この年末年始も、各店舗ともにたくさんのご依頼をいただき、本当にありがたく思っています。ペットブームが去る気配はなく、人間関係がどんどん難しくなるなか、ペットに安らぎを求めている人が増えている気がします。動物たちの見せる嘘のない(ように見える)仕草を見れば、こちらも安心して心を許せるのでしょう。だからこそ、ペットとして飼うばかりではなく、テレビやネットでの動物の映像があれほど人気があるのだと思います。
今回ご紹介する映画『黒猫・白猫』にも、たくさんの動物たちが登場します。タイトルになっている猫のほか、犬やネズミ、ブタ、ガチョウなどが、妙な脚色を施すことなく素のままの行動で、見る者を楽しませてくれます。
とはいえ本作、いわゆる動物映画ではありません。そして、猫の登場シーンもさほど多くありません。それでも本作は心から楽しめるエンタテイメント映画ですので、広くお勧めしたい一本なのです。
監督は、旧ユーゴスラビア(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)生まれのエミール・クストリッツァ。エンタメ映画というより政治色の強い作品を多く残しており、日本での知名度はそれほど高くありません。それでも、カンヌ国際映画祭のパルムドールを二度も受賞している大御所であり、前回ご紹介した映画『パターソン』を撮ったジム・ジャームッシュ監督も、このクストリッツァ監督の大ファンだと公言しています。そんなクストリッツァが、一度引退してからの復帰作として、肩の力を抜いたコメディである本作を作り上げました。
ドナウ川のほとりで暮らすロマの一族の物語です。ギャンブル狂いのマトゥコは、17歳の息子ザーレと共にロシア商船との闇取引で稼ごうとしますが、騙されてしまいます。マトゥコは父の昔なじみである“ゴッドファーザー”ことグルガに頼み、列車を襲って石油を奪う計画を実行します。ところが、グルガの子分格である新興ヤクザ・ダダンに騙され、借りた金も巻き上げられてしまいます。金を取り戻すため、今度はダダンの娘とザーレとの結婚話を進めようとしますが、年上の恋人ブランカを愛するザーレは当然のごとく反発します。
こうして、古株マフィアと新興ヤクザ、マトゥコとザーレ、さらにはマトゥコの父親も登場して、賑やかなドタバタ劇が繰り広げられます。タイトルの黒猫と白猫は、登場はするのですが、ストーリーには直接関与しません。途中で何度か、傍観者としてクールに人間たちを見つめるまなざしとして登場し、マトゥコ達のバカさ加減をあぶり出していきます。「あーあ、また人間どもが馬鹿なことやってるよ」といった感じです。その他、人間たちに翻弄される賑やかし役として、先に掲げた犬やネズミ、ブタ、ガチョウなども出てきます。
舞台は現在のセルビア東部にあたり、言葉も風景も、我々にはあまり馴染みがありません。内容的にも独特の奔放さ、非道徳さがあり、最初は戸惑うかもしれませんが、徐々に引き込まれていきます。物語は温かい人間愛にあふれていますので、最後は安心して見ることができます。ちょっと毛色の違うコメディとして、猫好きな方にもそうでない方にもお勧めしたい一作です。