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米国連邦取引委員会がオンライン・プライバシー保護強化の“Do not Track Mechanism”の第2次提案(その2完)

2010-12-31 14:38:32 | 消費者保護法制・法執行

2.“Do Not Track Mechanism”とは
 2010年9月20日付けの“Entropy” は“Do Not Track”(DNT)について決して簡単ではないが、次のような比較的分かりやすい説明を行っている。

(1)DNTは“Do Not Call registry”と類似しかつその考えは似ている。しかし、その実現方法は異なる。
 当初、DNTの提案は、「ユーザー登録(registry of users approach )」や「追跡のためのドメイン登録(domain-registry approach)」という内容であったが、両者ともその仕組みが次のとおり不必要に複雑であった。

A.「ユーザー登録」方式は各種の欠点があり、その1つは致命的である。すなわち、ウェブ上で使用される普遍的に認識されるユーザー識別子(user identifiers)はないということである。
 あるユーザーの追跡は、広告ネットワークが配備するクッキーを含む「その都度作成する識別メカニズム(ad-hoc identification mechanisms)」にもとづき行われる。また、世界的に共通かつ強固な識別子を強制することは、ある意味で問題解決をさらに困難にさせる。
 また、この方式はユーザーがサイトごとにDNTを設定する上での柔軟性が考慮されない。

B.「追跡のためのドメイン登録」方式は、権限中心機関(central authority)が追跡するために使用するドメインの登録を広告ネットワーク会社に強制するものである。ユーザーはこのドメイン・リストをダウンロードして、使用するブラウザ上でそのリスト先をブロックする設定する能力が与えられることとなる。

 しかし、この戦略には次のような複数の問題がある。
(ⅰ)要求される中央集権化はこの方式を移り気にさせる、(ⅱ)広告がホスト・サーバーとのコンタクトを要求した以降、広告全体をブロックせずに追跡ドメインのみをどのようにブロックするかについての方法が明確でない、また(ⅲ)この方法は消費者に一定のレベルの用心深さ-例えば、ウェブ上で入手可能なソフトウェアにもとづきドメイン・リストの更新を確実に行うことーが求められる。

(2)ヘッダー・アプローチ(header approach)
 今日、大方に意見は次のようなはるかに単純なDNTメカニズムの周辺で内容のイメージが持たれている。
 すなわち、“X-Do-Not-Track”というような特にHTTPヘッダー (筆者注6)情報でブラウザがユーザー側において、追跡につき“opt out”を欲している旨の信号をウェブサイトに送るというものである。
 ヘッダーはあらゆるウェブに対する要求内容を送るものであり、このことは広告や追跡者を含む当該ぺージに埋め込まれた目的や台本のそれぞれと同様、ユーザーが見たいと欲するページを含むのである。

 それは、ウェブブラウザにおける実行において極めて些細なことではあるが、事実、すでに“Firefox add-on” (筆者注7)等においてそのようなヘッダー・アプローチで対応した例はある。

 また、ヘッダー・ベースの取組みは中央集権化や固定が不要であるという利点がある。しかし、それが意味あるものであるためには、広告主は追跡されたくないという消費者の好みを尊重しなければならない。
 では、それをどのように強制すべきか。選択肢は、米国ネットワーク事業者自主規制団体「ネットワーク広告イニシアティブ(Network Advertising Initiative:NAI)」(筆者注8)による自主規制から「監督機関下での自主規制(supervised self-regulation)」、「官民共同規制(co-regulation)」(筆者注9)さらには「公的機関による直接規制」まで多様な分布がある。

 現行の一般的なクッキー・メカニズムに比べ“opt out”メカニズムおよびその意味の標準化によりユーザーにとってDNTヘッダー方式は大いに手続の簡素化が約束される。DNTヘッダー方式は、緊急性を要する場合でもユーザーの新たな行動を必要としない。

 最後の部分で“Entropy”は、DNTヘッダー方式についてDNTの実施時の事業者による「ひも付きウェブ化の危険性(danger of tiered web)」、「追跡の定義をどのように行うか」、「その違反行為の調査方法」および「ユーザーに権限を持たせるためのツール」の4点について技術的な問題を論じている。ただし、筆者のレベルを超える内容なので今回は省略する。

3.強化されるオンライン行動追跡広告ビジネス活動への懸念やプライバシー侵害問題
 EFFはウェブ でアドビ社の“Local Shared Objects” (筆者注10)やマイクロソフトの“User Data Persistence”等多くのウェブ技術企業が次々にオンライン行動追跡技術を導入し、インターネット接続サービス企業や「データウェアハウス」(筆者注11)との情報共有契約などの拡大、さらには広告主に膨大なユーザーの行動や個人情報へのアクセスを認めるソーシャルネットワークへの拡大などの動きを懸念している。

4.連邦議会の関係委員会での具体的な立法化論議の動向
 2009年6月18日、下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)は関係者の証言に基づく公聴会を開催して「消費者の行動に基づく広告活動:産業界の実務内容と消費者の期待Behavioral Advertising: Industry Practices and Consumers' Expectations)」を論議した。

 また、2010年7月27日には上院商務委員会(Senate Commerce Committee)はConsumer Online Privacyで聴聞会を開いてApple、 Google、 AT&T および Facebookの役員から証言を求めた。そこでは、企業側の意見の多くは立法による規制は創造的なビジネスの足かせになり、あくまで業界の自主規制によるべきとするものが多かった。このような動きの中で上院委員会の考えは慎重ではあったが、民主党幹部のジョン・ケリー(John Kerry)議員等は2011年早期には法案提出の予定を明言した。また下院はさらに迅速な法案成立を求める意見が多かったとされている。

 12月2日に下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)が予定されており、“Do Not Track”の法制化問題がその公聴会(“Do-Not-Track Legislation: Is Now the Right Time?”)で証人の意見に基づき徹底的に論議され、その結果がオバマ政権が力をいれているインターネットのプライバシー問題への対応として、今後予定の商務省報告にも反映されることを期待しているとEFFはコメントしている。

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(筆者注6) HTTP(HyperText Transfer Protocol)は、Webのサーバと、クライアント(ブラウザ)の間で、ウェブページを送受信するためのプロトコルであり、基本的にはテキストメッセージを交換することにより、実現される。HTTPは「HTTPリクエスト」と「HTTPレスポンス」に分けられ、ブラウザがサーバーに「このページを見たい」と頼む通信が「HTTPリクエスト」で、そのリクエストに応えてサーバーがブラウザに返す通信が「HTTPレスポンス」である。
 HTTPヘッダー情報(HTTPリクエスト)とは、具体的には次の内容である。
①ユーザーエージェント名(User-Agent)、②リファラ(Referer)、③更新されていたら(If-Modified-Since)/同じでなければ(If-None-Match)、④クッキー(Cookie)、⑤受け取り希望(Accept、Accept-Language、Accept-Encoding、Accept-Charset)

(筆者注7) “Entropy”の説明は“Firefox add-on”でその例があるとしか書かれていない。筆者なりに補足する。
 Mozilla の“Firefox アドオン”(日本語版)の画面上で拡張機能“Adblock Plus”をクリックすると広告のブロック方法が「バナーを右クリックして「Adblock」を選択すると、次回から読み込まれなくなります。配信されるフィルタセットを利用すれば、多くの広告を自動的にブロックできます。」のように説明されている。
 事前にブラウザ“Firefox”用に開発されたフリーウェア“Adblock Plus”をインストールすると、検索バーの右側に「ABPアイコン(ブロック機能を有効にしたときにのみ赤地色になる)」が表示される。例えば画面上の特定の広告動画を非表示にしたいときは、該当画像上で右クリック→ボックスの下にAdblock Plusが表示→クリック→フィルター追加画面となる→フィルター追加をクリック→該当画像が消えて空欄になる。
 さらに細かなフィルタリング・ルールの設定が可能である。「ABPアイコン」を右クリック→設定画面で、例えば「http://www.yahoo.co.jp/*」と登録する(最後に追加する“*”に意味がある)。次にGoogleで「yahoo.jp」の検索結果を表示してみよう。何も画面には表示されなくなる。

(筆者注8)「ネットワーク広告イニシアティブ」は、1999年にFTCが支援してオンライン広告のネットワーク業者とサービス業者で作る団体,ダブルクリック,24/7リアルメディアなどのウェブ広告技術企業8社で設立。プライバシー・サービスを提供する『トラストe』や,データ分析の米ウェブサイドストーリーなど,ほかにも25の企業が参加している。2000年夏,消費者の個人データの収集と共有に関して政府の介入を未然に防ぐため,業界自らが規制を定めるための団体として設立。NAI は自己規制のための業界団体を作る取り組みの先頭に立ち,米連邦取引委員会(FTC)は2000年7月,業界が自己規制を推進するという NAI の提案を受け入れた。 NAIは,オンラインにおける個人データ収集の基準となるルールを定め,消費者が NAI の会員企業による個人データ収集をやめてもらうよう選択できるウェブサイトを開設。
2002年11月26日,WebバグまたはWeb ビーコンを使用する際のガイドラインを発表。使用時期と目的を訪問者に通知することを義務付ける業界標準を定めた。また,消費者を特定できるデータの収集および共有技術を使用する場合は,あらかじめ消費者から許可を得なければならない。情報を得る側の業界が好むオプトアウトについて規定している。」(オンライン・コンピュー用語辞典から該当部分を引用。ただし内容が古いなど問題があり、筆者の責任で一部追加した。)
 なお、NAIの会員企業に対し消費者がopt out権を行使するための専門サイト(Opt Out of Behavioral Advertising)は業界自主規制の例として参考になる。

(筆者注9) 官民共同規制とは「公権力の実行目的―公権力と市民社会によって実行される共同活動―を達成するように設計された共同運用による規制の形式」をいう。FTCなど医療情報とプライバシー権問題を巡る論文(ウィンスコン大学)1177頁(注50)参照。

(筆者注10) “Local Shared Objects:LSO” とは、Adobe社のFlash Player がユーザーPCの内部に保存するデータ形式である。データは「Flashクッキー」とも呼ばれ、ブラウザのcookieのようにサイト毎の情報を保持する。LSOはcookieと違い有効期限がないため、情報が消えることが無いこともプライバシー上問題である。(Wikipediaから引用)

(筆者注11) 「データウェアハウス」とは、基幹系業務システム(オペレーショナル・システム)からトランザクション(取引)データなどを抽出・再構成して蓄積し、情報分析と意思決定を行うための大規模データベースのこと。(情報マネジメント用語辞典より引用)

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今回のブログが2010年の最終回となる。この1年間筆者の執筆意欲を支えてくださった読者の皆さんに感謝申し上げるとともに、来る2011年の皆さんのご活躍とご健康を祈念して筆をおく。

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