犬と猫を比べると、犬は元気はつらつでお散歩大好き、飼い主さんと一緒に野山を駆け回るようなイメージがありますが、現実にはそうでない場合もたくさんあります。足腰が弱くて歩けない犬や、お散歩が嫌いで部屋で過ごすのが大好きな犬。太り気味だったり長毛種の犬など、お散歩に出てもすぐに止まってしまい、とくに夏場は歩かせるだけで苦労します。
今回ご紹介する映画『ベルヴィル・ランデブー』に出てくるブルーノも、階段の上り下りにさえ苦労するくらいでっぷりと太っています。それでいて足は極端に細く、体を支えるのがやっとというほど。本作に登場するキャラクターは、人も動物も建物や乗り物も、すべてがこうして極端なデフォルメを施して描かれます。このビジュアルが本作の第一の特徴で、アクの強すぎる見た目を不快に思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、僕はすっかり虜になってしまいました。
■映画の予告編がこちらです。 ※音が鳴ります。
シルヴァン・ショメというフランス人監督の作品で、日本のアニメでは見られない独特のタッチの絵に目を奪われます。以前にご紹介した『パリ猫ディノの夜』を、さらに毒々しく前衛的にしたとも言えるでしょう。本当に見た目が素晴らしいんです。
孫と二人で暮らすお婆ちゃんが主人公で、絵柄に負けないほどの奇天烈な物語が展開されます。孫の男性は両親を亡くし、引きこもりがちに暮らしています。どんなおもちゃを与えられてもあまり興味を示さなかったのですが、ただ一つ、自転車にだけは心を奪われていました。亡くなった両親が共に自転車好きだったことが影響しているようです。
やがてお婆ちゃんの協力のもとでトレーニングを積み、彼はツール・ド・フランスに出場します。ところがそこにマフィアが絡んできて、男性は誘拐されてしまいます。お婆ちゃんは孫の行方を探し歩くうち、かつて孫と共にテレビで見たベルヴィルという街にたどり着き、有名だった三つ子姉妹の歌手と出会います。姉妹はお婆ちゃんと同じくらいのお年寄りになっていますが、まだ現役でショーに出演しており、自宅に帰れば、爆弾で仕留めたカエルを串焼きにして食べるような奇妙な生活を送っています。彼女らの助けを借り、お婆ちゃんはマフィアと対決することになります。
男性が飼っている犬のブルーノは、いつも部屋から外を眺め、家のすぐそばの線路に電車が来ると通り過ぎるまで吠え続けるような、何の役にも立たない犬でした。それでも、孫を探すお婆ちゃんにずっとついて回ります。最後にはマフィアに追われて街なかを逃げ回るのですが、ブルーノはずっとそばにいるだけで、最後まで何の活躍もしません。なのにどんどん愛おしい存在になっていきます。カンヌ映画祭で優秀な演技を見せた犬に与えられるパルム・ドッグ賞がありますが、本作のブルーノは受賞こそ逃したものの次点に選ばれています。
とにかく、最初から最後まで溢れんばかりのセンスの良さに圧倒されます。悪趣味でバランスを欠いたものであふれる画面なのに、とてつもなく美しく思えてきます。その中で繰り広げられる冒険物語、決して活躍しない犬のブルーノ。僕の大好きな映画です。
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