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BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

家露伊江子さんに素敵なイラストを描いて戴きました。

2011-02-01 22:22:19 | ファンフィクション
こちらに引越して来たフィク、「鷲は舞い降りた」に
家露伊江子さんから素晴らしいイラストを描いて戴きました。
ありがとうございます。

素敵なイラストは家露さんのブログ「これからガッチャマン」で堪能してください。
http://kiramekighz.blog103.fc2.com/

「これからガッチャマン」は、おねだりしてリンクして戴きました。
ブックマークをご参照ください。

ありがとうございました!

鷲は舞い降りた

2011-02-01 21:43:09 | ファンフィクション

           鷲は舞い降りた
                       by BIRD


 (しまった!)
ガラスの割れる音に続いてジュンの悲鳴が上がった。
「どうして窓を開けるのよ!こんなに風が強いのに。」
強風に翻ったカーテンが棚に飾ってあった置物を払い落としてしまった。

ジュンが風で暴れるカーテンを抑え、窓を閉めている最中にも繰り返し謝ったが
「ひどいわ」「大事にしてたのよ」「風があるのに窓を開けるなんて…」
確かに不注意で大切なものを壊したのは悪いが、あまりに嘆き悲しまれると
いささかげんなりしてくる。
精巧なカットを施された白鳥の置物は、長い首が無残に折れて胴体を離れ
床に転がっている。
ジュンは床に跪き、ごろりと横倒しになっている白鳥の胴体に両手を添えて、
そっと自分の膝に抱き取った。

「接着剤じゃダメか?」
少し離れたところに転がっている白鳥の長い首をつまみ上げると
「さわらないでっ!」
尖った声がとんでくる。

 優美なカーブを描く長い首はさらに二つに折れて、健の手から滑り落ち
それぞれが床でかすかな音を立てた。
(しまった!)
「とにかく接着剤で…」
白鳥の胴体を抱えて立ち上がったジュンがキッと振り向いた。
睨みつける大きなグリーンの瞳にみるみる涙が盛り上がってくる。
「すまない。悪かった。」
「ひどいわ。あたしの宝物なのに…」
言い捨てるなり部屋から飛び出していった。

白鳥が乗っていた台座も棚から床に転がり落ちて裏返しになっている。
手にとってメーカー名を検めてみた。
かつてはそこにメーカー名だか製品名だかのラベルが張られていたようだが、
大半が剥がれ落ちてかろうじて残っているラベルの文字も掠れ、端の『S』しか読み取れない。
『S』で始まるガラスメーカーなど思いもつかない。それともSwanの『S』か。
だいたい『S』自体、先頭の文字か末尾の文字なのか定かではないが、
どのみちガラスの白鳥の手がかりは『S』だ。


 任務の合間をみてショップを巡ったが、見当をつけた最初の店ではクリスタルガラスは
扱っていないと言われ、次は女性客で溢れかえっていてさすがに怯んだ。
ショップめぐりで相当疲れた顔をしていたのだろう、何軒目かで『デパートなら…』
とアドバイスを受けた。
彷徨い歩いたショッピングモールを後にすると、ユートランドの足を向けたこともない
一角にデパートはあった。

人と商品で溢れ返っている店内をフロアマップとフロアガイドを頼りに、エスカレーターで
上がったり下りたりを繰り返しているうちにいっそうわからなくなった。
(仕方がない)
一日中笑っているのではないかと思えるくらい、にこやかな表情を浮かべた受付嬢が
「クリスタルガラスでございましたら、6階特選品売り場の宝飾品コーナーでございます。」
満面の笑みで教えてくれた。
「お客様、こちらの奥に直通エレベーターがございます。」

(あれ?)
ついさっきエスカレーターで昇り降りした同じ店内と思えないほど、静まりかえって人がいない。
絵画、壺、絵皿、彫刻、置物、飾り時計が磨き上げられたショウケースの中に並んでいる。
(ガラスはどこだ?)
人気のない売り場をガラス製品を求めて縦横に歩き廻る。
いつ何時スクランブルになるか、気が気ではない。
どうかこの静まり返った空間でブレスレットが鳴りませんように。
今、出たら許さんぞ、ギャラクター!


 (あった!)
精巧にカットされ天井からの照明に煌めく白鳥がフロア奥のショウケースの最上段、
中央に鎮座している。
(これ、だよな?)
透明な白鳥の胴体の底にラベルが張られているが、降り注ぐ光を受けて
無数のカット面がまばゆく輝き確認ができない。
さらにいまひとつの、いやそれ以上の気掛かりは首に掛ったプライスタッグが
裏返しになっていて値段がわからない。
ショウケースの下からなら見えやしないかと、長身を折って屈んで見上げてみたが無駄だった。

「いらっしゃいませ。」
頭上から声がかかって制服を着けた女性がにっこり笑った。
「こちらのお品でございますか?」
これは間違いなく白鳥だ…と、思う。これくらいの大きさだったはず…と、思う。
何よりもイルカだのクマだのはケースの下段に幾組もディスプレイされているが、
白鳥はこれひとつしかない。
もうこれ以上白鳥を求めてあちこち彷徨うのはごめんだ。

「お待ちくださいませ。」
彼女は笑みを浮かべたまま、まるでマジシャンのごとく、どこからか白手袋を取り出し両手に嵌めた。
(?)
次にまたどこからか鍵を取り出し、ショウケースの扉に差し込んで廻しガラス戸を滑らせて開く。
自分も操縦の際には青い手袋を嵌めるので何か作業をするのだとは思ったが、
品物を取り出すのに彼女は手袋を嵌めたのだと理解した。
(随分、厳重なんだな)


 「こちらはスワロフスキー社のお品でございます。」
『スワロフ?[S]か。これはクリスタルガラスなのか?』
表情をわずかに掠めた疑問をプロフェッショナルな彼女はすぐに理解し
「お客様、ガラスは製造時に酸化鉛等を添加することでガラスの透明度と屈折率が高まり、
その輝きから水晶(クリスタル)のように透明なガラスになりまして、通称として
〔クリスタル〕と呼ばれます。
ただし、光学的に無色透明であるよりもわずかに青みを帯びた方が肉眼では
〔美しい透明〕と感じがちなため、アルカリ金属酸化物などの着色剤を用いて
調整する事がございます。」

「ではこれは着色されているのですか?」
透明なガラスなのに虹のように輝く白鳥を見ながら訊ねた。
「いいえ。こちらのスワロフスキー・クリスタル・ガラスは通常のクリスタル・ガラス
(酸化鉛 (PbO) の含有量比は約24%)に比べ、酸化鉛が最低32%と多くなっております。
そのため、通常のクリスタル(透明)カット製品でも、光の反射加減により
虹色に見えることがございます。」
彼女は素直な質問をした生徒に噛んで含めるように理解させる優れた教師のごとく、
淀みない説明をした。
「なるほど。」
ショウケースから恭しく取り出した白鳥を白手袋をはめた両手がしっかりと抱き、
黒いビロードを張ったトレイの上で角度をいろいろと変えられながら、天井から降り注ぐ
照明を受けて輝くように美しい光を放つ白鳥は虹色に見える、というその説明を裏付けた。

だが、白鳥がいかなる角度になろうとも、ほっそりと長い首に掛っているプライスタッグは
微動だにせず裏返ったままだ。
相手が白手袋をはめて恭しく扱っている品に無造作に手を伸ばして、タッグをかえすのも躊躇われる。
「こちらでよろしゅうございますか?」
買うのか止めるのかを最上級の言葉遣いと笑顔で迫られる。
心の片隅で激しくアラートが鳴り響き、その為の逡巡が表情に出たのか、逸らしかけた視線を
ひたと射とめられた。G1号ともあろう者がここで怯んではならない。
だいたい相手はギャラクターではなく、我々科学忍者隊が常日頃から守らねばならぬ一般市民ではないか。
敵ではない、そうだ、そうなのだ。健が自分自身に大きく頷いたとき
「ありがとうございます。贈り物でございますね?」
彼女は満面の笑顔になった。しっかりと胸に抱いていた白鳥を慎重にビロードを張ったトレイの上に置き、
白い手袋を嵌めた手が手際良く鋏でプライスタッグを切り取った。
(しまった!)

 「只今、箱のご用意をいたします。こちらでお待ち下さいませ。」
白鳥を抱いた彼女は笑顔のまま奥に消えていってしまった。
売り場に独り残されるとたちまち不吉な黒雲のように不安が沸き起こってきた。
(いったい、いくらするんだ)
ショウケースのひとつ下の段に可愛いイルカ達や愛らしいクマの親子がディスプレイされている。
イルカに付けられた小さなプライスタッグに気付いた。タッグは表を向いている。
身体を斜めにしてびっしり並んだその小さな数字を読み取った。

(え?)
理解を超えたプライスが記されている。
クマの親子のタッグも確認した。
(!)
納得の範疇を超えている。
値段の決め手はどこにあるんだ?大きさか?
海洋生物と鳥類では値段の基準が違うのだろうか?
それとも哺乳類と卵性生物の違いが価格に反映されるのだろうか?
天下無敵の科学忍者隊G1号 ガッチャマンが史上最大の難題に
その凛々しい眉を寄せて、考え込んでいる時
「お客様。」

先ほどの女性が戻って来た。白鳥はどこに消えたのか見当たらない。
眼の前にA4サイズ大のボードが置かれた。
グリーティングカード位にカットされた包装紙の見本が5種類、
様々な結び方をした色とりどりのリボンの見本がこれも5本、並んでいる。

私どもで用意しております包装紙がお気に召さなければ、ひとつ上の
7階文具のフロアで包装紙を扱っておりますので、そちらでお客様の
お好みの包装紙を選んでお求め頂き、こちらにお持ちいただければ、
それで包装することができること。
またリボンがお気に召さない場合は5階奥の手芸品売り場に…。
にこやかで懇切丁寧な長い説明が終わるのを待って、健は直ちに首を横に振った。

 「ありがとうございます。」
では、包装紙はどれにするか、リボンは何色にするか、結び方は…等々
山ほど聞かれ答えた後で、遂にプライスタッグが登場した。
クラクラするような数字が並んでいる。
いまこの瞬間にブレスレットが鳴らないだろうか?頼む、出てこい!ギャラクター!

女性は固まっている健に微笑みかけ
「恐れ入りますが、もう少々お待ち下さいませ。」
と告げてまた奥に戻ってしまった。

このままフロアを突っ切って、階段を駆け降りデパートから走り出てしまえば…。
いや待て、科学忍者隊が一般市民を騙すなんて…できない。俺にはどうしてもできない!
タートルキング、クラゲレンズ、火喰い竜… もはやこれまでと思われたことは数え切れない。
メカボ-ル、ゲゾラ、ジゴキラー、アルケオ… 打つ手がなく地を這い、うなだれ涙したことも数知れない。
カニキラー、メカブッダ、ブリザーダー、クラゲメカ… だが、いつも知恵と勇気でなんとか切り抜けて来た。
こんなことで屈してたまるか、俺は科学忍者隊G1号 ガッチャマンなんだぞ!
健がキリリとその眉を上げた時、
「お客様、大変お待たせいたしました。」

デパートのロゴが入ったペーパーバッグがショーケースの上に乗せられる。
彼女が手にしているバッグの持ち手に触れたらおしまいだ。
心の奥で最後のアラートが弱々しく鳴ったが、持ち手を僅かに自分の側に傾けられ
笑顔で強く促された。仕方なく健はペーパーバッグを持ち上げた。
羽根よりも軽くなってしまった財布に比べてずしりと重い。
「きっと喜ばれますわ。」
これで嘆かれては平静ではいられない。



 「甚平、ジュンは?」
「お姉ちゃんなら買い物だよ、もう帰ってくると思うけど。兄貴、それなんなの?」
甚平がペーパーバッグに視線を向けた。
「ジュンの宝物とやらを落としちまってな。」
「宝物って白鳥の…アレかい?」
「ああ、そうだ。」
カウンターに置いたデパートのペーパーバッグを忌々しげに見やりながら、
記憶に新しい先ほどの特選品売り場での恐怖体験に気を取られていた健は、
甚平の表情に一瞬走った動揺や、自分と並んでカウンター席についている
ジョーと竜の肩が強張るのを見落とした。


ーあれ?繋がってたはずなのに、おっかしいなぁ…

ー接着剤が完全に乾く前に動かしちまったからな、不覚だった…

ー確かにくっついとったはずなんじゃが、どうしたんじゃい…


三人三様に過去の罪を振り返っているとき、道路に面した青い硝子戸が押し開かれて、
ジュンが帰って来た。



「えっ、スワロフスキーのクリスタルを買ったの?」
そのスワロフスキーだ。忌々しい。もう文句を言うなよな。
「ああ、そうだ。」
「スワロフスキー・クリスタルって初めて見たわ。綺麗なものなのね。」
「なんだって!ガラスってみんな同じじゃないのか?」
「違うわよ。あの白鳥はアクリル・ガラスだもの。高かったでしょ?これ。よく買ったわねえ。」

それじゃ、あのラベルの『S』はSwarovski(スワロフスキー)の『S』ではなく
Acrylicglass (アクリルガラス)の『s』か!『S』は逆にしても『S』だ。
アクリル・ガラスならG1号機の風防の素材じゃないか。
(しまった!)


「兄貴、オイラの奢りさ。」
甚平が心を込めて淹れたコーヒーをサーブしてくれた。
「お前の勘違いだ。あきらめろ。」
「ジュンは喜んどるぞい。」
左右から熱心に慰められる。
「ん…まあ…そうだけど。」
どこか納得のいかないまま口許に運んだコーヒーはやけに苦かった。







お読みいただきありがとうございます。
スワロフスキー社とクリスタルガラスの記述はウィキペディアからの引用です。
御了解ください。  
 
BIRD拝

メイドさんもシェフも一服中です。

2010-12-13 21:43:07 | ファンフィクション
                 リゾット 
                       
                      by BIRD



どうだ!と言わんばかりに自慢のリゾットをひと口含んだ相手を見た
ジョーは、その凛々しく形のいい眉が一瞬、不可解な動きをしたのを
見逃さなかった。
「なんだよ?」
内心の動揺を気取らせまいと宙を泳ぐ視線を外さず、
ギッと睨み据える。
「あ、いや、美味いぜ、これ」
言うわりにはふた口めにフォークが動かない。
子供の頃から、不器用で嘘のヘタな奴だ。

「何だよ、健。はっきり言ってみろ」
青い大きな眼がチラと見る。
「言えよ」
材料といい、手間といい、この極上のリゾットに何がある?
あるなら、聞いてやろうじゃねえか。 
グイ、とジョーは顎を上げた。

「はっきり言って…」
健はまっすぐにこちらを見た。
「このオジヤには芯がある」
取り落としそうになったフォークを辛うじて握り締める。
「それを除けばこれは結構いけるぜ」
育ちの良さか南部博士の厳しい教育の賜物か、
健はあまりズケズケとモノは言わない。
だが、だが、時として思いっきりズレた発言をするのも
健が健たるゆえんだ。

「あのなあ、これはそれを除く訳にはいかねぇんだよ」
白皙の顔に「?」を貼り付けている相手はこの意味を
まったく理解できていない。
「健、アルデンテって言葉を知ってるだろう?」
別方面からのアプローチを試みる。


「ああ、スパゲッティだろ?」
このトンチキめ。パスタとは何か、を教えるのは別の機会だ。
一度にふたつも理解させるのは所詮、無理な話であって…。
「これって、もしかしたらスパゲッティなのか?」
ジョーが言葉を失っている間、健は器に盛られた中粒種で
丸みのある、イタリア米を観察している。
「だからスプーンじゃなくてフォークなのか」

リストランテのシェフを拝み倒して分けてもらったイタリア米
カルナローリの1年物を言うに事欠いて『芯がある』だと
抜かした上に、リゾットとパスタの区別も付かずにしみじみと
皿を眺め、ズレた答えを出してひとり納得している
その焦げ茶の頭を引っ叩いてやりたかったが、
あいにく怒りで震える拳に握り締めているのはフォークだ。
これの武器転用は控えたい。

沈黙の続くテーブルに、自分が何かマズイことを口走ったらしいとは
さすがに健も気づいたようで、表情が変わった。
(上出来じゃねぇか)
ま、確かに美味とはいえ、ややクセのあるカルナローリの1年物は
こいつにとってハ-ドルが高かったかも知れん。
「ジョー」
健が静かに言った。大きな青い眼は躊躇を見せている。
(詫び言なら聞いてやろうじゃねぇか)

滅多に謝罪の言葉も口にしないリーダーに向かってジョーは目を上げ、促すように頷いた。
「なんだ?健」
健は小さく微笑み、慰める様に言った。
「ジョー、一度くらいの失敗が何だ。失敗は成功のもとって
言うじゃないか」
「馬鹿野郎!」


終 

2010-11-16 20:53:42 | ファンフィクション
     

                                      
                          by BIRD
  

海に面したユートランドは海流の影響か温暖で、あまり四季の区切りがはっきりしない。
だが日差しは確実に強くなってきている。

都心の高層ビルをほど近くに臨む、小さな飛行場。
オーナーは留守がちだが、あらゆる宛先へ確実に届ける配送便には定評がある。
今日は自分の時間らしく、若い主が工具箱を抱えて小さな住居から出てきた。

 「飽きもせず、また整備かね」
 「あなたにそっくりですわ」
 「?」

 「頑固なところ、足癖、それから―」
 「やれやれ、そんな所ばかり似てしまったかね」
 「それだけではありませんのよ」
 やわらかな光が微笑んだ。

晴れ渡った空を見上げる健に強い光がさざめくように煌めいた。
見上げた空は今日も眩しい。  


街の中心部近く、ダウンタウンの一角にあるアルファベットひと文字の
看板が目印のスナック。
不定期な営業を続けているこの店が本日は開店するらしく、
若い店主が次々と窓を開け放ち、閉め切りだった店の中に風を通していく。

 「いつになったら落ちつくのかね」
 「パイロットなんて、苦労しますのに」
 「!」

 「よく泣かして―」
 「おまえも苦労ばかりだったな」
 「そうでもありませんのよ」
 強い光が笑った。

晴れ渡った空を見上げるジュンに、やわらかな光がいたわるように煌めいた。
見上げた空は今日も眩しい。

ユートランドの夏はすぐそこまで来ている。



コンドルは飛んでいく

2010-10-09 17:23:27 | ファンフィクション

                  コンドルは飛んでいく

                             by BIRD



 科学忍者隊G1号 ガッチャマン 大鷲の健は三日月珊瑚礁秘密基地最上階にある
科学忍者隊専用エリアの一室で、報告書に取り組んでいた。
国際科学技術庁のウラン貯蔵庫を狙ったギャラクターの鉄獣メカとの戦闘に勝利し、
施設もウランも守り抜いて三日月基地に帰還した。整備スタッフにゴッドフェニックス及び
Gメカを委ねている間、各自はメディカルチェックを受ける。
メンテナンス終了後、スタッフと技術的なやり取りを経て身体的にも問題がなければ、
南部博士より帰宅が許され、科学忍者隊は解放される。

だが、リーダーとしての職務上、戦闘終了後は直ちにゴッドフェニックス内の指揮席から、
メインスクリーンに映る博士に与えられた任務に対する、完了報告を行わなければならない。
また三日月基地に帰還後は口頭で結果報告を行う。
当然、南部博士から報告内容について確認や質問がある。
それに加えて今後の作戦データとなるべき、詳細な報告書の作成は避けて通れない。
本日の任務に対して作成すべき報告書には、バードミサイルの過剰発射に対する
始末書が付帯している。


(ちぇ)
今月もう何度目になるんだろう?
『健、君はリーダーとして科学忍者隊の任務を何と心得ているのかね?』
ついさっきまで南部の執務室で厳しく質された言葉が耳の奥底に甦って来る。

今日という今日はあいつにきっちり言い聞かせてやる!
向かっているPCのキーボードに乗せていた手をデスクの上で拳に握りしめ、
キリリと眉を上げて健が虚空を睨んだまさにその時
「おい健、まだ終わらねぇのかよ。」
反対側のコーナーから焦れた低音が訊ねてきた。
常に始末書発生の原因であるサブリーダーは<シューマッハ復帰!>の文字が、
表紙に躍るF1雑誌を手にしてカウチに寝っ転がり、問いかけはその雑誌越しだ。

 始末書の元凶のあまりにあまりな態度にキッと視線を巡らした健は我が眼を疑った。
科学忍者隊G2号 コンドルのジョーのデスクはPCの電源を落とし、きれいに片づけられて
筆記用具さえ見当たらない。
(え?)
サブリーダーの仕事の早さに唖然としていると、ジョーは広げていたF1雑誌を放り出し
カウチから起き上って、つかつかと歩み寄って来た。
長身を屈めて健の手元をのぞき込む。
「なんだ、あと少しじゃないか。さっさと終わらせちまえよ。」
ここで待ってるからよ、と響きのいい声で慰められ肩に乗った手に励まされ、
すまん…と応えた健はPCに向き直ったが、再び先ほどの疑問が頭を擡げた。
(俺より早く書き終えるなんて信じられん)

「なんだよ?」
ジョーの動きを眼で追っていたらしい。
カウチに戻って雑誌を取り上げた彼と視線がぶつかった。
「あ、いや、別に―。」
(俺より早く報告書&始末書を書き終えるなんて考えられん)
思いつつも、その厳つい外見とは裏腹に、人一倍、仲間思いで温かい心の持ち主である
幼なじみに対してそれを口にすることは憚られた。

「おい健、はっきり言えよ。」
口ごもったのを見咎めてジョーは再びカウチから健のデスクへ、今度は足音も荒くやって来た。
(しまった)
「何でもないさ。待たせてすまん。」
一気に書き終えてしまおう、再びデスクに向かった健は集中を心がけた。
「終わったら教えてくれよ。写すから。」
またカウチに戻りかけるジョーの呟きが健の耳を打った。
「な、なんだって!?」

 再び傍に来たジョーは健が向かっているデスクの端に腰掛け、リーダーを見下ろした。
「いいか、健。俺達は科学忍者隊だ。」
「そうだ。おまえはG2号で俺はG1号、ガッチャマンだ。」
大きく頷く健のその反応にジョーは、正解を答えた生徒に満足する教師の面もちで泰然と頷いた。

「俺とおまえは科学忍者隊として任務についている。」
「当たり前だ。いつもそうじゃないか。」
何をいまさら、と言いたげな健の表情をジョーは静かに見返した。
「だったら、おまえと俺の報告書&始末書が同じなのは当たり前だろう。」
サッサと書けよ!言い捨てたジョーはデスクから降り、
健をハイバックチェアごと反転させてデスクに向けた。

「おい!」
健はハイバックチェアに身を沈めたまま、デスクを通り越して椅子ごとくるりと向き直った。
勘違いをした上に説得されそうになった自分が情けない。
あの南部に同じ報告書&始末書が受理されるなどあり得ない。
それをこのサブリーダーにどう理解させればいいのだろうか…

「なんだよ?」
どちらも科学忍者隊として任務を命ぜられ、ゴッドフェニックスに合体して出動し
毎度おなじみの敵、ギャラクターと戦い任務を全うして三日月基地に帰還してんだぜ。
報告書&始末書に違いがあるワケがないだろう。
それをこのトンチキは理解しているのだろうか…

 椅子を背後に倒す勢いで立ち上がった健がキッと視線を上げた。
凍てつく青い氷のような瞳がジョーを睨む。
全身に闘志を漲らせてジョーはぐいと顎を上げた。傲然とした視線が健を見下ろす。
こんな時はわずか5センチの身長差が堪らなく口惜しい。たかが5センチ、されど5センチ。
幼い頃あれほど綺麗だと思った青い瞳に睨みつけられると、この上なく恐ろしい。
眼を逸らした方が負けだということは承知している。こいつにだけは負けたくない。
互いに譲らず、二人の視線は空中で火花を散らして絡み合った。


 壁面に埋め込まれた館内通話装置のスピーカーが鳴った。
「健、ジョー。」
南部博士だ!
キッと青い瞳が睨み据え、ギッと青灰色の目が睨み返した。
「まだいるのかね?」
「はい。俺もジョーもいます。」
視線はジョーを睨み据えたまま、声は平静を装って健が答えた。
「博士、何かあったのですか?」
健にぴたりと視線を据えたままジョーが尋ねた。
『馬鹿、余計なことを言うな!』
小声で健が嗜めた。
『うるせぇ、黙ってろ!』
小声でジョーが怒鳴り返した。

「どうしたね?音声が聞きとれないようだが。」
「なんでもありません。ところで博士、報告書の件ですが。」
ジョーに向かってフンと健が顎を上げた。
クッとジョーは怒声を喉の奥に押し殺した。
「本日の任務に対する報告書と始末書のことかね?健。」
きっちり正されてしまった。
『余計なことはお前じゃねえか』
『うるさいぞ、ジョー』

「どうも音量調整装置がよくないようだね。君達の声が時々途切れる。」
チェックの為、係員を出向かせるという南部博士を二人がかりで説得し、納得させた。
ホッと顔を見合わせた途端
「健、報告書を早く提出したまえ。基地に帰還してもう2時間が過ぎている。」
ジョーが横を向いてククッと笑い、健が睨みつけた。
「ジョー、始末書を早く提出したまえ。君は始末書の意味がわかっているのかね?」
健がクスッと笑い、ジョーが凄まじい形相で見返した。
「それとすまないが、どちらか一人、遅くなった方でいいから残ってくれたまえ。
手伝って欲しいことがあってね。」


「健、報告書はあらかたできてんだろ?」
「ああ、手伝うから早くPCを立ち上げろ。」
「すまねぇ。」
「急げ!」
科学忍者隊のリーダーとサブリーダーは戦闘モードを彷彿とさせる、
一糸乱れぬチームワークを発揮して瞬く間に、報告書と始末書を作成し
二人同時に南部の執務室に駆け込んだ。


G1号とG2号が揃って三日月珊瑚礁を離れて行った、との報告を受けた
南部博士は受理した報告書と始末書に目を通しながら、仲がいいのか悪いのか、
気が合うのかあわないのか、非常時には絶妙の協力体制を見せる
水と油のような二人を思い浮かべて、髭を蓄えた口許を綻ばせた。