道を歩いていると(キノコ採りは常に歩きです、クルマではキノコは採れません)、近くで畑仕事をしている人に「これは何てキノコだい、食えるのかい」としばしば聞かれます。少し前になりますが、まだ初心のキノコ好きが、有名なツキヨタケを採ってきて、里の人に見て貰ったら、「これはカタハ(ムキタケ)だ、大丈夫だ」と言われ、沢山採れたので喜んで何軒もの親戚に「おすそ分け」してしまったことがあります。配った翌日、「収穫」の一部を職場まで持って来て見せてくれたのですが、「こりゃあ大変だ、死ぬこともあるよ」と言われ、大あわてて回収していました。その日の夕刊にもテレビのニュースでも「中毒例」が報道されていませんでしたので、たぶん間に合ったのでしょう。

ナメコ

2005-02-15 16:41:07 | 山の恵み(保存版)
 採取場所:戸隠中社。 採取日時:2002年10月末。 見分け方:栽培種と同じ。ヌルヌルぬるぬるしているので、ほかと間違えようがないでしょう。
 【英語名:不明。学名に'nameko'が付いているからには、日本固有種か。】


 志賀や野沢と秋山郷が林道で結ばれたばかりで、カヤノダイラにキノコ採りや山菜採りで入るのは地元の人ぐらいしかいなかった頃、道端のブナの倒木や切り株にいくらでもあったナメコ・カタハ・ヤマブシタケ・ヒラタケなどを採って喜んでいたら、近くで地元の人らしいおっさんが、当時はやりのライトバンにダンボール箱を幾つも積み込んでいました。中を覗くと、知らないキノコがぎっしり。「黄色いのはジナメ、白いのはブナハリ」とぶっきらぼうに言う。ナメコは採らないのかと訊ねると、「あんな不味いもん、誰も食わねえよ」とのたまう。里(木島平村糠塚)に下りてきいてみると、ジナメとは「地ナメコ」のことで、「ナメコなんかとはくらべもんにならねえぐれーうめえ。ジナメやブナハリは野沢温泉に持っていけば良い値で売れる」のだとか。後で図鑑を調べてみると、ジナメとはキナメツムタケのことで、チャナメ・シロナメとひっくるめてジナメと呼んでいるのだと知りました。
 そう言われてみると、なるほどナメコは大してうまくない。小さいうちはコロコロしていて可愛いが、歯ざわりもどうってことはないし、味もそっけもない。大きくなって傘が開いてからは、茎も傘もボソボソし、匂いがきつくて汁をだめにしてしまう。最近は人気もイマイチらしいけれど、一時期大した人気だったのは、どうやら「ヌルヌル食品」だから、というだけだったようです。「ヌルヌル食品は精力剤」という短絡的信仰が日本で広まったのはそもそもいつからなんでしょうか。子供の頃にも若い頃にもそんな話は聞いた覚えがないし、おそらくここ数十年のことではないかと思います。テレビの普及時期と重なっているので、どうやらコマーシャルか「料理教室」あたりが元凶で、今もはやりの「健康食品」ブームのはしりだったのでしょう。そう言えば「紅茶キノコ」ブームなんてものもあったっけ。
 原木栽培が主流になって、ナメコは天然ものと栽培ものとの差がほとんど無くなりました。それでも、奥山の笹薮に埋もれるようにして倒れている大木にギッシリ、厚い粘液に蔽われてキラキラ光っているナメコの群生は壮観です。初雪が降った後などは、凍結防止のためか、ヌルヌルが一層まします。丈の高い熊笹の中なら、人目につかないためか、その気になって探せば戸隠あたりの観光地でも見つけることができます。里山にも平地にも結構ありますが、気温が高いせいか、虫がたかっていたり、カサカサしていて見栄えの良いのはなかなかありません。
 ヨーロッパにもぶな林があるからには、ナメコなんかいくらでもありそうなものなに、彼の地の図鑑に姿が見えないのは、やはり「ぬるぬる嫌い」(「ヨーロッパ人と3S]参照)のせいなんでしょうねえ。

コガネタケ

2005-02-14 16:13:54 | 山の恵み(保存版)
 通称:きなこたけ。 【英語名:Golden Cap】
 
 写真はありませんが、『日本のきのこ』に鮮明な写真が載っています。極めてユニークなキノコで、ほかに似たもの、紛らわしいものはひとつもありません。若いうちは全体が「きな粉」まみれで、傘が開ききると粉が落ちて山吹色(黄金色/オレンジ色)の地色が見えてきます。決まって道端の草むらに出るのですが、色が鮮やかなのとぎっしり群生するのとで、遠くからでも見つかります。あまりにも大量に発生するため、容れものが足りず、ほんの少ししか持ち帰れません。軽トラででも行けば全部採って帰れるのでしょうが、自動車なんかからは「草葉のかげ」にひそんでいるところは見えませんから、よくしたものです。戸隠の諸沢(もろさわ)というところで帰りのバスを待っていたら、待合所の脇の草むらに見事な群落があるのを見つけたこともあります。
 とても美味しいキノコで、煮物にも揚げ物にも良く合います。郷土料理屋なんかではバター炒めにして出してくれます。色が強いせいか、気味悪がって手を出さない人が多く、「知っている特権」が享受できる、「嬉しいキノコ」でもあります。
 「コガネのあるところハタケあり」という法則(?)を、2年ほど前知りました。教えてくれたのは「ハタケシメジ専門のキノコっ採り」でした。そう言われてみると、確かに過去にもほとんどの場合、コガネタケの隣りにハタケシメジがあったし、ハタケシメジの隣りにコガネタケがありました。こういう経験があったにも拘わらず、ひとから聞くまで「法則」に昇格させ得ませんでした。まあ、よくあることさ。ただ闇雲にキノコを追っかけている人間には、知的作業は向いていないのさ。
 「過食するとむかつきを起こすことがある」と『日本の毒キノコ150種』では「要注意」にランクされています。外国の図鑑にも、「美味しいが、むかつきを起こすことがある」と付記されています。

キノコの呼び名

2005-02-13 10:50:36 | 山の恵み(保存版)
 ナラタケと呼ばれるキノコがあります。人により地方により実にさまざまな呼び名があります。『きのこの語源・方言事典』(山と渓谷社)では、3ページにわたってぎっしり、東北から九州まで177もの呼び名を載せています。それだけポピュラーなキノコである証拠でしょう。その代わり厄介な問題も生じます。狭い地域の仲間どうしならさほど問題は起きないのですが、ちょっと離れたところの人と話をしている時はしばしば混乱が生じます。突然「モタシはうめーぞ」なんて言われても、どのキノコのことを指しているのかとっさには分かりません。
 キノコの話をしていると、話がチグハグになることがしょっちゅうあります。同じ呼び名でも、人により全然別のキノコのことを指していることがあり、更に困ったことに、いくつもの種類のキノコを同じ名前で呼んでいることもあります。例えば長野あたりではナラタケとナラタケモドキとヤチヒロヒダタケを同じ「ヤブタケ」と呼ぶ人が多い。「カブツ」となると、更にクリタケも含まれます。だから会話がしばしば頓珍漢なものになって、しまいにはお互い何が何だか分からなくなります。
 それもこれも、江戸時代以前、狭い集落内で自給自足の暮らしをしていて、「山ひとつ越えたムラ」との交流さえほとんど無かった頃の名残りなのでしょう。それにしても何故キノコにはこれほど多種多様な呼び名がいまだに残っているのか。愚考するに、他の物は、動物にしろ植物にしろ様々な事物にしろ、旅商人などが江戸言葉・京言葉を運んで来て、ある程度共通言葉が流布したのに、江戸や京都や大坂の町衆はキノコなんかに関心が無かったため、話題にすることも無く、従って名称の共通化(標準化)も進まなかったのではないでしょうか。というような深遠な(?)考察も加えられるほどキノコは面白い。確かにキノコには「はまります」よ。
 しばしば混乱のもとになるとはいえ、やはりこのページでは地方名を優先することにしています。絶滅の危機にさらされている方言(世界文化遺産)を守るなどと大袈裟な言い方はさておき、何と言ってもこの地域にとっての本来の呼び名でないと実感が湧きません。例えば「ジコボ」なら、姿も形も色も手触りも味も匂いも生えている場所の雰囲気も、目にも鼻にも心にも即座に響きますが、「ハナイグチ」なんて言われてもすぐにはピンときません。少し時間をかけて頭の中で翻訳という知的作業をする必要があります。まず図鑑に載っていた写真と記事を思い出し、それでやっと「ああ、ハナイグチとはジコボのことか」と理解することになります。「理解」はしても「納得」はできませんねえ。実感が伴わないし。「イクチ」はこの地方本来の呼称では無いし、ジコボの何処が「ハナ」なのか。その上、「ジコボ」なら北信濃の何処でも通じるのに、「ハナイグチ」などと「外国語名」を言おうものなら、「こいつなんて言ってるんだ、通訳を連れて来い」となりかねないかも。
 昔からこの地方に根付いた名前があるキノコの場合、それを本名とし、何処かの誰かが勝手につけて「共通和名」としている名前を「図鑑名」とします。なに、「本名」があるキノコと言っても、数は大してありません。ここ十数年、『日本のきのこ』(山と渓谷社)が広く行き渡って以来、図鑑名のほうが優勢になり、「本名」が駆逐されつつあるものもいっぱいあります。イッポングリ(チャナメツムタケ)とか、カヤセンボン(シャカシメジ)とか、ヂナメ(チャナメツムタケとキナメツムタケ)とか、キナコタケ(コガネタケ)とか。本名が余命を保っているキノコは、せいぜいジコボ、イッポンカンコ、アカンボ、カタハ、ヤブタケ、ぐらいでしょう。

じこぼ

2005-02-12 13:56:33 | 山の恵み(保存版)
 図鑑名:ハナイグチ。 採取場所:戸隠村銚子口。 採取日時:2001年10月初め。 見分け方:落葉松林にあって、傘が赤みがかった茶色で、裏が黄色で、若いうちはねばねば(著しい粘液)に包まれていたら、間違いなくじこぼです。栃木ならチチタケ、群馬ならイッポン、信州ならジコボ(リコボーと訛る地域もありますが)、というわけで、長野では誰でも知っています。
 【英語名:Larch Bolete(カラマツイグチ)】


 長野県庁近くに知る人ぞ知る「幸べえ(コーベエ)」というささやかな居酒屋があります。これぞ天下一品(と思う人は思っている)のキノコ汁が食べられる店です。9・10・11月だけの季節限定品です。何故ならジコボがこの期間しか採れないから。また、ジコボが品切れの時はキノコ汁も品切れです。「ジコボがいのち」のお店なので、ジコボを大量に必要としています。心ある向きはドシドシ持っていって上げてください。心ない方も大歓迎、対価を支払って買い取るそうです。
 鰹節と昆布で濃厚な「出し」をとった中に、ジコボを大量にぶち込んで下地(したじ)を作り、隠し味としてチョコタケ(ホテイシメジ)を少量加えて一晩「寝かせて」おきます。翌日、季節の野菜とともに、その日店に集まったキノコ(店主自ら採ってきたものや近隣の「きのこっとり、つまり腕に覚えのキノコ採り」が持ち込んだもの)を常時十数種類ふんだんに入れ、醤油仕立てにし、客に出す寸前に豆腐を加え、椀に盛って出してくれます。マツタケ(匂いが悪い)とアカンボ(サクラシメジ、苦味が強い)は使いません。動物性蛋白質が入っていないので、極めてヘルシー。酒飲みにはこたえられないでしょう。事実、この季節はオジサンやアンチャンたちでいっぱい、早めの時間に行かないと席も取れません。最盛期には大鍋2つに溢れんばかりに用意したものが、たちまちのうちに食べ尽くされてしまいます。
 上記のうち、何故チョコタケを少ししか入れないかを知りたい方は、図鑑で調べてみてちょ。どうして幸べえにこれほど詳しいのか、もうお気づきでしょう。そうです、例の「きのこっとり」の仲間で、常連だからです。
 ことほど左様に、長野市周辺では「キノコと言えばまず第一にジコボ」でしょう。栃木のチチタケ(どうしてこんなものにトチグルウのか他県人には理解できない)や、東北のマイタケ(ポソポソして旨くない)並みの人気です。以前戸隠でバスを待っていたら、近くのお爺さんがビクを覗き込んで、「カラマツタケをこんねに、まあ、大したもんだ」と羨ましそうでした。ひとつには長野県(特に東北信)には落葉松林が多いせいでしょう。北原白秋が歩いた軽井沢から東、千曲川沿いに北へ進んで野尻湖あたりまで、どこを向いても落葉松ばかり。近頃は杉林(キノコの天敵、花粉症の元凶)が目立ち始めて残念ですが。ひとたび「ジコボが出た」という情報が広がると、飯綱戸隠を初め、周辺部の山野に人と車が溢れます。そしてほとんどの人が「手ぶら」で帰ってきます。朝まだ暗い内から出かけた連中に採りつくされてしまったから。実は「有るところにはいくらでも有る」のですが、場所は秘密です。グループで車を乗りつけ、空き缶やビニール袋を撒き散らしていく連中に知られたら大変です。
 昭和60年(1985)秋、京都の桂離宮と御所にジコボ(松林に出る黄色い種類)がいっぱい出ていて、見学どころじゃなく、仲間と争って採っていたら、周囲で見ていた人々が呆れ顔で見守っていました。「あんな毒キノコをどうするのやろ」とでも思っていたのでしょう。長野県でも諏訪湖以南、全国的にも山梨以西ではジコボが有毒とされているようです。昔初心の頃、飯田近くの山林でジコボをビクに入れていたら、山を案内してくれていたオッサンが、「イクチは毒だに、やめといたほうがいいずら」と言って全部捨てさせられたのも、今となっては懐かしい思い出です。
 イギリスの図鑑には「ヌルヌルは取り除いてから食べなさい」と書いてありましたが、何故ですかねえ。やはり「3S嫌い」だからでしょうか。(「3S]については別記「ヨーロッパ人との3S]参照)。
 もうやめ。ジコボの話になると止まらなくなる。お里が知れてしまいますなあ。

アカヤマドリ

2005-02-11 15:45:16 | 山の恵み(保存版)
 採取場所:長野市頼朝山。 採取日時:2001年9月初め。 見分け方:『日本のキノコ』に鮮明な写真が載っています。ほかに紛らわしいものはありません。
 【英語名:東アジア特有のキノコのようです】


 アカヤマドリは印象深いキノコです。何しろ大きい。成長すると茎の太さ5cm、傘の直径15cm、高さ30cmにもなります。遠くに立っている姿はモアイ像かお地蔵さんか、それが山の斜面一面にズングリモッコリ群立するさまは、音に聞くカッパドキアにでも迷い込んだかと思う(トルコに行ったことはありませんが)ほどの壮観。味も最高。虫たちも大好物らしく、この写真ぐらい大きくなってしまうと、中は虫喰いだらけで「味気なく」なってしまいますが、もっと若いうちだと、濃いオレンジ色の身が固く締まっていて、油で炒めたり揚げたりすれば、歯ごたえがあり、香ばしい匂いがあたりに漂って、まさに絶品。
 8月半ば、お盆頃になって暑さも一段落すると、長野も「夏キノコ」の季節到来です。イグチ類ではヤマドリタケ(モドキ)とアカジコウとアカヤマドリの「御三家」が揃ってニョキニョキと頭を出します。どれも大きいので、ほんの数本ずつ頂戴しただけでビクも両手もいっぱいになり、山を降りるしかありません。
 以前佐久の人が「キノコはアカテングに限る」と言うのを聞き、おやおやこの人も「ベニテング党」かと内心笑ってしまったことがあります。なにしろ小県(ちいさがた)郡は、真田町丸子町を中心に、ベニテングタケに「目の無い」地域ですから。これでうどんの出し汁を作らなければ「正月が来ない」そうで、ひとたびオッサン達が「毒抜きの秘法」を語り始めたら大変、激論争論の嵐が吹きすさびます。上記佐久人も例の「天狗党」の一味かと疑いながら尚も話を聞いているうち、「そんなに疑うなら今度の盆休みに採ってきてやる」と言って、実際若いのを2本ばかり持って来てくれました。「アカテング」とはアカヤマドリのことでした。その時初めて食べたのでしたが、私こと自称「キノコ天狗」が兜を脱いだ(鼻をへし折られた?)ほど旨く、以来病みつきになりました。

ハツタケ

2005-02-10 10:17:23 | 山の恵み(保存版)
 採取場所:長野市頼朝山。 採取日時:2001年9月初め。 見分け方:全体に鮮やかな青緑色のインクをこぼしたようながしみ出ているのですぐ分かります。はっきりしない時は、傘の裏を爪で引っかいてみれば、その部分がすぐに青緑色に変わります。これだけでじゅうぶん見分けがつきます。ほかに紛らわしいキノコはありません。
 【英語名:学名に'hatsudake Tanaka'が付いている通り、本邦独特のもののようです。】


 ハツタケは秋の初め、本格的キノコシーズンの到来を告げてくれる嬉しいキノコです。いつも松林で見つけます。「良いダシが出る」と珍重する向きもあるようですが、実際はポソポソしていて、歯ざわりは悪いし、ダシ汁が格別おいしくなったと感じたことはありません。とは言え、見た目がきれいで、薄い赤紫の地(ヂ)の上にインクをかけたような青緑色のシミが全体に染み出るキノコはほかに無く、安心して採れます。一箇所に群生するので収量も多く、思わずビクに入れてしまいますが、ほかにもっと良いキノコが沢山採れた時には、最初にビクから出されて捨てられる宿命を負ったキノコでもあります。
 町のラーメン屋で「はつたけラーメン」と称するものを食べたことがありますが、中に入っていた何か大きなキノコのかけらは、歯ざわりが明らかに「本物のハツタケ」とは違っていました。食堂で大量に(?)使うくらいですから、なにかの栽培種でしょうが、店の人に正体を尋ねても恐らく頓珍漢な答えしか返ってこないと思って、黙って出てきてしまいました。