山の恵み里の恵み

キノコ・山菜・野草・野菜の採取記録

まぼろしのキノコ

2010-10-19 14:30:26 | 山の恵み
 「きのことり きょうはどこまで 行ったやら」(加賀の千代夫)
 ホント、今年のきのこは凄い。きのこ村の活況はいまだ衰えを見せていません。数量もさることながら、極めて珍しいきのこも食べられたりして。
 中でも「まぼろしのキノコ」クロッカワ(地方名ウシビテ/ウシブテ、図鑑名クロカワ)なんか、生きているうちに再び口にできるかどうか。言うまでもなく、採ったのはヤツガレではありません。既述「きのこ名人」小林三郎さん。16日(土)善光寺の裏山で見つけ、かねてから「死ぬ前にもう一度食べたい」との願いを覚えていてくれて、2本採ったうちの貴重な1本を届けてくれました。早速晩酌のつまみに、焼いておろし醤油。もったいないので四半分に切り分け、ひと切れずつ息子とふたりで頂きました。残り半分は次の日にひとり占めにするつもりで隠してしまう。なんともサモシイねえ。
 クロッカワにありついたのはこれで四度目。最初は45年ほど前、下伊那は阿智村と飯田市山本境の丘陵地帯。忘れもしない夕暮れ近く。緩やかな斜面を下に向かって一直線に伸びている黒い帯。幅50センチ、長さ10メートルぐらいだったかなあ。最初は大蛇(おろち)かと思った。恐る恐る近寄ってみると、それがなんと、黒いきのこの大行列でした。表面はざらざらと黒い毛に蔽われ、裏は真っ白。なんとも不思議なきのこだったので、数本だけ採ってふもとに戻り、地元のひとに訊ねたら、なんと、下伊那ではマツタケより貴重とされるきのこだとかで、それからが大騒ぎ。噂を聞きつけておおぜいの人が集まるやら、残りのきのこを採りに山に戻るやら、炭火をおこすやら、酒を買いに走るやら、時ならぬ大宴会になったっけ。
 次は30年ほど前。「西山のきのこ名人」清水和夫さん(先年物故)にマツタケ山を案内していただいていたとき、松葉を踏んで歩いていたら、突然名人が「そこを動くな」と大声で怒鳴る。驚いてその場で立ちすくんでいると、名人が近づいてきて、「足元にクロッカワがあるぞ」と叫ぶ。厚く散り敷いた松葉を剥いでみると、あたり一面がクロカワのじゅうたんだったなあ。
 三度目は居酒屋『幸べえ』の近くの「きのこっ採り」。本業の理髪店は従業員まかせにして、秋になるとマツタケを求めて東北信一帯を駆け回る御仁。かねてからマツタケはいらないがクロッカワがあったら採ってきてくださいと頼んでおいたのを覚えていてくれて、一本だけあったからと『幸べえ』に届けてくれたっけ。懐かしいひとびと、初めはほろ苦く、肉厚の身を噛んでいるうちにやがて甘味が出てくる感じがこたえられないよ。
 クロカワは不思議なきのこで、縁先や土間に放っておいても、いつまでたっても腐らず、固くならず、焼けばすぐに元通りの柔らかさに戻る。コウタケによく似ています。そう言えば、今年はコウタケにもありつきましたよ。久しぶりに『幸べえ』の暖簾をくぐったら、コウタケがどーんと一抱えも置いてある。「お馴染みさん」のどなたかが持ってきてくれんだとか。ことしはよくせきキノコにツイテルなあ。
 今日は戸隠中社。バスの営業所から歩いて10分の窪地。あの木の根元にも、この木の根元にもぎっしりナラタケ(通称ホンナラタケ)がついている。1時間ほど採ると、ビクがいっぱい、大きなビニール袋がいっぱい。林の奥まで入るつもりが、入口で終わり。早々に引き上げてきました。はてさて、奥はどないなっていることやら。明日にもまた行ってみなくっちゃ。それにつけても、バス賃100円さまさまです。10倍のバス賃だったら、それほどホイホイと出かけるわけにはいきませんからねえ。
 (写真はナラタケです。クロカワではありません)