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山の恵み里の恵み

キノコ・山菜・野草・野菜の採取記録

キノコの呼び名

2005-02-13 10:50:36 | 山の恵み(保存版)
 ナラタケと呼ばれるキノコがあります。人により地方により実にさまざまな呼び名があります。『きのこの語源・方言事典』(山と渓谷社)では、3ページにわたってぎっしり、東北から九州まで177もの呼び名を載せています。それだけポピュラーなキノコである証拠でしょう。その代わり厄介な問題も生じます。狭い地域の仲間どうしならさほど問題は起きないのですが、ちょっと離れたところの人と話をしている時はしばしば混乱が生じます。突然「モタシはうめーぞ」なんて言われても、どのキノコのことを指しているのかとっさには分かりません。
 キノコの話をしていると、話がチグハグになることがしょっちゅうあります。同じ呼び名でも、人により全然別のキノコのことを指していることがあり、更に困ったことに、いくつもの種類のキノコを同じ名前で呼んでいることもあります。例えば長野あたりではナラタケとナラタケモドキとヤチヒロヒダタケを同じ「ヤブタケ」と呼ぶ人が多い。「カブツ」となると、更にクリタケも含まれます。だから会話がしばしば頓珍漢なものになって、しまいにはお互い何が何だか分からなくなります。
 それもこれも、江戸時代以前、狭い集落内で自給自足の暮らしをしていて、「山ひとつ越えたムラ」との交流さえほとんど無かった頃の名残りなのでしょう。それにしても何故キノコにはこれほど多種多様な呼び名がいまだに残っているのか。愚考するに、他の物は、動物にしろ植物にしろ様々な事物にしろ、旅商人などが江戸言葉・京言葉を運んで来て、ある程度共通言葉が流布したのに、江戸や京都や大坂の町衆はキノコなんかに関心が無かったため、話題にすることも無く、従って名称の共通化(標準化)も進まなかったのではないでしょうか。というような深遠な(?)考察も加えられるほどキノコは面白い。確かにキノコには「はまります」よ。
 しばしば混乱のもとになるとはいえ、やはりこのページでは地方名を優先することにしています。絶滅の危機にさらされている方言(世界文化遺産)を守るなどと大袈裟な言い方はさておき、何と言ってもこの地域にとっての本来の呼び名でないと実感が湧きません。例えば「ジコボ」なら、姿も形も色も手触りも味も匂いも生えている場所の雰囲気も、目にも鼻にも心にも即座に響きますが、「ハナイグチ」なんて言われてもすぐにはピンときません。少し時間をかけて頭の中で翻訳という知的作業をする必要があります。まず図鑑に載っていた写真と記事を思い出し、それでやっと「ああ、ハナイグチとはジコボのことか」と理解することになります。「理解」はしても「納得」はできませんねえ。実感が伴わないし。「イクチ」はこの地方本来の呼称では無いし、ジコボの何処が「ハナ」なのか。その上、「ジコボ」なら北信濃の何処でも通じるのに、「ハナイグチ」などと「外国語名」を言おうものなら、「こいつなんて言ってるんだ、通訳を連れて来い」となりかねないかも。
 昔からこの地方に根付いた名前があるキノコの場合、それを本名とし、何処かの誰かが勝手につけて「共通和名」としている名前を「図鑑名」とします。なに、「本名」があるキノコと言っても、数は大してありません。ここ十数年、『日本のきのこ』(山と渓谷社)が広く行き渡って以来、図鑑名のほうが優勢になり、「本名」が駆逐されつつあるものもいっぱいあります。イッポングリ(チャナメツムタケ)とか、カヤセンボン(シャカシメジ)とか、ヂナメ(チャナメツムタケとキナメツムタケ)とか、キナコタケ(コガネタケ)とか。本名が余命を保っているキノコは、せいぜいジコボ、イッポンカンコ、アカンボ、カタハ、ヤブタケ、ぐらいでしょう。


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