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BIRDのブログ&ファンフィクション

タツノコプロの往年のアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」の大ファンです。
この話題を中心に日常のことなどを綴ってみました。

2012-09-29 18:00:04 | ファンフィクション
                              


                                   



「さあ、行け。急がねぇとそろそろカッツェの奴が動き出すぜ。」
「ジョー」
「ジョー…」

「科学忍者隊のリーダーとして命令する。コンドルのジョーはここに残し、全員ギャラクター本部に突入する。」
「ジョー…許してくれ。」
青い瞳の奥につらさ、哀しさ、やり切れなさが過った。
ともに育って、ともに笑い、ともに戦い、傷つき、涙して― 彼は去った。

鈍色の空の下、大地が揺れて引き裂かれ轟音と叫び声が交錯する。
そして、辺りを闇と静寂が支配した。


俺はまだ生きてるのか…

もう身体が動かない。
痺れて感覚の失われた手を青いグローブが包み込み、託された健の心。
さっきの大揺れで手から滑り落ちたのか、まだ手の中にあるのか、定かでない。

健は?あいつらは?
再び大地を衝き上げる衝撃が横たわった全身を揺す振った。
カッツェを仕留めたのだろうか、総裁Xは?地球は?あいつらは?健は?
音もなく冷たい闇の中で、もう上下の感覚すらわからない。


「!」

不意にあたりを包む冷気を払うように、懐かしい暖かさが周りに満ちた。
閉じた目の向こうに眩い光を感じる。大きな手が肩を抱き、優しい手が頬にふれた。

ふたりに導かれて光の道に誘われる前、見上げた空は夜が明けようとしているのか
一箇所だけ雲が切れ、紺青の瞳と同じ色が見送っていた。




赤いひと

2011-12-25 01:25:12 | ファンフィクション

                     赤いひと
                                by BIRD


この季節、街を歩けば目につくクリスマスのディスプレイ。
樅の木、色とりどりのオーナメント、ツリートップの星、キャンドル、そしてサンタクロース。

クリスマスツリーやディスプレイは動かないが、人が扮したサンタには
様々な所で遭遇する。配達に行った先に何人のサンタクロースがいたことか。
(向こうだって仕事なんだから…)
視野に入る赤に宥めても宥めても掻き乱され、波立つ胸の内。

子供の頃あれほど楽しみだったクリスマス。
サンタクロースの正体を突き止めようと、クリスマスツリーが飾られた居間で
イブの夜にジョーと二人、夜明かしをしたこともあったっけ。
優しいサンタクロースはツリーの下に贈り物を積み上げ、暖炉の前で丸くなって
眠っている子供達にブランケットを掛け直して、去っていった

大人になりかかった今、サンタクロースなんて、と思う気持ちと、
もし願いを叶えてくれるのなら、贈り物を願えるのなら、ただひとつ…。



「おい健、大丈夫か?」
気遣わしげな声がブレスレットから流れた。
「ああ、大丈夫さ」
「状況は相変わらずか?」
ジョーが確かめる。
「まあな」
ギャラクターの鉄獣メカを科学忍法火の鳥で破壊したものの、影分身で分散した
Gメカが、各々鉄獣を掠めるのと同時に内部爆発が起こった。
(いや、あれは爆発の方が僅かに早かった)
俺たちがベルクカッツェの作戦を読むことができるように、ヤツらも俺たちのやり方を
知り尽くしている。
火の鳥で接近してくる科学忍者隊を巻き込み、自爆の道連れにしようとした。
とっさに各自、回避行動をとったものの、木っ端微塵になった鉄獣メカの破片が雨のように
降り注ぎ、うちの幾つかがG1号機の尾翼を傷つけた。

破片の飛散範囲や砕け散った破片の多さ、爆発の規模がこれまでとは明らかに異なる。
今後の作戦の為にも三日月基地に帰還次第、G1号機の修理と並行して南部博士に分析を
行ってもらう必要がある。
G1号機及びG2号機のキャノピー、G3号機の耐熱カプセルを破片が直撃しなかったのは
不幸中の幸いかも知れなかった。

「健、どんな具合じゃ?」
竜の声が訊ねた。
「なんとか飛んでる」
「オラは燃料の心配をしとるんじゃ」
科学忍法火の鳥は搭載している燃料の約半量を消費する為、G1号機の残量ゲージも
半分以下を示している。
「健、このまま飛ぶんか?やっぱり…」
ゴッドフェニックスに合体してしまえば一路、三日月基地まで帰還できるが、尾翼の損傷具合が
不明なままの合体は危険が大きすぎる。
G1号機が後部格納庫に納まるどころか、ゴッドフェニックスを傷つける可能性も考えられる。

「いや、竜、尾翼の損傷が未確認だし、飛行そのものに安定を欠いた状態で
合体しない方がいい」
「わかった。燃料漏れはないんじゃな?」
もう一度、残量ゲージに視線を走らせる。燃料の移送は順調に行われているようだ。
「燃料タンクに異常はない。それより竜、垂直尾翼がなくてすまん」
「心配ないわさ、合体前はこれで飛んどるんじゃ」
垂直尾翼を欠く上にG1号機の重量が抜けたゴッドフェニックスでは三日月珊瑚礁まで、
安定した飛行姿勢を保つのも難しいだろうに、頼もしいメインパイロットはそんな言い方で
笑い飛ばしてくれた。

「健、最短距離にある国連軍の補給基地を伝えるわ」
てきぱきとしたジュンの声がブレスレットから響く。
「一番近いのは北海にある小規模なブランチよ。次に近いのは―」
手際良く位置情報を伝えてくる声のトーンはすでに受け入れ先への連絡を完了している
ことを表している。
「ラジャー。燃料補給してから帰還する」
「健、気をつけてね」
「兄貴、早く戻ってきて」
心配そうな姉弟の声が重なった。
「わかった。みんなも気をつけてな」
G1号機を欠きながらもゴッドフェニックスは一気に加速して上昇し、視界から消えていった。



突然、機体が大きく揺れた。気流の悪いところを通過しているらしい。操縦桿を
握る手に自然と力が籠る。海岸線に添って飛行し、有視界飛行が可能な日没前に
小島の補給ブランチに着陸しなければ…。
健は機体が海岸線と並行になるよう、G1号機の姿勢を立て直そうとした。
(しまった)
垂直尾翼を損傷したまま飛行を続けたのが悪かったのか、油圧ケーブルに異常が
生じたようだ。ラダーを制御しても反応が弱く、舵が効かない。
激しい気流に流されるまま、滑るように海上に出る。
(いかん、霧が出て来た)
国連軍の補給ブランチという島はどこなんだろう。刻一刻、ミルクのような濃い霧に
覆われていく眼下の景色に健は眼を凝らした。

「G1号、聞こえますか?こちらは国連軍北海ブランチです」
(ああ、よかった。助かった)
「聞こえます」
「G1号、聞こえますか?こちらは国連軍北海ブランチです」
(え?)
声が届いていないのだろうか?こちらから呼びかけようとした健は
「G1号、聞こえますか?こちらは国連軍北海ブランチです」
三度繰り返されて事態の悪化を悟った。
(通信装置にまで異常が生じたのか)

「霧が発生して視界が良くありませんが、まもなくレーダーで機影を捉える事が
できるでしょう。できるだけ燃料消費を抑えて飛行してください。滑走路は完全に
解放してあります。今夜の着陸機はG1号、あなただけです。三分後にまた連絡します。
気をつけて」
管制官は行き届いた呼びかけをして、通信を切った。
一方的な通信も不安が募るが、ぷつんと音声が途切れたコックピットは
機械の作動音のみので、いっそう心細い。


霧の中、真横から受けていた西日が遮られて、辺りが翳った。
眼を凝らすと、影が寄り添うように別の機体が並んで飛んでいる。
(救援機だ!)
黒々としたシルエットの中、流れる霧で見え隠れするコックピットの白い指先は
前方を指し示している。
この先は…ホントワール共和国だ。あの国の上空を飛ばなければならないのか。

―達者で暮せ。強くなれよ―

胸の奥が引き絞られる様に痛んだ。
現実に戻されたのはアラーム音と共に、G1号機の燃料残量が僅かであるという、
警告灯が点いたからだ。
(しっかりしろ。強くなれ、と言われたじゃないか)

青いグローブが操縦桿を握り直し、大きな眼がキッと前方を見据えた。
霧が流れる中、影のような救援機は絶妙の距離を取り、見守るように付き添うように飛行する。
G1号機が間違いなく国連軍北海ブランチを捉え、機首を正確に向けたことを見届けると
並んで飛行していた救援機は大きく離れていった。
高度を取った機体は夕陽を反射して赤く輝き、たちまち、ひと筋の光芒となって
遥か上空に消え去った。



「さっきの話、なにかの間違いだよな?」
「ああ、救援機も含め今日のフライトはないよ」
「クリスマスイブだしね」

「この冬は例年になく強風で、上空は荒れてるだろうな」
「磁気嵐も加わって、通信にも苦労したぜ」
「人間は自然には勝てないさ」
「まったくだ」

G1号機の応急修理と燃料補給を終えた担当職員たちはオフィスに戻りながら、
そんな会話をしていた。

デスク周りのファイルをあれこれ繰っていた係官が
「誰だ、これを書いたのは?『Red―』の後が読めないじゃないか。サインもないし」
手書きメモの様な飛行計画書を示しながら、辺りを見回す彼の肩を、もう一人が叩いた。
「まあ、いいじゃないか、今夜はクリスマスイブなんだ」
「そうとも。謎のMr.Redにガッチャマンは助けられたってことさ」
反対側からG1号機の離陸を見送った別の職員が笑った。
「もしかしたらサンタクロースかも」
「それだ!彼だって地球の平和を願ってるだろうしね」
互いにメリークリスマスと言い交わしながら、小島にある国連軍北海ブランチの夜は更けていった。



「健」
深みのある声が呼んだ。
「ジョーか?」
「帰ろうぜ。G1号機の修理を待ってたら、ずっと足止めじゃねえか」
「しかし、修理完了報告書を確認しないと…」
壁のデジタル時計の表示を振り返る健に向かって
「お前、今夜はクリスマスイブだぜ」
ジョーが呆れたように言った。
(辛い方ばかり選びやがってよ)
ジョーは眉を顰めた。


 ユートランドの大通りをひた走る車内で健は、北海上空での体験をジョーに語った。
「垂直尾翼をやられたのに始まって、事態が悪化の一途を辿った時はぞっとしたぜ。
一時は通信装置もいかれちまったしな」

鉄の塊が空を飛ぶなんて…ジョーも普段はそこまで考えないが、時速何百キロで
走行していようとブレーキを掛ければ地上で停止することができるレースカーと違って、
飛行機というヤツは、一旦、舞い上がった限りは何としても自力で地上へ降りて
来なければならない。それも燃料があるうちに、だ。

「心細い時にサンタクロースが来てくれてよかったな」
「救援機を見た時は心底、有難かったぜ」
「それは違うな、健」
「なんだと?」

次の交差点を曲がれば、スナック・ジュンというダウンタウンの一角で、
ジョーは車を端に寄せて停止させた。
「親父さんは言ってたぜ。『達者で暮らせ。強くなれよ』ってな」
「だから、俺は強くならなきゃって―」
怒りを湛える大きな青い眼を見返した。
「『達者で暮らせ』が先なんだぜ、健」
長い睫毛が伏せられる。


再び走り出した車内で前方を見たまま言った。
「無茶しやがって」
「ん…」
「クリスマスイブだぜ」
「ん…」
「無事でよかったな」
「ん…」


到着を待ち兼ねたドアがパッと開き、ガレージのシャッターが勢いよく上げられた。
「二人とも早く入って!」
「メリークリスマス!」
「オラ、もう待ちくたびれたワ」
温かく賑やかな声が口々に迎える。
ドアの前でそっと見上げたユートランドの夜空に星が小さく瞬いた。




参考作品「シェパード」:フレデリック・フォーサイス 1975年

イーグルアイ

2011-11-11 11:11:11 | ファンフィクション
                  
                      イーグルアイ

                            

 内装に木がふんだんに使われ、温かい雰囲気を醸し出している居住スペースの一角。
重厚な樫の扉を開けると自分を呼ぶ声と同時に、いや、声より先に上向きにした手が
ソファの陰からはみ出して来た。
うるさく呼び立て、うるさく動くその手を無視したジョーは海岸沿いに建つ南部博士の別荘の
大きな居間を見渡した。
DVDだかBDだか、または録画したものでも見ていたのだろう。
いや、こいつのことだ。行儀悪くソファに寝っ転がって見ているうちに眠っちまったんだろう。

手のひらが突き出されているソファの斜め後ろ、毛足の長い絨緞の上にリモコンが転がっている。
『寄こせ』と催促してるのはこれか。
「自分で取れよ」
それを無視した手がさらにヒラヒラする。
なんてズボラな奴だ。博士が見たら卒倒するぜ。

うるさい手も声も無視していたジョーはちょっと思いついて、床からリモコンを拾い上げ
「ほらよ」
目障りな手とは別方向に放ってやった。
間違いなく健の上に落下するはずのリモコンは、だらしない動きを見せていた手が素早くキャッチした。
予想の外れたジョーは肩を竦める。
『鷲は眼がいいからな』

TVとレコーダーの電源を切って健がソファから起き上った。
「危ないじゃないか、ジョー!」
大きな眼がキッと睨む。
「だったら自分で取れよ」
行儀の悪さに自覚があるのかないのか…。


鋭い音がして左手首に巻き付けたブレスレットが点滅した。
聞き慣れた声が三日月珊瑚礁への集合を命じる。
「ラジャー!」
「ラジャー!」
二人は扉に向かって走り出していた。

「ジョー」
「?」
「さっきはすまん」
「!」
思いがけない謝罪に足が止まる。
「TV本体の電源を切っておけよ」
もう健の姿はなく、声だけが室内に残った。
(あの野郎!)



鉄獣メカの最初の攻撃をかわしたゴッドフェニックスを続く衝撃波が揺すった。
「竜!もっと近づけ!」
ジョーはレーダー監視席から離れ、姿勢を立て直そうと揺れ動く機内を前方へ駆け付けた。
バードミサイルの発射装置に乗せたその手を青いグローブが無言で阻む。
―市街地の上空だぞ!―

敵メカの波状攻撃にフロントスクリーン全体に映し出されていた街並みが
たちまち黒とオレンジの斑模様に彩られる。
バイオレットのバイザー越しに厳しい目が見下ろした。
―あれが見えねえのかよ!―

張り詰めた空気に甚平がジュンを不安そうに見上げ、竜はひたすら前方を見つめて操縦に専念する。
「ジョー、席に付け」
なおも睨み据える目を静かに見返し命じた。
「竜、接近しろ!」
「ラジャー!」

刻一刻、被害を増していく都市の上空からなおも攻撃を続けるギャラクターの鉄獣メカに
機首を向けたゴッドフェニックスは速力を増した。


追い越しざま鉄獣メカ内部に侵入し、二ヶ所で陽動作戦を起こす間にジュンが中枢部に
爆薬をセット、直ちに甚平が確保したルートから脱出する。
合流したジョーを先に行かせた健はメカを海上に誘導できるよう、その進路を確認するため
コントロール装置のパネルに視線を走らせた。

パシュッ、と乾いた音がした。
『しまった』
どこに隠れていたのか、マシンガンで狙いを付けたギャラクターが不意に現れた。
一発とはいえ制御装置の前でマシンガンを撃つくらいだから、そうとう混乱しているようだ。
いずれにせよ、さっきの戦闘で全員を叩きのめすことができなかった、俺のミスだ。

健は相手を見据えながら、ブーメランに手を伸ばそうとした。
第二弾が床にめり込む。どうやら相撃ちの覚悟が出来ているらしい。
じりじりと間合いを詰めてきたギャラクターがマスクから見える口元を歪めた。
トリガーに掛けた緑色の指先が動くのが見えた。

空気を震わせる、音なき音。相手の首に突き刺さった羽根手裏剣が震えた。
青い猛禽が飛び込んでくる。一瞬、泳いだ銃口をすかさず押しのけ敵を蹴り上げる。
トリガーに指を掛けたまま仰け反ったそいつは、あさっての方角に数発撃ってから崩折れた。


「戻れ、と言ったはずだぞ」
厳しい光を湛えた眼がブルーのバイザーを通して睨みつける。
「悪かったな」
まったく悪びれない声が応じた。
「リーダーの命令が聞けないのか!」
怒声に、さすがにカッとなって言い返した。
「俺が来なかったらどうしたんだ?」
バイザーからのぞく口許がムッと引き結ばれた。
(強情な野郎だぜ、まったく)

視線を外した健が黙って床のエアガンを拾い上げ、ジョーの左側へ差し出した。
バイオレットのバイザー越しの険しい目付は変わらないが、予想していた
訝しげな表情を見て、引き結ばれていた口許が少し笑った。
「お前、右を痛めてるだろう?」

左手で受け取り、右側のホルスターに戻す。
「なんでわかった?」
「羽根手裏剣の軌道がいつもと違う」
飛来した時の角度がどうだの、飛び方の安定性だの、解説はさらに続いたが、
右から左に聞き流して自分が確信したことにのみ、ジョーはうなずいた。
(鷲は眼がいいからな)




母の日…親子でお留守番です。

2011-05-08 10:58:36 | ファンフィクション

 
             ワシの休日 
                 
     


 うたた寝からゆっくり目覚め、カウチの上で長身を伸ばす。
滑り落ちた本を床に探っていた手に硬いものが触れる。
掴みあげると昼寝前に子どもが遊んでいた飛行機のおもちゃだ。
立ち上がって、読みながら眠ってしまい床に落とした本をすくい上げる。
家中がシンとしている。

もう薄暗い室内で腕時計を見た。
あまり長く昼寝をさせないように、と言われている。
そろそろ起せばいいんだな。
出かける直前まで散々、自分の子守りを心配されたが
なんのことはない。簡単じゃないか。
やっぱり男は男同士さ…戻ってきたら健と二人で自慢してやろう。

 子供部屋のある2階へ向かって軽い足取りで階段を上がっていく。
昼寝の途中で様子を見に来た時と異なり、
静まりかえった2階もすでに薄暗くなってきている。
突き当りの子供部屋へ進みながら、どう起したらいいのか、
ベッドのそばから静かに声を掛けたものか、揺すり起こしていいものか、
迷いつつドアノブを握って静かに扉を開いた。
廊下よりもさらに暗い室内に少しの間、目が戸惑う。


「?」
小さなベッドはもぬけのカラで飛行機の模様のブランケットが丸まっている。
「!」
隠れているのかと思ってあちこち捜してみたがいない。もとより小さな
子供部屋は隠れるところなど知れている。

(まさか―)
出窓の鍵をはずし恐る恐る下をのぞき込んだ。
よく手入れされた庭が、いつの間にか降り出した細かな雨に濡れているだけで
誰の姿もない。安堵で膝から力が抜けて座り込みそうになる。
が、すぐ次の不安が押し寄せてきた。

(どこへいったんだ?)
廊下を走り、飛ぶような勢いで階段を駆け降りた。
「健!健!どこだ?どこにいる?」
家中を探し回った。
明かりを総てつけて、部屋ごとに名前を呼ぶ。
クローゼット、階段下の物入れ、扉という扉、引き出しも総て開けて検めた。
(どこへいったんだ?)
体中の血が凍りつきそうだ。

無理やり意識の外に追いやっていた、バスルームのドアが視野いっぱいに張り付く。
指先まで冷たくなっていくのがわかる。
ドアノブを握る手がガクガクと震えた。ノブを握りしめ恐る恐るドアを押し開ける。
バスタブは乾いていて誰もいなかった。息が荒くなっている。口の中がカラカラだ。
(いったいどこに…)

(まさか!?外へ出たのか?)
この家は幹線道路から外れてはいるが、歩き続ければいずれ車に出会う。
全身の血が引く音が聞こえた。

 バスルームを飛び出し、玄関に駆け付ける。
鍵を開けようとしても、指がうまく動かない。
ぎくしゃくする指先に力を込めながら気がついた。

(なんで俺は鍵に取りついているんだ?なんでロックを外しているんだ?)
(落ちつけ!落ちつけ)
(内側から施錠されているじゃないか…)
(落ちつけ!落ちつけ)
(そうか、外出する妻を二人で見送ってから誰も外に出ていないのか)
そうだ、外には出ていない。この家の中だ。まだ心臓がギャロップを打っている。
(落ちつけ!落ちつけ)
昼寝をさせる前のことを懸命に思い出そうとした。
記憶を手繰るため、また居間に戻る。


・これで遊んでいて・・・例の飛行機のおもちゃをカウチに乗せた。
・ここに掛けていた自分に・・・カウチに座ってみた。
・もたれかかって健は眠ってしまった・・・カウチから立ち上がる。
・抱き上げて運んで・・・階段から2階の子供部屋まで辿った。
・抱いたままドアを開けて・・・再び子ども部屋に入る。
・ベッドに寝かせてブランケットを掛けて・・・そうだ、確かにここへ寝かせた。


 わずかな風を感じて、そちらに顔を向ける。
先ほど点検した出窓を閉め忘れて、カーテンが少し揺れている。
(そうだ。ここも内側からロックされてたじゃないか。慌て者め)
近寄って手を伸ばし窓を閉めようとした時、動くものがあって目を凝らした。
銀の糸のような細い雨が落ちていく中、小さな傘がすぅっと横切っていった。

(庭か!)
飛ぶように廊下を走って階段を駆け降り、キッチンを走り抜け勝手口から
テラスに飛び出して裏庭に小さな姿を見つけた時は、その場に崩折れそうになった。
(よかった!よかった!)
全身がどっと汗ばみ、心臓が喉元までせり上がってくる気がする。
息が詰まって苦しい。周りの風景が滲んで見える。
(よかった、ほんとうによかった。)



「健、何をしているんだい?」
「おみずをあげてるの」
見ての通りではないか、と言わんばかりに青い眼がちらと一瞥し、また植木鉢に向き直った。
(おみず?…水?水だって!)
静かに雨を落としてくる空の下で、子どもは小さな傘を傾け長靴をはいて、
レインコートに身を包んでいる。
手にしている小さな如雨露からこぼれ落ちる水の粒が、雨でしっとり濡れた植木鉢に注がれていく。
母親に言われてのお手伝いだろうが、雨降りの日に水やりをする必要があるのだろうか。

「健」
「なあに?」
「雨が降ってるよ」
「うん」
「水はいらないんじゃないかな?」

小首を傾げゆっくりと視線を巡らせると、ちょうど空になった如雨露をぶらさげて近づいてきた。
素直で利発な子どもが愛おしく、抱き取ろうとテラスに屈み込んで両手を広げた。
子どもは真ん前まで来ると眉を上げ、青々とした瞳でひたと父を見据えた。
「パパ」
「なんだい?」
「パパは雨でも、お水を飲むでしょ?」
「そ、そりゃまあ…そうだな。」
なんだか妙な展開になったぞ、と首を捻る間もなく
「だからお水をあげるの」

(う~む)
妻に聞かせれば笑いころげるだろうが、今はこの頑固者をなんとかしないと。
こんな時、母親ならどうやって納得させるのだろう。
あれこれ言葉を探すうち、子どもが小さくクシャミをした。
釣られるように汗の引いた背中がゾクッとした。
大陸の北方に位置する美しい国、ホントワール共和国は花の季節でも
うっすら寒い風が吹く時がある。雨でも降ればなおさらだ。

「パパもやりたいの?」
聞かれて大きく頷いてみせる。とにかく家の中に入れなければ…
「じゃ、かわってあげる」
さらに『貸してあげる』と言われて、小さな傘が開いたまま手渡される。
傾いだ傘から雨粒が零れおちる。
飛行機が一面にプリントされたお気に入りの傘だ。
続いておそろいのレインコートの合わせ目に小さな指がかかるのを見て
「レインコートはいいよ」
慌てて止める。
「でも、ぬれちゃうよ」
「大丈夫だ。長靴もいいよ」
こっちは先手を打った。

「じゃ、5つあげて」
(なに!?5つもあるのか!担当している鉢はどれだ?)
『5つ』…が担当している3つの植木鉢ごとに、小さな如雨露5杯分ずつ水をやるのだと
多くのやり取りを経てようやく理解できた。

「パパ、わかったの?」
テラスから向けられる疑惑の眼差しに
「大丈夫、よくわかったよ」
真剣な表情を作って胸を張ってみせる。
「じゃ、やってみて。みててあげる」
レインコートに包まれた小さな腕を胸の前で組んだ。
(まったく…生意気になったモンだ)
テラス端の水道から如雨露に水を汲む。
(パパは雨でもお水を飲むでしょ…、か)
一人前の理屈に笑いを噛み殺しながら如雨露を傾けた。

「パパ!ちがうよ!」
「?」
上の空の水やりは指定された植木鉢の横の鉢に水を注いでいた。
(しまった)
「ほんとうにわかってるの?」
「も、もちろんだ」
ちらと様子を伺うと可愛い口許を結び厳しい視線が見返した。
(やれやれ)
小さな傘からはみ出した広い肩を雨がしっとりと濡らしていく。


厳しい監視の下、雨の落ちてくる中をうんざりしながら水やりを続けるうち、
家の正面側で物音が聞こえた。車のドアが開いて閉まる音。車が走り去る音。
ハッとふたりで顔を見合わせる。
如雨露を放り出して子供を抱き上げ、駆け出しながら庭を回り込んだ。
「お帰り!」
「ママ!」
息せき切った出迎えに青い眼を瞠った、救いの女神が微笑んだ。





バレンタイン・コラボ企画(^0^)

2011-02-12 01:11:30 | ファンフィクション
          


                あなたのためだから… 
                              by BIRD



「もう、あったま来た!」
皿を拭いていたディッシュクロスをキッチンに放り出した。
さすがに商売柄、食器を割ることは出来かねる。
「ふざけるな!」
怒声が響いてモップが倒れる音がした。
キッチンから飛び出した甚平はジョーと二人、顔を見合わせて大きく頷いた。

 ついに宿敵ギャラクターを倒して地球は平和を取り戻した。
世界は輝きに満ち、科学忍者隊も解散して健とジュンが結婚した。
長年の気掛かりが解決してホッとしたのもつかの間、この二人はロクに家事ができない。


「お姉ちゃんもお嫁に行ったら家事をしなきゃね」
離れ離れになる寂しさが言わせたのか、ちょっとからかったつもりの甚平は
「あたし…ひとりで?」
念願かなった喜びのカケラもなく、情けない声でうつむくお姉ちゃんに絶句した。

「ひとりで全部することはないよ。だって今どき、家事は―」
分担して…と言いかけ、続きの言葉を呑み込んだ。
相手はお姉ちゃん以上に家事能力に不安と問題のある兄貴だ。
どれだけスナックJのグラスや皿を割られたことだろう。
ツケの精算時に被害額を上乗せしなかったことを甚平は今さらながら後悔した。


「なんだと?」
同じ頃、ジョーも同様の問題に直面していた。
「二人で分担してやれよ」
トンチキも大概にしやがれ!と怒鳴ったジョーは
「俺にできると思うか?」
静かな声でしみじみと言われ、眉間に深く皺を刻みながら、ある忌まわしい出来事を思い出した。


たった4点の簡単な買い物、それもメモまで持って行ったのにひっきりなしに連絡が入る。
「パスタってどれだ?」
最近はオーガニックだの、無農薬だの、特選だの、厳選だの、シェフお薦めだの、確かに種類は多い。
(ま、無理もねえか)
パッケージのデザインの特徴を伝え……いちいち棚の表示を読み上げるんじゃねえよ、探せ!

パスタひとつ買うのにどれだけ時間がかかるんだ。
あげくに
「おい、ジョー、パッケージの色は赤じゃなくて、赤に近いオレンジだぞ」
「ああ、そうかい」
「正確に言えよな、まったく―」
(ブツクサ言いやがってよ)

次に買わせた塩、トマトの水煮缶も同様に手間取りやがって、チーズはもう諦めた。
パスタ、塩、缶詰、これだけ買うのに気の遠くなりそうな時間がかかってるのに、
さらに品数のあるチーズ売り場で大騒ぎされるのは、もうたくさんだ。
「いらないものまで書くなよ。ジョー、お前ってヤツは―」
「とっとと支払いを済ませろ、健!」



掃除と皿洗いにかかる前に邪魔な二人を買い出しに行かせることにした。
が、健のヤツは話にならないので、ジュンなら…と期待したのが間違いだった。
業務用の仕入れならやったことがあるが、日々の買い物の経験はほとんどない!
彼女は堂々と胸を張って言い、あげくに
「健だってそうでしょ?」
「ああ、そうだ」
意見の一致をみた二人はにっこり笑いあっている。
(お前ら…)

「いいか、食料品売り場は1階。売り場の最初にあるのは野菜か果物だ」
テーブルを挟んで言い聞かせる。
「えっ?ほんと?」
「そうなのか?」
超人的な努力で溜め息を押し殺し、売り場の簡単なレイアウトをメモに書いてやる。

必要な品物、選び方、分量、買う順、その他を書き出しながら細かく説明した。
二人は史上最大の困難な任務を命ぜられたかのように、その凛々しい眉と
形のいい眉を寄せ、言葉を失っている。
「何か質問は?」
虚ろな視線を宙に泳がせた二人は揃って首を横に振った。
デキの悪い生徒を相手にしている教師の気分だ。



「なんだか読みにくいわね」
「もっと丁寧に書けよ」
この期に及んで渡したメモに四の五の抜かすのを文字通り叩き出した。



「大丈夫かなぁ」
「いつまでも甘い顔をしてたらダメだ!」
荒療治にためらう甚平を叱咤する。
何が悲しくて毎日、ここに通わなきゃなんねぇんだ!あのトンチキが!
「時間は充分にある。あの二人が手際良く買い物なんかできるワケがないだろ?」
「まあ、そうだけど」
「あいつらに必要なのは俺たちじゃない。反省と努力だ!」
「うん。オイラもそう思う!」

故郷に戻っている竜にも事情を伝え、最後の仕事をやり終えて外に出た。
「でもさ、万一、途中で鉢合わせになったらマズイじゃんか」
「それもそうだな」


かなりの時間が経って車が戻って来た。疲労の色濃い二人は、
よろめくように車から降りて来る。
トランク及び後部座席に満載している荷物を運ぶ順番だか、
やり方だかでケンカが始まった。
だが、入って行く家はひとつなので仕方なく二人は両手に荷物を抱え、
互いにそっぽを向いたまま、バラバラに家の中へ入っていった。

たちまち、二人はそろって飛び出して来た。
隙なく身構え左右をキッと見渡す。
阿吽の呼吸と戦闘モードの厳しい視線。
「草の根をかき分けてでも捜し出すんだ!」
「ラジャー!」
かつてのリーダーの命令に、かつてのG-3号はたちまち反応した。

小さな家を見渡せる草叢に潜んで様子を伺っていた、ジョーと甚平は
人生最大の危機を迎え、絶妙のチームワークでギャラクターと
対峙する以上に闘志を漲らせている二人にゾッとして身を伏せた。