グローバル・タックス研究会 ~Study Group On Global Tax~

貧困のない、公正かつ持続可能なグローバリゼーションのための「グローバル・タックス」を提言する、市民研究グループです。

投機マネーや行き過ぎた投資マネーの実態

2008-01-17 | 事務局より
                 <フィンランド・ロバニエミ空港前の風景>

          投機マネーや行き過ぎた投資マネーの実態

2008年の年が明けてすぐ、ニューヨーク原油先物市場で1バレル100ドルという最高値を付けました。さらに原油のみならず金、穀物など現物商品も過去最高水準まで高騰しています。これはヘッジファンド等の投機資金が商品市場に流入した結果です。

◆暴走する投機マネーと高まる世界的インフレーション

 昨年から上昇傾向にあったニューヨーク原油先物市場で、1月2日その代表的指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)が急騰し、はじめて1バレル100ドルという価格を付けました。さらに、原油のみならず金、穀物など現物商品も過去最高水準まで高騰しています(代表的な国際商品指数であるロイター・ジェフリーズCRB指数は3日、368.61と過去最高値に、さらに14日370.22と最高値を更新)。

 これらの国際商品価格の急騰の最大の要因は、ヘッジファンドなどの投機的マネーの商品市場への大量流入です。これは昨年来米国で表面化し金融不安と景気悪化をもたらしているサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅ローン)問題によって、投資家が資金を金融市場から商品市場へとシフトさせているからです。

 「1990年代までは国際商品は限られたプロの世界で、株式、通貨の世界とは投資家やトレーダーの顔ぶれは異なっていた。だが今や株式、金利から原油、大豆まで市場の壁は消え、投資家は資金をよりもうかる分野に瞬時に移す」(1月8付日本経済新聞)状況となっています。商品市場は株式や為替市場などの金融市場よりはるかに規模が小さく、投機マネーによって急騰しやすくなっていますが、ヘッジファンドを先兵として様々なファンドが商品市場になだれ込んでいるのです。

 実際、ニューヨーク原油先物市場での100ドルのうち、50ドル以上が投機マネーによって上昇していると指摘する専門家もおります。つまり、需給関係による価格より50ドルも高くなっているのです。

 この高騰の結果、燃料など原材料、食料価格が軒並みに上昇し、インフレ圧力が各国で高まっています。なかでも食料やエネルギーは人々の生存基盤であり、その値上がりは貧困層を直撃しています。

 国連食糧農業機関(FAO)は、昨年12月国際社会に対して、食料価格の急騰によりひどい打撃を受けている貧しい国々への支援の即時実施を呼びかけました。とくに37カ国が穀物価格の高騰や戦争・災害などによる食料危機を迎えており、数カ国で食料暴動が起きていると警告しています。実際、低所得食料不足国(Income Food Deficit Countries:LIFDCs 83カ国)では2007年の輸入に必要な食料品の総経費が前年より約25%の上昇し、1070億ドルを上回っていると報告しています。(“FAO calls for urgent steps to protect the poor from soaring food prices”)

 国内においても、ガソリン、灯油など石油関連商品、食料品などが軒並みに上昇し、昨年11月の消費者物価は前年同月比0.4%上昇し、9年8カ月ぶりの上昇となりました。今月からは電気代・ガス代、カップめん、ビールなどの値上げが目白押しです。一方、この10年労働分配率が下がり続け、賃銀が伸び悩んでいることから可処分所得は減少し続け、私たちの生活は厳しいものになっています。

 これまで日本はデフレ経済のため傾向的に物価が下り続けていたため、賃銀が上がらなくてもそう生活に響かなかったのですが、これだけ基礎物価が上昇してくるとそうはいきません。とりわけ、年金生活者は預金金利が依然として限りなくゼロに近い状況ため、基礎的な物価上昇は直接生活に響いてきます。預金なくも賃銀も極端に低いワーキング・プア―の人々にとってはなおさらです。

 このように世界の人々の生活を直撃しつつある食料やエネルギー価格の急騰の最大の原因は、ヘッジファンドなどの投機マネーや他のファンドの行きすぎた投資であることは明らかです。その結果、価格が需給関係(実需)によって決定せず、あり余る投資資金によるいわばマネーゲームによって決定されているので、価格はなかなか下らない構造となっているのです。今こそ投機マネーを規制するとともに、商品市場がマネーゲームの場とさせないようなあり方が求められています。

◆世界の各種市場規模とファンド

 それでは世界の各種市場の規模はどのくらいで、それを利用している各種ファンドはどの程度のものでしょうか。

1)世界の各種市場の規模
 これは次のようなものです。①ニューヨーク原油先物市場:1300億ドル(14兆円)、②ニューヨーク金先物市場:400億ドル(4.5兆円)、③世界の株式市場:65.5兆ドル(7200兆円)、④世界の債券市場:50兆ドル(5500兆円)、⑤店頭デリバティブ想定元本:448兆6000億ドル(4京9300兆円)―以上、07年11月22日付日経新聞より。⑤については、今回のサブプライム問題でも様々なデリバティブ(金融派生商品)が登場しました。さらに、⑥世界の外国為替市場:770兆4000億ドル(8京7440兆円)、これは1営業日あたり3兆2100億ドルという途方もない資金が取引されているからです。

 これに対し、実需のためのマネーである世界の貿易額は14兆6000億ドル(1606兆円)、そして対外直接投資は1兆1201億ドル(123兆2110億円)です。合わせて約16兆ドルほどですが、この金額は外国為替市場のわずか5日分の取引額に過ぎません。

2)世界の基金・ファンドと金融資産
 基金・ファンドの種類と運用資産残高は次の通りです。①年金基金:23兆ドル、②投資信託:21.5兆ドル、③保険会社:17.5兆ドル、④公的年金:4兆ドル、⑤政府系ファンド:3兆ドル、⑥ヘッジファンド:1.5兆ドル、⑦プライベート・エクティ:1兆ドル(以上、07年11月20日付日経新聞のグラフから)。そして、これらを含め世界の金融資産の総額は140兆ドル(1京7000億円)にも上り、世界のGDP(国内総生産)の3倍強となっています。

 ところで、投機マネーの先兵であるヘッジファンドの運用資産は思いのほか小さいように感ずるかもしれません(それだけ他のファンドが巨額なのです)。が、ヘッジファンドは規模が小さくても、レバレッジ(てこ)を使って自らの運用資金の何倍も、時には10倍も資金に膨らませて投資すること、また投資サイクルが短く何回も投資すること--これらのことから実際の運用資金は大きくなります。

 投機マネーを含む投資マネーが、サブプライム問題を通して生じたドルや株の大幅下落からの利益を失うことを避けるために商品市場に向かっているのですが、各種商品市場は上記のように株式や債券市場よりはるかに小さく、各ファンドが運用資産の一部を振り向けただけで価格がはね上がります。現在、サブプライムローン問題でかなり金融体制は動揺しているものの投資資金(過剰流動性)はたっぷり存在していますので、このままでは高値の状態で推移することになるでしょう。

◆投機マネーの規制を!G7財務相会議に訴えよう

 本年1月9日付け京都新聞の「原油100ドル時代  投機マネーの横暴だ」と題した社説で興味深い論旨が述べられていました。それは次の通りです。

 「…内閣府の試算によると、原油価格の20%上昇で、一年間に実質国内総生産(GDP)が1%程度低下する。実体経済を脅かす投機マネーの前に本当になすすべはないのか。/ノーベル経済学賞を受賞した米国のジェームズ・トービン博士は、通貨取引への少額課税で短期資金の移動を抑制する『トービン税』を提唱した。先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)などの場で、こうした投機的短期資金の抑制策がもっと真剣に論議されるべきだ。/投機マネーが実体経済を破壊することがあってはならない。天然資源や食料などの商品先物市場には、国際的な規制と監視の枠組みがぜひとも必要だ」。

 久しぶりにマスコミで「トービン税」を聞きましたが、まさにその通りです。そして「投機的短期資金の規制策とその国際的な枠組み」をG7財務相・中央銀行総裁会議に強力に申し入れるべきでしょう。その会議は2月9日東京で開催されます。現在、「2008年G8サミットNGOフォーラム」の貧困・開発ユニットで議論し、申し入れを行うよう準備しています。

 トービン博士が通貨取引税のアイデアを提唱したのは1972年ですが、以降30年近く金融当局からはもちろん学界からも無視されてきました。それが不死鳥のように蘇ったのは1997年のアジア通貨危機と翌年の世界的な金融危機を経験してからでした。この金融危機をもたらした最たる原因は、ヘッジファンドなどの投機マネーだったからです。

 マネーは実需経済を円滑にするための手段でした。経済のグローバル化以降手段でしか過ぎなかったマネーが実需経済を振り回すような事態となってきています。そしてマネー経済は実需と乖離して遅かれ早かれバブルを生み出します。結果は、金融危機、経済危機など社会の大混乱をもたらします。その悪影響を最も受けるのは貧しい人々です。何とかカジノ経済の申し子であるヘッジファンドなどの投機マネーをがんじがらめに規制したいですね。◆◆

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