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タバコを止めるプロセス観察

2009-02-01 02:22:01 | Weblog
<写真は、禁煙医学の高橋裕子先生とツーショット>

私と健康心理学(7)行動変容-1「タバコを止めるプロセス観察」

 中学時代から八年間タバコを吸い続けていた大学院生のYくんと、同じく三年のTさんが、盆休み前にタバコをやめた。この四月から大学が館内全面禁煙となったのを受けての決断であった。現在二ヶ月が経過したが、まだ禁煙は続いている。
 禁煙成功と判定するには、半年間禁煙が条件なので、まだ成功とはいえない。しかし二ヶ月間の経過を間近で観察しつづける幸運に恵まれたこの機会に、行動変容の生々しい実態をレポートしつつ、行動変容の考え方の解説を試みることにする。

動機
 永年続けていた喫煙という習慣的行動は、そうやすやすとは止められない。またある人にとっての習慣的行動は、他者の力によって強制的に変容しうるものではない。無理やりタバコを取り上げたところで、隙を見て喫煙する中学生をみれば分かる。大切なことは、まずタバコをやめようと自ら思い立ち、れっきと決断することである。
 行動変容は、自身の内なる動機によって開始されるのがよしとされる。彼らもそうであった。

環境操作
 ただし、動機は自然発生的に生まれるものとは限らない。愛煙家がタバコを止めたいと思うに、環境条件が整うと禁煙動機はスムーズに形成される。YくんとTさんの禁煙動機形成に、館内全面禁煙がルール化されたことや、学内禁煙化プロジェクトのメンバーとして作業部会に参加することになったことは大いに関係する。禁煙ルールが知れわたった衆目の中で、堂々とタバコをふかすのは勇気がいるし、禁煙運動の担い手という役割は、自らの喫煙行動を抑止する効果をもつ。

報酬・強化刺激
 ある行動が、報酬を得るのに関係していると、その行動の出現頻度は増す。禁煙行動が続くとご褒美がもらえ、喫煙すると報酬がストップするとしたら、禁煙行動は強化される。
 Yくんにとっては、タバコ代の節約が報酬となった。1日に1箱半吸っていたYくんは、毎日五百円もの出費をして煙を吸っていたことに気づいた。そこで彼は、禁煙が果たせた一日の終わりに、五百円硬貨を貯金箱に一つ入れることにした。禁煙によって毎日五百円づつ貯まっていく禁煙貯金箱を見ることが、今の彼の強化刺激になっている。
 喘息もちのTさんは、禁煙によって発作症状が抑えられることに心底気づいた。喫煙が喘息症状を誘発することは分かっていたが、止めることがどれほど効果的かは、止めてみないとわからなかった。ところが禁煙を続けるという体験を経て、その効果に気づいた。Tさんにとっての強化刺激は発作のない快適な生活と、家族の笑みだろうか。


得られるものと失うもの
 禁煙によって経済的負担が減り、体調改善に役立つというメリットが得られた。だがメリットだけに注目していても、禁煙は成功しない。禁煙によって失うもの(デメリット)と、得られるもの(メリット)との主観的な比較が、禁煙の成否を決する。
 禁煙が続いている二人にとっては、デメリットよりメリットが勝ったわけである。禁煙で誰もが感じるデメリットとは、ニコチン依存症の程度にもよるが、ニコチン禁断症状からくる苦痛体験であろう。
 依存症状の強かったYくんは、30mgのニコチンパッチをつかってこの苦痛を克服した。一月後には15mgとニコチン量を減らし、今では張り忘れてもやっていけるようになった。
 依存症状が弱かったTさんは、ニコチンパッチは不要だった。メントールタバコを吸っていたので、メントール味の禁煙パイポをタバコ代わりに吸うことでデメリットを克服した。
 
セルフモニタリング
 実は禁煙スタートの1週間前から、二人には喫煙本数を毎日記録してもらっていた。吸った時刻とそのときの様子を記録したわけである。1週間も続けていると、どのような状況で喫煙するのか、本数が増えるのはどんな状況かなど、つぶさに分かる。自分で自分の行動をモニターするだけで、少し本数が減ることも分かっている。
 今また新たに禁煙を志し、セルフモニタリングに入ったNくんがいる。
 果たしてこれら三名は、誘惑に負けることなく禁煙を継続することができるだろうか。次回掲載時のレポートに乞うご期待。
 
------------余計な注釈
 大学敷地内のポイ捨てタバコを毎日決まった時刻に拾い集め、衆目の場に設置したホワイトボードに貼った模造紙に一日ごとに張り付けた。月曜日に170本あったものが、火曜日159本、水曜日100本、木曜日81本と減り続け、最終日の金曜日には50本と激減した。ポイ捨て行動をとる人にとっては、セルフモニタリングの助けになったのかもしれない。



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