「由紀ちゃん、東洋大学に入ったら週一回埼玉の鶴ヶ島に通えるか」
正治はこれが一番心配だった。
「大丈夫よ」
由紀はしっかりした言葉でこう答える。
「安心した。これでしっかり教える事ができる。来年の春は君はぼくの後輩だ」
二人は盛り上がった。
正治と由紀は下板橋の寿司屋へ行って由紀の東洋大学合格の前祝をしたのだった。
この寿司屋、滅多やたらに安いのである。
他所の店の三分の一くらいの値段だった。
「由紀ちゃんは寿司の中でも何がいい」
「トロがいい」
「江戸っ子だねえ」
「うん」
二人は青春を満喫している。
昭和四十七年頃の話だった。