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フランスCNILの米国Googleに対するEU一般データ保護規則にもとづく罰金命令の意義と検証(その2完)

2019-01-26 16:35:57 | EU加盟国・EU機関の動向

2. CNILの決定 

(1) CNILの罰金の決定

  2019年1月21日、フランスのデータ保護監督当局である「情報処理及び自由に関する国家委員会(Commission nationalede l'informatique et des libertés:CNIL)」は、EUの「一般データ保護規則(「GDPR」)の違反について、Googleに対して5,000万ユーロ(約62億円)の罰金を決定した(この決定は、正式にはフランス語で公開された)。 このCNILの決定は、9,974人(筆者注7)を代表する2つの非営利団体からの苦情によって引き起こされ、この訴訟では、以下述べるとおり、プライバシーに関するいくつかの重要な問題を発生させた。 

  第一に、グーグル・アイルランド・リミテッド(Google Ireland Limited )はコンピュータ処理が中心でグーグルのEUにおける主要な拠点ではないとすることで、この決定はGDPRのワンストップ・ショップの適用を却下する(これはアイルランド監督当局をCNILの代わりに管轄当局にするであろう) 。 CNILによると、AndroidとGoogleのアカウントに関連するデータの処理に関する意思決定権限は、米国のGoogle本社(Google LLC)にあるため、GoogleはEU内に主な拠点はない。CNILは、グーグルのプライバシーポリシーがグーグルアイルランドリミテッドをコントローラーとして言及しておらず、グーグル・アイルランド・リミテッドがEUにおけるグーグルの処理業務を監督するためのデータ保護責任者を任命していないという事実に他の理由も含めてこの結論を下した。 

 さらに、CNILは、その結論はGoogleによって支持されていると主張し、2019年1月までにアイルランド本部の意思決定力を強化するための措置を講じると公に述べた。EUに主要な事業所がない場合、Google LLCはフランスを含むGoogleが事業所を有するEUのあらゆる監督当局による執行の対象となる可能性がある。この決定は、規制当局が「主たる拠点」の概念を限定的に解釈する意思があることを示している。これは、非EUに本社をもつ企業にとって、ワンストップショップ適用を不要にし、EU加盟国の複数の監督当局による法執行にさらされる可能性があることを意味する。 

 CNILは、2019年1月21日に、苦情に関する最終決定を下し、同時に次の点を明らかにした。

(ⅰ) GoogleのプライバシーポリシーおよびAndroidモバイルユーザーの使用条件(利用規約)に関して、GoogleはGDPRの第12条(データ主体の権利行使のための透明性のある情報提供、連絡及び書式) (日本語訳 15頁および第13条( データ主体から個人データが取得される場合において提供される情報)16頁に記載されている透明性および情報提供義務に違反していた。

(ⅱ) Googleによるターゲット広告のための個人データの処理に関して、Googleは、ターゲット広告についてGDPRの第6条(取扱いの適法性)8頁に規定されている法的根拠を有する義務に違反していた。 

 透明性と情報提供義務に対するGoogleの以下の点でGDPR違反の疑いについて、CNILは、プライバシーポリシーと利用規約はAndroidモバイル・ユーザーに提供されるものであると判断した。

① 情報が複数のドキュメントに分散されているため、情報が断片化されていて、そのすべてにアクセスするためにユーザーが何度もクリックする必要があるため、検索が困難であった。

② 特に「大規模でかつ侵入的な」処理操作に基づく特定の結果をユーザーが明確に理解することを許可しなかった。

③(同意に基づく)複数のデータの組み合わせによるターゲット広告の実行の法的根拠と、(合法的に基づく)閲覧活動などを使用した他の形態のターゲットとの間のGoogleの区別をユーザーに理解させなかった。

 Googleがターゲット広告の法的根拠を有する義務は侵害していない主張していたが、CNILは、Googleのターゲット広告に対するユーザーの同意は次の点で有効ではないと判断した。

① 当該情報が複数の文書にまたがって断片化されているため、ユーザーにとって十分な情報が得られていない。

② ターゲット広告を含む、この同意に基づいてGoogleが実行したすべての処理操作の目的に対して、ユーザーが完全に同意を示すことを要求されたため、「特定」でも「明確」でもないものであった。

 第二に、罰金の額の計算方法についてのCNILの決定は曖昧である。しかし、GDPRの罰金の上限であるは2,000万ユーロを超えており、これはGDPRの全世界の売上高の4%という「しきい値」に基づいていることを意味する。Googleのフランスの「限られた」売上高を考えると、罰金は明らかにGoogleの持株会社である”Alphabet. Inc”(筆者注8)の売上高に基づいている。 これは面白い点であり、GDPRが4%の計算基準を明確にしていないことはよく知られている。 持株会社の売上高を基準として、CNILは長期にわたる合法的な保証付き戦闘の舞台を整えている。この結果として、今後3〜5年間このブログをフォローし続けるよう読者に勧める。(筆者注9) 

第三に罰金の額に関しては、CNILは4つのポイントを提示した。

① CNILによると、GoogleはGDPRのデータ保護の2つの基本原則を侵害している。「透明性の原則(すなわち、個人データの処理について個人に知らせる義務)」と「合法性の原則(すなわち、各データ処理活動をGDPRの第6条に記載されているいずれかの法的根拠に関連付ける義務)」である。CNILによれば、これらの原則は、個人が自分の個人データを管理し続けるための基本的権利に変換される。 

 ② 侵害がなされた期間: CNILは、GDPRに違反しているというCNILの立場にもかかわらず、Googleの継続的な侵害は是正されなかったと述べた。

③ 侵害の範囲 :罰金を計算する際に、CNILはフランスのオペレーティングシステム市場におけるGoogleの顕著な地位、Googleのサービスを利用する個人の数、処理される個人データの量と種類、そして“無制限”の可能性を考慮した。Googleはデータを一致させる必要がある(ユーザーの個人データの「大量かつ煩雑な」処理を可能にします)。 

④ Googleの侵害から得られた利益: CNILは、Googleがそのデータ処理活動から(特にそのオンライン広告サービスから)得ることを考えると、その処理活動がGDPRを遵守していることに特に注意を払わなければならないという立場をとる。

 実質的には、今般のCNILの決定は2つの主側面に焦点を当てている。(i)GDPRに基づくGoogleの透明性義務の違反(特にGDPR第12条および第13条に基づく)および(ii)個人データ処理の法的根拠の欠如(GDPR第6条の「同意」要件に基づく))である。 

(ⅰ) 透明性義務の違反 

① GDPRの下では、管理者は、データの処理に関する個人情報の取扱いについて「簡潔で、透明性を持ち 、わかりやすい言葉で」提供しなければならない。 CNILによると、AndroidソフトウェアをインストールしてGoogleアカウントにサインアップする個人には、さまざまなポリシーや通知にまたがる「散在した」情報が提供されているが、CNILは、これがユーザーがGDPRの下で必要とされる情報のいくつかを見つけるのを困難にするという立場をとる。

② CNILによれば、Googleが提供する情報は、グーグルのデータ処理活動の特定の結果を「十分に理解する」ことをユーザーに許していない。すなわち処理の目的は「不正確かつ不完全」であり、時には矛盾する。CNILは、近年の処理活動をより透明にするためのGoogleの取り組みを認識しているが(たとえば、「プライバシー診断(Privacy Check-UP)」「Dashboard」などのプライバシーツールを介して)、これらのメカニズムはユーザーがすでに処理に同意したとき後の段階でのみ提供される。

(ⅱ) Googleが主張する「同意」は法的根拠を欠く 

 CNILは、Googleが取得した「同意」はGDPRに基づく同意の要件を満たしていないと考える。GDPRの下では、「同意は」個人の意思の「自由に与えられた、具体的な、情報に基づいた、かつあいまいな徴候を確立する明確な肯定的行為によって与えられる」必要がある。CNILによると、Googleは、十分な情報を提供する選択をするために必要とされる十分で理解可能でアクセス可能な情報を個人に提供しなかった。CNILは、以前のVectaury (筆者注10)の決定に沿って、Googleが各処理活動について具体的な同意を求めるのではなく、ユーザーが最初にすべての処理活動を許可または拒否することを許可することも主張している。ユーザーが「その他のオプション」をクリックした場合にのみ、データ処理の個々の目的を個別に受け入れることができる。CNILはまた、「同意」ボックスにはデフォルトで「オプトイン」ではなく「オプトアウト」のように表示されている点を違法であるとみている。

3.法的考察

 今回のCNIL決定は、今後、国務院(筆者注11)で再検証される可能性が高いが、それは暫定的に企業に次のようないくつかの重要な検討課題を提供する。

 (ⅰ) 企業がワンストップショップの仕組みの利用する場合の条件: EU域に本店を置くと主張してワンストップショップの仕組みに頼ることを望む企業は、本店が以下に関連する「意思決定力」を持っているという証拠を提供する必要がある。問題の処理 組織は、自らの方針やガバナンス構造を見直し、説明責任の原則に沿って、意思決定権がどこにあるのかを証明する文書により、EU内に本部にあることを確実にするべきである。(その意味でGoogleの主張は失敗)

 (ⅱ) ターゲット広告:収益創出のためにターゲット広告に依存している企業は、EU加盟国のDPAの調査および法執行措置の対象になる可能性がある。そのような事業体は、さまざまな種類のプロファイリングにユーザーの個人データを使用するための現在の基礎を注意深く検討する必要がある。 プロファイリングが特に障害となる場合は、GDPRに準拠したデータ主体の「同意」が必要となり、この「同意」自体を明確にする必要がある(本人のプライバシーポリシーの承認のみによるものでは不十分)。

 (ⅲ) ユーザーにとって透明性を持ったアプローチの担保:EU加盟国さまざまなDPAガイダンスによって、階層化されたアプローチ、またはプライバシーセンターによる透明性への他の創造的なアプローチが奨励されているが、事業体はユーザーがコア処理のアクティビティをより容易に理解できるようにする必要がある。

4.わが国のGAFA等海外電気通信企業企業に対する「通信の秘密」やプライバシー保護強化法制化等の検討

 今回は、時間の関係で以下の研究会資料のリンクのみ行うが、研究会の報告書でも指摘されているとおり、法制度、IT技術等多方面にわたる問題に関係するため、政府や監督省庁には専門的かつ横断的な取り組みを期待したい。

・2018.12.21 総務省「「プラットフォームサービスに関する研究会における検討アジェンダ(案)」に対する提案募集の結果及び検討アジェンダの公表」

・ 2019.1.21 「プラットフォームサービスに関する研究会(第5回)配布資料)」

・2019.1.21 資料1「プラットフォームサービスに関する研究会 主要論点(案)」

 

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(筆者注7) La Quadrature du Netのサイトでは12,000名とある。

(筆者注8) Alphabet Inc.(アルファベット)は、2015年にGoogle Inc.及びグループ企業の持株会社として設立された、アメリカの多国籍コングロマリットである。本拠地はカリフォルニアに置かれ、Google Inc.の共同設立者であるラリー・ペイジおよびセルゲイ・ブリンが、それぞれCEOおよび社長である。GoogleからAlphabetへの再編は、2015102日に完了した。

(筆者注9)  2018.12.28 Livedor News2018年、GDPR について学んだ5つのこと」を一部抜粋する。

3. 当局の取り締まりは始まったばかり

 GDPR発効してからの6カ月間、規制当局はとても静かにしていた。が、その後、罰金や警告が嵐のように襲ってきた。英国の規制当局である情報コミッショナー局(Information Commissioners Office、以下ICO)はFacebookなどの企業に重いペナルティーを科した。Facebookは、ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)によるデータ不正流用スキャンダルにまつわる件で、50万ポンド(約7,200万円)の罰金を科すという警告を受けた。ウーバー(Uber)もまた、サイバー攻撃の最中に顧客データを保護する対策をしなかったとして385,000ポンド(約5,300万円)の罰金を科せられている。ただし、どちらもGDPR発効以前の罰金であり、データ保護法(Data Protection Act)のより寛大な条件の下で科されたものだった。2019年はこんな程度ではすまないだろう。

 フランスのデータ保護機関である情報処理及び自由に関する国家委員会(Commission nationalede l'informatique et des libertés:CNIL)は、位置情報を利用するアドテクベンダー厳しく非難し、フィズアップ(Fidzup)やティーモ(Teemo)、さらに11月にはベクチュアリー(Vectaury)といったアドテクベンダーに対して公開警告書を出して、大きな注目を集めた。罰金は科されていないが、ベクチュアリーのような企業にコンプライアンスに従うよう命令が出たことで、現行のアドテクのビジネスモデルのなかには終わりを迎えるものが出てくるかもしれない。(以下、略す)

(筆者注10) IAB EUROPEThe CNILs VECTAURY Decision and the IAB Europe Transparency & Consent Framework」米ネット広告業界団体Interactive Advertising BureauIAB)のCNIL決定の解説参照。なお、その後のCNILのVectauryに対する警告通知についての詳細は、筆者ブログ「CNILは”Vectaury”にGDPRに基づく明確な「同意」を課すべきとの警告(その1)」「同(その2完)」を参照されたい。

(筆者注11) フランス政府の「国務院の日本語解説」を抜粋、引用する。

国務院(Conseil d’État)は、政府が法律案や政令案 などを準備する際に、

政府から 諮問を受けて答申します。また、法に関わる問題について、政府から求められた場合は、意見を述べます。

さらに、政府からの要求に応じ、又は自ら率先して、行政問題や公共政策に関する問題について研究を行います。

国務院は、行政最高裁判所の機能も有しています。国務院は、国、地方公共団体、行政施設などの行為に対する最終審裁判所です。

これら二つの役割(勧告と裁判)によって、国務院は、フランスの行政が、法に従って適正に行われることを保障します。

さらに、国務院は、第一審行政裁判所と行政控訴院を統括して管理する権限も持っています。

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Copyright © 2006-2019 芦田勝(Masaru Ashida). All rights reserved. You may display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

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フランスCNILの米国Googleに対するEU一般データ保護規則違反にもとづく罰金命令の意義と検証(その1)

2019-01-26 16:07:27 | EU加盟国・EU機関の動向

 筆者は、2018年5月25日から適用が開始された欧州連合(EU)の統一プライバシー規制規則である「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation: GDPR」)について、これまで適宜ブログで解説してきた。

 さる1月21日にわが国のメディアでも言及されているとおりフランスのデータ保護監督当局である「情報処理及び自由に関する国家委員会(Commission nationalede l'informatique et des libertés:CNIL)」は、EUの「一般データ保護規則(「GDPR」)の違反したとして、Googleに対し5,000万ユーロ(約62億円)の制裁金を課す旨決定した。これまでのフランスのCNILが課しうる制裁金の上限額が30万ユーロ(約3,720万円)(筆者注1)であったことと比較してGoogleの負担する経済的ダメ―ジは言うまでもない。

 さらに、CNILへの申立者であるLa Quadrature du Netサイトによると、「CNILの制裁対象企業は2018年5月28日、12,000人を代表して、Google、Apple、Facebook、AmazonおよびMicrosoftに対してCNILに対して告発したとある。その間、CNILはGoogleに対して苦情を申し立てることを決定したが、他の苦情はアイルランドとルクセンブルクの監督当局に提出され、同時にCNILに対しオーストリアの人権擁護NPO団体”NOYB”(筆者注2)から別の苦情が寄せられた」とある。

 わが国のメディアでは詳しく論じられていないが、今回のCNIL制裁処理のポイントは、CNILが被告としてEU内のGoogleの拠点であるグーグル・アイルランド・リミテッドではなく、米国Google.LLC(およびGoogle持ち株会社)を被告とした点である。すなわちGDPRの定めるワンステップ・ショップ(筆者注3)の適用を否定した点にある。この解決方法は、米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト、アップルというIT独占企業であるGAFMAの市場独占にくさびを打つというEUの戦略が見える。

 このようなきわめて政治的な動きをとれるのは、EUの主たるプライバシー規制機関であるCNILであるがゆえにできた決定ともいえる。

 さらに、CNILの制裁金額の決定はGoogleの違反行為がGDPRが定める制裁金額の重度の違法性があったと判断した点である。今回のCNILの制裁金の決定は今さら始まったものではない。

 一方、わが国に目を転じると、1月25日のわが国の主要メディアである朝日新聞は総務省の有識者会議がGoogle等GAFAに対しわが国の電気通信事業者と同様に「通信の秘密」保護の義務付けに関する検討に入ったと報じた。この記事にあるとおり、最大の論点はGoogleのように米国に本社があり、たとえ日本法人があっても実質的に機密保持のにかかる社内の重要な決定権限が存しない場合はわが国の行政機関や司法機関は規制できないのかという点が中心的論点のようである。今春に報告書をまとめるということであるが、筆者なりに調べたがここでいう有識者とは具体的にいかなる人々であろうか。わが国のメディアの情報源調査の不十分さは本ブログでも重ねて指摘してきたとおりであるが、具体的に調べたので巻末にURLのみ引用しておく。

 今回のブログは、記事の内容から見て正確性を優先させて、(1)2019.1.22 Covington & Burling LLP.「グーグルはGDPR違反でフランスで5000万ユーロの罰金を科した 」、(2) 2019.1.21 Latham&Watkins LLP解説記事「フランスのデータ保護当局、画期的なGDPR訴訟で5,000万ユーロの罰金命令を発布」の主な内容をアレンジして原稿とした。

 なお、わが国のメディアはほとんど論じられていないが、GoogleのGDPRに基づく「忘れられる権利」の対応にかかるCNIL, 国務院決定の問題も重要な点であるが、時間の関係で別途取り上げたい。(筆者注4)

 今回は2回に分けて掲載する。

1.CNILに対する人権擁護NPO団体からの苦情申し立てとCNIL決定の経緯

(1) EUの人権擁護NPOからの苦情申し立て 

  2018年5月25日に「EU一般データ保護規則2016/679(以下、GDPR)」が施行されてから1週間以内に、フランスのデータ保護当局(CNIL)は2つの非営利団体からGoogle LLC(以下、Google)に関する個別の苦情を受けた。活動家である弁護士マックス・シュレムス(Max Schrems )によって設立された”La Quadrature du Net”   (筆者注5)および「あなたのビジネスのどれも」1万人近い個人を代表して組織が行った苦情内容は、次のようにまとめることができる。 

 ① Android携帯端末のユーザーは、Googleのプライバシーポリシーと利用規約を受け入れる以外にデバイス利用上の選択肢はないと主張した。

② La Quadrature du Netは、Googleが有効な法的根拠なしにターゲット広告のために個人データを処理したと主張した。

(2) CNILの調査とGoogleの対応

 CNILは直ちに訴状に基づく調査を開始した。 2018年10月末までに、CNILはすでに調査を完了しており、GDPR違反の疑いがあるとして5,000万ユーロの罰金を科すというCNILの提案をGoogleに提起した。 

 これに対し、Googleは、EU内のグーグルの本部はアイルランドを拠点としているため、CNILは直ちに苦情をアイルランドの監督機関であるデータ保護委員会(Data Protection Commission:DPC)に送付するべきであると主張した。

(3) CNILのアイルランド・グーグルのEU内の「本拠」論の却下

 CNILは、Googleアイルランドの施設内に重要な財源と人的資源が存在することを認めながらも、GDPRの第4条16号(主たる拠点の定義)および前文(recital )36(Recital 36 :Determination of the main establishment*)の意味においてEU内の「主要施設」にはなり得ないと判断した。CNILの主張は以下の点を含んでいた。

① CNILに対する苦情があった当時、米国Googleの事業体が唯一の意思決定事業体であった。Google事業体のみが「処理の目的と手段に関する主な決定を決定する管理活動の効果的かつ実際の行使」を行ったからである。

② CNILは、Googleのアイルランドの拠点である「グーグル・アイルランド・リミテッド」 (筆者注6) が関連する情報処理活動に参加したことを認めたが、CNILは、オペレーティングシステムAndroidおよびグーグルLLCによって提供されるサービスの文脈において実行された処理操作について「意思決定力」を有していなかったと結論づけた。携帯電話の設定中にアカウントを作成することに関連しています。 EUに本部を置くことなく、CNILは、米国Googleが管理する処理を管轄すると結論付けた。

(4) この結論をさらに支持して、CNILは、Googleが最近アイルランドのDPCに、EU個人に関する一定の処理についての責任のアイルランド設立への移管は2019年1月末までに完了することを通知するように書面で書いたという事実にも言及した( すなわち苦情がなされた後である)。

(5) 苦情に対し加盟国の主権当局に不確実性がある場合、CNILは「欧州データ保護委員会(EDPB)」にこの問題を問い合わせるべきであるというGoogleの反論に応えて、CNILは、主な機関がない場合は主権を特定する必要はないと主張し、EUでは、ワンストップショップの仕組みは単に適用できなかったためである。CNILは、受けた苦情を直ちにすべてのEU加盟国のデータ保護当局(DPA)に転送したがらのすべておよびEDPBの議長からも、主たる当局の特定のためにこの問題をEDPBに委ねる必要はないという回答があった。  

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(筆者注1)これまでのCNILの制裁金の上限は30万ユーロ  ブログの注5参照。

(筆者注2NOYB ( ヨーロッパのデジタル人権センター)は、2017年に設立されたオーストリアのウィーンに拠点を置く非営利団体である。NOYBは、オーストリアの弁護士およびプライバシー保護活動家であるMax Schremsによって設立された。 EU一般データ保護規則、提案されているePrivacy規則、および一般的な情報のプライバシーを支持するメディアイニシアチブ団体である。 多くのプライバシー保護団体が政府に注意を向けているのに対して、NOYBはプライバシー問題と民間部門におけるプライバシー侵害に焦点を当てている。 

(筆者注3) ワンストップ・ショップ制度に、ついてわが国では詳しい解説は少ない。Internet Initiative Japanの解説を一部抜粋引用する。(GDPRの規定との関係は本文で述べる)

(b)ワンストップ・ショップ制度

ワンストップ・ショップ制度は、複数の加盟国内に拠点を有する管理者/処理者の処理を担当する監督当局を一つに集中させることを狙いとしています。具体的には、管理者/処理者の主たる拠点の監督当局が、国境を越えた処理に関する主要監督当局としての役割を果たし、管理者/処理者にとって、越境での処理に関わる唯一の窓口となります。

主要監督当局は、意見の一致を図り、すべての関連情報を交換するよう、他の関連する監督当局と協力します。主要監督当局は、他の監督当局が相互支援や共同作業を行うよう要請し、特に、他の加盟国内に拠点をもつ管理者/処理者に関わる調査や対策実施の監督を行います。

もっとも、各監督当局は、違反被疑事実がある加盟国内の拠点にのみ関係する場合、または当該加盟国内のデータ主体にのみ実質的な影響を与える場合には、受けつけた苦情申立てに対処する権限を持ちます。

(筆者注4) 以下のURLを参照されたい。

・http://www.conseil-etat.fr/Actualites/Communiques/Droit-au-dereferencement

・https://www.theguardian.com/technology/2016/may/19/google-right-to-be-forgotten-fight-france-highest-court

(筆者注5)La Quadrature du Net” は、フランスのデジタル権び市民の自由権の擁護団体である。

(筆者注6) 2016.8.1 のリリース「グーグル(Google)社、アイルランド・ダブリンに170億円規模のデータセンターを新設」を以下抜粋、引用する。

「アイルランド共和国(首都ダブリン)のエンダ・ケニー首相は本日、グーグル社が同国のウェストダブリンにて、1億5,000万ユーロ(約174億円)を投じて建設したデータセンターが新たに正式開所したことを発表しました。」

 アイルランドにおけるグーグル社の大型データセンターであると解説されているが、筆者の見解はEUの中核的データセンターであるとしても、果たして本社機能はもっているだろうか。(Bloombergの企業解説:Google Ireland Limited does not have any Key Executives recorded. という記述からみてもCNILの判断は正しいであろう)

 筆者はCNILがGDPR第4条16号(主たる拠点の定義)および前文(recital )36(Recital 36 :Determination of the main establishment*)の意味においてEU内の「主たる拠点」(筆者注6-2)にはなり得ないと判断した点に組したい。

(筆者注6-2) GDPRの「主たる拠点」について詳しくはジェトロ「EU 一般データ保護規則(GDPR)」に関わる実務ハンドブック(第29 条作業部会ガイドライン編)」5頁以下を参照されたい。

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EUの「一般データ保護規則」および「新保護指令」の欧州議会可決の意義と米国との関係見直しおよびわが国の実務等への影響(その1)

2016-08-13 09:53:13 | EU加盟国・EU機関の動向

 

 2016年4月14日に欧州議会本会議は「一般データ保護規則(正式には「Regulation(EU)2016/679」、以下「GDPR」という)」 (筆者注1)および「新保護指令(正式には「Directive(EU)2016/680」を採択した。さらに4月27日付けで「Regulation (EU) 2016/679 of the European Parliament and of the Council of 27 April 2016 on the protection of natural persons with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data, and repealing Directive 95/46/EC (General Data Protection Regulation)および法執行・司法部門の情報保護指令(以下「新指令」という)「DIRECTIVE (EU) 2016/680 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 27 April 2016 on the protection of natural persons with regard to the processing of personal data by competent authorities for the purposes of the prevention, investigation, detection or prosecution of criminal offences or the execution of criminal penalties, and on the free movement of such data, and repealing Council Framework Decision 2008/977/JHA」

が正式に公布された。 

 翻ってみると、GDPRは2012年1月に欧州委員会が規則案等を提案、幾多の修正、関係機関での審議を踏まえ、今般の欧州議会の可決まで約4年以上かかったことになる。この規則案の制定の背景、意義、経緯、主要な事項等についてはすでにわが国でも解説が加えられている。

  特に注目すべき点は、GDPR制定の意義は、従来EU加盟国だけでなくEUとビジネスを行って来た多くの関係国の個人情報保護の基礎とされてきた「EU指令(Directive 95/46/EC)」の法的効果、21年間の運用面・裁判上の反省に基づくものであり、今後の世界の主要ビジネスのメルクマールとなると考えるべきことである。

 その意味で、筆者自身、海外の主要ローファーム(筆者注2)の解析内容も含め前述したとおり改めて整理する重要性、意義を優先すべきと考えた次第である。 

 今回のブログは、わが国におけるGDPRの主な解説レポートを概観するとともに、2018年5月25日施行(運用開始)までの間に予定されるより詳細なDPR内容の具体化、各国政府や企業等の対応がいかなる課題を抱えるのか等を整理するものである。特に、わが国におけるマイナンバー制度等にあわせ改正された個人情報保護法の改正ポイントと比較すると、人権保護面から見て多くの課題(とりわけ「匿名化情報」を個人情報からはずした点や現行の業法たる「個人情報保護法」から「プライバシー保護法]への基本的転換問題等(筆者注3)を残している。  

 最後に、国際的なローファーム 「Bird & Bird」のGDPRがまとめたEU域内で活動する企業等の法遵守に向けた取り組み課題について、主要な点を中心にとりまとめたガイド等に基づく解説内容を概観する。 

 なお、欧州委員会の「GDPR」や「新指令」の専門解説サイトでも引用されているとおり、従来、米国とEU間の個人情報の移送ルールである「セーフ・ハーバー協定」に替わる新ルールたる”EU-U.S. Privacy Shield”が2016年6月2日にEU・米国間で署名され、2016年8月1日に完全実施された点も重要な問題といえるが、その内容、問題点等については、本ブログで別途の機会に取り上げたい。

 今回のブログは、2回に分けて掲載する。 

1.わが国のネット上で公開されたGDPRの経緯、概要、今後の課題等にかかるレポート等 

 筆者が、最近時に閲覧したレポートから注目すべきものを以下あげる。  

(1)オーエスジー総研 水間丈博EUの一般情報保護法制定の動きとその影響」 

 GDPRの制定に向けた背景、経緯、GDPR内容を中心に簡潔にまとめられている。このレポートは2015年12月の発表されたものであるが、3か月程度経過すれば新たな動きが明らかとなり、続編をレポートしたいとの筆者は述べている。特に大きな変化がないためか続編は出ていないが、是非わが国の保護法法制を含めた本格的なレポートを期待したい。  (筆者注4)

(2)東京大学大学院情報学環客員准教授・情報通信総合研究所研究員 生貝直人「EU一般データ保護規則可決、そして情報社会の民主主義について」

  これまでのEUにおける検討内容を整理するとともに、今後のGDPRを受けた詳細なルール形成に向けた論点をまとめている  

(3)情報通信総合研究所研究員 藤井秀之「閣僚理事会によるEUデータ保護規則案の承認と今後の予定」 

 2015年6月に公表したものでタイムラインの解説が中心ではあるが、GDPRのキーワードはフォローされている。また、内外の関係機関の解説記事のURLも紹介している。  

(4)西村あさひ法律事務所・弁護士 石川 智也 「発効が迫るEUデータ保護規則と日本企業にとっての留意点」

 EUのGDPRに基づき域外適用、域外移転、課徴金問題等がわが国の企業の展開にいかなる影響を与えるかなど具体的事例に基づいた解説を行っている。

(5)ZDNet記事「EUの一般データ保護規則と改正情報保護法ー日本企業が気をつけるべきことは」 (その1 )、 (その2) 

 世界的ITローファームで構成する専門家グループ:Deloitte Tohmatsu Risk Services Co., Ltd.が主催した講演会の要旨をまとめている。 

 わが国企業自体が留意すべき点、英国のBrexitによる影響等をGDPRのポイントを中心にまとめている。  

2.欧州委員会のGDPRや新指令の専門解説サイトの内容からみるEUのIT社会の進化の情報保護面からの具体的取り組み課題とこれまでの検討経緯の概要

  欧州委員会のGDPRや新指令の専門解説サイト(Reform of EU data protection rules)から重要と思われる点のみ取り上げる。  

(1)欧州委員会のEUにおける情報保護改革に関する合意 

 2015年12月15日欧州委員会は、GDPRおよび新指令につき合意したことを踏まえ、次のとおり要約、公表した。 

 A.GDPRの制定目的 

GDPRは、人々がよりよく彼らの個人データをコントロールすることができるものとする。同時に現代化されたこの統一規則は、企業が官僚主義を改め、補強された消費者信用から利益を得ることによって「デジタル単一市場(Digital Single Market)」の機会を最大限に活用することを許す。 

②警察と犯罪の司法セクターのためのデータ保護指令は、犯罪の被害者、目撃者と容疑者のデータが捜査または法の執行活動の前後関係で順当に保護されることを確実とする。同時により多くが調和した法律は、ヨーロッパの全域でより効果的に犯罪とテロリズムを防止するために警察または検察官の国境を越える協力をも容易にする。 

B.GDPRの主要課題 

 新しい規則GDPRは、以下の点を通じてEU市民の懸念に対処する。 

a. 「忘れられる権利(right to be forgotten)」 : 個人がもはや彼(彼女)のデータが処理されることを望まないで、またそれを保持するだけの正当な根拠がないと欲したとき、データは削除されうる。 これは単に過去の出来事を削除するか、出版の自由を制限することでなく、これはあくまで個人のプライバシーを保護することである。   

b. 「その人自身の個人データへのより簡単なアクセス権(Easier access to one's data)」: 個人にとって、どのように彼らのデータが処理されるか、またこの情報が明確かつ理解できる方法で利用されなければならない。 データの携帯性に対する権利(A right to data portability )は、個人がサービス・プロバイダー間において個人データを送ることをより簡単にする。  

c. 「データ主体につき自身のデータがハッキングされたかにつき迅速に知る権利(The right to know when one's data has been hacked)」 : 会社や団体等は、国家の監督機関に個人を危険にさらされているようにするデータ漏洩に事実を通知しなければならず、ユーザーが適切な処置をとることができるように、すべての大きな情報漏洩リスクをできるだけ早く被害者たるデータ主体に通知しなければならない。 

d. あらかじめ計画的かつ初期値化されたデータ保護(Data protection by design and by default)」 :『計画化されたデータ保護』と『初期値化されたデータ保護』は、現在のEUデータ保護規則の必須の要素である。データ保護の安全装置は発展で最も初期のステージから製品・サービスに組み入れられねばならない。そして、プライバシーに配慮した初期値のセッティングは標準となる(たとえばソーシャル・ネットワークあるいはモバイル・アプリ等で)。 

e. 「規則に基づくより強い罰則法の施行(Stronger enforcement of the rules:)」: データ保護当局は、彼らの世界的な年間取引高の4%までEU規則に従わない大手企業にも罰金を課しうる。  

(2)GDPR等に関する主な概要報告(Fact Sheets) 

 ここでは逐一論じないが、標題のみ仮訳しておく。読者は関心のあるテーマごとに、個別に内容を確認されたい。 

a.①データ保護規則はいかなる方法で市民権の強化を図ってきたのか? 

②EUの情報保護制度改革は新しい技術革新にあわせていかなるルールを採用したのか? 

EU内で活動する企業等のとって新規則はいかなる利益がえられるといえるか? 

新規則による改革はソーシャルネットワークにいかなる影響をもたらすか? 

EUの情報保護改革はEU域内市場を強化させるか? 

EUの情報保護改革は国際協調をより簡易なものにするか? 

EUの情報保護改革は既存の保護ルールをより単純化するか? 

EUの情報保護改革とビッグデータ問題   

b.GDPRおよび新指令の制定に関するインパクト・アセスメント 

  立法にあたりその影響度評価を徹底した解析を行なうべきことは、英国でなくとも当然のことといえ。EUの資料を以下、仮訳する。 

 なお、わが国の保護法のあり方について従来から積極的な取り組みを行っている新潟大学法科大学院教授 鈴木正朝氏の論調等を参照されたい。 

①1995年のデータ保護に関する現在のEU法的枠組み (筆者注5) の採用以来、急速な技術的およびビジネス開発が、情報保護のために新しい挑戦をもたらした。この個人データのデータ共有と収集のスケールは、劇的に増加した。 

テクノロジーは、私企業や公的機関は個人データを先例のない規模で利用することを可能とした。また個人は公的ならびにグローバルに利用できる個人情報(そこに含まれる危険に完全に気づかないまま)をますます公表している。  

オンライン環境への信頼は、経済発展の鍵である。その信頼の欠如は、消費者がオンラインで購入したり、新しいサービス(電子的な公的政府サービスを含む)を採用するのを躊躇させる。その努力を怠ると、信頼不足は新技術による革新的な活用を遅らせ、また公共部門サービスにおいて電子化の潜在的利益を得ることから避けることにつながる。 

さらに、リスボン条約 (筆者注6)「欧州連合の機能に関する条約(TFEU)」第16条とともに、データ保護への現代化かつ包括的な取り組みならびに個人情報の自由な移送に関する法的基礎を(刑事問題について警察と裁判の協力をカバーする点も含め)作った。 

c.インパクト(影響)・アセスメントの概要の要訳 

 行ったインパクト・アセスメントは次の3問題分野において提示と分析を行った。 

2.1. Problem 1: Barriers for business and public authorities due to fragmentation, 

legal uncertainty and inconsistent enforcement

 2.2. Problem 2: Difficulties for individuals to stay in control of their personal data  

2.3. Problem 3: Gaps and inconsistencies in the protection of personal data in the

field of police and judicial cooperation in criminal matters 

d.権限委譲および均衡性の分析

e.3つの主要なポリシーとその対象 

 ①このように情報の断片化を減らし、一貫性を強化し、規制環境を単純化することによって、不必要な経費を省き、管理上の重荷を減らし、データ保護の内部市場規模を強化することとなるか。 

 ②データ保護に対する基本的人権の効率性増すとともに個人データへの当該本人のコントロール権を置くことになるか。 

犯罪問題につき警察の協調および司法の協調においてリスボン条約を完全に考慮することでEUの情報保護の一貫性を強化できるか。 

f.ポリシーの選択( Policy Options) 

オプション1:ソフトな処置が中心

 オプション2:近代化された法的枠組みが中心 

EUレベルにおける詳細にわたる法的ルールが中心 

g. インパクト(影響)のアセスメント 

 各オプションの比較を行った。 

h. 結論:最も好ましいオプション(Preferred Option): 

 オプション2の近代化された法的枠組みに次の修正内容を結合させる。 

①オプション3からの通知義務を廃止し、 

②オプション1の中からプライバシー保護を強化させるテクノロジー、認証制度の強化ならびに個人の認識を上げてるためのキャンペーン等『ソフトな処置』を加える。 

 また、最も好ましいオプションは、過剰な法令遵守経費なしにかつ管理費用の重荷の大規模な縮小する点で政策目標を達成することになる。 

3.Bird & BirdのGDPRの主な重要項目の解説 

 前述した内容と重複が生じるが、体系的理解を重視することからあえて仮訳にもとづく解説を行う。なお、筆者の判断で重要と思われる点のみ解説したが、訳語のミスもありえるので、読者はできる限り原典で内容を正確な内容を確認されたい。

 なお、筆者は本仮訳作業に世界的ローファーム「モリソン・フォースター(Morrison & Foerster)」のGDPRに関する解説レポートおよび仮訳を見つけた。本ブログが引用したレポートと重複したり、さらにGDPRの条文引用など詳細な解説も含まれているが、一方で例えば「目的限定とビッグデータ」や「プライバシー・バイ・デザイン及びプライバシー・バイ・デフォルト」として引用している内容は本ブログでいう「仮名化データ(Pseudonymous data」であると思えられるなど、なお比較・検討すべき点もある。読者は双方を比較されたい。 

 (1)2015年12月18日付けの解説記事「Agreement on general data protection regulation」 

 次の各項目につき概要を仮訳する。なお、記事の前書きの最後に数週間また数ヶ月以内に「企業等が取るべき具体的な行動内容についてのガイダンス」を公表すると述べている。同ガイダンスの内容は(2)で詳しく述べる。  

①Long-arm jurisdiction reach: 

 GDPRは、商品またはサービスの提供、あるいはEU域内で個人の行動をモニタリングする場合にEU居住者の情報処理に適用される。その団体・組織の本部がEU域外であっても適用される。 

 この域外適用(extra-territorial reach)の判断・調査に関連する要素としては、EU加盟国で使用される言語または通貨の使用、EU内における発注場所としての能力あるいはEUのユーザーまたは顧客が含まれる。インターネット上でのEU住民のトラッキングにもとづく嗜好並びに行動分析やプロファイル作成の予測行為も含まれる。 

 なお、域外適用を受ける団体・組織がGDPRの域外適用規を遵守する場合は、EU域内にその代表者を任命しなければならない。  

②Continued application to EU based organisations 

 GDPRは、またEU域内ですでに設置された団体・組織の関連で実行される個人情報の処理について、EU内の一種の確実に調整されたものとして適用される。  

どのようなデータがGDPRによりカバーされるのか(What data is covered?) 

 GDPRは生存する個人の特定または何者かの特定可能なデータに適用される。GDPRは、個人的なオンライン識別子(online identifiers)、端末識別子(device identifiers)、クッキーID (筆者注7) 、IPアドレス等個人に参照されるオンライン・データーの一定の範囲をハイライトとして引用している。 

 IPアドレスに関しては、2016年5月12日、欧州連合司法裁判所の法務官カンポス・サンチェス・ボルドーナ(Campos Sánchez-Bordona)は2016年5月12日に動的IPアドレスに関する意見書を同裁判所の提出した (筆者注8) 

 機微情報についての現在の概念は、保持する個人情報の範囲は遺伝子情報や生体認証等範囲は拡がりつつある。現行の保護指令(Directive 95/46/EC)においてさえ、機微個人情報は明確な同意に基づき保有されなければならない。 

 

*******************************************************: 

(筆者注1) GDPRの全文訳は、JIPDEC訳「個人データ保護規則」案 仮訳 (全176頁)参照。 

(筆者注2) わが国の保護法改正につき2015年9月9日公布の「個人情報の保護に関する法律及び行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の一部を改正する法律」の概要を参照されたい。これに関し、に改正保護法に基づき設置された個人情報保護委員会は8月2日「個人情報の保護に関する法律施行令の一部を改正する政令(案)」および「「個人情報の保護に関する法律施行規則(案)」を公表,、8月31日を締め切りとする意見を公募しており、あわせて問題点を理解されたい。  

(筆者注3) わが国の保護法立法論者として独自の見解を展開されている新潟大学法科大学院教授 鈴木正朝「個人情報保護法の課題と立法政策:個人情報保護法制からプライバシー保護法制へ」において重要な立法問題を提起されており、2010年8月6日のTwitter8/6 35で「プラバシ-の権利を軸として法令をもたなければ、第三者機関のPIA(プライバシー・インパクト・アセスメント)の権限を付与することもできない。特定個人が識別できるか否かという対象情報のみをしかも形式的にしかチェックできない中での権限でいったい何が守られるというのか」という厳しい指摘を行っている。鈴木教授が経済産業研究所の2010年9月17日セミナー「共通番号制度、国民ID時代における個人情報保護法改正の論点 -プライバシー情報保護法制への転換と第三者機関の必要性」レジュメで取り上げられているものである 

(筆者注4)同レポートにおいて「DPO:Data Protection Officer)」をデータ保護官と訳されているが、本ブログやモリソン・フォースター法律事務所の訳のとおり「データ保護責任者」や本ブログでいう「情報保護担当役員」と訳すのが正確であると思う。 

(筆者注5) Directive 95/46/ECおよびFramework Decision 2008/977/JHA をさす。  

(筆者注6) 「リスボン条約」の解説例 

【EUの"新しい顔″が誕生】 

リスボン条約のポイント リスボン条約は、2007年に調印され、2009年12月に発効したEUの新しい基本条約です。この条約の大きな特徴としてまず挙げられるのが、EUの"新しい顔″の誕生です。EU加盟国の"首脳会議″とも言える欧州理事会の「常任議長」、そして、一国の"外務大臣"にあたる位置付けの「外務・安全保障政策上級代表」の2ポストが新設されました。欧州理事会にはこれまでも議長がいましたが、常任ではなく、EU加盟国の首脳が半年交替で就任していたため、EUの重点課題が半年ごとに揺れ動いたり、本国の国政とのバランスをとるのが難しかったりするなどの課題が指摘されていました。外務・安全保障政策上級代表は、複雑な国際情勢の下でEUの外交政策を強力に推進するために新しく設置する「対外活動庁」(EU版の外務省)のトップに立ちます。こうした機構改革により、民族も言語も多様なEUは、より民主的で力強い政策が展開できるとしています。ほかにも、気候変動、テロ対策、警察・司法分野の段階的な統合、移民・難民政策の共通化、EU拡大など、新たな課題への対応能力も一層強化していくことになりました。 

外務省「わかる国際情勢」から一部抜粋 

(筆者注7)ブラウザの Cookie に保存される固有のIDをいう。 

 (筆者注8) 欧州連合司法裁判所の法務官(AG)の意見書のうち、2014年12月17日にドイツ連邦通常最高裁判所から出された質問書の第1点たる「動的IPアドレス」はEU保護指令(Directive 95/46/EC)やドイツ国内法に規定する個人情報にあたるとしたものである。この問題につき、わが国の関係者による解説は皆無のようであり、解説を試みるにはなお時間が必要なので、ここでは主な解説レポートのURLのみ挙げるにとどめる。 

①2016.5.18 edri「Advocate General: Dynamic IP address can be personal data」 

②2016.5.13 Inside Privacy「EU Advocate General Considers Dynamic IP Addresses To Be Personal Data 」  

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EUの「一般データ保護規則」および「新保護指令」の欧州議会可決の意義と米国との関係見直しおよびわが国の実務等への影響(その2完)

2016-08-13 09:26:46 | EU加盟国・EU機関の動向

 

仮名化データ(Pseudonymous data)

 GDPRはあらたに「仮名化データ」の概念を持ち込んだ。仮名化されたデータ(pseudonymised data)(それは追加情報の利用によって自然人に結び付けることが可能である)等のデータは、識別可能な自然人に関する情報としてみなされるべきである。 (筆者注9)

 仮名化データも、なお個人情報の一形式である。しかしながら、その使用は促進される。例えば、もし処理がもともとの個人情報を収集・処理するという目的と互換性がないと判断されるなら考慮すべき要素となる。

仮名化は、またデザインや初期設定においてプライバシーを実践するという要求条件を満たすことかつデータのセキュリティの保証義務に合致する技術例などが含まれる。

 最後に、個人情報を歴史的または科学的調査または統計的に使用することを欲する機関等は仮名化データの使用があらゆる場合において義務付けられる。 

データ主体の明確または曖昧な「同意」

 この「同意」は明確なものでなければならない。機微個人情報の処理に関する同意は計画でなければならないが、他方でその他の個人情報の処理に関する同意は必ずしも明確であることは必要ない。 

 なお、この同意は特定化され、情報が提供されかつ能動的なものでなければならない。同意は一定の技術的背景の選択、あるいはその他の承諾を指し示す声明や行動においても示しうる。ただし、沈黙または非反応的なものでは不十分である。

  同意は自由に与えられかつ個人に損失がないかたちで同意が引き出されなければならない。契約締結時またはサービスを受けるときに、実際サービスの提供に必要でない個人情報の取り扱いにかかるユーザーの所与の同意とひも付きであってはならない。 

 団体等は別途の手続きにあっては別途の同意を得ることが求められる。これらの強制または包含的な同意の推定は無効である。すなわち、団体等は同意が現時点で本物かつ細かな点で内容選択が可能となるよう再検討する必要がある。

  個人情報の処理は「同意」に基づくことは必要ではない。すなわち、契約上の必要性を含むEU加盟国やEUの法的な義務を遵守するもので、そこでは処理が情報コントローラーまたは別の団体等の合法的な利益にとって必要であり、またこれらの利益は個人の情報保護権により覆されないものであれば処理の根拠となりうる。ダイレクト・マーケテイングやネットワークセキュリティにかかる詐欺を阻止するための処理は、ここで言う合法的利益実行する例として引用可能である。請負グループによる従業員や顧客間の個人情報の共有も、合法的利益の例といえる。

 しかしながら、公共団体の場合はこの合法的利益に基づく正当化によることはできない。 

子どもは同意は有効な同意が認められるのか?(Can children give consent?)

 おそらく可能といえよう。13歳未満の子どもオンライン・サービス(すなわち、emailやフェイスブック・アカウントのセットアップ)で要求される個人データの処理に関する同意を与えることはできないであろう。16歳以上は彼ら自身で同意をなしうるであろう。その間の年齢層については初期値はEU家計国の法律が敷地年齢を下げていない限り親権者の同意がその同意となろう。オフラインのデータ処理に関する親権者の同意権に関する特別なルールはない。すなわち一般的なEU加盟国の意思能力に関するルールが適用される。 

説明責任(Accountability)、インパクト・アセスメントおよび情報保護役員(DPOs)の指名

 団体等は、遵守任すなわちバランスのとれたポリシーの採用を通じてデータ保護の諸原則を推し進めるべきである。個人情報の管理者(controllers)や処理者(processors)の双方において行動規範の承認にむけたその強力な遵守が法遵守の強化方法として示されている。 

 個人の高度なプライバシー・リスクを含む新技術(行動モニタリング(monitoring activities)、系統的評価(systematic evaluations))が用いられる場合、または特別なカテゴリーにあたる個人情報を処理する場合等)情報管理者は詳細なプライバシーにかかるインパクト・アセスメントすなわちプライバシー侵害の評価ならびにいかにそのリスクの最小化するかにつき文書化しなければならない。再度となる制定された行動規範の遵守がその助けとなる。インパクトアセスメントの結果においてデータ主体につき実際高いリスクが生じる場合は、情報管理者は情報保護当局に関与させるとともにその見解を得なければならない。 

 くわえて、情報保護当局やリスト化された機微情報活動に関係する機関等の各情報管理者および処理者は情報保護担当役員(data protection officer:DPO)を指名しなくてはならない。グループ企業では、各情報保護担当役員を併合化しなければならない。 

透明性(Transparency)

 団体等は個人の情報を処理するにつき広範囲の情報を提供することになろう。GDPRはEU全体にわたリ適用される各種の透明性に関する義務を併合している。それに関しGDPRは6頁にわたる透明化すべき情報リストを提供する、しかし、EU機関はそれを怠った場合また簡潔、透明性をもってかつわかりやすく、かつ簡単にアクセスできる手段を提供しなくてはならない。もし、欧州委員会が後日、委譲された行動においてそれらを選択したときは標準化されたアイコンの使用が可能である。 

⑨強化された個人の権利

 アクセス権や修正権(rectification)が保持されている。これらはアクセス要求が不合理または過度な場合に情報保護管理者を保護するいくつかの保護項目である。

 「忘れられる権利(right to be forgotten)」が認められ、個人情報を公的にしうる情報管理者は情報主体の個人情報の削除要求を第三者に通知すべく合理的なステップを踏むことを義務付けている。 

 「忘れられる権利」は絶対的なものではない。すなわち、情報管理者は情報主体からの反対があったにもかかわらず、継続して処理を強行しうる合法的な根拠にもとづき個人情報の処理を行いうるのである。 

 個人はまた特定の種類の処理に反対する権利が与えられる。再度述べるが、この権利は絶対的なものでなく、管理者の利益は個人の利益を上回る。ダイレクト・マーケティング目的に反対する絶対的権利があり、このダイレクト・マーケティングのためのプロファイル化についても同様である。 

 完全に自動化された意思決定(automated - decision - taking)に関する管理者の能力は、その決定が法的効果や挙げたりまたは同様に個人に重大な影響を与えるときは制限されねばならない。

  個人はそのような処理に反対する権利がある。個人に対する適切な保護が導入されねばならない。もし、処理が実行されたり、履行することが必要な場合、次の段階たる契約において個人は処理に反対する権利はなくなろう、しかし、人間の介入権(human intervention)や請願権はある。

  新たに「データの移送・携帯性(data portabolity)」の権利を持ち込んだ。個人がサービスプロバーダーの情報を提供する場合、別のプロバイダーにデータを移行(port)を求めたり、技術的に実現可能とすることがある。しかしながら、このなおこの点につきデータ管理者に課されるデザインやデフォルト設定におけるデータ保護の要求をどのように交流させるかという内容は不明である。 

データ管理者およびデータ処理者

 現行のEUシステムでは管理者は処理者の行動につき責任を負うことが維持されている。しかしながら、情報の移送等特定の分野においては最新時は処理者が直接責任を負う。 

 処理者の指名にかかる契約はさらに詳細なものでなければならない。すなわち、とりわけGDPRは処理者は下請け処理者の指名およびEEA以外へのデータの移送につき承諾を得るよう明記する。またGDPRは管理者の処理者を監督する権利を正式に定める。 

 標準化された契約が見込まれる。 

損害と罰則

 個人は、物質的にまたは非物質的な損害賠償を管理者または処理者に要求する権利を有し、またGDPRに規定がある場合または管理者の合法的な命令の範囲外の行動につき処理者は情報漏洩につき直接責任を負う。 

 団体等は、損害を引き起こした出来事につき責任を負わないことの証明責任を負う。

  複数の管理者や処理者がデータ処理にあたる場合、その中にいずれかの者が損害の責任を負うとするならば、当該個人に対し、すべての損害責任ー他の管理者からのクローバック補償能力(claw back compensation) (筆者注10)にもかかわらずーを負う。 

 監督当局は、違反されたGDPRの特別な規定に従い罰金刑を課す権能を有する。その罰は一層悪化するまたは軽減する要素に適合しうるものとなる。最高刑は前年の世界的に見た事業の総売上高の4%となろう。GDPRにはより小規模な規定違反に付き総売上高のいうというキャップが定められている。 

ワン・ストップ・ショップ(あるいはそうでない?)

 GDPRは、データ保護法の監督方法につきプロセスを革命的に見直した。特定の国内法判断以外に主なまたは単一的な体制をもつ団体等が存するEU加盟国にあるリードする立場にある監督機関がGDPRを規制する。

 監督当局は他国の当局と連携かつ協調する詳細な構造が定められ、欧州情報保護委員会(GDPB)の創設につき監督機関間で意見の不一致の調整過程にある。 

 GDPBは、EU加盟国の監督当局の1人の代表と欧州委員会の代表(選挙によらないで)からなることになろう。 

ファイリングおよび記録の保持

 関係する監督当局に規定通りの通知書を提出する従来のシステムは廃止された。しかしながら、その代わりに管理者と処理者の双方が彼らが実行する内部手続きの記録(処理者、監督者、合同監督者の氏名並びに接触の詳細)が必要となろう。250人以下の中小企業(SMEs)についてはこの文書化要求は例外とされる。

  ただし、この中小企業の例外規定は当該団体等がリスキーな処理を行っていたり、機微情報を扱っていたり、刑事事件の有罪判決情報あるいはまれでない処理については適用されない。この最後の規定に関し多くのオンラインスタートアップは引き続き文書で保持されねばならない。 

個人情報のセキュリティが破られた場合の監督当局やデータ主体等への通知義務

 管理者はセキュリティが破られた場合、次の通り通知義務を負う。

・a.監督当局に対するもの

 遅滞なくかつふさわしい場所でセキュリティが破られたことを検知してから72時間以内に行う。

○当該個人にとって結果としてリスクが発生しようがないと判断されるときは報告義務はない。ただし、団体等は破られた記録の保持は行わねばならないし、その結果、監督当局は遵守の有無を調査可能である。

○この通知は漏洩の本質の詳細内容並びに規模(データのタイプ;個人数;影響を受ける記録数)を含む。

 ○ありうる結果とリスクの軽減手順も提供されねばならない。 

・b.個人データ主体に対するもの(ただし、彼らに漏洩が高いリスクを生じると思われる場合のみ)

○通知は遅滞なく、明確な言語によりかつリスクを軽減する手順内容を含み、更なる情報の入手のコンタクト・ポイントを含む必要がある。

○リスクが軽減された場合(すなわち、データの暗号化また管理者のデータの漏洩の郵送通知)

○通知は一定の状況において公的な公表によっても行いうる。 

 処理者は管理者への通知義務があるが、監督当局や個人に対する通知義務はない。 

⑮データの移転(Data Transfers)

 現行システムは改善を加えつつ、広く移転を認めている。個人データの移転に関する既存のGDPRにも引き継がれた。欧州委員会は現行の根拠に基づきそれらのステイタスの見直しをすすめているものの、標準的契約条項およびホワイト・リスト国家(white listed countries) (筆者注11) は特別なステイタスを保持している。 

 拘束的企業準則(Binding Corporate Rules:BCRs) (筆者注12) にもとづく承認もなお有効のままであろう。また、GDPRは管理者や処理者にとって現行の要求内容を法律として記載している。この点は、なおBCRsの未承認の数少ない国々にとって役立つものといえよう。 

 標準的契約条項に基づく移転の現行手続では通知は義務化されまた保護機関により承認規定は廃止された。 

(2)Bird & Bird 「guide to the General Data Protection Regulation」 

 基本的には、全文で66頁にわたるGDPRのガイダンスである。前述した解説の(1)を基本としつつ構成を見直し、また各項目ごとに「At a glance」「To do list(取扱事業者の取り組み課題のチェック)」「コンメンタール」という構成をとっている。 

 逐一の仮訳は時間の関係で略すが、大項目と中項目のタイトルのみ訳しておく。  

a.適用範囲、予定表および新たな概念 

①テリトリーから見た範囲 

②新しくかつ重要な変更した概念  

b.諸原則 

①データ保護の諸原則 

②情報処理のおよび更なる処理の合法性 

③合法的(正当)な利益 

④データ主体の同意 

⑤子どもの同意 

⑥機微情報および合法的情報処理  

c.個人の諸権利 

①情報通知を受ける権利 

②アクセス権、修正権と個人報を携帯する権利 

③反対する権利 

④削除および処理を制限させる権利 

⑤プロファイリングおよび自動意思決定の制限  

d.説明責任、セキュリティおよび情報漏洩時の通知義務 

①個人情報の統治義務 

②個人情報の漏洩と主体への通知義務

③行動規範とその認定  

e.個人情報の移送  

f.規制監督機関 

①監督当局の任命 

②能力(competence)、任務および権限 

③監督機関間の協調と一貫性 

④欧州データ保護委員会の設置  

g.法執行 

①救済および民事責任 

②行政上の罰金  

h.特別なケース 

 規範の逸脱および特別な条件  

i.委任行動と適用行動 

(3)    GDPRの主要な改正点を一覧でまとめた資料

 2016.8.3 Privacy Law BlogAn Overview of the New General Data Protection Regulation の一覧を仮訳する。

 

 

 

 

 (4)GDPRの逐条的な解説レポート

2016.5.10 Conflict of Laws net「The EU General Data Protection Regulation: a look at the provisions that deal specifically with cross-border situations」がある。

(5)EUの人権擁護団体である”ENISA”レポート

 独自にGDPRについて意見や今後実施時期までの2年間の取り組むべき課題等を整理している。

2016.1 ENISA「ENISA’s Position on the General Data Protection Regulation (GDPR)」(全3頁)      

 *************************************************

(筆者注9) わが国の改正情報保護法では「匿名加工情報」の概念を持ち込み「一定の制度的保護措置(提供先での本人を識別するための行為の禁止、第三者提供する旨の公表等)を取ることで個人のプライバシーに与える影響を少なくし、本人同意なく第三者提供と目的外利用を可能とした。この点に関し、国際社会経済研究所 小泉 雄介「個人情報保護についての基礎および最新動向」において詳しく論じている。 

(筆者注10) クローバック(clawback)とは、一般に、業績連動型報酬において報酬額算定の基礎となる業績の数値が誤っていた場合、又は、エクイティ報酬において株価が誤った情報を反映して不当に高くなっていたために報酬額もそれに比例して高くなったという場合に、水増しされた報酬を会社に返還させることを指して用いられる。このような報酬返還義務を定める報酬契約の条項はクローバック条項と呼ばれる。( 「役員報酬の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書」45頁以下でclaw back 条項につき経緯も含め詳しく解説している。 

(筆者注11) 人権(政治亡命への適用は根拠がないと思われる)に対する取るに足らない脅威をもたらすために考慮されるべき国のリストをさす。辞典参照。 

(筆者注12)  EUからEU域外への個人データの移転(域外移転)に関する解説を一部引用する。「(1) 現行指令の下における規律

 まず、現行指令の下では、個人データの保護措置の十分性が確保されていると認定された国等に対して移転する場合を除き、原則としてEU域内からEU域外への個人データの移転は禁止されている(現行指令25条)。なお、日本はこの十分性の認定を受けていない。

 例外的に、①データ主体たる個人が、予定されている移転に対して明確な同意を与えている場合などの一定の場合(同26条1項)、②グループ企業内で情報を移転するための拘束的企業準則(Binding Corporate Rules、同条2項)の承認を受けている場合、③標準契約(Standard Contractual Clause、同条4項)を締結している場合には、EU域内からEU域外への個人データの移転が認められる。(2016年2月17日 西村あさひ法律事務所・弁護士 石川 智也「発効が迫るEUデータ保護規則と日本企業にとっての留意点」から一部抜粋。 

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「パリの過激派連続テロの影響はEU自体の根本的制度見直しにつながりうる重要問題と考えるべき」

2015-11-21 17:40:51 | EU加盟国・EU機関の動向

 11月13日のテロ事件は内外の多くのメデイアが取り上げ、人権問題は埒外に飛ばされたように思える。この1年だけを見てもEUが抱える問題は、ギリシャの経済財政危機問題、トルコのEU加盟問題、移民・難民問題等、多くの課題をかける中で今回のテロ事件が起きたといえる。 

 このEUテロ対策については、EUの行政機関である欧州委員会、欧州議会等でこの1年間だけを見ても国際協調の中で、多くの決定等がなされているはずであり、筆者も日頃ウォッチしているEU関連サイトでもそのように受け止めていた。 (筆者注1) 

 しかし、11月13日以降のEUのリーダー役である欧州連合理事会を中心とする動きを見ていると、必ずしも本気で取り組もうとしているのか、各国の利害が錯綜し、国連やNATOさらにはインターポールやユーロポール(Europol:欧州刑事警察機構)等国際的な法執行機関との連携がすすんでいるのかといった点に関する情報を模索していた。

 そのような状況下で、11月20日に筆者の手元にEU議会のシンクタンクである”European Parliamentary Research Service”から簡潔な内容のレポートが届いた。

 個人的(筆者はアニータ・オラフ(Anita orav) (筆者注2)レポートで簡単ではあるが、筆者が求めていたEUのテロ対策はこれまでたどってきた経緯を概観し、かつその原データへのリンクが網羅的に行われていた。 

 今回のブログは、同レポートを仮訳するとともに、これだけのテロ対策に法執行機関等が本気で取り組んでいたのか、さらに言えばわが国もテロ対策訓練や南シナ海等での監視活動から裏返しのテロのリスクに緊急かつ本気で取り組むべき時期に入ったとする考えからまとめた。なお、時間の関係で、リンク先のEUの原典資料の解析は行っていない。APT攻撃(APT)等サイバー対策とも大きく関わる問題でもあり、改めて整理したい。 

訳文の本文

「 EU域内で急進・過激な思想や活動を阻止させる」 

 パリにおける11月13日の悲劇的なテロ攻撃は、再び過激な考えに基づく安全保障への即時的脅威、テロ組織や外国の戦闘員によるEU市民へのシンパ勧誘活動(recruitment)の事実を実証した。 

  EU加盟各国は、国家安全保障のための能力は保有しているが、 これらの複雑な脅威のクロスボーダーの性質は、EUレベルでの協調的対応を必要とする。  

 〔EUが取り組んだ問題の背景 と対処策の内容〕

○欧州委員会が議会や理事会に提出した「急進化(Radicalisation)」の定義は、 EU市民をテロにつながる可能性のある意見、見方や考えを支持する現象踏まえたもので、EU加盟国における域内の安全保障に深刻な脅威となる。 

  欧州委員会の移民・内務・市民権担当委員 ディミトリオス・アヴラモプロス (Dimitris Avramopoulos(ギリシャ))によると 、イスラム過激主義者は急進化した思想の持ち主を楽しませるのにわずか6〜8週間しかからないであろう。欧州議会は、EU域内で約5,000人が「ISIL / Da'esh」やアルカイダ系「アル・ヌスラ(Jabhat Al-Nusra)」にすでに加わっていると推計している。 

○2015年の早い時点でEUの「司法・内務閣僚会議(Justice,and Home Affairs:JHA)」はチャリー・ヘボラ攻撃に対処すべく「リガ共同声明(Riga Joint Statement)」を採択した。同声明は、欧州連合理事会は次の3つの連鎖的行動にもとづく「戦略課題」を定めたものである。すなわち、①EU市民の安全を守る、②急進化思想の阻止および基本的人権強化等コミュニティの価値の強化である。 

○2015年10月8日,9日のJHAにおいて各国の閣僚は情報交換やインターネットを介した急進思想に阻止を含む反テロの具体的手段等の実行につき、欧州連合理事会議長およびEUの反テロ・コーデネーターからブリーフィングを受けた。 (筆者注3) 

○2015年10月8日、9日のハイレベル「 急進主義の拡大に対処するための刑事司法会議(High-Level Ministerial Conference Criminal justice response to radicalisation)では、懸念される問題として、オンラインや刑務所内での勧誘行為による急進主義思想の拡大が指摘された。2015年9月18日には、議会や評議会にかわり理事会が『2005年テロ阻止条約』に署名した旨の「決定(Europe Convention on the Prevention of Terrorism (CETS No 196))」 (筆者注4)がなされた。また、2015年5月19日第125会期ではテロ阻止にかかる追加プロトコル(Additional Protocol to the Council of Europe Convention on the Prevention of Terrorism)が閣僚委員会で採択されている。同プロトコルは、2014年9月24日の国連安全保障理事会(U.N. Security Council)決議2178(2014))の適用となる、テロ目的の旅行や、そのような旅行に対する資金支援ならびに組織化行為を犯罪行為とすることを求めている。 

○2015年4月28日、欧州委員会はすでに進行中である次の手段を含む、「EUにおける安全保障の課題(European Agenda on Security)」を明らかとした。1)2015年2月2日に「EUインターネットフォーラム」を立ち上げる、2)2015年7月1日にEurpol内に「インターネットテロ専門照会班(EU Internet Referral Unit)」を設置した。3)2011年に

「Radicalization Awareness Network:RAN」を創設、とりわけ2015年10月1日に新たな”RAN Centre of Exellence”を立ち上げた。4)EU加盟国をEU全体として支援すべくEurpol内に”European Counter- Terrorism Centre” を設置した。 

〔急進化阻止に係る欧州議会の決議〕

 2015年10月19に、欧州議会の市民の自由権、司法および域内問題委員会は、テロ組織による急進主義の拡大や勧誘行為を阻止するため、同委員会が積極的にまとめた報告(案)「1.6.2015 DRAFT REPORT」を公表した。このことは、2015年11月に予め議論がスケジュール化されていた。同報告の報告者であるラチダ・ダチ(Rachida Dati)はボーダーレスを実現化した「シュンゲン条約」エリア内で自由に域内を旅行する急進主義のEU市民たる「hotbeds」を引用し、このような加盟国の共通の脅威に対すべき点を訴えた。同報告は、域外との金融の流れに関する透明性の改善によるテロ資金源の閉鎖のニーズ等を指摘し、世界の地域やEUだけに止まらず国際的な対処が求められるグローバルな事象であるという認識を明らかにしている。 

○同報告は、問題が起きてからとる手段ではなく、宗教問題を含む教育面での重要な考え方をはぐくむことが協調されるべきとしている。 

○インターネットの重要な役割は、違法なメッセージのオンラインによる情報配信を阻止すべく、サービス・プロバイダーにその法的責任を十分充足させることにある。 

○最後に同報告書は、「EU市民の安全保障は彼らへの自由権の保障と両立しない問題ではない」と述べ、EUにおける基本的人権の尊重を強調している。

 

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(筆者注1) 筆者のグログでも2010年時点で「2010年11月22日、欧州委員会(担当委員:セシリア・マルムストロム(Cecilia Malmstrom))はEU市民の保護強化のためのEUが直面する緊急的なセキュリティ脅威に対処すべく長期的な「EU域内セキュリティ強化のための行動戦略目標(EU Internal Security Strategy in Action)」(全41項目)(以下「戦略目標」という)を採択した旨公表した」ことについて詳しい解説を行っている。この中で、筆者ブログが取り上げている「2011年~2014年の戦略目標およびその実現のための行動計画(Five Strategic Objectives and Specific Actions for 2011-2014)」が厳密に実施されていたら、今回のテロ事件は起きなかったといえようか。ここまで経緯も含めた解説は内外メデイアでもまず見ない。 

(筆者注2) 筆者の略歴は入手不可である。Oravという姓はマケドニアではないか。 

(筆者注3)オラフ氏のブログでは、2015年10月8日,9日のJHAの議題等には言及しているが、さらに同会議での結論「2015.10.8 欧州連合理事会「Council conclusions on strengthening the use of means of fighting trafficking of firearms」反テロ目的の武器の搬送との戦い」については直接言及していない。この点は、今回のテロ攻撃の事前取締りの不十分さを物語るものと考えられる。 

(筆者注4)2015.10.24欧州連合理事会決定COUNCIL DECISION (EU) 2015/1913 of 18 September 2015 on the signing, on behalf of the European Union, of the Council of Europe Convention on the Prevention of Terrorism (CETS No 196)を参照されたい。 

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EU保護指令第29条専門家会議が欧州司法裁判所判決を受け検索エンジンと「忘れられる権利」の実装対応の検討

2014-08-15 16:31:02 | EU加盟国・EU機関の動向

 

last updated :August 9 ,2018

  欧州司法裁判所判決やEU情報保護規則草案が定める「忘れられる権利」に対する英国議会上院EU問題特別委員会・F小委員会の第二次報告については、別途本ブログで言及すべく作業中である。 

 一方、EU全加盟国28か国の個人情報保護機関等が構成メンバーである「EU保護指令第29条専門家会議」(以下、「WP29」という)は、主要検索エンジン企業3社(Google、 Microsoft(bing)、Yahoo!)との間で判決内容を統一的に実装・対応すべくガイドライン策定の材料の整理等のための会合を重ねている。 

 今回のブログは、この問題につきWP29のプレス・リリース(7月17日、同25日)および同会議の議長であるフランスCNIL(「情報処理および自由に関する全国委員会:Commission nationale de l'infromatique et des libertes)サイトにもとづき公表している具体的検討内容を紹介するものである。 

 なお、国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータル2014年7月28日「EUのデータ保護指令第29条作業部会(筆者注1)が、Google、Microsoft、Yahoo!と会合:“忘れられる権利”をめぐるEUの裁定に関して」が同委員会の7月25日付けリリース等の概要およびURL、解説記事のURL等を紹介している。ただし、残念ながらリンクしているのはURLのみで内容について具体的な解説的訳文はない。 

1.第29条専門家会議(WP29)のプレス・リリースの内容

(1)7月17日付けWP29リリース

 わが国では詳しく論じられていない内容でかつ実務上の重要な論点でもあり、ここで仮訳する。 

 7月15日、全EU加盟28カ国の情報保護当局で構成されるWP29は、2014年5月13日に欧州司法裁判所(CJEU)において下された判決(Case C‑131/12)すなわちインターネットにおけるデータ主体の「忘れられる権利」に関して意見を交換する目的で、ブリュッセルに集合した。その目的は、データ主体の検索作業上(indexing)の削除要求に対し、エンジンが消極的対応を行ったときの監督機関に対する苦情への論理的ガイダンスを策定することにある。 

 この欧州司法裁判所の判断のヨーロッパ市民への統一的実現をすべく見方の中で各国のデータ保護当局は彼らの国籍、居住地および被る被害にかかわらず、個人に検索エンジンに検索作業上の削除を認める異なる法的根拠を分析した。また、この忘れられる権利を実行することへのサーチエンジンの潜在的拒否と同様に忘れられるべき権利を行使のための正確な手法を徹底的に研究した。 

 この議論はとりわけ、削除権を効率的に実施するには、データ主体において欧州連合法に従うと検索エンジンは合法的に請求を拒否できる正確な理由等の全体的理解が必要である点がハイライトであった。 

 また、保護当局は考慮に入れるべき評価基準許容、ある場合には前述の情報にアクセスすることへの公益につき記述した。データ保護当局は、7月24日にそれらと議論するため主要サーチエンジンとCJEU判決を実装するための主要な原則の実務的な問題につき論議する。WP29は、2014年秋にWP29ガイドラインを策定する予定である。 

(2) 7月25日WP29リリース

 同ガイドラインは、データ保護機関が検索エンジンがリストからの削除拒否に伴う苦情をデータ主体から持ち込まれた際に、一貫した取扱いを保証することが目的であり、かつ前記判決内容に応じて検索エンジン会社が一貫しかつ統一的に実装することを確実化するものである。

  なお、今後追加的会合がこの3社以外も加わって行われる可能性が指摘されており、最終的に同ガイドラインをとりまとめる時期は2014年秋が予定されている。 

2.同会議と検索エンジン企業間で行われている質疑応答の具体的内容

 同会議の委員からは、次の質問が出されている。

①貴社は、データ主体からのURL閲覧リストからの削除要求受付時にいかなる正当理由を求めるか。また、貴社はデータ主体の要求を具体化するために更なる動機を求めるか。

②貴社は、データ主体の現在位置、国籍および居住地情報等一定の請求につきふるいにかけるか。

③貴社は、検索結果で得られた次のものは削除するか。

a.EU/EEA のドメインのみ

b.EU/EEAからアクセス可能またはEU/EEA地域の居住者にかかる全ドメイン・ページ

c.世界的規模での全ドメイン

④貴社において、検索で得られる情報のアクセスにおいて貴社の経済利益および(または)公益目的とデータ主体の忘れられる権利とのバランスにおいて削除権を行使する基準はいかなるものか。

⑤貴社は、特定のURLに付き削除を拒否する場合、データ主体に提供する説明や理由はいかなる内容か。

⑥貴社はウェブサイト発行元に対し削除した旨の通知を行うか、また行う場合、どのような法的根拠を発行元に通知するか。 

◎2014年7月31日までに書面により回答すべきとした追加的な質問事項

⑦貴社は、より容易にアクセス可なウェブページにつき削除手順の関する適切な情報を提供するか?。

⑧データ主体の削除要求は、貴社が提供する電子的書式のみに限定されるか、またはその他の手段・方法の利用が可能か?。

⑨データ主体の削除請求は、彼自身の使用言語で行いうるか?。

⑩もし貴社が現在位置情報、国籍または居住地に基づき一定の削除要求をふるいにかける場合、データ主体はいかなる情報を自身の国籍や(または)居住地を証明するために開示なければならないか?。

⑪削除要求者に対し本人たる固有性証拠または一定の認証形式を求めるか、またもし求める場合はいかなるものを求めるか。その理由はいかなるものか?。削除要求に応じた手続目的に関し個人情報保護を実施するための安全装置はどのようなものか?。

⑫貴社は新たなレポートにリンクするすべての検索結果の削除といった概括的な削除要求を受け入れるか?。

⑬貴社が削除要求を受け入れるとする場合、貴社は実際いかなる情報を削除するか。削除要求に反対するため、除去要求への対応としてハイパーリンク (筆者注2)を永久に削除したことがあるか?。

⑭貴社はデータ主体の氏名のみまたはその他の検索用語との組み合わせ(例:Costeja and La Vangaurdia)に基づき削除するか?。

⑮データ主体の氏名がもはや含まれないページ(例示:匿名化原則にそったハイパーリンク)へのハイパーリンクに関する削除要求をどのように扱うか。貴社は、削除要求後、直ちに検索用インデックスに登録するためにファイルまたはウェブサイトに再度アクセス(recrawl)するか?。

⑯データ主体がウェブ上投稿した情報の作者である場合は、削除要求を拒否するか。仮にそうであるなら、当該要求を拒否する根拠は何か?。

⑰削除要求の受理または拒否の関する明確な自動化された手順を有しているか?。

⑱検索結果で示されていない削除の適用合意の材料へのリンクを確たるものにするために使用する技術的解決策を有しているか?

⑲削除要求に関係するため考慮しなければならないし貴社のサービスとはいいかなるものか?。

⑳一定の結果がEU規則に従い削除する点につき検索結果ページを介してユーザーに通知するか。通知を行う場合、その法的根拠はいかなるものか。厳格な意味でのポリシーはいかなるものか。特にその削除要求がデータ主体からの削除要求を欠く場合でも通知を表示するか。貴社は実際の事例で確認または排除しうるか。もしそうであるなら、適用可能な基準を詳しく述べることが可能か?。

(21)貴社は別の検索エンジンプロバイダーと検索結果の削除の共有に関し検討を行ったことがあるか?。

(22)削除要求に対応するための処理平均時間はどのくらいか。

(23)現時点での削除受け入れ/部分的な受け入れ/拒否のパーセンテージ統計はいかなるものか。全体でいかなる件数を回答しているか。1日あたりの回答件数は何件か?。

(24)今後、貴社は全削除要求や削除合意に関するデータベースを作成する予定があるか?。

(25)2014年5月付けのCJEU判決の適用にあたり直面する特別な問題はいかなるものか。特別な問題を投げかける削除要求のカテゴリーが存在するか?。

(26)WP29に対し、特別な事例において貴社との間で意見交換するための連絡窓口情報を提供いただきたい。

    *****************************************************************************

(筆者注1) 国会図書館のWP29(Article 29 Working Party)の訳語「データ保護指令第29条作業部会」については、従来から筆者は異論がある。その理由は次の点にある。情報処理および情報の自由な移送問題につき諮問的立場を有しかつ欧州委員会等EU執行機関から独立した機関である。なお、欧州委員会の立場を反映する機関ではない。その構成メンバーは、①全EU加盟国(28カ国)が指名した国内の保護・監督機関の代表、②EU機関や団体のための保護監督機関(欧州個人情報保護観察局(European Data Protection Supervisor:EDPS)の代表、欧州委員会事務局の代表である。議長、副議長の任期は2年で再任を妨げない。(欧州委員会サイトの欧州委員会・司法担当 ”Article 29 Working Party”から引用)

 なお、筆者は従来、「EU保護指令第29条専門調査委員会」という訳語を使用してきたが、今後は「第29条専門家会議」の訳語を使用することとする。 

(筆者注2) ハイパーリンク ( hyperlink )書内に埋め込まれた、他の文書や画像などの位置情報。ハイパーリンクを用いて複数の文書、および関連する画像などのオブジェクトを関連付けたシステムをハイパーテキストという。WWWはハイパーテキストの代表例で、Webブラウザで文書を表示し、リンクのある場所を,マウスでクリックすると、関連づけられたリンク先にジャンプするようになっている。(IT用語辞典e-Wordsから引用)  

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欧州司法裁判所はオーストリアの情報保護委員会が政府から十分な独立性を維持していないと判示

2012-10-19 15:13:45 | EU加盟国・EU機関の動向


Last Updated:February 19,2021
 

 2012年10月16日、欧州連合司法裁判所(Court of Justice of the European Union:CJEU) (筆者注1)はオーストリアの個人情報保護監視機関であるAustrian Data Protection Authority:Datenschutzkommission(DSK)の独立性を疑問視した欧州委員会および欧州個人情報保護監察局(European Data Protection Supervisor:EDPS) (筆者注2)からの申立に対し、大法廷はDSKが連邦首相ヴェルナー・ファイマン(Werner Faymann)府内のキャリア組の管理等に中心的な権限を持ち、またそのスタッフが公務員であること、さらに首相がDSKの活動内容に精通している等の事実にもとづき、EU個人情報保護指令(Directive 95/46/EC)第28条 (筆者注3)に違反するとする裁決(判決原本)を行った。

 また、この独立性原則は、同指令のみでなく「EU基本権憲章(Charter of Fundamental Rights of EU)」および「EUの機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the EU:TFEU)」においても明らかにされている。

 今回、ドイツはオーストリアのDSKの擁護に回ったが、CJEUがEU加盟国の情報保護委員の独立性について判示したのは今回が初めてではない。例えば、本文でも触れるとおり、2010年3月9日に同裁判所は欧州委員会がドイツに対し行った告訴に対し、今回と同様の論理にもとづき、加盟国の個人情報保護委員(EDAs)は彼らの責務を履行への影響や政策決定プロセスにおいてあらゆる直接、間接の影響から自由でなければならないと判示している。

 なお、今回のブログは時間の関係でEDPSのリリース文の内容を中心にまとめたが、本ブログでも過去に取り上げた英国の法律事務所Pinsent Masons LLPの「Out Law .com」がより詳しく解説している。ぜひ、参照されたい。
 

1.EDPSの10月16日のリリース文(Commission v. Austria: Court of Justice says Austrian data protection authority is not independent)
 次のとおり仮訳する。

○本日、欧州司法裁判所はオーストリアの情報保護委員会(Data Protection Authority(Datenschutzkommisson(DSK))が、1995年EU情報保護指令が概略規定する独立性要件を充足していないと判断した。特に、本法廷はオーストリアの法令の規定に定める政府からのDSKの機能的独立性が十分でなく、連邦政府の首相(Chancellery)との緊密な結びつきを避けることが、DSKが何よりも不公正の疑いであることを防ぐと述べた。EDPSの主席監察官ピーター・ハスティンクス(Peter Hustinx)は次のように述べた。「再度、大法廷は現在のオーストリアにおける情報保護委員会の完全な独立に関する法律上の義務にアンダーラインを引いた」。本判決は、国内法令で有効にそれを保護するために基本的な権利と公平の必要性としてデータ保護の重要性を支持するものである。また、データ保護当局の役割を強化しなければならないデータ保護枠組みの見直しに関し、本判決は重要な意義を持つ。

○大法廷は、連邦政府首相府の中でキャリア組を管理するメンバーのDSKにおける中心的役割を批判した。また、DSKのスタッフは連邦政府首相の下にある公務員である。さらに首相には、DSKのすべての活動について知識・情報が得られる権利がある。しかしながら、大法廷はそういうもののDSKの活動自体は批評しなかった。

○具体的な事例における首相の介入に関する裁判所の判断をEDPSは歓迎する。2番目の事例について、大法廷はデータ保護当局からの独立にそのような重要性を置いた。同法廷は「EUの機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the EU:TFEU)」を示すことで、本当に独立したデータ保護当局がデータ保護分野で行われる仕事の本質部分である点を強調した。

〔今回の判決の背景となる関連情報〕
 今回のEU指令違反手続き訴訟は、オーストリアに対して欧州委員会によってもたらされた。すなわち、オーストリアの情報保護委員会(DPA)が設置された方法が、EU保護指令に合致しないと信じうるものであるという理由に基づくものである。欧州委員会は、オーストリアのDPAの独立性はDPAと連邦政府の首相との支配的に緊密な結びつきから見て十分確実でないと主張し、本事件は2012年4月25日にCJECに持ち込まれた。そして、EDPSは訴訟参加者(intervening party)として同裁判の審問において欧州委員会を支持するために参加した。

 法的な解釈に関連し、本事件は「欧州委員会 対 ドイツ事件(C-518/07)」(判決文))に匹敵する)。EDPSは同裁判でも、欧州委員会を支持して訴訟参加者としてそこで機能した)。 2010年3月9日のCJEU判決では、同法廷はDPAsには直接または間接的であれいかなる外的影響もあるべきでないと考えた。 外的影響を受けるという単なるリスクは、DPAが完全な独立して行動できないという結論を下すために十分である。 オーストリアDSKに対する今回の裁判では、法廷に対し独立性の要件につき更なる明快さを提供するよう求めた。

2.EUにおける保護委員会等の独立性問題と関係機関の受け止め方
 たとえば、2011年にEU基本的人権保護庁(FRA)が取りまとめ公表した「Fundamental rights:challenges and achievements in 2010」(筆者注4)の第3.3章「Data protection authorities:independence ,powers and resources」(59ページ以下)は、2010年5月にFRAが公表した過去の加盟国(ドイツ)における実態を踏まえ、欧州委員会の告訴に基づき、CJEUが判示した内容等を詳しく紹介、解説している。

 本ブログではその詳細には立ち入らないが、わが国では独立性を持った「個人情報保護委員会」組織を設置すればすべての問題が解決されるというような安易な議論が議会や関係者から出されている。しかし、長い歴史を持つ欧州でさえこのような運用実態に基づく法令遵守のあり方が、司法、行政機関、議会さらにはWatchdog等を中心に行われていることを改めて注視すべき時期にあると思う。

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(筆者注1) 欧州司法裁判所(ECJ)は2009年12月1日、リスボン条約の発効により欧州連合司法裁判所(Court of Justice of the European Union:CJEU)に改称され、また「欧州司法裁判所(Court of Justice:ECJ)」「欧州一般裁判所(General Court)」、専門裁判所(specialised court)たる「欧州公務員裁判所(:Civil Service Tribunal)」の3つの裁判所から構成される(Treaty of European Union:TEU 19条1項)こととなった。
 この経緯や各裁判所の裁判管轄などの詳細は、在ルクセンブルグ日本大使館が「欧州連合司法裁判所概要」でEUの公式サイトの内容等をもとに解説している。

(筆者注2) 2012年9月24日の筆者ブログ「EUの個人情報保護監視機関(EDPS)が欧州委員会の諮問に応えプライバシー規則案の改善に向けた意見書を提出」がEU加盟国の個人情報保護のWatchdogである「欧州個人情報保護監察局(European Data Protection Supervisor:EDPS)(主席監察官ピーター・ハスティンクス:Peter Hustinx)」の活動内容を詳しく紹介している。

(筆者注3) EU情報保護指令(Directive 95/46/EC)第28条は、加盟国の保護監督機関の設置、権限、独立性等に関する規定を定める。以下で原文を挙げる。なお、完全な独立性に関する定めは第1項後段に明記されている。

Article 28 Supervisory authority

1. Each Member State shall provide that one or more public authorities are responsible for monitoring the application within its territory of the provisions adopted by the Member States pursuant to this Directive.
These authorities shall act with complete independence in exercising the functions entrusted to them.

2. Each Member State shall provide that the supervisory authorities are consulted when drawing up administrative measures or regulations relating to the protection of individuals' rights and freedoms with regard to the processing of personal data.

3. Each authority shall in particular be endowed with:
- investigative powers, such as powers of access to data forming the subject-matter of processing operations and powers to collect all the information necessary for the performance of its supervisory duties,
- effective powers of intervention, such as, for example, that of delivering opinions before processing operations are carried out, in accordance with Article 20, and ensuring appropriate publication of such opinions, of ordering the blocking, erasure or destruction of data, of imposing a temporary or definitive ban on processing, of warning or admonishing the controller, or that of referring the matter to national parliaments or other political institutions,
- the power to engage in legal proceedings where the national provisions adopted pursuant to this Directive have been violated or to bring these violations to the attention of the judicial authorities.
Decisions by the supervisory authority which give rise to complaints may be appealed against through the courts.

4. Each supervisory authority shall hear claims lodged by any person, or by an association representing that person, concerning the protection of his rights and freedoms in regard to the processing of personal data. The person concerned shall be informed of the outcome of the claim.
Each supervisory authority shall, in particular, hear claims for checks on the lawfulness of data processing lodged by any person when the national provisions adopted pursuant to Article 13 of this Directive apply. The person shall at any rate be informed that a check has taken place.

5. Each supervisory authority shall draw up a report on its activities at regular intervals. The report shall be made public.

6. Each supervisory authority is competent, whatever the national law applicable to the processing in question, to exercise, on the territory of its own Member State, the powers conferred on it in accordance with paragraph 3. Each authority may be requested to exercise its powers by an authority of another Member State.
The supervisory authorities shall cooperate with one another to the extent necessary for the performance of their duties, in particular by exchanging all useful information.

7. Member States shall provide that the members and staff of the supervisory authority, even after their employment has ended, are to be subject to a duty of professional secrecy with regard to confidential information to which they have access.

(筆者注4) FRA年報「Fundamental rights:challenges and achievements in 2010」は全194頁にわたるものである。筆者は従来からFRAの情報を直接入手しているが、EUがかかえる人権問題を広く取り上げている。参考までに同年報の目次を仮訳する。FRAが有する機能、役割について正確な理解が求められている。
 なお、筆者の手元にドイツのメディアである シュピーゲルの10月19日の記事「Poverty and Crime :Conditions Little Better for Roma Immigrants in Germany」が届いた。EUの中で比較的に経済的に豊かとされるドイツでさえ「roma移民問題」が大きな政治、社会問題となっている。

1.難民施設、移民および人種融合(Asylum,immigration and integration)
2. 国境管理およびビザ政策(Border control and visa policy)
3. 情報社会および情報保護(Information society and data protection)
4. 子供の権利および子供の保護(The rights of the child and protection of children)
5. 平等性および差別のない社会(Equality and non-discrimination)
6. 人種差別および民族による差別(Racism and ethnic discrimination)
7. EUの民主機能におけるEU市民の参加(Participation of eu citizens in the union’s democratic functioning)
8. 効率的なアクセスおよび司法の独立性(Access to efficient and independent jusitce)
9. 被害者の保護(Protection of victims)
10. 国際的な責務(International obligations)

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英国の法律扶助や刑事司法改革法案とりわけ「社会内刑罰(Community Sentences)」改正等更正措置の最新動向

2011-08-11 13:30:40 | EU加盟国・EU機関の動向

 Last Updated:Febuary 1st , 2024

 フランス、英国やカナダ等における刑罰の選択性や代替刑ならびに再犯防止策についてわが国でもようやく一部で論じられるようになってきた。
 その中で、8月8日に英国法務省(MOJ)から筆者の手元に届いたニュースで(1)「社会内刑罰」における外出禁止(curfew)時間を1日当たり最大12時間から16時間に拡大する、(2)その禁止期間についても最大6か月から12か月に拡大することで、社会の保護強化と犯罪者の再犯の予防を図るという政府案が公表された。

 この改正案は英国の法律扶助改正、裁判所による被告の刑罰処分権および新犯罪の追加に関する改革法案(Legal aid, Sentencing and Punishment of Offenders Bill Bill No 205 of 2010-12)」の一部であり、裁判所の権限強化は例えば週中や週末、当該日の中においてその変更を認めることなど弾力的運用案が織り込まれた。

 現在英国内には社会内刑罰の対象者が約24,000人いるが、法改正後は常に電子的にモニタリング
(筆者注1)される予定である。仮に犯罪者が外出禁止措置の条件を破るならば、更なる罰則を受けるため裁判所に送り戻されることになる。電子モニタリングについては、2005年以来、英国では2社がイングランドとウェエールズで的確に運用を行って入る。これらのベンダー企業の政府とのサービス提供契約は再競争が予定されている。

 これだけの内容であれば、あえて本ブログで取り上げる必要性は低いかも知れない。しかし、英国の法律扶助や刑事司法改革法案そのものに関する重要ポイントの解説となると問題は別である。

 筆者なりにわが国の解説でウェブ上で確認できる情報を検索してみた。しかし、皆無であった。また、英国法務省や議会の法案トラッキング・サイト等を読んで見たが、その内容は決して平易ではないし、英国刑事司法の専門家以外にとっては難解なものである。

 そこで以前本ブログでも紹介した“politics .co.uk”のウェブサイトで調べてみたが、議会調査局の解説「Summary of the Bill」の方がより詳しく具体的であった。

 本ブログは、これら調査結果等につき整理するとともに、フランス、英国やカナダ等における刑罰の選択性や再犯防止策に関するわが国における論文の検索情報を簡単にまとめた。


1.「法律扶助改正、裁判所による被告の刑罰処分権および新犯罪の追加に関する法案(Legal aid, Sentencing and Punishment of Offenders Bill Bill No 205 of 2010-12) (筆者注2)
 法案トラッキング・サイトに基づき最新時点の法案審議状況や法案の重要ポイントを以下のとおりまとめる。
 なお、わが国では英国議会の審議経過(三読会制)について正確な解説文が少ないのでここでは丁寧な説明に心掛けた。(筆者注3)

(1)上程、審議の進捗状況
 6月21日の第一読会で上程、6月29日の第二読会で大法官および法務大臣ケネス・クラーク(Kenneth Clarke)により法案の趣旨説明と原則につき審議が行われた。審議後の発声表決(vote)では賛成(Ayes)295,反対(Noes)212で可決、公法案委員会(Public Bill Committee)での審議に移された。(筆者注4)
 
 公法案委員会 (筆者注5)は、本法案につき毎週火曜と木曜に各条毎に検討を進めており、7月12日、19日に口頭証拠証言(oral evidence)(筆者注6)が発表され、今後は9月6日以降に委員会審議、10月13日には議会下院で委員会報告を行う予定である。
 これと並行して、議会(委員会)は法案に対する関係者からの証拠書面意見(written evidence)の提出につき7月12日を期限として受け取ることとなった。

(2)法案要旨
 本法案は多様な改革内容が盛り込まれており、4つの編(Parts)と16の附則(Schedules)から構成される。第1編は法律扶助(Legal Aid)、第2編は訴訟費用とコスト(Litigation Funding and Costs)、第3編は犯罪者への刑罰処分(Sentencing and Punishment Offenders)、第4編は最終規定(Final Provisions)である。なお、下院図書館(House of Common Library)も法案要旨(briefing paper)を作成、公表している。

 主たる法案項目は次のとおりである。
①「1999年司法へのアクセス法(Access to Justice Act 1999:c.22)」(筆者注7)の規定内容を逆に改め、特に明確に除外されない限り適用可能であった民事法律扶助の原則を反対化した。すなわち、法案では法的扶助の一定のケースのみを取り出し、該当する場合のみ基金支援の適用資格を認めることとする。

②「法律サービス委員会(Legal Services Commission)」を廃止する。(英国の刑事司法制度改革については2011年2月26日付けの筆者ブログでも一部言及した)

③「ジャクソン報告」(筆者注8)において指摘、勧告された民事裁判における基金と費用に関する各種改善事項を政府として一段と進める。

④犯罪により犠牲者が損害や損失を被った場合に、次の場合のように裁判所が補償命令を出す権限を現行以上に緊急的に認めるべく刑罰規定を改正する。
・刑罰を科すにあたり裁判所に求められる詳細な理由説明の要件を減じさせる。
・裁判所に対し12か月の刑罰を最大2年に延長することを認める。また拘禁刑の期間延長の権限を認める。

⑤社会内刑罰である有罪犯罪者の外出禁止令期間につき、現行の6か月から12か月に拡張する権限を認める。

⑥「2003年刑事司法(Criminal Justice Act 2003)」において治安裁判所(magistrate’s court)が最高刑を6か月から12か月に拡大できるとする規定を「廃止」する。

⑦不必要に拘留施設へ再拘留される者の数を減じさせるため、保釈(bail)と再拘留(remand)に関する規定を改正する。

⑧18歳未満の者を拘留施設の再拘留させるとき、多くは地方公共団体の宿泊施設移送されるが、その保証措置に関する規定を設ける。

⑨囚人(prisoner)の釈放(release)と更迭(recall)に関する規定を改正する。

⑩囚人の雇用、賃金支払、賃金からの差し引き控除(deduction)に関する刑務所規則の定める権限を法務大臣に新たに与える。これらの条項の目的は囚人が被害者への支援にかかる支払を円滑になさしめることである。

⑪教育的視点からの選択条件付罰則通知(penalty notice)および関係する検察官への事件と関連性を要せずに条件付警告に関する権限をあたえる規定を設ける。

⑫重大な身体的危害の緊急的リスクを引き起こす刃やとがったもの(point)をもつ攻撃的武器や物による脅迫的犯罪を新たな犯罪とする。これらの犯罪に対し最低6か月の拘禁刑が科される。

(3)法案策定の根拠となる文書類
 英国の法案作成手続の公開性を指し示す例としてここで詳しく説明しておく。特にわが国で参考とすべき法案策定時のアセスメントの充実度は米国等と同様参考にすべき点であろう。

A.法案作成の背景となる書面
① 内閣府のウェブサイトにおける「連立政権における合意事項書面(Coalition Agreement)」の第6項目「犯罪と刑事司法政策(crime and policing)」中の第3番目の項目(We will seek to spread information on which policing techniques and sentences are most effective at cutting crime across the Criminal Justice System. )をさす。

②次の政府による司法改革に関する公開諮問文書
Proposals for the Reform of Legal Aid in England and Wales
(公開日: 15 November 2010 、提出期限日: 14 February 2011 )
悪循環を断ち切るための施策(Breaking the cycle: effective punishment, rehabilitation and sentencing of offenders )
(公開日: 07 December 2010 、提出期限日: 04 March 2011 、政府からの回答期限日: 21 June 2011 )
Proposals for reform of civil litigation funding and costs in England and Wales
(公開日:05 November 2010 、提出期限日:14 February 2011 、政府からの回答期限日: 29 March 2011)
ジャクソン報告
法律サービス委員会(Legal Services Commission)の廃止( Legal Services Commission move to Agency Status (Business Case))
上院委任権および規則改正委員会の法務大臣に対する委任権限に関するメモ( Delegated Powers Memorandum prepared by the Ministry of Justice
for the House of Lords Delegated Powers and Regulatory Reform Committee)


B.影響度調査(Impact Assessments)
・法律扶助
・刑罰処分
・ジャクソン報告

C.社会平等性から見た影響度調査(Equality Impact Assessments)
・法律扶助
・刑罰処分
・ジャクソン報告

D.プライバシー影響度調査
法律サービス委員会の廃止(2011年6月)
個人情報の出入り口(Information Gateway)( 2011年6月)

2.フランス、英国やカナダ等における刑罰の選択性や再犯防止策に関するわが国における論文の検索情報
 アトランダムに収集しかつオンラインで入手・閲覧可能な者をピックアップした。わが国における「代替刑」論議等を考える上で参考となろう。

①網野光明「フランスにおける再犯防止策―性犯罪者等に対する社会内の司法監督措置を中心にー」(レファレンス2006年8月号)

②網野光明「フランスにおける選択刑制度-拘禁刑の代替刑としての公益奉仕労働・日数罰金刑等-」レファレンス2007年5月号4頁以下

③内閣府男女共同参画局  内閣府男女共同参画局推進課暴力対策専門官 土井真知 「Ⅲ 海外現地調査に基づく制度の運用状況に関する報告―イギリスにおける加害者更生に向けた取組」(62ページ以下)“community sentences:社会内刑罰”の解説資料

④カナダ連邦司法省「Community-Based Sentencing: The Perspectives of Crime Victims」解説(原文で読むしかないが内容は参考になる)

⑤法務省総合研究所研究部報告28「英国の保護観察制度に関する研究―社会内処遇実施体制の変革と地域性の再建―」広く英国の保護観察制度につき歴史的経緯も含め詳細に解説している(筆者注9)

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(筆者注1) 英国で1999年以降行われている受刑者の監視システムである「電子モニタリング・システム」 につき議会科学技術局が2008年5月にまとめた「保護観察の代替方法」の解説資料から抜粋する。このような監視システムは米国では一般的であり、最近では「IMF前専務理事が保釈 足首に電子監視装置つけ軟禁へ」いった記事も出ている。なお、この問題につきわが国では「代替刑」問題として法務省等で議論になっている。この問題も「社会内刑罰」問題と並行して論じるべき問題といえよう。
「受刑者への電子モニタリング命令処分」
保釈または刑務所からの早期出所の条件を満たす場合に用いられるもので有罪判決に基づく量刑として電子モニタリング処分を科すことが出来る。 1999年に全英国で導入され、電子モニタリングを使用するとする「地域社会奉仕命令(community orders)」は、犯罪者が予め指定された期間において、24時間監視の上で特定の住所地に滞在することを命じるものである。
 この2つの電子モニタリング方法につき、両方とも受刑者の足首の上に‘タグ'を固定する。①RFIDタグによる監視システムでは自宅から離れるなど域外に出るとモニタリング会社のシステム上の警報が鳴る。②GPSシステムを使い受刑者の行動をトラッキングし、自宅からはなれることをチェックする方法である。
 英国内務省の電子モニターの評価によると、80%の犯罪者が外出禁止令の期間を無事終了しているが、2年間でみた「再有罪」率は73%となり高い数値を示した(拘禁刑の場合の66%と比較して)。
 なお、わが国では2007年4月、山口県美祢(みね)市に初犯の受刑者を収容する「美祢社会復帰促進センター」という名称の刑務所が新設された。その特徴として、(1)コンクリート塀や鉄格子のない刑事施設、(2)センターヘの入場者(受刑者・刑務官・民間職員・来訪者等)に無線タグを装備し、位置情報をリアルタイムに把握するというものである。

(筆者注2) 同法案は2012年5月1日に成立、2013年4月1日施行されている。なお、同法案の訳語については、筆者が法案の内容に基づき一部意訳した。

(筆者注3) 英国議会における法案審議過程については、2010年3月国立国会図書館調査及び立法考査局政治議会課 那須俊貴 (調査資料2009-1-b)「主要国における議会制度(イギリス)」を参考にした上で、議会サイトの解説に基づき補筆した。
 なお、下院の「発声表決」とは 議長の呼びかけに対し、賛成の者は「Aye」、反対の者は「No」と答え、議長は、その声量の大きいほうに従って可決または否決を判断し、宣告するものである。
 三読会制のポイントを見ておく。下院の場合、第一読会は法案名を読み上げる。第二読会は法案の説明趣旨と原則につき審議し、その後表決を行い否決された場合は廃案となる。第二読会では法案そのものの修正はできないが、野党は影の大法官および法務大臣が反対を述べた修正案を提出し、政府提出法案に対する反対を行うことができる。
 公法委員会(法案の付託ごとに委員が選任され、本議会への報告が終了すると解散する)に法案が付託され、逐条審査が行われる(原則公開)。
 委員会の報告を受けた本会議での法案審議では、修正案の提出が認められる。
 第三読会は委員会報告の直後に開催、法案に対する最終審議が行われ、字句修正を除き、修正は認められない。賛否のみの討論が行われる。

(筆者注4) 6月29日の第二読会の模様は議会テレビで見ることができるし、また、下院の公式議会審議録(Common Hansard)で確認できる。これらデータの充実や公開性は米国議会と同様進んでいる。

(筆者注5) 英国下院の委員会は、一般委員会(general committees)と特別委員会(select committees)に区分することができ、法案審査は主として公法案委員会(public bill committees)等の一般委員会、政府の政策および活動等に関する調査は特別委員会が行っている。(国立国会図書館 政治議会課 奥村牧人「英国下院の省別特別委員会」から抜粋した。)

 なお、英国議会での法案は(1)公法案(public bills)、(2)私法案(private bills)および(3)両者の性格を兼ね備える混合法案(hybrid bills)に大別される。ほとんどの法案が「公法案」に当たる。公法案は税金、公共支出等政策に関する事柄を扱い、政府大臣等が提出し、一般的法的な性格を有する(常に下院から初めに審議される)。公法案には、大臣以外の議員や大法官が提出する法案である”private member’ bills”が含まれる。
 
 一方、私法案は、地方自治体や民間企業団体や個人等特定の利害等に関わる法案である。この法案に対しては利害関係者たる個人や団体は議会に対し陳情したり委員会や議員に対し反対意見を提示できる。このため、“private bills”については新聞広告(newspaper adverts)や地方版官報(official gazettes)で公開するとともに関係者に書面での通知が義務づけられる。
 この両者の性格を併せ持つ法案を「混合法案(hybrid bills)」という。その例としては「英仏海峡トンネル法案(Channel Tunnel Bills)」「英国鉄道網法案(Crossrail Bill)」があげられる。同法案に対しては、特定の個人やグループは陳情したり特別委員会で意見を陳述できる。
(国立国会図書館「主要国の議会制度(2010年3月)」19頁以下から抜粋したうえで、英国議会サイトの解説文に基づき筆者が大幅に加筆した)

(筆者注6) 議会は政府の政策等について恒常的に精査している。とくに、下院では、省に対応して特別委員会(Select Committees)が設置されており、対応する省の支出、管理、政策について調べている。具体的には、審理する内容について決定したのち、DIUS 内のみならず関係者・関係機関から、書面による証拠(written evidence)や、証人として委員会に召喚することによって得られる口頭による証拠(oral evidence)に基づいて、報告書を作成し本院に報告するとともに、報告書を公表している。

(筆者注7)「イギリスの法律扶助制度はよく整備され,西欧諸国の中で最も多くの金額を支出しているとも言われている。資力がなくても国からの援助を受けて訴訟活動ができる反面,国から援助を受ける当事者にとっては,訴訟費用を抑制する動機に欠けるという指摘もある。すなわち,法律扶助の受給者にとっては,訴訟費用がどれだけ高額化しても自己負担がないため,弁護士に対して訴訟活動を効率的・短期的に行うよう要求する必要性がない。一方,弁護士の側からすれば,上記のような時間制で報酬が定められているため,こちらも訴訟活動を短期化する動機に欠ける。したがって,このような状況においては,法律扶助制度もまたイギリスの平均審理期間を長期化させてきた要因の1つであろう。」(最高裁「裁判の迅速化に係る検証に関する検討会(第20回)」平成19年(2007年)5月11日(金)参考資料2から一部抜粋。この法律扶助制度の根拠法となるのが「1999年司法へのアクセス法」である。
 この問題については「諸外国における民事訴訟の審理期間の実情等の概観」が解析している。
なお、参考までに「1999年司法へのアクセス法」の各編のタイトルを筆者なりに見ておく。
第1編 Legal Services Commission
第2編 Other Funding of Legal Services
第3編 Provision of Legal Services
第4編 Appeals, Courts, Judges and Court Proceedings
第5編 Magistrates and Magistrates’ Courts
第6編 Immunity and Indemnity
第7編 Supplementary

(筆者注8) ここでいう「ジャクソン報告」とは次の報告をさす。その18頁から26頁が要旨部分であるが、現行英国の民事裁判のかかえる問題のうち、弁護士費用の敗訴者負担制度、法律扶助制度等具体的に踏み込んだ内容である。機会を見て体系的に取上げたい。
2009年12月21日 「民事裁判における費用の見直し問題(最終報告)( Review of Civil litigation Costs―Final Report―)」(代表:Rupert Jackson英国イングランド・ウェールズ高等法院判事)(全584頁)

(筆者注9) 法務省総合研究所研究部報告28「英国の保護観察制度に関する研究―社会内処遇実施体制の変革と地域性の再建―」14頁以下から関係部分を抜粋する。
「英国保護観察サービスが実施する社会内命令(Community Order)の名称も大幅に変更され,さらに今後,社会内命令の枠組みそのものにも大きな変革が加えられようとしている。
 社会内命令の名称は,前述の諮問文書『公衆保護のための矯正・保護の力の結集』における勧告を受け,『2000年刑事司法及び裁判所業務法』の規定により,それぞれの社会内命令の機能と目的とを分かりやすく表した語に変更された。従来の「保護観察命令」(probation order)は「社会内更生命令」(community rehabilitation order)に,「社会奉仕命令」(community service order)は「社会内処罰命令」(community punishment order)に,そして,「結合命令」(combination order)は「社会内処罰及び更生命令」(community punishment and rehabilitation order)に,それぞれ名称が変更された。
 1世紀近くに及ぶ歴史を持つ保護観察(プロベーション)という語や,日本においてもよく知られている「社会奉仕命令」(community service order)という語は,2001年4月以降,処分の名称としては使われなくなった。」

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EU評議会における公共放送やビデオ・オンデマンド、映画等に関するEU加盟国のための監視機関の役割と機能

2011-06-15 13:12:44 | EU加盟国・EU機関の動向



 筆者は、2010年3月2日、EU 指令(2006/24/EC)を受けたドイツ連邦通信法改正に関するドイツ連邦憲法裁判所の違憲判決(筆者注1)に関する概要の解説ブログを同年12月20日にまとめた。実はその後のドイツ連邦政府の法改正の動向を正確に読み取るうえで重要な情報サイトを発見した。

 この問題を解く鍵として欧州評議会(Council of Europe)および欧州委員会(教育・文化事務局)が共同管理する監視機関である” European Audiovisual Observatory ”(EAO)が毎月取りまとめ公表している“IRIS”の概要について解説することが第一の目的である。

 さらに、EUのメデイア規制に関し解析することの重要な目的は、1992年12月
(筆者注2)に設立されたEAOの制度面の枠組みについて正確な概要を説明することである。
 同機関について欧州連合の各機関に比べわが国では一部専門家以外では言及したものが極めて少ない。欧州連合(EU)の欧州委員会については、わが国では通商問題については「EU通商ニュース - 週間ダイジェスト」があるし、駐日欧州連合代表部が提供する最新情報がわが国でも簡単に閲覧できる。
 欧州評議会やEAOに関する詳細なデータを解析しようとして、その作業にかかる時間と予備知識を考えるとその情報量の格差は歴然である。

 今回のブログは、わが国のメデイア 関係者ならび
(筆者注2)(筆者注3)(筆者注4)(筆者注5)で詳しく述べるEAOが取組んでいるテーマに関心を持つ方々にとって多少でも寄与できればという思いで作業してみた。

1.” European Audiovisual Observatory ”の制度的枠組み
(1)EAOは1992年12月、欧州のオーデオ・ビジュアル分野の専門組織の33カ国からなる「Audiovisual Eureka」(筆者注6)、欧州評議会および欧州委員会(教育・文化事務総局)の共同的努力により本部をフランスのストラスブールとして設立した。その具体的な活動は、欧州評議会の業務とりわけ「メディア事業部(Media Division)」、「ユーリマージュ(Eurimages)」(筆者注7)に関するメデイア分野を支援する。

(2)会員資格は、欧州37カ国と欧州連合(欧州委員会が代表する)で、会員からの直接的な資金提供と一部商品やサービスの販売代金が資金源となる。

(3)EAOの運営は事務局長(Executive Director:現事務局長はWolfgang Closs(ヴォルフガング・クロス)が率いる。各メンバー国は総務会(Executive Council)に1名を代表として任命し、一般的に総務会はEAOの予算とプログラムの決定のため1年に2回開催する。総務会は事務局(Bureau)を選任する。事務局は管理委員会としてのEAOの会合の準備やEAOの活動内容につきモニタリングする。

(4)EAOの年間活動計画は欧州のオーデオビジュアル分野の専門機関の代表からなる「諮問委員会(Advisory Committee)」の勧告内容に基づき作成される。

(5)EAOの年間予算は、独立した「監査委員会(Audit Committee)」によりチェックされる。

(6)EAOサイトは、わが国ではオープンなものとしてはほとんど公になっていない。主要国の公共放送等に関する監視監督機関の現状についてはわが国では、総務省の「世界情報通信事情」ならびにドイツオーストリア等一部の国のみであるがNHKのサイトにも解説がある。

2.EAOの主要任務や具体的活動分野とその責任の範囲
(1)欧州におけるオーデオ・ビジュアル分野の情報の透明性の確保である。
(2)具体的な活動対象分野
 EAOは以下の4分野に関し、市場と統計、法律および制作や資金を中心に次の情報を提供する。

①映画分野(Film)
・Legal Information
・General Data
・Public Funding Mechanisms
・Feature Film Production
・映画配給や展示(Distribution/Exhibition)
・National Reports
②テレビ分野
・Legal Information
・General Data
・Digital TV
・TV Fiction
・Audience Measurement
・By country
③ビデオ/DVDおよびその拡張分野
・Legal Information
・Market Information
④ニューメディア
・Legal Information
・General Data

2.IRISの編集方針と内容
(1)毎回約30程度の短い記事であるが、加盟国およびEU全般における公共放送、映画、ビデオ・オンデマンド・サービスおよびIPTV(IP(Internet Protocol)を利用してデジタルテレビ放送を配信するサービスまたはその放送技術の総称)の分野における立法、裁判判決に関し起きていることを定期的かつ自由な視点から概観するものである。
 簡単に言うと、EUのすべての政策決定者決定者やオーディオ・ビジュアル分野の専門家にとって不可欠の発刊物であり、これら分野の情報の流通および透明性の改善を目的としてEUの”the European Audiovisual Observatory ”が作成するものである。

(2)IRISは定期的に通信部門と緊密に関係するテレビ、オンデマンド・サービス、映画部門の製作に関するテーマを取上げる。伝統的な法分野、競争、著作権、データ保護、犯罪および税法についてそれらがオーデオ・ビジュアル部門に関係する限りにおいて最新の開発動向につき電子ニュースとして取り上げるのものである。
 法律関係の政策展開に関するものとして、IRISは情報の自由、メデイアの集中(Media concentration) (筆者注8)、メディアの多元性(media pluralism)、若者保護、自己および共同的規制に関する記事を含む。

3.“IRIS”編集上のガイドライン
 標題にかかわらずIRISの記事のコア部分は事実に基づきかつ明確な内容である。すなわち、大部分のレポートは新しい法律、判決または重要な行政決定に関するものである。
 また、IRISの記事は新しい立法が採択される前に予備的に行う政治的出来事やさらに国際協定、2国間条約、重要な運賃協定(tariff agreement)に言及する。法律文は、慎重に解析され文脈において簡潔に説明される。

4.EAOのオンラインデータ・サービス
 有料の「The Yearbook Online Premium Service」と無料の「IRIS電子版」がある(筆者がsubscribeしているのは後者である)。

**********************************************************************************::
(筆者注1) 2010年3月2日にドイツ連邦憲法裁判所(Bundesverfassungsgericht:Federal Constitution Court)は、法執行機関が活用できることを目的とする携帯電話や電子メール等の6か月間の通話記録の保持を定めた現行通信法(「2004年通信法(Telekommunikationsgesetz vom 22.Juni 2004(BGBl.IS.1190)TKG)」につき、EU 指令(2006/24/EC)を受けて、2007年12月21日「通信の監視およびその他秘密裡捜査対策ならびに2006/24/EG指令の適用に関する法律」2条にもとづき新規定を追加した)の規定は連邦憲法に違反する可能性が高く大幅な修正を求める旨判示した。
 なお、この法律および憲法裁判所判決については、本ブログ(2010年12月20日「米国連邦控訴裁判所が裁判所の許可なくISPの保持するEメール・データの押収・捜索行為を違憲判断(その2完)」を参照。

(筆者注2) 立命館大学立命館大学政策科学部教授 安江則子氏「EU における視聴覚メディア政策と公共放送― 市場と文化の間で ―」において“European Audiovisual Observatory”につき次のとおり説明している。
「 なお、視聴覚メディアに関する機関としては、欧州審議会の設立したEAO(1992 年設立、European Audiovisual Observatory)がある。EAO は、欧州の視聴覚メディア産業に関する情報収集とその利用のための機関で、2010 年現在37 の国とEUが参加し、関連業界との緊密な連携のもとで会議を運営し各種報告書をまとめている。映画・TV・ビデオ・DVD・その他のニューメディアを対象とし、市場調査と統計、関係法令、制作と財務などの情報提供を行っている。」
 なお、ここで使われている「欧州審議会」とはわが国では一般的に「欧州評議会」と訳されている。
 わが国の外務省の説明およびEAOのサイト情報に基づき補足すると「1949年、人権、民主主義、法の支配という共通の価値の実現に向けた加盟国間の協調の拡大を目的としてフランスのストラスブールに設立。加盟国は47か国(EU全加盟国、南東欧諸国、ロシア、トルコ、NIS諸国の一部)、オブザーバー国は5か国(日本、米、加、メキシコ、バチカン)。
 伝統的に人権(欧州人権裁判所、欧州人権条約、子供の権利、死刑制度、拷問禁止(prevention of torture)、人種差別(racism)、ロマ民族と域内旅行者(roma and travellers )、同性愛嫌悪主義(homophobia))、法律(組織犯罪、国家汚職(group of sates against corruption)、サイバー犯罪、マネー・ロンダリング、個人情報保護、テロ、司法の効率化)、民主主義(ヴェニス委員会(筆者注3)、性の同等性、市民社会、選挙と民主主義)、社会(ヨーロッパ社会憲章(筆者注4)、体罰(corporal punishment)、身体障害者保護、移住、欧州社会開発銀行(Council of Europe Development Bank:CEB )、メデイアや通信(子供とインターネット、メデイアの自由化)、生命と健康(生命倫理(bioethics)、麻薬、欧州の医薬品業界、健康保護、文化と自然(映画やオーディオ・ビジュアル、欧州文化条約 (筆者注5))知的および異教間対話、少数言語、生物種の多様性(biological diversity)、持続可能な発展、気候変動)、教育とスポーツ(市民権、校内暴力、スポーツ全般、ドーピング、スポーツにおける暴力)。各種条約策定(約200本)、専門家会合開催の他、国際問題などに関する勧告・決議採択、決議事項のモニタリングに取り組む。

(筆者注3) 欧州評議会のヴェニス委員会は正式には「法による民主主義のための欧州委員会」(European Commission for Democracy through Law; La Commission européenne pour la démocratie par le droit)」である。その組織や目的等については、山田邦夫「欧州評議会ヴェニス委員会の憲法改革支援活動―立憲主義のヨーロッパ規準―」(レファレンス 2007年12月号45頁以下)が詳しい。

(筆者注4) ヨーロッパ社会憲章については、中野聡「欧州社会モデルの現在と未来」(豊橋創造大学紀要 第10号19頁以下)が詳しく解説している。

(筆者注5) 欧州文化条約 (European Cultural Convention)は、1954 年 12 月 19 日にパリで調印され、これが今日まで続く文化・教育および青少年育成・スポーツ活動分野での国際協力の源となっている。

(筆者注6) わが国では、EUのユーレカ計画(Eureka Project)の全体については次のような説明があるが、“Audiovisual Eureka”プログラムについて説明したものはない。いずれにしても同プログラムは2003年6月30日に機能停止している。
 以下の説明のうちデータが古くまた正確さを欠く記述があるので、最新のデータにあわせ加筆した。
「ユーレカは、1985年、米SDI構想に対抗する研究開発奨励に向け、フランスの先導で欧州を中心に設立された国際組織であり、製品・サービスの技術革新を目指した汎欧州規模のプロジェクトを推進する企業、研究開発機関、大学等を支援することを通じて、欧州経済の競争力を高めることを目的としている。フランスは現在でも指導的立場におり、参加数・投資額でトップに立つ。
議長国(Chair)は1 年毎の輪番制で、2003 年7 月から2004 年6 月までフランスが務めた後、2004 年7 月から2005 年6 月までオランダが、2005 年7 月から2006 年6 月まではチェコが議長国の任に当たっている。
参加国は欧州地域の39か国と40番目としてEUである。」
 なお、ユーレカ・プロジェクトの成果についてはたとえば、「GSM方式携帯電話」、「ナビゲーションシステム」、「モバイルや電子商取引を支援するスマートカード」、「映画のための特殊効果用ソフトウェア」、「環境汚染のモニタリングや制限する最先端医療機器と技術」である、なお、ユーレカの組織全体や意思決定組織についてはユーレカ・プロジェクト・サイトで詳しく説明されており、ここでは略す。

(筆者注7) ユーリマージュ(Eurimages)の概要は次のとおりである。なお、以下の内容は、公益財団法人ユニジャパンのサイトから引用したが予算金額や加盟国数等については、ユーリマージュのサイトの最新数値に基づき修正した。
①運営行政区:欧州評議会(EC)
②予算:2,400万ユーロ
長編フィクション作品、ドキュメンタリー作品、アニメーション作品の共同製作や劇場のデジタル化、配給に対する文化支援。
「Eurimages」は、欧州映像作品の共同製作や配給、上映・放送を支援するため欧州評議会が設置したファンド。現在、本ファンドには35カ国が参与している。
1. 共同製作
予算:最大80万ユーロ
条件:
・国際共同製作契約の規定に準じる。
・プロデューサーが申請書を提出すること。
・本ファンド参与国から共同プロデューサーを2人以上立てること(同一国は不可)。
・共同製作の主出資国の最大出資割合は総予算の80%とする。
・共同製作の副出資国の最大出資割合は総予算の10%とする。
・二国間共同製作で予算が500万ユーロを超える場合、主出資国の最大出資割合は総予算の90%とする。
最大で総支出額の80%相当額(ただし、1万ユーロ以下)

(筆者注8) “media concentration”に関し、群馬大学社会情報学部研究論集第14巻155―174頁「2007アメリカ合衆国における2003年のメディア集中規制について― Prometheus Radio Project v. FCC が提起する問題を中心に―」160頁以下の「考察」は、わが国にとっての重要な課題を投げかけている。筆者が日頃関心を寄せている問題点に近いものであり、一部ここで抜粋・引用する。
「近時において、過去のどの時点にも増して、メディア集中規制についての議論がなされてきた背景には、1990年代中頃以降のインターネットの普及が存在する。それは、一般の個人にも、双方向性を有する「多対多」の通信を可能としてきた。FCC は、2003年のメディア集中規制において、インターネットを最も驚くべき通信の発展であると認識し、また、DI の算定の根拠の1つとして位置づけた。しかし、インターネットによって、莫大な数の情報源にアクセスが可能であるという前提は、過去において実現されてきたのと同様に、インターネットへのアクセスを提供するネットワークの保有者が、それに対する支配を有さないこと、換言すれば、当該ネットワークを経由して伝送されるコンテンツ等に対して影響力を行使しない状況が、規制的枠組み等によって実現される場合にのみ妥当性を有する。すなわち、メディアとしてのインターネットの存在によって担保されると主張される情報の「豊富さ」は、メディア産業における垂直的統合の可否、特にブロードバンドのインターネット・アクセス・サービスに対する規制のあり方とも密接に関係する。近時では、当該サービスを含むメディア産業における垂直的統合の可否及びそれに対する規制のあり方に対する検討も、活発に行われてきた。(以下略す)」

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欧州委員会がEU域内の統一緊急呼出し番号「112」の徹底を呼びかけ(欧州デジタル・アジェンダ-第1回目)

2011-02-19 18:21:49 | EU加盟国・EU機関の動向



 2月11日、欧州委員会副委員長でデジタル化問題担当委員ネリー・クルース(Neelie Kroes) (筆者注1)がEU統一緊急電話サービス番号「112」のEU市民等に認識率がなお4人中1人という調査結果を公開し、加盟各国にその引き上げ促進を訴えた。

Neelie Kroes 氏

 この問題自体わが国でも一部EU関係者しか理解されておらず、EUへの旅行を企画するわが国の国民に警告の鳴らす意味でも、今回はその意義等について改めて説明する。
 これに関し付言すべき重要な点は、この問題は単にEUの防災行政的な取組み課題というだけでなく、本年5月25日を各国国内法化の遵守期限とする2009年12月19日に発効したEU電気通信規則にかかる指令や規則にかかる重要な問題の一部であることである。

 さらにいえば、これらの問題の背景にあるEUの長期的経済成長戦略「EU 2020」の内容やその一環としての具体的ICT政策課題である「欧州デジタル・アジェンダ」の正確な理解が、わが国の電子政府問題や経済回復戦略をさらに進める上で重要な意義を持つという点である。

 すなわち、マッチ箱の角を針でつつく解説ではなく、全体像を理解で出来るブログ・レポートを目指すものである。
(筆者注2)
 その中で、数回に分けてEU通信規制にかかる指令や規則が定めた各課題につき、その後の加盟国の国内法化の状況を追いつつ、問題点の整理を試みるものである。
 今回は連載の第1回目として「112」問題を取り上げる。


1.EUの世論調査機関“Eurobarometer” (筆者注3)の最近時の調査結果
 最近時の“Eurobarometer”調査結果は、警察、消防および救急を呼び出す電話番号である「112」を理解している市民が26%(4人に1人)であった。
 ほとんどが認識している国はチェコ、フィンランド、ルクセンブルグ、ポーランド、スロバキアの5カ国であった。一方、ギリシャ、イタリア、英国は10%未満であった。
 EU全体として見ると認識率の向上は2008年の22%から2011年の26%と極めて低いものであったが、一部の国では認識率の2010年比で際立った改善が見られた。
オーストリア(31%から39%)、フィンランド(50%から56%)、オランダ(45%から50%)である。

 ほとんどのEU加盟国は緊急車輌に「112」を表示するなど認識向上の策をとっていると報告しているが、調査結果では27%の市民のみが昨年1年間中に「112」に関する何らかの情報を受け取っていると回答している。このような低い向上率から見て、欧州委員会は加盟国が国民に「112」に通知すべき義務を十分果たしているかにつき調査している。

2.欧州司法裁判所への提訴に基づく旅行者への徹底が課題
 欧州委員会は2002年3月に発布した「ユニバーサル・サービス指令(Universal Service Directive)」第26条 (筆者注4)に基づく加盟国における「112」の適切な対応や位置情報が緊急対応機関に伝わるよう監視、強化を行っている。また、違反の事実に基づき欧州司法裁判所に対し、「EU Treaty」第226条に基づく「侵害訴訟手続(infringement procedure)」 (筆者注5)を行っている。
 同委員会は加盟国のうち14カ国に対し提訴したが、うち11カ国は位置情報の利用を完全に対応したため取り下げたため、同裁判所は2009年5月に残ったリトアニアを除くイタリアとオランダに対する義務違反判決を下した。
 2009年6月現在の「112」位置情報をめぐる加盟27カ国の対応状況は、2009年6月25日付けEUのリリースの別表で一覧にまとめられている。

 このような背景のもとで、EU市民が他のEU加盟国を旅行する際に「112」に関する情報をSMSまたは警告メッセージを受け取るべく義務が通信事業者に義務づけられたのである。
 しかし、今回の調査結果では他国を旅行したEU市民の81%はこのような情報を受け取っていないという結果が出ている。2011年5月に実施される「ユニバーサルサービス修正指令(DIRECTIVE 2009/136/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 25 November 2009)」 (筆者注6)では「112」情報は、例えば空港、鉄道の駅や国際バスターミナル等で旅行者が利用可能とすることが義務づけられた。

(3)電話の架け手の位置情報の重要性とその徹底
 前記新指令は架け手の位置情報は電話のコール受けると緊急サービス機関は直ちに無料で利用することができるシステムの構築を求めている。また、当該システムについてより正確な位置情報が提供でき、かつ信頼性の高いシステムに改良するよう定めている。

 「112」システムが効率的に機能するよう同委員会は14カ国に対する欧州司法裁判所への提訴を行ったが、本年2月11日時点でうち13カ国はフォローのために是正措置により裁判は閉鎖されている。
 また、「112」の有用性に関する法的措置はポーランドとブルガリアに対して起こされたが、その後取り下げられており、現在係争中はイタリアのみである。

(4)「112」の採用にかかる最新情報
 EU統一緊急電話サービス番号「112」は全加盟国で固定電話および携帯電話から無料でかけることができる。また、デンマーク、フィンランド、マルタ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スェーデンは国内の緊急電話番号も「112」とすることを決定している。
 さらにEU外のクロアチアやモンテネグロやトルコも「112」を国内で採用しており、ウクライナもその採用を計画している。

3.「112」に関する欧州委員会の詳しい解説情報
(1)専門サイトで詳しい内容を理解されたい。
(2)Q&A公式サイト:EUの“Digital Agenda”の解説サイト中「112」関連でQ&A形式で説明されている。
(3)啓蒙ビデオ
(4)自分の国の対応状況確認のための専用サイト

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(筆者注1) EUの“Digital Agenda for Europe”について簡単に補足しておく。2010年5月19日にリリース2/13(33)されたものである。
 リリースのタイトルは「デジタル時代における経済的・社会的利益の増大のためのアジェンダ(Digital Agenda: Commission outlines action plan to boost Europe's prosperity and well-being)」である。
 「活気に満ちたデジタルの単一市場(Vibrant Digital Single Market)」、「相互運用性と標準化(Interoperability and Standards)」、「インターネットの信頼性とセキュリティ(Trust and Security)」、「超高速インターネット・アクセス化(Fast and Ultra fast internet access)」、「研究と開発(Research and Innovation)」、「デジタルリテラシーの向上(Enhancing Digital Literacy, skills and inclusion )」、「EU社会における情報通信技術適用による利益(ICT-enabled benefits for EU society)」という7項目に分けてまとめられている。
 2010年8月26日、「デジタル・アジェンダ」は正式に公布(COM(2010) 245)された。

(筆者注2) EUの今後10年間を見据えた中長期経済成長戦略「欧州2020」や同時期のICT政策課題「デジタル:アジェンダ」について、わが国では駐日欧州連合代表部の解説が情報源の中心となることは言うまでもない。これに比してわが国の電子政府さらに言えば中長期経済戦略はどのように理解すればよいのであろうか。GDPの前期比マイナスなど一部経済指標のみで日本の未来が占えるわけはない。

(筆者注3) Eurobarometer(ユーロバロメーター)は、1973年から欧州委員会が行っている世論調査分析(Public opinion analysis)の結果をまとめた資料で、調査範囲は、EU拡大、社会情勢、健康、文化、情報技術、環境、防衛、欧州の市民権に関するものなど多岐にわたる。(駐日欧州連合代表部「EU資料利用ガイド」から抜粋)

(筆者注4)2002年3月7日公布されたEUの「ユニバーサル・サービス指令第26条」(Directive 2002/22/EC)の原文を以下引用しておく。
〔Article 26〕
Single European emergency call number
1. Member States shall ensure that, in addition to any other national emergency call numbers specified by the national regulatory authorities, all end-users of publicly available telephone services, including users of public pay telephones, are able to call the emergency services free of charge, by using the single European emergency call number "112".
2. Member States shall ensure that calls to the single European emergency call number "112" are appropriately answered and handled in a manner best suited to the national organisation of emergency systems and within the technological possibilities of the networks.
3. Member States shall ensure that undertakings which operate public telephone networks make caller location information available to authorities handling emergencies, to the extent technically feasible, for all calls to the single European emergency call number "112".
4. Member States shall ensure that citizens are adequately informed about the existence and use of the single European emergency call number "112".

(筆者注5) EUにおける司法的統制である欧州司法裁判所(ECJ)に対する「侵害手続(infringement procedure)」について補足説明しておく。
「欧州委員会または他の加盟国は義務不履行をおこしている構成国を一定の手続を経て、欧州司法裁判所に提訴することができる。欧州裁判所が構成国の義務不履行を認める判決をしたときは、当該構成国は判決履行義務が課される。当該構成国がなお判決履行義務の履行を怠るとき派、欧州委員会が二度目の義務不履行訴訟を欧州司法裁判所に提起し、欧州司法裁判所は義務不履行を認めるときは、制裁金を当該構成国に課すことができる。」2004年9月衆議院憲法調査会事務局「欧州憲法条約―解説及び翻訳」(衆憲資第56号)(39頁以下参照)

(筆者注6) 欧州の通信規制改革に関する新指令の概要についてのわが国の解説例を以下引用する。なお、この解説自体は2009年12月時点でまとめられているので承知されたい。
 「欧州連合(EU)は、2009年12月18日、新たな通信規制(新指令等)をEU官報で公布し、翌19日より発効した。
 新たな通信規制は、主に、通信市場における競争と消費者の権利の強化、域内の高速ブロードバンド接続の普及促進、単一通信市場の完成に向けた新たな独立機関の創設などに焦点が当てられ、具体的に以下の12項目が改革点として挙げられている。
1. ナンバーポータビリティ(固定/移動)手続き期間の短縮。
2.より適切な消費者への情報提供。
3.消費者のインターネットアクセスの権利保護(新インターネットの自由条項)。
4.オープンかつニュートラルなインターネットの保証(ネット中立性)。
5.個人情報の侵害とスパムからの消費者の保護。
6.緊急サービス番号「112」へのアクセス改善。
7.各国規制機関の独立性の強化。
8.「欧州電子通信規制機関(BEREC)」の創設 。
9.競争上の是正措置に関する欧州委員会の発言権の強化。
10.競争上の問題解決手段としての機能分離。
11.ブロードバンド・アクセスの普及促進。
12. NGA(次世代アクセス網)における競争と投資の促進。
 通信規制の改革については、2007年11月に、欧州委員会が現行指令の改正を提案し、2009年5月に概ね承認されたが、インターネットアクセスの制限と利用者の権利保護が争点として残り、議論が継続されていた。2009年11月に、利用者の権利を強化する「新インターネットの自由条項」(司法の関与なく一方的にインターネットアクセスを停止することはない等)を盛り込むことで最終合意に至った。
 今後、EU加盟27カ国は、2011年6月を期限として、新指令を国内法化することになっている。また、欧州電子通信規制機関(BEREC)の設立は、2010年春に予定されている。]
(KDDIの「テレ虎」記事から抜粋)。
 なお、BEREC(Body of European Regulations for Electronic Communications)の訳語はその機能や法的位置づけから見て「欧州電子通信規制者団体」というほうがベターであるといえよう。
 なお、国立国会図書館(外国の立法)が“BEREC”の法的位置付けについてEUでの検討経緯をまとめているので以下引用する。
「この組織は、EU全体の電子通信市場において、公正な競争及び法規の整合性を確保するものであるが、規則の提案(COM(2007)699)当初、欧州委員会は、各加盟国の国内監督機関を監督する機関として、市場評価やEUの周波数管理を行うに当たって決定権を有する組織を想定していた。しかし、これには、欧州議会の要請により、最終的には、権限を持たない諮問機関として位置づけられることとなり、名称も提案当初の欧州電子通信市場監督機関から欧州電子通信規制者団体と名称も実態も変更された。(国立国会図書館「外国の立法246号(2010年12月)」植月献二「EUの情報通信規制改革―急速な通信環境変化への対応―」から抜粋)
 なお、余談であるが、“BEREC”のHP の下に“Subscribe to news”といった案内メッセージがある。登録内容に関する簡単な説明である。是非チャレンジされたい。1日程度でウェルカム・メッセ-ジが届く。

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欧州議会がSWIFTを介したテロ資金追跡プログラムにかかる暫定合意の改定協定を承認

2010-07-15 07:46:47 | EU加盟国・EU機関の動向

 

 本年2月9日および2月12日の本ブログで、米国から強く要請があり、他方でEU市民の人権侵害につながる大きな問題として取り上げられ、EU議会だけでなくEU加盟国の情報保護委員等も巻き込んだ論議の内容について詳しく紹介した。

 その後、EUの欧州委員会や米国のハイレベルの協議が行われていたが、6月上旬に欧州委員会域内担当委員セシリア・マルムストロム(CECILIA MALMSTRÖM)氏は米国とのハイレベル協議の結果を踏まえ、改正案を議会に提出していた。

CECILIA MALMSTRÖM 氏

 6月28日(月)、欧州連合理事会の輪番議長国(rotating presidency)であるスペインのアルフレド・ペレス・ルバルカバ(Alfredo Pérez Rubalcaba )内務相と、マイケル・ドッドマン(Michael Dodman)駐EU米国大使館経済担当官は、マルムストロム氏の立会いの下で署名した。

 最終的に改正協定案は7月8日の本会議に諮られ、投票では、賛成484票、反対109票、棄権9票で可決・承認され、2010年8月1日施行されることとなった。

 今回のブログは本年2月以降の動向等も踏まえ問題点を整理することであるが、7月8日のマルムストロム委員の声明のとおり、EU市民にとって(1)個人データへのアクセスと使用に関する透明性確保の完成、(2)プライバシー保護を保証するための適切な手段と救済措置が手当てされたといえるのか、今後改めてEDPSの意見書や“StateWatch”や“EDRi(Digital Civil Rights in Europe)”等関係団体による法的問題や人権上の課題が明確となった段階で詳しく分析のうえ論じてみたい。
(筆者注1)

 なお、この問題だけではないがEUの議会関係者が指摘するリスボン条約に基づく議会の権限強化のあり方論がある。この問題についても機会を改めたい。


1.改正協定の議会での承認にいたる経緯
(1)6月上旬に、 EU議会、欧州委員会、米国当局間の外交交渉に基づく協議によりマルムストロム委員による改正協定案が提示された。また、6月15日、委員会の最終協定案(COM 316)が決定された

(2) 6月22日、欧州情報保護監察局(EDPS)による欧州委員会の最終協定案に対する公式意見書(Opinion of the European Data protection Supervisor)が提出された。

(3)6月24日、 EU・米国間の改正TFTP協定にかかる欧州連合閣僚理事会決定が行われた。

(4)6月28日、EU理事国と米国との改正協定の署名が行われた。この点につき、同日のわが国の欧州連合サイトは、「本日、欧州連合(EU)を代表するスペインのアルフレド・ペレス・ルバルカバ内務相(筆者注2)と、マイケル・ドッドマン駐EU米国大使館経済担当官は、テロの容疑者が残した金融取引の痕跡の追跡をより容易に行えるよう、銀行間決済ネットワーク(SWIFT)に関する協定に調印した。
 同協定は、欧州委員会のセシリア・マルムストロム内務担当委員出席の下、ブリュッセルで調印された。今後は欧州議会に提出され、7月5日から8日にかけて開催される本会議で議員の過半数の賛成で批准されれば、発効に至る。」と報じている。

(5)7月8日、欧州議会本会議で改定協定案の採決・承認され、同日、マルムストロム委員は採決・可決につき声明を発表した。声明自体、これまでの経緯を含め米国との協議内容にはほとんど言及していない。今後、EU加盟国の関係機関等からも各種意見が出されると思うが、問題点を整理するうえで筆者が従来からしばしば引用する“EurActive”の最新記事等に基づき解説する。

 議会筋によると議員の賛意を得られた最大の理由は、米国当局への大量データ(bulk data)に移送制限を明記したことである。議員は賛意の見返りに米国のTFTPに必要性を排除するためにそれに相当するEUの作業が今後、12か月以内に開始する保証を得た。EUが独自に同地域内での追跡システムによるデータ分析を可能にするとEUが必要とする特定のテロリストの追跡システムにデータを移すだけでよくなるという効果があるからである。

2.新協定の主な改正内容
 欧州委員会は、今回の改定協定案と2009年11月に欧州連合理事会で採決、米国との間で締結した「暫定協定」との相違点につき公式な資料を作成、公表している。
 その主な点につき以下のとおり紹介しておくが、EUの関係機関での意見が強く反映されていることは間違いなく、その点は2月9日付けの本ブログで確認されたい。

(1)改定協定は、本協定の下で行われるEU市民の個人情報の移送に関し、そのプライバシー保護を保証するため、次のような法的な約束事を定める。
①対象とするデータは、テロおよびテロ資金の阻止、捜査および起訴にかかわるもののみ排他的に限定して扱う。
②いかなるデータ・マイニング(data mining)形式 (筆者注3)禁止
③EUのリテール決済サービス市場の統合に向けたSEPA(Single Euro Payments
Area) (筆者注4)に関するすべての個人情報の米国への移転の禁止

(2)個人情報保護の保証をより強化する。TFTP手続の透明性に関し、米国連邦財務省はTFTPに関するデータ主体の権利、すなわちアクセス権、訂正権およびどのように司法や行政機関への救済手続きを行うかにつき、すべての情報を同省のウェブサイトに掲示する。従来の暫定協定と異なり、アクセス権の保証、不適切なデータであると判断するときは、これらデータの訂正、削除やブロッキングを規定する。

(3)データ主体の救済手続を明記する。協定では、連邦財務省はその行政手続の適用において、すべての人につき国籍や居住国にかかわらず平等に扱うこととした。また、これに続けて不利な行政処分に対し米国法に基づく司法救済を定める旨を明記した。

(4)本協定は、EUの公的機関すなわち「欧州警察機構(Europol)」が米国の要求が本協定の条件を充足しているか確認する包括的メカニズムを定めた。特に、“Europol”は米国のデータ提出要求につき次のようなチェックを行う。()米国機関からの要求データの可能な限りの特定(identify as clearly as possible)、()なぜ当該データが必要なのかの理由説明を求め、また、テロやテロ資金と戦う目的のため最小化する意味でその目的に適合した可能な限り狭い範囲であるかにつきチェックする。さらに、“Europol”は要求データの量自体もチェックする。
 仮に連邦財務省の要求がこれらの基準に合致しないときは当該要求は拒否され、データは移送されない。

(5)改定協定では、欧州委員会は日々TFTPのデータにつきその抽出とアクセスの監視を行う者の任命権を定める。その者は問題が起き、モニタリングができるポストにつく。特定に人物に対する検索を正当化できる十分なデータが存しないとみられる場合は検索をブロックできる権限が与えられる。

(6)改定協定はTFTPの詳細および監視に関する点ならびに適用の詳細を定める。EUは改定協定施行6か月以内に具体的準備を開始し、データ保護に係る法遵守状況につき定期的に詳細なモニタリングを行う。このEU専門家チームは米国当局により行われた検索内容につきプライバシーが正当に尊重されているかランダムに調査する権限を持つ。
 EUの検査チームは、欧州委員会により指揮されEUの2つの情報保護機関 (筆者注5)および司法経験者の代表を含むメンバーで構成される。

(7)改定協定は、テロリストを推定させる人物の情報を第三国に移送する前に行うべき重要な詳細な要求条件―EU市民や住民にかかわる当該国所管当局の事前同意の取得要件―を定める。

(8)改定協定は、個人情報保護に関しEUと米国の将来におけるより拘束力をもつ協定の締結の原型となり、また、将来EU・米国間でそのような協定が締結されるときTFTP協定がそのベースになるという性格を確立させた。

(今回の協定で暫定協定と変更しない事項)
データの保持期間(Data Retention Periods):従来から欧州議会から出されていた米国との交渉の負託(Mandate)において「出来る限り短期でかついかなる場合でも5年とすべき」と定めていた。しかし、米国との交渉において連邦財務省は3年から5年という条件(TFTPの分析から引き出された結果では28%がその期間に対応する)を引用し、今回の協定案では5年となった。ただし、保持期間については施行以降その短縮化につき欧州委員会・米国財務省間で3年以下とすることを基本としつつ、分析するということとなった。

3.米国のコメント
 米国のオバマ大統領は「終わりよければすべて良し(all’s well ends well)」とEU議会の承認を歓迎するコメントを述べている。ホワイトハウスによると、2001年9月11日のテロの後、米国TFTPはEU加盟国に1,550件以上の重要な捜査情報を提供してきたと述べている。

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(筆者注1) “EDRi”は、EDPS やEU情報保護指令第29条専門委員会はEU・米国間の改定協定はEUの保護基準を完全には満たしていない点や改正協定にいう「テロリズム」の定義が広すぎるなど更なる問題点をまとめたFAQを7月7日に公表している。
 また、“statewatch”は欧州議会の議員による未解決の課題の指摘について紹介している。

(筆者注2) EUでは常識的なことであるが、スペインの現内務相がなぜ署名にあたりEU代表となる意味が説明されていない。正確にいうと、6か月ごとに交代する欧州連合理事会の現議長国の代表として署名したものである。(スペインの任期は2010年1月から6月である)

(筆者注3) 米国のテロ対策における「データ・マイニング」の効果に関し、米国学術研究会議(National Research Council:NRC)の調査報告:複数の米国連邦機関がテロリストの疑いのある人物を特定するのに利用している、行動パターン特定データ・マイニングおよび態度観察(behavioral surveillance)技術の類は、信頼性があまりに低すぎて有効であるとは言いがたいーとする記事が紹介されている。要するに、テロリストの特定は消費者行動の分析のようにはいかない。さらにデータ・マイニング・ツールや態度観察ツールのような技術を無計画に使用し続けた場合、個人の情報プライバシー侵害の問題が生じるおそれもあると記している。」という解説記事が、わが国の「コンピュータ・ワールド」2008年10月15日号で紹介されている。

(筆者注4) 「 リテール決済サービス市場の統合に向けたSEPA(Single Euro Payments Area)と呼ばれるプロジェクトが進められている。SEPA とは「効率的な競争が機能し、ユーロ圏内におけるクロスボーダー決済を国内決済と同じように利用することができる、統合された決済サービス市場」の実現を目指すプロジェクト」をいう。(日本銀行金融研究(第28巻第1号(2009年3月発行)のSEPAの解説から引用)。

(筆者注5) EUの2つの情報保護機関につき、1つはEDPSであることは間違いないがもう1つは何を指すのか。協定第13条〔Joint Review〕規定の原文等からも判明できなかった。
EU指令第29条専門委員会を指すのか。


[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/10/308&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
7月8日付けのセシリア・マルストロム(Cecilia Mastrom)EU内務担当委員の公式声明
http://register.consilium.europa.eu/pdf/en/10/st11/st11222-re01.en10.pdf
EU・米国の改定協定原本(full text)(全37頁) :11222/1/10 REV 1
http://ec.europa.eu/commission_2010-2014/malmstrom/archive/improvements_tftp_agreement_20100629_en.pdf
今回の協定の旧協定との主な変更点(公式資料)(全3頁)
https://db.eurocrim.org/db/en/doc/1358.pdf
6月15日、 EU・米国間の改正TFTP協定にかかる欧州委員会の最終協定案(COM(2010) 316 final) (全20頁)
http://www.edps.europa.eu/EDPSWEB/webdav/site/mySite/shared/Documents/Consultation/Opinions/2010/10-06-22_Opinion_TFTP_EN.pdf
欧州個人情報保護監察局(EDPS)による欧州委員会改正協定案(COM 316)への公式意見書

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パリ控訴院 タンカー沈没による環境汚染で国際石油会社トタル等の有罪判決を支持(その2完)

2010-04-17 15:15:43 | EU加盟国・EU機関の動向

(2) パリ大審裁判所刑事法廷判決における法律等の解釈
 裁判所は「環境法は有責者の過失責任の追及には直接または近因原因を与えたことを要しない」と考え、トタルの責任はチャーター主または積荷主としてではなく船舶の航行につき“Ship Vetting Services”の責任者としての管理責任を問うている。“Ship Vetting Services”とは、「船主の評判」、「過去の検査記録」、SIRE(Ship Inspection Report Programme)

CDI(Chemical Disribution Institute)」、「manning」等に代表される様々な情報をもとに、各船に評価・点数付けをする情報管理システムであり、傭船時の参考に供されるものである。(Vetting Servicesの内容につき詳しくは「国際タンカー船主協会(intertanko)」のサイト等で確認できる)

 このヴェッティングの利用慣行は、輸送を外部委託するという主要石油メジャーの取組により準備された。メジャー自身が所有する船団を売り払い、特定の会社からタンカーを雇い入れて石油の搬送を始めたとき、船舶の安全性等にかかる情報管理システムである“vetting system”を導入した。
 石油会社は調査を命じ常時アクセスできる「船舶調査報告(Ship Inspection Report)」と呼ばれるデータベースを調べた結果を記録することでタンカー等輸送追跡を維持した。この慣行は任意であり、石油会社の好意に依存する。

 パリ大審裁判所の裁判官は、トタルの行為はエリカ号につき次のような情報があるにも拘らずチャーターしたこと自体が「無謀(recklessly)」であったと判断した。
①トタルが情報管理システム(vetting system)を利用して調べた時点で、エリカは造船後23年経過していた。
②エリカ号は3つの国の旗と8つの異なる名前をもっていた(旗の変更は船の所有権が移転していることを想定させる)。また、エリカ号は4社の査定会社により分類・査定されているが、最新の3か月前(5年間の特別調査の間)に4社の管理会社により取組まれていた。
③エリカ号が搬送するものは極めて腐食性の高いものであった。

(3)民事責任に関する裁判所の判断
 原告の大部分は、すでに汚染に伴う物質的損害に関し「国際油濁補償基金(IOPCF)」または国から何らかの補償を得ていた。裁判所は原告に物質的な損失が残っており(すなわち、IOPCFからの補償が支払われなかった)、また観光地である地元は風評低下や公共的な損失を被ったと判断した。
 最終的に、裁判所は環境面での被告に損失補償の請求権を認めたのである。

(4) Christine Gateau弁護士のパリ大審裁判所刑事法廷判決へのコメント
 刑事裁判では、通常、裁判所は被告に対し最も処分の軽い法律を適用する。また法律を厳密かつ狭義に解釈しなければならない。
 本件の場合、裁判所の「MARPOL条約」の適用を回避する試みはこれらの2つの原則をひそかに侵害した。
 海洋汚染につき損害をもたらした目的物(タンカー)につき被告に適用した「事実上のコントロール(de facto control)」の概念は刑事責任の範囲を広げた。法廷はとりわけ石油の輸送チェーンの他の主役が破産するなどから、最も資産を持つ先(トタル)を対象とすべく国内法や国際法を解釈したと思われる。そのような法解釈は懸念材料である。

 エリカ号判決は、諸刃の剣である。一方では、石油会社に対し海事事故やその責任を回避するため石油製品の搬送システムの見直しに導くことになる。しかし、他方では石油会社に対し(1)新たな規則等による責任回避の試みや、(2)スペイン沖で沈没した石油タンカー「プレステージ号」の場合のように貨物の主有権が一時的に十分な支払能力のない会社に譲渡されるといったより不透明(more opaque)なシステムの導入を誘導する可能性がある。
 また、既存の立法のもとで責任の根拠を提供するなら会社にモニタリング・システムの利用を思いとどまらせることになるかも知れない。

(5)環境被害に関する損害裁判(Christine Gateau弁護士の解説)
 今回の大審裁判所の判決は環境被害に係る初めての判決ではないが、エリカ号判決は注目すべき判決ではある。最も重要な点はこの主の海洋汚染事故における補償問題のガイダンスを提供する。

 今回の判決で裁判所は環境法第142-2条に基づき一定の条件の下でフランス環境保護協会(French environmental associations)自身による環境保護に関する損害賠償請求権を明確に認定した。(筆者注19)
 損害賠償請求権の決定の際、裁判所は汚染の規模、汚染の結果に対する同協会の役割および国内および国際的に見た協会の特性を説明しなければならない。

 フランスの行政機関は、特定の領域に関し環境の保護、管理および保全につき責任を負い、従って汚染につき脆弱性のある地域での実際の損害内容や証明すべきかたちでの地理的限度を環境面の損失補償を請求しなければならない。

 エリカ号事件で裁判所は、ブルターニュ地方のモルビアン県当局(Département du Morbihan)とフランス鳥類保護連盟(Ligue pour la Protection des Oiseaux:LPO) (筆者注20)の請求につき、前者については100万ユーロ(約1億2,700万円)、後者については30万ユーロ(約3,810万円)をそれぞれ認めた(なお、筆者は判決文にもとづき正確に確認できていないが、LPOのパリ控訴院判決に関するプレス・リリースではLPOは同義的責任賠償(10万ユーロ)、物質的損害賠償(30万ユーロ)および環境破壊に関する責任(30万ユーロ)につき裁判所の支持が得られたと述べている)。

 その他の原告は裁判所が証拠として認めるため必要とする条件を充足しなかったため棄却された。しかしながら、本判決は損害補償に当るフランスの伝統的補償原則の考えが守られ、とりわけ懲罰的損害賠償の考えは否定された。

5.タンカーによる海洋汚染対策にかかる米国やEU主要国の法整備の状況
 「油流出による海洋汚染をいかに最小限にとどめるかは、事故を想定して事前にいかに準備するかにかかっている。過去に大きな事故を経験し、その一方では石油開発を発展させてきた英国や米国は、未然防止のために多額の資金を配分するようになった。事故が起きてから除去費用や賠償費を支払うよりも、防止のために資金を振り向けた方が安上がりであることを石油メジャーは経験で学んだのである。油濁防止の先進国である英国及び米国は、法律に裏付けされた緊急時対応計画を準備しており、周到な事故対策措置をとっている。」( 「石油流出に関する危機管理体制の国際比較」より引用)

(1)海洋汚染対策
 IMO(当時はIMCO)は、1973 年に海洋汚染に関する国際会議を開催し「1973 年の船舶からの汚染の防止に関する国際条約」を締結した。この条約は、規制対象となる油の範囲を従来の重質油だけでなく全ての油に拡大するとともに、有害液体物質、汚水等も規制対象に含めること等によって海洋汚染を防止するための包括的な規制を指向した内容となっている(その後。1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年議定書( International Convention for the Prevention of Pollution from Ships, 1973, as modified by the Protocol of 1978 relating thereto)いわゆる「MARPOL 条約(MARPOL 73/78)」が採択された。

 本議定書は、1983年(昭和58年)10月2日に発効(議定書の規定により、附属書IIについては、1987年(昭和61年)4月6日に発効)し、わが国においても「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(昭和45年12月25日法律第136号)を全面改正し、同日から議定書の規定を施行した。なお、議定書の附属書のうち、附属書I(油に関する規則)および附属書IIは強制附属書として議定書締約国は全て実施する義務があるが、附属書III(船舶からのふん尿等の排出に関する規制)~V(船舶からの廃棄物の排出に関する規制)については選択附属書として実施を選択できることとされている。
 
(2)国際的な油濁汚染補償制度
 石油タンカーの積荷である原油や重油等(いわゆる黒油)および燃料油である重油の油濁事故については、「1992年の油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(1992年責任条約)International Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage)CLC」および「1992年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(1992年国際基金条約)International Convention on the Establishment of an International Fund for Oil Pollution Damage)FC」の油濁2条約による補償体制が確立されている。油タンカー以外の船舶の燃料油による油濁事故については「海事債権についての責任の制限に関する条約(Convention on Limitation of Liability for Maritime Claims:LLMC)」の枠内で対処されてきた。

 このため、これら油濁事故による損害に対して確実な賠償を確保する観点から、1996年より保険付保の強制化を主な目的としてIMO法律委員会で審議されてきた。その結果、「燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(International Convention on Civil Liability for Bunker Oil Pollution Damage:通称バンカー条約)」に関する外交会議が開催され、2001年3月23日に採択された。(筆者注21)

 一方、IMO では、海洋汚染防止に関する国際世論の高まり等を背景に、条約の改正を行ってきており、2004年年4 月には、附属書IV(船舶からのふん尿等の排出に関する規制)および附属書V(船舶からの廃棄物の排出に関する規制)の改正案が、第51 回海洋環境保護委員会(MEPC51)において採択されている。

(3)米国の法整備と危機管理体制
 エクソン・バルディーズ号の事故を契機に、「1990 年油濁法(Oil Pollution Act of 1990:OPA)(33 U.S.C. 40)」が成立した。その内容は石油業界からみれば極めて厳しく、環境保護の立場からみれば最も先駆的な内容といわれている。

 なお、主要国がIMO の国際条約に加盟し、それらに準拠して国内法を定めているのに対し、アメリカはこれらに加盟せず、諸外国では受け入れ難いような厳しい条件をつけたOPA.を油流出事故の法的根拠にしていることが特徴である。

 また、危機管理体制としては、①国家緊急時対応計画NCP:National Contingency Plan、②地域緊急時対応計画RCP:Regional Contingency Plan、③地区緊急時対応計画ACP:Area Contingency Plan がある。

(4)英国の法整備と危機管理体制
 英国の緊急時対応計画は、1995 年the Merchant Shipping Act(1997 年修正)および国際条約であるOPRC 条約に準拠している。1998 年the Merchant Shipping
(Oil Pollution Preparedness, Response and Co-operation Convention) Regulations は、特に港湾当局に対して国家緊急時対応計画と互換性のある石油汚染緊急計画を作成することを義務付けている。

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(筆者注19) このような解釈については、ロンドン大学キングズカレッジのダナイ・パパドプロウ博士(Danai Papadopoulou)が「環境破壊におけるフランス環境保護協会の役割―エリア号事故における優遇(The Role of French Environmental Associations in Civil Liability for Environmental Harm: Courtesy of Erika)」論文で論じている。

(筆者注20) フランス鳥類保護連盟は鳥類を指標に、その生息環境の保護を目的に活動する国際環境NGO「バードライフ・インターナショナル(BirdLife International)(本部・英国ケンブリッジ)」のフランスのメンバー団体である。

(筆者注21) 日本船主協会サイトの解説等から引用。

[参照URL]
http://www.foe.co.uk/resource/briefings/wake_erika_oil_spill.html(世界的NGOであるFriend of the Earthのエリカ号事件に係る環境破壊対策の英国政府への働きかけ声明文)
http://www.total.com/en/about-total/special-reports/erika/legal-proceedings-601454.html(トタルのHPにおける裁判の経緯解説)
http://www.total.com/en/about-total/news/news-940500.html&idActu=2329
(2010年3月30日のパリ控訴院判決を受けた解説:トタルのHPにおける裁判の経緯解説)
http://jurist.law.pitt.edu/paperchase/2010/03/france-appeals-upholds-oil-company.php(ピッツバーグ大学ロースクールのPaperchase:控訴院判決の解説)
http://www.internationallawoffice.com/Newsletters/Detail.aspx?g=ebb82b1d-afeb-4701-84af-762ef0191a4b&redir=1(弁護士Christine Gateau氏の判例評釈論文)
http://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do;jsessionid=BD182B0988E5B9B577EC049127DA110A.tpdjo04v_2?idArticle=LEGIARTI000006833265&cidTexte=LEGITEXT000006074220&dateTexte=20080802 (フランス環境法第218-22条)
http://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do;jsessionid=D9E3E89971016C30919295E48ABBA962.tpdjo04v_1?idArticle=LEGIARTI000006832963&cidTexte=LEGITEXT000006074220&dateTexte=20080324(フランス環境法第142-2条)
http://www.imo.org/Conventions/mainframe.asp?topic_id=255 (IMOの「MARPOL条約(MARPOL 73/78)」に関するサイト)
http://www.imo.org/Conventions/contents.asp?topic_id=256&doc_id=666(バンカー条約の内容)

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パリ控訴院タンカー沈没による環境汚染で国際石油会社トタル等の有罪判決を支持(その1)

2010-04-17 14:29:45 | EU加盟国・EU機関の動向

 

 Last Updated:April 1,2021

 2010年3月30日、フランスのパリ控訴院(Cour d’appel de Paris)は1999年12月12日に発生した老朽タンカー「エリカ号(Erika)」の沈没とそれに伴うフランス史上最悪というブルターニュ海岸の重油汚染問題につき2008年1月16日に出された第一審のパリ大審裁判所(Tribunal de grande instance)刑事法廷の判決を支持し、エリカの依頼主である「トタル(Total.S.A.) (筆者注1)および老朽船(25年前に建造され腐食問題等があった)の航行性・安全性認定につき十分な検査義務懈怠につきイタリア国際船級認定協会会員会社リナ(RINA) (筆者注2)に各37万5,000ユーロ(約4,613万円)の過失・注意義務違反による「罰金刑」を言い渡した。

 また、これら2社はフランスの複数の地方自治体や団体等に対する「損害賠償金」として各2億60万ユーロ(約250億円)の支払が命じられた。

 さらに個人の責任に関しては、エリカ号の船主であるジュゼッペ・サバレーゼ氏(Guiseppe Savarese)と同船の技術・海運管理者であるアントニオ・ポララ氏(Antonio Pollara)に対し各7万5,000ユーロ(約9,450万円)の最高額の罰金刑が科された。

 この裁判問題は、フランス・ドイツだけでなく米国のメディアやロースクール (筆者注3)も環境法裁判問題として大きく取り上げられている。しかし、わが国では一部のブログ等で紹介されているのみである。(今回のブログ原稿執筆中にも4月3日午後5時過ぎ、オーストラリアのグレート・ケッペル島から約70km東の浅瀬で中国最大の海運グループ所有(中远集团(Cosco Group)の石炭バルク船「深能一號(Shen Neng 1)」(筆者注4)が座礁したニュースが入ってきた。深能一號は1993年製造、全長230m、65,000トンの石炭と950トンの燃料重油を積んでおり、重油がすでに漏れ出しており、今後、船体が折れる恐れもありクイーンズランド州政府は連邦政府と対策を協議していると現地メディアが報じている)。

 世界的に見てわが国の原油輸入量は最大規模である。今後のわが国の石油資本のチャーター責任等を問われうる問題として現時点での可能な限り正確な内容を紹介する。またエリカ号は日本が造船した船であり、わが国でも 老齢シングルハルタンカーの油流出事故を契機とした造船・保守・安全技術等から見たわが国の対応や、国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)(筆者5)を中心とする課題の取組等が行われているが (筆者注6)、専門外の筆者はあくまで裁判の過程およびフランス環境法の海事事故罰則法等を中心に紹介する。

 海に囲まれたわが国では1997年1月大しけの島根県沖において、C重油約19,000キロリッター(k/l)を積んで上海からペトロパブロフスクへ航行中のロシア船籍タンカー「ナホトカ号」(建造後26年経過)に破断事故が発生、沈没した事故の記憶も新しい。(筆者7)

 なお、筆者は本文で述べるとおり今回の判決の根拠となる「環境法」の罰則規定とパリ控訴院の判決文との比較が必須と考えたが、現時点では判決分野や詳細な解説資料は入手できていない。(筆者注8)トタル等被告は今後フランスの最高裁に当たる破棄院(Cour de Cassation)(筆者注9)への上告の可能性につき判決内容に基づき慎重な見直しを行っており、裁判の経緯はなお環境裁判の先例として注目すべき問題といえる。

 今回は、2回に分けて掲載する。

1.事実関係と裁判の経緯 (筆者注10)
 1999年12月12日、トタルがチャーターした有害性の高い燃料(toxic fuel)C重油約3万トン以上を搭載したマルタ船籍タンカー「エリカ号」が荒天の中で2つに分断した。(筆者注11)
約2万トン以上の有害燃料がフランス西ブルターニュから30海里のガスコーニュ湾に流失し、約400キロメートル以上のフランスの海岸は継続的な汚染を被り15万羽以上の鳥が死んだ。

 7年間にわたる調査に続き、13週にわたる裁判所の審理の後、2008年1月16日にパリ大審裁判所刑事法廷は最終的かつ海事法や海洋汚染環境問題で最も重要な影響を持つ判決を下した。(筆者注12)

2.海運事故の複雑性の背景
 1980年代以降、メジャーズはより安価な搬送船隊をセールスし始めたが、石油の船舶での搬送体制はますます複雑化している。すなわち多くの会社が関わり以下述べるとおりエリカの最後の輸送旅で見られるとおり、責任関係も極めて不明確になってきているのが現実である。
①エリカ号の所有者はマルタのテヴェーレ・シッピング(Tevere Shipping)であるが、その主たる株主がジュゼッペ・サバレーゼ氏である(同氏はロンドン住で個人としてエリカ号の財務、管理、法律、商業、船体保険およびP&I保険につき責任をもつ立場であった)。
②船級証書の発行担当の船級認定会社は、イタリアのRINAであった
③エリカ号は日本で1975年製造された(他の同規模のタンカーより鉄鋼が10%少ないなど安価なことから非常に人気のある船であった)。
④エリカ号はマルタ国旗(マルタ国籍)を掲げていた。(筆者注13)
⑤期間契約傭船主(time charter)はセルモント・アームシップ(Selmont Armship)であった。
⑥トタルは、所有者のほか、船積会社、航海チャーター主、安全保障機関(vetting agency)という4つの法人格として活動していた。

 原告は、フランスの州(province(地域圏))、環境保護協会、フランス沿岸地域、重油の撤去に多大な負担を負った関係機関、町等であった。

 さらに驚いたことに、パリ大審裁判所刑事法廷は通常海運オイル流失等の補償機関である「国際油濁補償基金(IOPCF)」による補償を否定した。

3.裁判の経緯
(1)2005年11月、ダンケルク商業裁判所(Tribunal de Commerce de Dunkerque) (筆者注14)が指名した専門家グループによる司法調査(judicial inquiry)が完了した。

(2)2007年2月~6月、パリ大審裁判所刑事法廷 (筆者注15)で審理が行われた。

(3)2008年1月16日パリ大審裁判所刑事法廷判決が下りた。1月末にトタルや検事および数人が判決を不服として控訴した。1月16日、トタルの同判決の解説。

1月25日、トタルは(1)汚染の犠牲者に直ちにかつ取消不能な形で裁判所が定めた補償金を支払うこと,

(2) 海上輸送の安全性を向上させるという望ましい目標に反し、不当であると判断した裁判所の決定に対しては上訴する、旨公開した。

(4)2009年1月5日、パリ控訴院で控訴審理手続が開始された。

4.パリ控訴院判決を巡る法的論点
 パリ控訴院判決が支持した2008年1月のパリ大審裁判所刑事法廷判決につき筆者の友人もいる国際的なロー・ファーム“HoganLovell LLP”の海事法専門の若手弁護士Christine Gateau氏の論文「裁判所は重油流失にかかる待ち焦がれた判決を下す(2008年4月30日 Court Issues Long-Awaited Decision on Oil Spill Liability)」が詳細な分析を行っており、本ブログでも全面的に引用した。類似のものがないだけに貴重な分析論文である(なお、ガトー弁護士の論文は登録(無料)しないと閲覧は出来ない)。

Christine Gateau氏

(1)フランス環境法の刑事責任の規定内容
 後述する「MARPOL条約」は、船長(commanding officer)や船主(owner)等は海洋汚染を引き起こす原因となる行為を意図をもって行ったとき、または当該行為が炭化カーボン(Hydrocarbons)の流失原因に関し船に損傷を与えるであろうことの蓋然性を認識していたときのみ責任を問われると定める。

 しかしながら、フランスの2010年4月3日最新改正統合版「環境法(Code de l'environnement)」(筆者注16)Article L218-10条 (筆者注17)はこのMARPOL条約に規定にかかわらず別の原則すなわちArticle L218-22条に基づく構成要件を異にした刑事罰を定める旨明記している。(筆者注18)

 すなわち、同条(L218-22)は概要次のとおり定める(筆者が仮訳)。
第Ⅰ項「フランスおよびその他の船籍の船長等船舶や石油プラットフォームのコントロール責任者が刑事法典121-3条に定める条件のもとで軽率(imprudence)、過失(négligence)または法律・規則の不遵守(inobservation)を引き起こしたとき、および1969年「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」に定める領海、公海上で海難事故につき炭化カーボンの流失の回避等の措置を怠ったときは、現行規定に基づき罰することができる(Sans préjudice des peines prévues)。
 当該違反行為が218-10条に言う船舶や石油プラットフォームにあたるときは、2年以下の拘禁刑および20万ユーロ(約2,500万円)以下の罰金刑を科す。」

第Ⅱ項「第1項に定める海事事故が、直接または間接的に法律や規則等に基づく特別な安全および慎重保持義務の明らかな意図的違反であり、環境に対する重大な被害を与えたとされるときは、次の各号の刑に処する。
第1号 船舶または石油プラットフォームが218-10条にあたるときは5年以下の拘禁刑および 50万ユーロ(約6,250万円)以下の罰金刑を科す。

第2号 船舶または石油プラットフォームが218-11条および218-12条にあたるときは、3年以下の拘禁刑および 30万ユーロ(約3,750万円)以下の罰金刑を科す。

第3号 船舶または機器が218-13条にあたるときは、6,000ユーロ(約75万円)以下の罰金刑を科す。
その違反行為が218-10、218-11および218-12にあたる船舶および石油プラットフォームにあたるときは、積荷の価値またはチャーター料(la valeur de la cargaison transportée ou du fret)の2倍相当額までを科すことができる。

第III項 本条第2項第1段落につき、以下の刑を併科できる。

第1号 違反行為が218-10条にあたる新造船により行われたときは、7年以下の拘禁刑および70万ユーロ(8,750万円)以下の罰金刑。

第2号 218-11条および218-12条にあたる船舶によるときは、5年以下の拘禁刑および50万ユーロ(6,250万円)以下の罰金刑。

上記罰金刑は、船舶の価値または積荷の価値またはチャーター料の3倍相当額までを科すことができる。

第IV項 本条第Ⅰ項、第Ⅱ項に定める罰則は、汚染原因を生じさせた船舶等の所有者、法律上の代表者(法人の場合、船舶および油プラットフォームの運行命令権を有する船長等)運航管理責任者に対し適用する。

第V項 現行規定により船舶の重大な安全性、および人命の危険ならびに環境汚染の回避のための投棄行為は罰することは出来ない。 

なお、フランス環境法は船舶やプラットフォームの積載量等により罰則の内容を定めており、関係条文である同法第218-10条、218-11条、218-12条につき参考までに仮訳しておく。

第218-10条
第Ⅰ項 フランス船籍の船長は、「1973 年の船舶からの汚染の防止に関する国際条約」および「MARPOL 条約(MARPOL 73/78)」ならびにその後の改正内容に基づき次の区分に該当する船舶による汚染につき10年以下の拘禁刑および100万ユーロ(約1億2700万円)以下の罰金に処する。
第1号 タンカーで総トン数が150バレル以上のもの。
第2号 タンカー以外で船舶の燃料タンク容量の総トン数が500バレル以上のもの。

第II項 上記現行規定による罰則は. フランス籍のプラットフォームにつき責任を有するものがMARPOL 条約附則第9、第10に定める違反行為を行ったときに適用する。

第III項 第Ⅰ項の罰金刑は、船舶の価値または積荷の価値の4倍相当額までを科すことができる。

第218-11条
フランス船籍の船長は、218-10条にいう条約の基づきMARPOL 条約(MARPOL 73/78)」ならびにその後の改正内容に基づき次の区分に該当する船舶による汚染につき7年以下の拘禁刑および70万ユーロ(約8,890万円)以下の罰金に処する。

第1号 タンカーで総トン数が150バレル未満のもの。
第2号 タンカー以外で船舶の燃料タンク容量の総トン数が500バレル未満でかつ設置推進力が150キロワット以上のもの。

第218-12条
第218-11条にいう刑罰は、第218-10条に定めるMARPOL 条約(MARPOL 73/78)」附則第9、第10に定める海への投棄の違反行為を行ったすべての港湾用エンジン付船舶、曳航用または後押し用エンジン付大型はしけ(tous engins portuaires, chalands ou bateaux citernes fluviaux, qu'ils soient automoteurs , remorqués ou poussés)に適用する。

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(筆者注1) 「トタル」はフランスを代表する国際石油ガス企業。英語名はTotal S.A.で、「トタール」ともいう。2000年にフランスの国際石油企業Total Fina SAおよび同じくフランスの国営石油会社Elf Aquitaine SAが合併してTotalFinaElf SAとして設立された。2003年に社名をTotal S.A .に変更した。世界各地で石油・天然ガスの探鉱、生産、輸送、石油精製・販売、石油化学および発電の事業を行っている。2006年の売上高は約1,300億ユーロ(約16兆3,800億円)、従業員数は約9万5,000名、純利益は約120億ユーロ(約1兆5,100億円)、保有する石油・天然ガスの確認可採埋蔵量は約110億バレル(石油換算)である。

(筆者注2) 日本の国際船級認定機関である「ClassNK」は、世界の90か国以上の政府から、その国に船籍を置く船舶に対して、海上における人命の安全のための国際条約、満載喫水線に関する国際条約、船舶からの汚染の防止のための国際条約、あるいは船籍国の国内規則に基づき検査を行い、証書を発行する権限を与えられている。エリカ号も最初の船級認定協会はClassNKである。
 今回の裁判の被告であるRINA (Registro Italiano Navale )も、ロイズ等と同様、国際船級認定機関である。

(筆者注3) エリカ号事件についてはピッツバーグ大学ロースクールの情報サイト“Jurist Paper Chase”が3月30日に報じている。そこでは、重油の流失事故に基づき厳しい罰(懲罰的損害賠償)を受けた事例として1989年3 月24 日エクソン・バルディーズ号がアラスカのプリンス・ウィリアム・サウンドで座礁して船体が亀裂し、41,600k/l の原油を流失した事故を取り上げている。

 本海事裁判では、裁判所により物的損害賠償のほかに懲罰的損害賠償(懲罰的損害賠償は、主に英米法において用いられる制度であり、加害者の不法行為の非難性が特に強い場合に抑止・制裁の意味を込めて実際の損害補填としての賠償に上乗せされて課される賠償のことを指す)が科された。

 この裁判について筆者なりに独自に調べたところ、元大東通商 安藤誠二氏「連邦海事法に於ける懲罰的損害賠償金 Exxon Valdez 号事件連邦最高裁判決 Exxon Shipping Co. et al v. Baker et al (USSC No. 07-219, Decided June 25, 2008)」において下級審から連邦最高裁判決にいたる長期間の裁判判決の内容を逐一詳細にまとめている。

 エクソン裁判についてはWikipediaでも詳しく解説されておりここでは省略するが、米国の懲罰的損害賠償制度についてはわが国でも最近、消費者庁「集団的消費者被害救済制度研究会」等の場で検討が行われており、おおもとの米国でもそのあり方を巡る一連の連邦最高裁判決や議論が高まっているといえる。

 安藤論文に基づきエクソン裁判の争点を整理すると次のとおりとなる。

Phase I(Exxon 社とHazelwood 船長の無謀(recklessness) 認定と付帯する懲罰的損害賠償金の可否)、Phase II(漁業者とアラスカ原住民に対する填補損害賠償金の確定)、Phase III(懲罰的損害賠償額の決定)の3 段階に分かれた。

Phase I では、Hazelwood 船長の酒癖、事故当夜の行為、および酒癖治療の無効化につきアンカレジ地方裁判所の陪審は、Hazelwood 船長とExxon 社が共に無謀であり、そのため懲罰的損害賠償金の責任妥当性があると判断した。

Phase II で同陪審員は漁業者に対する填補損害賠償金を2 億8,700万ドル(約266億9000万円)と裁定した。
 また、アラスカ原住民は2,250 万ドル(約20億9,200万円)の填補損害賠償金で和解した。

さらに、Phase III では、陪審はExxon 社に対して50億ドル(約4,650億円)、Hazelwood 船長に対して5 ,000ドル(約46万円)の懲罰的損害賠償金を評決した。これをエクソンが不服とし控訴しまさに地裁、連邦控訴裁、連邦最高裁を行き来するロングラン裁判が始まったのである。

 なお、安藤論文は2008 年7 月23 日脱稿であることから連邦最高裁から差し戻された後の第9巡回区連邦控訴裁判所の判決については言及していない。
 このため、筆者は2009年6月15日の同控訴裁判所の差し戻し判決内容につき補足しておくと、最終的に原告は請求権発生日からの利息約7,000万ドル(約65億1,000万円)を含む5億750万ドル(約472億円)を受け取ることとなった。

(筆者注4) 「深能一號」は中国最大の海運会社「中远集团総公司(Cosco Group:コスコ・グループ)」の所有船であり、詳細はWikipedia でも紹介されている。 IMOの船舶登録番号:9040871 1993年築 DWT(積載重量トン) 70181トン、 中国コスコ・グループ(COSCO グループ所有船)である。
 なお、4月7日夕方、筆者は中远集团HPの船舶所有一覧で「深能一號」を探したがなぜか見当たらなかった。

(筆者注5) 国際海事機関(International Maritime Organization : IMO)については外務省のサイトで詳しく解説されている。

(筆者注6) わが国の資料としては、 平方 勝ほか 先進的構造研究プロジェクトレポート「 単船殻タンカー延命使用(CAS適用)に関連するIMOの動向」(「タンカーによる大規模油汚染の防止対策に関する研究」の中の「ダブルハルタンカーの構造の経年劣化に関する研究」の成果のひとつ)、「油流出に関する国際シンポジウム(石油連盟主催の国際会議):「タンカー事故:周辺国の蒙る被害と課題 - 経済的・技術的視点から -」2003年2月における川野 始「タンカー構造と船体の破損強度について」、岩瀬 嘉之「IMOバラストタンク塗装性能基準と当社(大日本塗装株式会社)の国内認証制度への対応」等を参照した。

(筆者注7) 1997年1月2日未明,大しけの日本海(島根県隠岐島沖)において、暖房用C重油約19,000k/lを積んで上海からペトロパブロフスクへ航行中のロシア船籍タンカー「ナホトカ号」(建造後26年経過)に破断事故が発生、船体は水深約2,500 mの海底に沈没し、積み荷の重油は、約6,240 k/lが海上に流出。また、海底に沈んだ船体の油タンクに残る重油約12,500 k/lの一部はその後も漏出を続けている。(福井県衛生環境研究センターサイトから引用)。

 この被害に対する補償裁判について紹介しておく。1999年11月、地方公共団体、漁業関係者、観光業者などは、福井地方裁判所において「船主(プリスコ・トラフィック・リミテッド(ロシア)、「P&I 保険(船舶所有者または裸用船者が船舶の運航・使用または管理に伴って発生した法律上の賠償責任や費用を負担することによって被る損害に対して支払いする賠償責任保険。賠償金の額はその事故の大小にかかわらず、契約の際に取り決めた「事故てん補限度額」を限度とする。)会社」および「国際油濁補償基金(IOPCF)」を被告とする訴訟を開始した。同年12月、国(海上保安庁、防衛庁、国土交通省) および海上災害防止センターは、船主および船主責任保険組合:UKクラブ(UK P&I Club:英国)に対する請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。

 その結果、2002年8月30日、国および海上災害防止センターが、ナホトカ号の船舶所有者に対して油防除により生じた損害賠償の支払いを請求した訴訟は和解した。これを受けて、地方公共団体、電力会社、観光業者並びに漁業関係者などが、船主・P&I 保険会社および国際油濁補償基金に提起していた訴訟も和解に至った(国や地方自治体等の請求総額358億1,400万円に対し補償総額は261億2,700万円である)。(地球環境研究Vol.8(2006)「ナホトカ号重油流出事故における地方公共団体の補償請求の査定基準について」国土交通省の公表資料から引用。

(筆者注8) 本文で述べるとおり、フランス環境法に定める罰則は罰金以外に拘禁刑もある。その意味で筆者はなぜ裁判所は個人責任があると判断したにもかかわらず拘禁刑を判示しなかったのかを判決文等で確認する必要があった。

(筆者注9) 破棄院はパリに1 庁設置されており、下級裁判所の判決に対する例外的不服申立てである破棄申立てを管轄する。

(筆者注10) 事実関係については裁判所の判決文が入手できていないため、トタル社公式サイトの情報控訴時の対外向け文書(Understanding ERIKA Appeal )(海事に関する専門用語の解説も兼ねている)国際的な海事事故補償制度や原告団の構成など詳しい)の解説等で補強した。

(筆者注11) エリカ号の沈没時の詳しい模様(動画)はトタルの特別レポートサイトで見ることができる。Timelineの画面右のvideoをクリックする。

(筆者注12) 主要国に支部を置き世界的な規模で環境問題に取組んでいるNGO“Friends of the Earth”の英国支部は2000年2月、環境破壊の側面かエリカ号事件を取り上げ、英国政府への強力な働きかけの声明文で訴えている。今回のブログではその詳細な内容の紹介は略すが、環境破壊の現実を踏まえた詳細な分析を行っている。

(筆者注13)「 船舶の国籍と管轄権問題」については海事国際法専門の山尾徳雄「船舶の国籍と管轄権」が参考になる。

(筆者注14) フランス司法省の商業裁判所の解説を参照されたい。

(筆者注15) 大審裁判所(Tribunal de grande instance)は、各地に181庁設置されており、その管轄は次のとおりである。

(A) 訴額が1 万ユーロ(約127万円)を超える民事事件の個人や法人の第一審を一般的に管轄する。3人の裁判官(裁判長、副裁判長、判事)の合議による審理が原則だが、家族間の紛争や子供に関する裁判等は単独裁判官による審理も行われる。各県に少なくとも1 庁は設置されている。なお、特許侵害訴訟第一審は、パリ等の10 庁の大審裁判所のみで審理され、第二審も、第一審と対応する10庁の控訴院で審理される。

(B) 刑事事件については、法定刑として10年以下の拘禁刑または3,759ユーロ(約48万円)以下の罰金にかかる犯罪に係る刑事事件の第一審を管轄する。原則として、3 人の裁判官の合議による審理が行われる。大審裁判所の刑事部は、一般に軽罪裁判所(Tribunal correctionnel:Criminal Court)と呼ばれている。

(C)大審裁判所には予審判事(juge d'instruction)が配置されている。予審判事は、重罪に対しては義務的に、軽罪および違警罪に対しては任意的に予審を行う。予審においては、犯罪の証拠収集および犯罪者の特定を行い、罪名を決定し、事実審理を管轄する各裁判所に当該事件を送付するか否かの決定を行う。その他、予審対象者に対する勾留の決定、保釈の許否等の決定を行う。(http://www13.atwiki.jp/japan-lm/pages/119.htmlを参照した。ただし、正確性を確保するため、フランス法務省および電子政府サイトである“Service –Public.fr”および“Legifrance.gouv.fr”の該当条文にもとづき修正した) 。

(筆者注16) フランス環境法の前回改正は、2004年3月である。

(筆者注17) フランス環境法の構成につき簡単に説明しておく。原文は“Legifrance.gouv.fr ” で検索すると分かりやすい。
今回問題となる刑事罰とMARPOL条約との関係に関する条文は、同法第1巻第1編第8章第1節第2副節第1パラグラフ(Livre Ier :Titre Ier :Chapitre Ier:Section 1:)が「違法行為と刑罰」に関する諸規定である(L218-1からL218-24である)。

(筆者注18) 2003年作成された資料であるが、フランスの海洋汚染事故研究センター(cedre:Centre de documentation et d'experimentations sur les pollutions accidentelles des eaux)」の海事事故に係る立法と刑事罰など処罰の規定(英文) 資料は貴重な資料である。また、環境法の条文内容は現行(筆者注9参照)の規定内容である。

[参照URL]

https://www.foei.org/press_releases/archive-by-subject/forests-and-biodiversity-press/prestige-oil-tanker-sinking-today-make-oil-companies-liable-damage-says-friends-earth
(世界的NGOであるFriend of the Earthのエリカ号事件に係る環境破壊対策の英国政府への働きかけ声明文)
http://www.total.com/en/about-total/special-reports/erika/legal-proceedings-601454.html(トタルのHPにおける裁判の経緯解説)

https://www.total.com/media/news/press-releases/paris-court-appeal-judgment-sinking-erika
(3月30日のパリ控訴院判決を受けた解説:トタルのHPにおける裁判の経緯解説)
http://jurist.law.pitt.edu/paperchase/2010/03/france-appeals-upholds-oil-company.php(ピッツバーグ大学ロースクールのPaperchase:控訴院判決の解説)
http://www.internationallawoffice.com/Newsletters/Detail.aspx?g=ebb82b1d-afeb-4701-84af-762ef0191a4b&redir=1(弁護士Christine Gateau氏の判例評釈論文)
http://www.internationallawoffice.com/Newsletters/Detail.aspx?g=ebb82b1d-afeb-4701-84af-762ef0191a4b&redir=1 (フランス環境法第218-22条)
http://www.legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do;jsessionid=D9E3E89971016C30919295E48ABBA962.tpdjo04v_1?idArticle=LEGIARTI000006832963&cidTexte=LEGITEXT000006074220&dateTexte=20080324(フランス環境法第142-2条)

https://www.imo.org/en/About/Conventions/Pages/International-Convention-for-the-Prevention-of-Pollution-from-Ships-(MARPOL).aspx  (IMOの「MARPOL条約(MARPOL 73/78)」に関するサイト)

https://www.imo.org/en/About/Conventions/Pages/International-Convention-on-Civil-Liability-for-Bunker-Oil-Pollution-Damage-(BUNKER).aspx (バンカー(Bunker)条約の内容)

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EU議会未承認のまま暫定発効したEU米国間のSWIFTテロ資金追跡プログラム利用協定(その3完)

2010-02-15 09:30:58 | EU加盟国・EU機関の動向

(7)2010年 2月5日、欧州議会議長宛の米国財務長官および国務長官連名の親書
 ガイトナー財務長官とクリントン国務長官の欧州議会イェジ・ブゼク議長(元ポーランド首相(President Jerzy Buzek))宛親書の要旨を紹介する。
 EUや米国のテロ阻止の基本姿勢を踏まえ、リスボン条約下において引続きEUや米国の市民の安全やプライバシー保護にとって重要な意義をもつTFTPの成立について協力を求め、またこの協議を安全面やプライバシー面からより深めるため技術面や法律の専門家による検討や欧州議会と米国議会の代表によるTFTPの監視責任についてのハイレベル協議の働きかけを提案する内容となっている。

(8)2010年2月9日、欧州連合理事会の暫定協定支持の声明
 同理事会は従来理事会が主張してきた暫定協定の内容が、EU市民の人権保護面からの措置を手当てしているとするものである。しかし最後の部分で、リスボン条約の新体制下で議会とTFTPの長期的検討の重要性を訴えるなど微妙に異なる点もある。

(9)2010年2月11日、欧州議会本会議(plenary session)決議?
 欧州議会本会議では、共同決議になる可能性の意見が出されている。

5.今後のEU米国間の個人情報保護上の課題(私見)
前述したとおり、米国の政治戦略は依然テロ行為・テロ資金阻止のためには国際的にもあらゆる施策を取ることは間違いなかろう。
また、本ブログでも紹介してきているとおりEUの議会や保護機関だけでなく各国の保護委員等も保護強化の姿勢はより明確化している。

一方、わが国ではどうか、個人情報保護法は日本や海外の企業が国民の個人情報を海外に移送することについて何らの規定もないし、監督機関の運用でもこれらが直接問題となったことはない。

これら問題が今後のわが国の重要な検討課題である点を指摘するにとどめるが、例えばこれから取組が具体化するであろう「クラウド・コンピューテング」を金融機関等が利用し始めた暁には改めて大きな問題となろう。

 [参照URL]
http://www.swift.com/about_swift/legal/compliance/statements_on_compliance/swift_board_approves_messaging_re_architecture/index.page?
http://epic.org/privacy/pdf/swift-agmt-2007.pdf
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/07/968&format=HTML
http://www.europarl.europa.eu/oeil/FindByProcnum.do?lang=en&procnum=RSP/2009/2670
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2010:008:0011:0016:EN:PDF
http://www.statewatch.org/news/2010/jan/eu-art-29-cttee-swift.pdf
http://www.europarl.europa.eu/oeil/FindByProcnum.do?lang=en&procnum=RSP/2009/2670
http://www.europarl.europa.eu/news/expert/infopress_page/019-67946-025-01-05-902-20100125IPR67943-25-01-2010-2010-false/default_en.htm
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EU議会がEU米国間のSWIFTを介したテロ資金追跡プログラム利用暫定協定を否決

2010-02-12 10:04:07 | EU加盟国・EU機関の動向

 2月9日付けの本ブログで、EU・米国間のSWIFTを介したテロ資金追跡プログラム利用(TFTP)協定についてこれだけEU内で多くの意見が交錯し、さらに協定書の欧州連合理事会承認にもかかわらず欧州議会の承認がないまま2010年2月1日から「暫定施行」するなどの詳細な経緯と最新情報を紹介した。

 日本時間の2月11日午後9時25分に筆者の手元に欧州議会の否決という採決結果が欧州自由民主同盟(ALDE)やEUの人権監視サイト“statewatch”から届いた。

 なお、欧州議会本会議の投票のライブ(筆者注1)でも見ることが出来るが、筆者が気がついたときは採決は終っていた。“statewatch”やALDEからの情報をもとに解説する。

1.EU議会採決までの経緯、締結反対意見の背景
(1) 2月2日、欧州議会法務局(Legal Service)の「法律意見書(Legal Opinion)」
 2月9日のブログで紹介したEU機関(EU指令第29条専門調査委員会(Art.29
Data Protection WorkingParty)および欧州個人情報監察局(EDPS))による本協定内容に関する法的意見書の他に「機密文書」として欧州議会法務局(Legal Service)は2月2日に「法律意見書」(筆者注2)を提出している。

 2009年9月17日の協定締結にあたり、欧州議会の非立法的解決(non-legislative resolution)の具体的な尊重や欧州連合理事会決議における議会の協定採決手続に関するすべての情報公開原則違反や協定の法的効果の不完全性等を指摘した内容である。

(2)本会議での採決の意義
 今回の本会議採決は、2009年11月30日に欧州連合理事会の協定案採択についてリスボン条約発効後のあらためての新たな議会による権限行使である。

 そのまえに議会「市民の自由、司法および域内問題委員会(Committee on Civil Liberties ,Justice and Home Affaires European Parliament)」の有力メンバーでありかつ欧州自由民主同盟のメンバーであるオランダのジャニーン・へニス・プラスハート(Jeanine Hennis-Plasschaert)氏の否決勧告案が提示された。

Jeanine Hennis-Plasschaert 氏

 本勧告案は2月3日、同委員会で賛成29、反対23、棄権1で委員会採択が行われ、欧州委員会や欧州連合理事会と同様、議会に対しこの問題に関する長期的視点にたった米国との協定締結に要請することとなった。

 特に提案議員からは、協定はリスボン条約や欧州基本権憲章(Charter of Fundamental Rights)を遵守すべきとの意見表明が再度行われた。

(3)本会議での採決結果
 協定否決法案は、最終投票で賛成378、反対196、棄権31で採択された。

(4)議会関係者のコメント
 ALDEの代表であるギー・ヴェルホスタット(Guy Verhofstadt)氏は、「我々はTFTPの重要性を認めるが、同時に例えばこの問題に関する相互主義(principle of reciprocity)と同様に個人情報保護も極めて重要な問題として受け止める。本日の暫定協定否決について、我々は欧州委員会が直ちに対等な立場で議会や理事会と協同して正式協定の準備に入ることを期待する。」と述べている。

2.EUの今後のテロ対策面の課題
 今回の議会の協定否決は、リスボン条約に基づく新たなEUのあり方を占う好材料といえる。しかし、多くの議会関係者が指摘するとおり、テロは世界共通の政治課題であり、EUとしても新たな視点に立った米国やSWIFTとの交渉が必要な点は間違いない。

 なお、筆者は2月11日付けのドイツ連邦法務大臣Sabinne Leutheusser-schnarrenberger のコメントを読んだ。EU議会の新たな権限に基づく人権保護や民主主義の勝利宣言で、EU執行部の誤った取り組みの修正が行われた旨のコメントである。その他の主要国の政治幹部の発言は現時点では見当たらなかった。
*********************************************************************************************::
(筆者注1) EU議会の公式の本会議審議・採決のライブ放送は、当然時間帯が限定されるが一度は見ておく必要があろう。公用語が22もあり、また議員定数も736名、 議長の議事進行は大変で投票もブロック単位で行う。さらに、各議員の取組みを見て以外に思ったのは極めて庶民的な印象を持ったことである。米国の連邦議会の金融サービス委員会のライブ等に比べての話である。

(筆者注2) 議会法務局(Legal Service)は2月2日付けで提出した「法律意見書(Legal Opinion)」は2001年制定の欧州議会や理事会が定めた規則にもとづく機密文書である。リンクできるが読んで気が付くであろうが日付がスタンプである。

[参照URL]
http://www.statewatch.org/news/2010/feb/ep-eu-usa-swift-libe-prel.pdf
http://www.statewatch.org/news/2010/feb/ep-libe-cttee-draft-resolution-eu-usa-swift.pdf
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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 



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