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ペットシッターの紹介する本や映画あれこれ by ペットシッター・ジェントリー

ペットシッターを営む著者が、日常業務を交えつつ、ペット関連の本や映画を紹介します

小説『最後の殉教者/遠藤周作』

2020年11月12日 09時00分00秒 | いろんな動物の本

この仕事を始める前、フランスに一カ月ほど滞在したことがあります。街を歩いていると、犬を連れた人をよく見かけました。こちらだと、犬を散歩させるというより、人間の外出に犬を連れて行くケースが多いようです。実際、鉄道の車両やレストランにも犬を連れて入ることができます。マンションで飼うようなことも、日本ほど難しくないのでしょう。

パリのメトロで、犬を連れたお婆さんのそばに座ったことがありました。犬を見ていると、お婆さんが僕に話しかけてきます。何を言っているのかはわからなかったので、適当に笑顔でこたえていました。犬は隣で静かに座っています。駅に着いて降りるとき、お婆さんは満足そうな顔で笑いながら去っていきました。
 こちらの犬は驚くほどしつけが行き届いており、レストランでは飼い主が食事をするあいだ、椅子の下でじっと待っています。ときに哀しげにも思えるその犬達を見ていると、彼らはこれで幸せなのだろうかと、ふと考えてしまいます。ただ、犬にはまだ救いがあるのかもしれません。たいていの犬たちは自分の立場を納得し、人とのそうした関係を楽しんでいるように見えるからです。

フランスには、遠藤周作さんの短編集『最後の殉教者』を持っていきました。この中に、猿を描いた一編があります。「男と猿と」というタイトルで、著者がリヨンに留学した時の体験を元に書いた私小説風の作品です。本書を片手に、遠藤氏の下宿のあった界わいや通った大学などを巡り歩くのは、とても刺激的で感慨深いものでした。
 小説では、著者がモデルであろう主人公の男性が、リヨンの町はずれにある公園を訪れます。彼はそこで檻に入れられた猿をみつけ、打ち捨てられたようなその姿を眺めます。みじめな自分の境遇を写し取ったような猿に、彼は思わず石を投げてしまいます。とても切ないシーンです。リヨンの動物園で、僕はその猿を見つけることはできませんでしたが、空っぽの檻はありました。おそらくここで遠藤氏は猿を見ていたのだろうと思うと、胸が熱くなりました。

それからパリに移ったあと、猿ではありませんが、気になる動物を見かけました。公園などで子供を乗せて歩くロバです。珍しくもなく頭ばかりが大きくて不格好なこの動物は、特別にもてはやされることもありません。ただそのおとなしさが買われ、小さな子供を乗せてとぼとぼと歩く立場がようやく与えられた、そんな背景が浮かんできていたたまれなくなりました。
 彼らはいつもつながれたまま、じっとうつむいて仕事の時間を待っています。その姿はいじらしくなるほど従順です。彼らの伏せた目からはこの世の全てを諦めたような暗い光が発せられ、あの目が僕にはたまりませんでした。
 ブーローニュの森でも、ベンチで休んだリュクサンブール公園でも、そんな彼らの姿を見ました。背に乗って子供達が嬌声をあげ、親は喜んでその姿をビデオや写真に収めています。しかし、気づけば僕は彼らの姿をビデオに撮っていました。今もこうしてブログのネタにしています。僕もまた動物たちを、“かわいそう”という名のもとに、自分の人生のために消費しているのでした。


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