Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

英国政府は2006年国民IDカード法の廃止法に基づく全登録データの全面破棄を2月21日までに実施

2011-02-19 07:32:27 | 国民IDカード・認証技術問題



 2月10日、英国大手メディア「インデペンデント(The Independent)」は「英国の国民IDカードはデータベース国家に反対する取組みの第一段階で焼け落ちた」と題する記事を掲げた。 (筆者注1)

 筆者がその背景を調べた結果は次のとおりである。
英国の内務省の「国民IDおよびパスポート局(Identity & Passport Service:IPS)」は、2006年3月30日に国王の裁可し成立した「国民IDカード法(Identity Cards Bill:chapter-15)」 
(筆者注2)の廃止法案である「国民身分証明文書法(Identity Document Act 2010:c 40)」が2010年12月21日に成立し (筆者注3)、IDカード法に基づき登録された英国民の写真や指紋情報を含む個人情報は廃止法成立後2カ月後にあたる2011年2月21日までにすべては破棄されることとなった旨を報じた。英国の歴史上極めて異例な措置である。IPS自体、国民IDカードおよびデータベース化のために改組した機関である。

 正確な資料が手元にないこともあるが、IDカード法の廃止が英国における政権交代時の重要なマニフェストの1項目であることは分かる。
(筆者注4) しかし、同法に関する多く問題点は今さら始まったものではない内容が多い。 (筆者注5)

 筆者が懸念するのは、わが国政府がまさに本格的に取組み始めている「国民ID制度」の検討が、財政的な負担も含め真に国民や地方自治体の福祉や行政サービスの充実につながるのか改めて問い直すべき良い機会であり、今回のブログで取上げる英国の例は、まさに好材料であるとの考えから急遽まとめたものである。
(筆者注6)

 なお、英国のIDカード法廃止に関連して調査している中で、パキスタン政府「国民データベースおよび登録局(National Database & Registration Authority:NADRA)」の「複数生体認証による身分証明カード(Multi-Biometric ID Card)」等の説明を読んだ。
 筆者は、その内容はまさに英国政府が目指していたものであると理解した。わが国も含め注目度は低いが、同国が目指す電子政府(自動越境管理システム(Automated Border Control (ABC) system)や電子運転免許管理システム(RFID based Driver’s License)の内容も含め、改めてわが国の国民ID番号の検討上解析すべき重要な情報であると考える。
(筆者注7)


 この内容は、機会を改めて本ブログで取上げたい。

1.内務省「IDおよびパスポートサービス局」サイトやインデペンデント記事による法廃止にかかる手続等の説明内容


(1)英国政府は2010年5月26日、「国民身分証明公文書法案(Identity Document Bill)(以下「Bill」)」を上程した。同法案の目的は「国民IDカード」と「国民身分証明登録データ」の廃止である。すなわち「2006年国民IDカード法(2006年法)」の廃止であり、また約15,000人(外国人や空港従業員を含む)の既カード保有者に対する交付手数料の還付はない。
 2006年法の規定中で身分証明書に関係しない数少ない規定は、「Bill」でも再規定した。それらの規定は、パスポートや運転免許証の偽造物の所有や作成にかかる犯罪処罰規定である。また、「Bill」はパスポート申請時の個人情報の確認に関する2006年法の情報共有規定も再規定した。
 非欧州経済領域(non-EEA)の国民に関する身分証明カード(National ID Card)については「Bill」による影響はない。 (筆者注8)

(2)「国民識別情報登録データベース(National Identity Register)」の完全廃棄処理
 「Bill」は2010年12月21日に議会で可決、同月21日に国王の裁可を得て成立した。同法により、国民IDカードは身分証明、年齢やEU内の旅行時の有効な法的文書ではなくなり、また同法施行後2か月以内に2006年法に基づき登録された生体認証情報を含む「国民識別情報登録データベース(National Identity Register:NIR)」の完全廃棄が義務づけられた。

(3)既登録データの完全廃棄処理
 発行手数料の還付は行われない。写真や生体認証データを含むNIR(約500台のHD、約100本のバックアップテープに保管)データは、完全に破棄(エセックス工業団地での裁断処理、バーミンガムの工業焼却炉での焼却処理)される。
 その最終結果は、内務大臣兼女性・機会均等問題担当大臣(テレイザ・メイ:Theresa May:Home Secretary and Minister for Women & Equalities)により議会で報告される。

(4)本人が保有する既発行カードの扱い
 同カードをISPに返還することは不要である。自身で完全に廃棄することを勧める。もし、同カードを引続き保管する場合は安全な場所に保管することを確保すべきである。

2.英国の連立政権の立法戦略の内容
(1)英国メディアの立法解説例


 英国の連立与党の新立法の動きはわが国で報じられている以上に活発である。これら立法の最新情報を読み取るには、メディアとしてすでに紹介した「インデペンデント」はまず役に立たないと考えてよい。
 では、有用なメディアとはどこであろうか。あえて筆者が推薦するとすれば
”politics.co.uk”である。 その理由は、議会の会期単位での主要法案について簡単なコメントつきで成立、審議中も含め、立法目的、要旨や論争点、審議経緯等が簡潔にまとめられている点である。
 その中で筆者が関心を持った現在審議中の法案について簡単に紹介しておく(訳語は立法目的にそって筆者が意訳した)。

国家予算責任および監査強化法案(Budget Responsibility and National Audit Bill):国家予算につき政治的要素を排除し独立した財政見通しを行う機関を創設することで予算についての信頼性を強化する。

健康および社会医療強化法案(Health and Social Care Bill)
医療資源を割り当ておよび委託医療ガイダンスを提供する独立した国民健康保険サービス理事会(independent NHS Board)を創設する。理事会は患者に代り委託医療サービスに対する主治医(GPs)の権限を強化させる。また、医療品質委員会の役割を強化する。

警察改革およびその社会的責任の強化法案(Police Reform and Social Responsibility Bill)
警察の地域社会に対する説明責任を確保し、アルコールに関する暴力行為や反社会的行動に対処すべき各手段を導入する。

国家からの市民的自由の回復法案(Protection of Freedoms Bill)
私生活に対する国家の侵入から常識的な市民的自由を回復させる。同法案は、すでに成立した前記「Identity Document Bill」と密接に関係するものであり、法案のポイントを一部紹介する。

(1)犯罪証拠の保管と破壊に関する規定を定める。
・未成年者による犯罪で、無罪判決や免罪となった場合の指紋情報およびDNA情報の完全な破棄する。また重大犯罪(serious offence) (筆者注9)で起訴されたが有罪判決が下されなかった場合は指紋情報とDNA情報は3年間(2年間の延長措置あり)保存される。
・学校や大学が、18歳未満の子供の生体認証情報を登録する場合は、事前に親の同意を得ること。
・警察や自治体によるCCTV、自動ナンバープレート認識システム(ANPR)およびその他の監視カメラの運用に関するより具体的規定化を行う。国務大臣に対し、監視カメラに運用に関する実務綱領(code of practice)の公開を義務づけまたその運用をモニタリングすべく監視カメラ委員の任命を命じる。
・以下の3つの秘密裡に行う捜査技術の使用前に地方機関は司法機関による承認を得るよう「2000年捜査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000(c.23)」 (筆者10)を改正する。
*通話内容(電話料金等)の取得や開示
*命じられた監視方法(公共の場でのひそかな監視等)の使用
*私服警官による監視等秘密裡の人的諜報活動の使用

( 2)以下は省略する)

年金制度改革法案(Pensions Bill)
この法案の原型は「2007年年金法案」である。2012年までに事業主に対し資格を有する従業員を自動的に適格年金制度に取り込む義務を課す。現在の英国の公的年金の受給開始年齢が男65歳、女60歳であるが、2018年12月までに女性の開始年齢を段階的に65歳まで引上げる。その上で男女とも66歳への引き上げの線表を改正する。2024年から2026年の間に実施する引き上げについては2020年までに施行予定の年金法案に盛り込む。 (筆者注11)

郵便事業の民営・自由化法案(Postal Services Bill)
国営の英国郵便事業「Royal Mail」がかかえる年金赤字を政府に振り向け、また多くの論争を呼んでいる制限をつけない株式の販売を認めるべく規則を改正する。

3.英国議会の法案審議追跡ウェブサイトの具体的な活用方法
 同サイトについては、本ブログでも以前に簡単に紹介したことがある。また、国立国会図書館「レファレンス」が2009年4月号 (筆者注12)で英国議会のウェブサイトの最新情報を紹介している。しかしその後の改良点も含め、同サイトは多くの点でわが国としても参考となる面が多い。
 わが国では詳しく解説したものが少ないので、参考として利用方法を中心に簡単に流れにそって説明しておく。特にわが国でも参考とすべき点は法案画面から各法案審議の最新情報が「メール登録(E-mail Alert)」できることである。

(1)2010―2011年会期の全上程法案の確認
 全法案がアルファベット順かつ上院(L)、下院(C)での審議中、ならびに国王の裁可(RA)により法律として成立に分類されている。
(2)本ブログで取上げた“Identity Documents Bill 2010-11”の審議内容について詳しく見てみよう。
一覧画面
②成立した法律(Identity Documents Act 2010 (c.40))全文 (筆者注13)
③右上“All Bill document”:上院および下院での全修正データ
④左“Last Events”Ping Pong (筆者注14):House of Loads(2011年2月21日):下院の修正案に関する上院での最終審議、採択の内容が時間を追って確認できる。
⑤左“Royal Assent”(2011年2月21日国王の裁可)
⑥左“All previous stages of the Bill”:上院、下院での日別の法案審議の概要が確認できる。
⑦“Latest news on the Bill”最新情報
⑧“Summary of the Bill”法案要旨の説明

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(筆者注1)「インデペンデント」の「IDカード廃止」の記事情報は筆者が毎日目を通している同紙からの直接情報ではなく、筆者がそのディスカッション・メンバーとなっているオーストラリアのプライバシー擁護NPOグループ(Electronic Frontiers Australia Inc.:EFA)からのメールであった。

(筆者注2) 2006年4月1日付の筆者のブログで紹介したとおり、「Identity Cards Bill」は英国議会の審議、成立にいたる時点で与野党や関係者間で多くの論議があった法律である。

(筆者注3) 今回のブログの内容とは直接関係がないが、英国議会の法案の正確なトラッキング・サイトの最新情報について本ブログ(筆者注4)で英国やフランスの議会審議法案のトラッキング方法について紹介している。従来から英国の議会の法案審議のトラッキングは時間と手間がかかる膨大な作業負担があったのであるが、大幅な改善によりその平易さは世界のトップレベルといえる。
 例えば、「Identity Documents Bill 2010-11」の例で見てみて欲しい。略字ロゴと色分けで法案審議のステップが読みやすく作られている。下院(House of Commons)、上院(House of Lords)のそれぞれ第一読会から第三読会、修正案審議、採決、国王裁可の過程が一覧で確認できる。さらに法案修正の全過程の確認も容易である。

(筆者注4) 「インデペンデント」や「zdnet」等英国のメディア記事を読む限り、国民IDカードや登録制度の廃止による英国全体の経費節減効果の正確な規模は明確ではない。内務省が2010年5月には廃止法案を上程した際に引用した調査機関の報告書(2009年Kable)は廃止した場合、10年以上にわたり49億5,000万ポンドかかる関係費用が30億8,000万ポンドに削減できると試算している。
 また、自由民主党の選挙マニフェストでは、生体認証パスポートの廃止による節減効果は2010-2015予算年度で計18億3,000万ポンド(約2,490億円)(うちIDカード廃止によるものが5.5億ポンド(約748億円))と述べている。
 一方、IPSの最高責任者(Chief Executive)であるジェームズ・ホール(James Hall:2010年7月に退任済)は2010年5月時点において政府は生体認証パスポートシステムの導入につきすでに2億5,700万ポンド(約349億5,200万円)を費やしており、同手続の終了に伴う費用が約1億ポンド(約136億円)、さらに数百万ポンド規模のベンダー民間企業4社との契約があると説明している。その4社中1社は契約を取り消し、2社は規模を縮小し、残り1社についてはパスポートの製造に関するものなので影響はないとしている。しかし、英国メディアは2009年5月18日にイングランドで稼動した18歳以下の全児童のデータベース(ContactPoint children’s database:子ども・学校・家庭省と地方自治体の責任のもとに管理されているデータベースシステム)に保存された情報は、何千人もの政府や民間機関の職員が利用することが可能であり、その利用範囲は、教育、社会福祉、青少年犯罪にわたることとなるため、連立政府の出方が不明瞭な状態が続いている。同システムは2.24億ポンド(約305億円)かけたもので稼動開始が大幅に遅れたことやプライバシー問題の指摘がなされている。

(筆者注5) 2006年3月30日付けの「Computer World(日本語版)」が簡潔に問題点をまとめているので以下引用する。
「プライバシーに関する懸念が指摘されるなか、英国議会上院はこれまで、国民IDカード法案に数回にわたって修正を加え、当初から全国民にIDカード取得を義務づけるとする政府の意向に抵抗し続けた。トニー・ブレア首相のスポークスマンは、「任意取得の期限を設けたのは賢明な妥協策だ」と語っている。
 ただし、国民IDカード・システムの構成要素として運用される「National Identity Register」と呼ばれる国民識別情報登録データベースには、2010年1月1日以前にパスポートを申請した人のバイオメトリクス情報も登録される。また、2010年1月1日以降は、身元証明書類の申請者すべてに国民IDカードの取得が義務づけられることになるという。
 同法案はこのあと、法律化の最終段階として、女王から認可を得るための手続きへと送られる。
 英国内務省は、2008年までに国民IDカードの発行を開始したい考えだ。同カード取得の義務づけに対して多くの反対の声が上がったが、英国政府は、国民IDカードは国の安全の強化、各種手当の不正受給の減少、入国管理の強化に役立つと説明している。
 英国は現在、パスポート所持者の顔立ちのスキャン・データを埋め込んだ「eパスポート」の発行を段階的に進めているが、国民IDカードには、指紋や虹彩パターンなどのバイオメトリクス情報も登録される予定となっている。
 英国政府は、このバイオメトリクス技術を使用した国民識別プログラムにかかる経費は年間約5億8,400万ポンド(10億ドル)と概算している。詳しい計算は今後の調達プロセスへの影響を避けて公表していないが、National Identity Registerの構築とIDカードの製造に費用がかさむため、10年有効のIDカードの発行コストは1枚当たり30ポンド、新パスポートは1通当たり63ドルになる見通しとしている。
 だが、ロンドン大学経済学部(LSE)は、国民識別プログラムのコストは政府が示した数字の倍はかかるかもしれないと指摘している。」

(筆者注6) 英国においても国民ID番号情報は他の社会保障制度のキー情報となっている。例えば、歳入関税庁(HM Revenue & Customs)が所管する「国民保険制度」の保険番号については、英国に住んでいたり両親や保護者が児童手当を受けている場合は、満16歳になる前に自動的に「国民保険番号」を受け取る。ただし、次のような一定の場合は、国民保険番号をもって申請すべきときがある。
①就職したり自営業を始めるとき、②奨学金の申し込み

この面接を含む申請時には身分証明証拠書類の立証(Evidence of identity)が義務づけられている。「有効なパスポート」、「国民IDカード(national identity card)」、生体認証情報を含む移民居住許可文書を含む「在住許可証(residence permit)」または「在住許可カード(residence card)」、完全な出生証明書や男女間関係証明(adoption certificate)、運転免許証が必要となる。

(筆者注7) パキスタン政府の“Multi –Biometric ID Card”についての説明英国在住・在勤パキスタン人向けの国民IDカード申請手続きの説明(フローチャート)等が参照可である。

(筆者注8) 英国内務省やパキスタン政府NADRAの解説等に見るとおり、非EEA国の国民に対する生体認証データに基づくIDカード制度は残る。英国民と非EEA国民とによる差別問題は残るといえる。

(筆者注9) “serious offence”とは、「2007年重大犯罪法(Serious Crime Act 2007)および同附則第1部」にもとづき定めた「重大犯罪阻止命令(Serious Crime Prevention Orders)」第9(Serious Offence)に明記されている。
 この犯罪区分は、裁判管轄(高等法院(High Court)および刑事法院(Crown Court))とからむのであり、同法第2条(2)項にもとづき附則(Schedules)第1部が根拠規定である。具体的には以下の犯罪行為である。

麻薬取引(Drug trafficking)、人身売買取引(People trafficking)、兵器取引(Arms trafficking)、売春および子供に対する性犯罪(Prostitution and Child sex)、武装強盗(Armed robbery etc.)、マネー・ローンダリング(Money laundering)、詐欺(Fraud)、公的収入にかかる犯罪(Offence in relation to public revenue)、汚職(Corruption)および贈収賄(bribery)、偽造(Counterfeiting)、恐喝(Blackmail)、知的財産権侵害(Intellectual property)、環境破壊(Environment)。

(筆者10) 「2000年捜査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000(c.23)」の問題点の一部は、わが国のブログ でも紹介されている。

(筆者注11) 英国では毎年のように年金制度改革法案が上程されており、また政権交代などでさらに改定が行われている。データは古くなっているが英国の基本的な年金制度の内容を理解する上でわが国で参考となりうるのは、厚生労働省「世界の厚生労働2009」(137頁以下)、みずほ総研論集2008年Ⅰ号「年金支給開始年齢の更なる引上げ~67歳支給開始の検討とその条件~」等である。

(筆者注12) 武田美智代「議会の情報発信と情報通信技術(ICT)―国際的動向と英国の事例を中心に―」

(筆者注13) 英国の立法過程を正確に理解する上でもう1点重要な留意事項がある。同法を例にいうと議会事務局が管理する法案審議中の法案名は「Identity Documents Bill 2010-11」である。しかし、法律としていったん成立するとその管理は政府機関でかつ法務省の執行部門である「国立公文書館(The National Archives)」が管理するウェブサイト“legislation .gov.uk”に移る。以降の法改正等に関する情報は同サイトで管理されるのである。さらに正式の法律名は「Identity Document Act 2010(2010 Chapter 40)」となる。全文はそこで確認することになる。

(筆者注14) “Ping Pong”とは上院、下院間で行われる法案修正を巡る審議内容を指す。専門サイトがある。


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米国社会保障番号(SSN)の2011年6月新規付番からの無作為化および「なりすまし対策」等セキュリティ強化計画

2011-01-06 14:35:58 | 国民IDカード・認証技術問題



 Last Updated:April 30.2024

 筆者は米国籍は持たないが、連邦社会保障庁(SSA)SSN認証局(Social Security Number Verification Service:SSNVS)から届くSSNの割当手方法の最新付番末尾番号に関する「ハイグループ・リスト」等の情報は研究材料として従来から継続して入手している。

 わが国でも2013年度から実施を計画し、2011年秋の国会で法案提出が予定されている「国民共通番号制」の議論はメディア等で取り上げられてはいるものの、国民にとっての本当の意義は何かがまだ国民が理解できる状況にないことも事実である。
(筆者注1)

 今回のブログは、このようなわが国が取組もうとしている国民共通番号制についてより正確な理解に寄与すべく、米国で1936年以降国民の生涯にわたる社会給付金の過程における労働者の所得を追跡する目的で始まった9桁の社会保障番号制度が2011年6月25日新規付番分から9桁のままでその寿命延長化を目的とする「ランダム(無作為)化」という抜本的改定を行うことから、その目的、意義および具体的な改正手順等につき国民付番制の先行事例として概観することが目的である。
(筆者注2)
.
1.社会保障庁の「社会保障番号のランダム化計画」
(1)現行制度
 1936年以来、SSNは“AAA-GG-SSSS”の3つのグループによる計9桁の数字が割り当てられてきた。また、社会保障カードの発行システムについては同カードに関するFAQを参照されたい。

A.9桁の構成内訳と付番順序
・上3桁(AAA)(エリア番号):当初のSSNの付番時の取扱った地域または州を表す。この数字は北東部から始まり、西に向けて付番されている。
・中2桁(GG)(グループ番号):“01”から“99”が連続性を持たない方法で付番される。管理上の理由から奇数と偶数に分かれて付番される。すなわち、奇数グループ(01→03→05→07→09)の順に付番し、次に偶数グループ(10→12→14→・・・・・98)がエリア内の州に割り当てられる。特別地域の“98”のすべてのシリアル番号が付番し終った後に、偶数グループ(02→04→06→08)が付番され、最後に奇数グループ(11→13→15・・・・99)が付番される。
・下4桁(SSSS):各グループ内で“0001”から“9999”までが順番に付番される。

 以上の付番結果、毎月の最新情報(現時点では2011年1月3日付け末尾付番情報:Highest Group Issued as of 01/03/11)が「ハイグループ・リスト」として公開されている。


(2)無作為化の目的と無作為化後の9桁の構成
A.SSAの説明では、次のような点が改正目的と内容といえる。

①ランダム化は各州が付番する9桁のSSNについて割り当て用にプールできる数を拡大し余裕数が高まる。

②SSNは他のツールや手続と連結したかたちで、公的機関や民間企業ともに個人のID認証手段として利用が増える一方で、社会保障番号詐欺、濫用、なりすまし詐欺も拡大している。ランダム化は、公的情報の使用における再構成をより困難にすることで個人のSSNの保護に寄与する。

③SSAは現在エリア番号として個人に割り当てている上3桁の地理的重要性を排除する。また、SSNの有効性確認目的で行っている「最終付番グループ番号リスト(4桁目、5桁目)」の重要性も排除される。さらに、ランダム化により従前は付番してこなかった「000」、「666」および「900-999」も割当に利用する。(ただし、ランダム化においてグループ番号における「000」や下4桁のシリアル番号に「0000」を割り当てることはない)

④ランダム化計画は2011年6月25日新規付番手続から開始する。

⑤現在SSNの割り当てを受けており、またSSNカードの保持者については、新番号や新カードが交付されることはない。

⑥SSNは個人1人に1つのSSNしか割り当てることはない。しかし次の場合は異なるSSNを割り当てることがある。
・同一家族構成員で連続するSSNについて問題が起きたとき。
・1人以上に対し同一SSNを割り当てたとき。
・当該個人について付番番号について宗教上または文化的な理由で使用を拒否するとき。
・当初の付番番号の使用により継続的に不利益を被る「なりすまし詐欺」の被害者であるとき。
・家庭内暴力等による嫌がらせ、虐待や生命の危険の状況にあるとき。

⑦ランダム化以降における個人名やSSNの直接的な認証方法についてSSAはさらに次の手段を用意している。
・SSAの「社会保障番号認証サービス(SSNVS)」(雇用者のみ利用可能)
・国土安全保障省(DHS)の「e-Verify サービス」
・SSAの「本人の同意に基づくSSN認証サービス(CBSV)」

⑧現在SSNの検証目的で行っている「最終付番情報(High Group List)」についてはランダム化後の更新は予定していない。2011年6月時点で凍結する予定である。

2.社会保障制度や課税面での利用目的から見たSSNの無作為化の更なる課題
 米国のSSNは長い歴史はあるものの、これだけIT技術が進んだ時代で見たとき、今回のランダム化は決して運用面やセキュリティ面やさらに長期的に見たとき、抜本的な解決策とは思えない。(実際、SSNVSサイトのFAQの項目3で長期的な割当が可能となる(・・for many years)と書かれているが、おそらく米国自身、国民IDのあり方や社会保障カードを巡る抜本的、かつ長期的な制度改革の研究は行っていると思う。)(筆者注3)
 
 なお、時間の関係でわが国が取り組もうとしている「国民共通番号制」の比較検討問題は今回は省略する。しかし、学会有志による提言書「将来を見据えた国民ID構築のための提言」の1メンバーである筆者としては、この問題の国民個人、国や地方自治体等行政機関、民間企業等多くの関係者が理解し納得できる制度的、技術的、セキュリティ面等からの議論を踏まえた意見集約が喫緊の課題であることを指摘しておく。
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(筆者注1) 1月5日現在の内閣官房サイトでは「社会保障改革」のページで政府や与党の社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会の中間整理の内容が掲げられている。
具体的には「政府・与党社会保障改革検討本部」第2回会合資料3-1,3-2 ,である。
 また、2010年12月14日閣議決定では「2011年1月を目途に基本方針をとりまとめ、さらに国民的な議論を経て、同年秋以降、可能な限り早期に関連法案を国会に提出できるよう取り組むものとする」とある。

(筆者注2) 米国のSSN(社会保障番号)について一般向け解説としてはWikipedia が参考になると思って読んだが、2011年1月6日時点の内容(最終更新時期は2010年6月23日 と書かれている)では、今回取上げた「無作為化」についてはまったく言及していない。

(筆者注3) jetro ニュ-ヨークは2010年10月米国における国民IDとIDマネジメントを巡る動向の中で「SSNの問題点と解決に向けた取り組み」について次のとおり課題を整理している。
「SSNは、銀行口座残高の電話などでの問い合わせや、携帯電話やガス、電気の申し込み時の本人確認の際に使われることもある。このため、悪意ある第三者がある人のSSNを取得した場合、本人に成りすますなどの悪用が容易である。これに加え、SSNカードの偽造も問題の1つとなっていたため、2004年に成立したIntelligence Reform and Terrorism Prevention Actの項目の一部でSSNカードの再発行回数の上限が定められると共に、カードのデザインを改めて偽造を防ぐことも決定された。
また、これまでに、不法労働者の取締りの一助として、SSNカードに生体認証を組み込という法案が議会に提出されているが、これについては議論も多い。また、最近では、SSNを身分証明として使用することを制限するという法案も検討されている。」

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米国FBIが世界最大の米国民・関係国民を取り込んだ生体認証データ・ベース構築をめぐる論議

2007-12-24 16:02:10 | 国民IDカード・認証技術問題


Last Updated :March 6,2021

 FBIが、虹彩や顔貌等個人の身体特性に関する世界最大規模(10億人以上)のデータ・ベースの構築に着手し始めているとのニュースを12月22日付けワシントンポスト紙が報じた(アメリカ合衆国の人口は2000年時点で約2億8千万人である)。 

 筆者の知る限り、今世界で大きな生体認証のデータ・ベース化の動きは英国のDNA情報システムやフランスで法律が成立した移民に関するDNAデータ・ベースであるが、EU等では人権やプラバシー問題として危機的な懸念が論じられている。今回の米国も同様であるが、これらの取組みの背景にある問題の本質が単に前科者やテロリストだけでなくごく軽微な犯罪者や雇用時に経営側がそれらの情報を入手しうるといった点
(筆者注1)についても可能としている点である。

 英国(アイルランド等)やフランスにおけるDNA情報ついてのブログを執筆中に筆者の国際ネットワークからFBIの記事が伝えられてきたので、緊急記事として紹介する。

 なお、今回のワシントンポストの記事(記者はスタッフ・ライター(専属記者))の内容は、筆者が独自にFBIの刑事司法情報サービス部(Criminal Justice Information Service Division:CJIS)のデータやアイルランド筆者注2)の実情さらに海外の生体認証システムに大きく関与しているわが国のITメーカーの実態等(筆者注3)にはほとんど言及しておらず、センセーショナルなテーマなわりには取材不足の感は否めず、世界的メディアの視点としてはお粗末な気がする。これらのレベルの記事を鵜呑みにして紹介するわが国の大手マスメディアにも責任があるが、今回はこれ以上論じない。

 いずれにしても、DNAや生体認証に係る情報セキュリティの問題は極めて広くかつ技術的・倫理的さらには政治的に深刻な問題といえる。わが国の関係部門の専門家による議論が深まることを期待する
(筆者注4)


1.FBIの次期IAFIS(自動指紋識別システム)戦略の概要
 米国ではFBIを中心とする全米規模の指紋犯罪歴記録・検索システム(Integrated Automated Fingerprint Identification System:IAFIS)が稼動しており、そこでは顔貌、指紋および手のひら(palm)パターンのデジタル・イメージ・データはすでに地下の温度・湿度の管理下におかれたFBI管理システムで運用されている。2008年1月に登録対象データの量ならびに種類の飛躍的拡大につながるベンダー(筆者注5)との間で10年契約を締結する計画を進めている。また、これにより世界中の捜査機関等法執行機関は、虹彩パターン、顔貌、やけどの痕さらに歩き方や話し方といった犯罪者やテロリストを特定できる情報の利用が可能となる。さらにFBIは雇用者からの要請に基づき従業員が犯した軽微な犯罪について通知を行うため指紋の保持を行うといった予定も含まれている。

 ウェストヴァージニア州アパラチア山脈の丘陵地帯にあるFBIの刑事司法情報サービス部(Criminal Justice Information Service Division:CJIS) (筆者注6)副部長トーマス・E・ブッシュ三世(Thomas E. Bush Ⅲ)は「このデータ・ベースはより大きく、早くかつ優秀なことが重要である」と述べている。(筆者注7)

 識別のための生体認証技術の利用機会の増加は、アメリカ国民が不要な監視下に置かれることを避ける権利についての懸念材料を広げている。国民の身体そのものが事実としての「国民IDカード」になっているという批判である。これらの批判は、群衆の中から本当の犯人を拾い出しうるかについて技術的に十分な検証がないままに政府のイニシアティブで進められるという点である。

 政府全体に生体認証データの使用が増加している。過去2年の間、国防省は1,500万人以上のイラクやアフガンの抑留者、イラク市民や米国の軍事基地に出入りする人々の指紋、虹彩や顔貌データを収集してきた。また、国防総省(Pentagon)は別途イラク抑留者のDNA情報を収集している。

 国土安全保障省(DHS)は、エアポートにおいて犯罪歴チェックを通過した迅速に航空機での移動を行う旅行者の識別のために虹彩スキャンの使用を始めている。
 また、DHSは別のプログラムのために虹彩および顔貌認識技術の適用を試みており、すでに刑事事件で国境で阻止させた旅行者、海外の子供を養子縁組する米国民、海外のビザ請求者等からこれら生体情報を収集している。

 仮にこれらが成功すると、FBIは次世代識別システム(NGI:個人の特定や犯罪科学に関する広範囲の生体情報を1箇所に集める)計画をもっている。すなわち、地下の2つのサッカー場が入るほどの施設の中にアメリカ、カナダから送られてくるデジタル指紋情報をFBIが保持する約5,500万人の電子指紋情報と秒単位で照合するというものである。この結果、合致または不一致件数は1当り10万回に上ることになる。

 まもなく、CJIS本部のサーバーは手のひら指紋の照合や最終的には虹彩イメージや耳たぶの形態といった顔貌の照合作業を始める予定である。これらが計画通り進むと道路での車の停止やエアポートでの国境係官は、ある人間が捜査中の容疑者やテロリストであるかどうか疑わしい場合、数秒以内に10本の指紋照合を起動させることが可能となる。分析官は犯罪現場から手のひら指紋を採取しより広大な生体情報のデータ・ベースに統合し、また諜報機関は世界中の生態情報の交換を始めることになる。

 一方、現在米国において生体情報の照会ニーズの55%は連邦の重要ポジションに着く民間人や子供や老人の犯罪歴のチェックである。CJISのブッシュ副部長は、これらの人々の指紋はチェック作業後破壊または返却しているが、FBIは「rap-back」サービスを計画中であると述べている。これは雇用者が州の法律に基づきFBIに対して従業員のデータ・ベース中に指紋情報の保管を依頼し、仮に同人が過去に犯罪に関係したり有罪であると判断された場合は、雇用者に通知するというものである。

FBIの犯罪歴を含む生体情報データ・ベースは、FBIの「テロリスト監視センター(Terrorist Screening Center)」や「全米犯罪情報センター(重罪犯人、亡命者やテロの容疑者のマスター・データベース)National Crime Information Center:NCIC」の情報と相互に通知しあう方式をとっている。

 FBIは英国、カナダ、オーストリアおよびニュージーランドの間で共有されている標準化に沿ってシステムを構築し始めている。

 2007年、世界初でかつ最大規模の群集の中から、いかに十分な顔貌認識を行うかにつき科学的な研究を行うと宣言したドイツ連邦政府であったが、十分な警察での使用は十分効果をあげていない。この研究は2006年10月から2007年1月の間にドイツのラインランド・プファルツ州の州都マインツの駅で毎日23,000人規模の旅行者を対象に行われた。ボランティアからなる登録データ・ベースに対し昼間の実験では60%の照合結果が得られたが、夜になるとその割合は10%~20%に大きく低下した。これらの割合を成功に導くためドイツ警察当局は無誤率を0.1又は1日当り23人の照合不能まで試験条件を緩和したと報告書は述べている。
 照合精度の改善は技術の見直しにより可能であり、FBIの生体認証サービス課長のキンバリー・デル・グレコ(Kimberly Del Greco)は次世代データ・ベースでは指紋、虹彩および手のひら照合能力を2013年までに結合させる計画であると述べている。

 またプライバシーの保護に関して、追跡記録は対象者たる各人が指紋データ・ベース記録にアクセスできるよう保管され、人々は自分の記録のコピーを請求でき、FBIによる監査は3年ごとにデータ・ベースにアクセスできるすべての機関に対し行うと述べている。

2.人権保護団体や技術専門家の次世代システムへの批判
 米国の人権擁護団体(Electronic Privacy Foundation Center:EPIC)代表であるマルク・ローテンベルグ(Marc Rotenberg)は、関係機関のデータ・ベースの共有能力は問題であると指摘し、連邦機関に生体認証子のアクセスを認めることはますます不適切さを拡げることになると述べている。
 
 2004年にEPICはFBIのNCICを記録の適切性を求める米国プライバシー法の適用除外とすること自体に反対した。またEPICは、2001年司法統計局がFBIの生体情報システムの情報に関し十二分な信頼性に欠け不完全性、不適切であると述べた点を引用している。この点に関し、FBIの幹部は予め何が適切で関係があり、時宜に合致し完全かを決定すること自体不可能であると反論している。

 また、プライバシー擁護派は一般人がデータの修正能力を持たないことについて懸念を投げかけている。シリコンバレー先端技術予測家のポール・サフォ(Paul Saffo)はFBIが大規模な失敗によってコンピュータ技術に支えられた記録自体が台無しになってしまうことを懸念し、仮に誰かが虹彩イメージをぬすまれたりなりすまされた時、あなたは新しい眼球を得られますかと述べている。

〔参照URL〕
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/12/21/AR2007122102544.html

 

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(筆者注1)このような扱いが実際ありうるであろうか。米国ではある。連邦法28 U.S.C. §534(Public Law 92-544)の注を見て欲しい。「連邦の免許又は預金保険制度加盟金融機関は自身のセキュリティの強化・保持の目的で犯罪歴記録情報(Criminal History Record Information:CHRI)目的でFBIの保有する指紋情報の交換を認める」と規定されており、また連邦規則(Code 28 Federal Regulation§50.12(a)も同様の規定を定めている。実際にFBI は銀行本体だけでなく、銀行子会社、持株会社、それら契約先等から調査要求を受けており、実際にアメリカ銀行協会(ABA)の指紋照合専門サイトを設けている。
 ABAは利用金融機関の厳格な利用のための詳細な利用マニュアル(2009年3月23日改訂)を作成しており、その場合のFBI手数料は1カードあたり30ドル、またABA(システム受託会社はAccurate Background )から電子的に指紋情報を入手する場合は25ドル前払いする。
 なお、連邦司法省は2006年6月の司法長官犯罪歴チェックに関する報告書(153頁以下)P.38~P.39でABAの利用実態につき説明している。また、2004年3月30日FBIは連邦議会司法委員会においてABA等の指紋条情報の利用について証言している。

 また、FDICは2018年4日17日、連邦預金保険の申請、取締役会メンバーの交代、上級管理職およびその他の手続きに必要な身元調査で電子指紋の使用を開始すると発表した。 新しい指紋認証プロセスは2018年の第2四半期に開始される。この新しい電子指紋認証プロセスでは、個人は全国の1,000を超える収集サイトで指紋を取得できるようになる。 被保険銀行の10%以上の株式を保有する取締役、役員、株主候補に必要な身元調査の一環として、FDICは、FBIとの身元を確認するために指紋を要求する場合があるが、FDICの規則では、このような調査はすでに個人に対して免除される可能性があるとされており、 または以前に保険付き預金取扱機関に関連付けられていた可能性がある。

(筆者注2)2006年11月にアイルランドの警察組織および移民帰化局(INIS)は1,800万ユーロ(約29億円)で民間部門からデジタル指紋技術の購入契約を結んでいる。同国内での議論については英国の解説記事を参照されたい。

(筆者注3)筆者の個人的意見であるが、金融機関が積極的の導入を図っているATM利用時の本人識別のための生体認証技術は一方でメーカーにとっては海外の政府や法執行機関向け説明の向けには好材料であろう。すなわち預金者はモルモットなのであり、そこで出てきたデータ結果は直ちに実証実験結果として海外で利用されることは間違いなかろう。

(筆者注4)今回のブログでは解説は省略したが、FBIの指紋認証データ・ベースのもととなっている技術面に関し、Wavelet Scalar Quantization、NISTのAmerican National Standard for Information System-Data Format for the Interchange of Fingarprint, Facial &scar Mark &Tattoo Information(全81頁)等が参考になる。

(筆者注5)犯罪捜査といったこの種の問題について、わが国のメーカーはあまり一般向けには積極的にPRしていないが、海外では事情は異なる。例えばNECの自動指紋特定システムAutomated Fingerprint Identification System:AFIS):犯罪捜査を目的に用いられる指紋照合システム。エーフィスと呼ばれる。1対1照合ではなく、データ・ベース全体と照合して、類似しているもののリストを返す。現在では大規模な民間の用途にも使われている((社)日本自動識別システム協会のサイトから引用)。より正確に言うと次のようになる。「AFISは指紋データの取得、格納および分析のためのデジタル画像技術を用いるバイオメトリック認証方法をいう。もともとはFBIが刑事事件の捜査のため使用してきたもので、最近では一般的な本人識別や詐欺の防止等にも用いられてきている。また、「plain impression live scanning」といったより解析度が高度なスキャン技術も使用されている。
 
(筆者注6)CJISのサイトでは、世界最先端の指紋認証技術や関係機関等の利用法について詳しく説明されている。

(筆者注7) FBIは2008.2.12「FBI Annouces Contract Award for Next Generation Identfication System」を発表している。その一部を抜粋、仮訳する。

FBIは本日、ロッキード・マーティン・トランスポーテーション・アンド・セキュリティソリューションズ(Lockheed Martin Transportation and Security Solutions)に、次世代識別(NGI)システムの設計、開発、文書化、統合、テスト、および展開の契約を締結したことを発表した。契約は、基準年と最大9オプション年の可能性で構成されテいる。 NGIシステムは、ウェストバージニア州クラークスバーグで主に運用および保守されている指紋ベースの識別システムであるFBI刑事司法情報サービス(CJIS)部門の現在の統合自動指紋識別システム(IAFIS)を拡張するものである。 NGIシステムは、刑事司法、国家安全保障、および市民コミュニティのために、現在のサービスと新機能を改善する。以下略す。


〔参照URL〕
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/12/21/AR2007122102544.html

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Copyright © 2006-2021 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 



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米国連邦金融検査機関協議会の「インターネット・バンキング環境下における顧客認証方法」の遵守期限迫る

2006-09-18 13:14:08 | 国民IDカード・認証技術問題

 

Last Updated:October 8 ,2022

 本ブログでも数回にわたり、インターネット・バンキングを巡る金融詐欺やなりすまし金融犯罪の急増や消費者の利用回避の動きなどを背景として出された標記ガイダンス(筆者注1)の内容や欧米の金融機関の取組み状況について取り上げてきたが、いよいよ標記協議会(Federal Financial Institutions Examination Council: FFIEC)の改訂ガイダンスの遵守期限が2006年12月末日となり、ハードおよびソフトベンダーの売り込み、シンクタンク等によるセミナーの開催等わが国において2005年4月の個人情報保護法全面施行時直前の状況と極めて似ている(“カウントダウン”と言う言葉が一般化している)。
 当然のことながら、9月8日に連邦財務省通貨監督庁(OCC)がさらなる徹底通達を出すなど(筆者注2)、その動きが急速に目まぐるしくなってきている。わが国の金融機関ではATM取引きについてはICチップカードへの切替や生体認証の相互運用化への取組みが進んでいるが、インターネット・バンキングについては、トークン型または複数画面入力による「ワンタイム・パスワード」が主力になっているといえる。ただし、インターネット・バンキング自体の普及テンポが遅いことから本格的な対応はこれからといったところであろうが、金融犯罪の多様化やハイテク化とりわけ個人の金融情報の盗取や振込め詐欺リスクが高まることは間違いなく、ここで改めて欧米の金融機関の対応状況を整理しておく(筆者注3)

1.米国ロス・キャピタル・パートナーズ筆者注4)の分析結果
 2006年7月現在で135の金融機関を対象に調査した結果、2006年末までに以下述べるFFIECの要求条件を何がしか充足する予定の金融機関数が69%で、うち16%の機関がリスク調査の段階にあると回答している。同調査では具体的にハードウエアー・トークンの採用を予定する金融機関数が5%である。
 なお、いうまでもなく効率的な認証方法の要件は次の点であるといえよう。
(1)顧客の受容性(使いやすさ、取引内容の透明性)
(2)機器、技術面の性能に対する信頼性
(3)将来の成長性に対する規模の利益の確保
(4)既存のシステムと将来の計画との相互運用性

2.FFIECが要求する具体的多要素認証の方法とは
 FFIEC改訂ガイダンスでは、次のとおりその認証方法が例示的に整理されている。

(1)金融機関と顧客との間の機密情報の共有によるもの
①認証時に答えるため本人しか知りえない知識・情報を必要とするもの(毎月の不動産担保ローンの返済額等)
②本人しか知りえない本人が選択したイメージ(好きな人のイニシャル、好きな本のタイトル等)(筆者注5)
(2)トークン(Tokens)
USB型トークン端末(デジタル証明付きまたは証明なし)

例示:1000ND

スマートカード(ICメモリーに情報を保管し、第一次的に本人確認を行う専 用 カード)(筆者注6)

例示:

パスワード作成機能付きトークン(時刻の同期機能付き)(筆者注7)

例示:

④生体認証技術(生物学的特性判断)(指紋、虹彩・網膜、顔のイメージスキャ ン、声紋 キーストローク、手・指の形状、筆跡がガイダンスでは例示されている。)(筆者注8)

(3)非ハードウェア型のローテク・低価格の手段(かつて利用されていた乱数表 (grid cardまたはscratch card))

(4)電話、電子メール、SMSテキストメッセージをインターネットは異なるチャンネルで送ることで併用による認証の厳格化を図るもの(Out- of-Band Authentication )

(5)アクセス中のPCの現利用者が特定されるIPアドレス(ただし、同アドレスは顧客個人が常に所有しているものでなく、頻繁に変更されたり時としてなりすまされたりする点が課題)や顧客の地理的位置情報(この点についてもワイヤレスや携帯電話によるインターネット・バンキングでは認証効果が薄れる)

(6)金融機関と顧客の双方がSSL等暗号化によるウェブサイトの真正確認やデジタル署名を使用する相互認証(フィッシング等に有効)

3.多要素認証への対応をめぐる最近時の新たな認証技術の出現
 米国のシテイ・バンクがFFIECの要件を満たすため取り組んだ技術は、詐欺犯捜査ソフトウェア(実際、2006年の税還付申告期間において同技術を利用した米国最大手の税申告代行業者H&R Blockは還付詐欺の阻止に有効であったとしている(筆者注9))の応用形であった。
 この技術の導入に関し、ソフトベンダーが第一に挙げた理由はFFIECのガイダンスへの遵守対応期間が短いことである。その点は別として、この認証方法は前記2.で紹介した技術を一部応用している。最も特徴的な点は顧客の取引振りをリアルタイムでモニタリングし、必要に応じ速やかに顧客に警告をならす点であろう。オンライン取引きのトレースすなわち銀行取引のアプリケーション・プログラムの一部というより、ネットワークのトラフィック・モニタリング技術の進化があってこその対応と言えよう。以下要約してみる。(筆者注10)

(1)金融機関はオンライン・バンキング取引の各セッションの間をぬって、顧客のサイトへのナビゲーシヨンをモニタリングし、動的にリスクのスコアリング(dynamic risk score)を行う。このスコアが一定のレベルを超える場合、直ちに第二段階の認証すなわち電話による照会や取引停止を行う。この場合、顧客に対し、その不審な状況について テキスト・メッセージまたは電子メールを送信する。

(2)このような取引の異常値をリアルタイムでチェクするため、data warehouse(基幹系業務システム(オペレーショナル・システム)からトランザクション(取引)データなどを抽出・再構成して蓄積し、情報分析と意思決定を行うための大規模データベース。) (筆者注11)では顧客の取引プロフィールや疑問点を保管する。実際の顧客のアクセス面では、各金融機関は①グリッドカード、②クッキー(cookie)に基づく端末認証、③ワンタイム・パスワード、④相互認証、⑤Out- of-Band Authentication等より強固な認証技術を使用する。
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(筆者注1)FFIECの改訂ガイダンスは2005年10月12日に発出されている。ガイダンス(PDF版)が添付されている。
また、FFIECは2006年8月15日に前記ガイダンスのFAQsを発刊している。http://www.ffiec.gov/press/pr081506.htm

(筆者注2) 本警告通達ではガイダンスの遵守に伴う顧客の混乱を避けるための顧客への通知内容について対応窓口の強化等も要求している。

(筆者注3)トークン等のついての解説はわが国でも多く見られるので、今回はより多要素認証の概念を広くとらえて説明する。

(筆者注4)Roth Capital Partnersは米国において投資銀行業務、資本市場取引、M&A、市場調査等を行っている企業である。

(筆者注5)英国のAlliance &Leicester銀行が、2006年3月からこの方式を2要素認証方式として導入している。http://www.alliance-leicester.co.uk/internetbanking/index.asp?page=extrasecurity&ct=ibsecurity

(筆者注6)スマート・カードによる2要素認証の例として、スイスのCantonal Bankが2007年に 最大2万人の顧客に対し無料でEMV対応携帯用カードリーダーを配布する。顧客はまず従来どおり4桁の暗証番号を入力し、その後カードのチップにより組成された8桁のワンタイム・パスコードを入力する。ロイヤルバンクオブスコットランド、Xiringスマートカードリーダーを発行

Xiring smart card reader

(筆者注7)その他英国の大手銀行ではLloyds TSB銀行、Barclays 銀行がパスワード生成型トークンを採用している。しかし、本年7月22付けの本ブログで紹介したとおりシテイ・バンクは、「Man in-the –middle –attack」攻撃によりワンタイム・パスワード生成型トークンの脆弱性をつかれフィッシング被害にあうというリスクが顕在化した。

(筆者注8)わが国の日本郵政公社や一部銀行で利用が始まっている指や手のひら静脈認証(vein pattern authentication )はガイダンスでは直接明記されていないが、認証技術として技術的には一定以上に評価されるものといえよう。しかしながら、顧客の受容度といった点でなお抵抗があり利用者数は急増とはいえないのが現状であろう。

(筆者注9)H&R Blockは税金コンサルタント業だけでなく、不動産ローン、銀行、個人年金アドバイスなど手広い。皮肉にも2009年3月15日に同社はニューヨーク州司法長官から約50万人の低所得者層のうち約85%の顧客の個人年金を詐欺的に販売し、結果的に顧客に損失を与えたことを理由として起訴された。起訴状によると罰金および払戻し額の合計は2億5千万ドル(約292億5千万円)と報じられている。http://www.msnbc.msn.com/id/11839807

(筆者注10)詐欺的インターネット取引きモニタリング・ソフト(real time risk scoring)の発想については、最近読んだスタンフォード大学のフリーウェア「SpoofGuard」を思い出した。まだ、インストールしていないが、ユーザーが設定するセキュリティレベルのパラメーターに基づき、新規ウェブへのナビを行う際にチェックを行い、そのブール演算子の結果をユーザーがあらかじめ設定した警告レベルを越えると、フラグがたち偽サイトにアクセスしないようユーザーに警告を送る。詳細は以下のURLを参照されたい。
 http://crypto.stanford.edu/SpoofGuard/

(筆者注11) http://www.atmarkit.co.jp/aig/04biz/dwh.htmlから引用。

〔参照URL〕
http://www.bankinfosecurity.com/articles.php
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豪政府は社会福祉関連のICアクセス・カードの導入のためアドバイザーの入札告示

2006-05-21 17:22:23 | 国民IDカード・認証技術問題

 

 5月11日にオーストラリア連邦政府「社会保障・福祉サービス担当省(The Minister for Human Services(DHS) :の担当大臣ジョー・ホッキー(Joe Hockey))は、10憶オーストラリア・ドル(約830億円)の予算を背景とするスマート・カード・プロジェクト(ICアクセス・カード(Access Card))の中核となる個人・法人の専門アドバイザーを募るため、2つの入札告示(tender notice)を始めた(入札の詳細は5月15日に「Aus Tender」のウェブサイトに掲示されている)。(筆者注1)

Joe Hokey氏

 同プロジェクトの主たる目的は、これから迎える社会的な不安、すなわち高齢化、病気等への対応を持ち、遠隔地管理機能を備えたコミュニティ社会作りである。この点は、欧米先進国における高齢化への取組みの先例として、わが国としても見逃しえない重要なテーマであろう。

1.アクセス・カード・プロジェクトの概要
 (1)現在同国で行われている17の健康保険・社会政策サービス、退役軍人カード(veteran card)および国家保険サービス(Medicare)(筆者注2)にかかるカードサービスをこのシステムに切替え、統合するものである。
(2)このカードの切替え、登録は2008年から2年間にかけて国民を対象に開始され、2010年前半から登録済者のみ具体的なサービスを受けることが出来ることになる。
(3)本カードシステムに伴い経済効果について大手コンサルティング会社であるKPMGは4年以上にわたり10憶9千万豪ドル(約904憶7千万円)の費用がかかる一方で、 10年以上にわたり30憶豪ドルの経費削減が図れるとの予想を行っている。
(4)本プロジェクト推進のため同省内に「アクセス・カード局(Office of Access Card)」がすでに設置されている。

2.アクセス・カードの仕様概要とプライバシー問題 
 DHSの資料では次の点が説明されている。(筆者注3)
   (1)表面にはカードの名義人氏名、写真、裏面は保持者の署名の登録番号が表示される。
 (2) ICチップには、本人の住所、生年月日、子供や扶養家族等は記録される。また本人の選択に基づき、緊急時の連絡先、アレルギーの有無や内容、健康に関する留意事項、持病(chronic illnesss)、免疫情報(immunisation information)や臓器提供者(organ donor status)に関する情報を保存される。
 (3)個人情報管理に関して、政府の公文書によると、アクセスカード・システムの基盤となる登録システムは「Medicare Australia」、「Centrelink」(筆者注4)、「退役軍人省(Department of Veterans Affaires)」は別々なシステムに分かれており、そこにはいかなる機微情報や当該機関の固有情報は保持されないとされている。

3.募集目的
 1つは、スマート・カードによる福祉・健康サービスを提供するためのリーダーとなるアドバイザー募集、2つは、カードの概念構築から実際の交付にいたるまでの間のモニタリングや監査を行うといったアドバイザーの募集である。また、同大臣の説明によると、オーストラリア政府この2つの政府自体から独立性を持ったアドバイザーの役割は、導入戦略全体にわたる問題と監査ならびにシステムの保証であると述べている。さらに、同省はプロジェクト専門の副長官も求めている。

4.募集概要
(1)締め切り:2006年6月9日午後2時
(2)勤務地:キャンベラ
(3)アドバイザー契約に当たり次の条件を要する。
①アクセスカードについて、費用面、実施スケジュールおよび品質ついて必須とされる最善の取組みについてのアドバイス
②商業ベースでアクセスカードを成功裏に適用させるため最適な構成についてのアドバイス
③技術面、既存の関連システムの統合およびビジネス手順に関する最適の取組についてのアドバイス
④必要な機器やサービスの購入に関連する調達や営業ベースの条件についてのアドバイス
⑤システム提供業者の事後的管理に関するアドバイス
⑥外部の利害関係者の意見聴取についての支援アドバイス
⑦プログラム全体にわたる枠組みの管理についてのアドバイス
⑧手順および必要な手段についてのプロジェクト管理
(4)応募方法
ファックス・Emailは不可とし、期限厳守のこと。
(5)顧問契約期間
 全体の契約期間は4年間とし、当初の2年間に加え任意期間2年間とする。
(6)募集に当たっての要件
全要件は入札要件(Request for Tender:RFT)に記載している。

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(筆者注1)https://www.tenders.gov.au/federal/shared/rftdetail.cfm?p_id=2517&p_criteria=AZ3274&p_advert=1
なお、オーストラリアにおける政府事業等への入札要件(Request for Tender)の前提としては、まず政府入札システムへの登録から始まる。登録自体、国籍を問わない。
https://www.tenders.gov.au/federal/shared/register.cfm

(筆者注2) オーストラリアの保健制度は、民間部門と公共部門に分かれており、後者である National Health Service(国家保健サービス)は、政府の Medicare(メディケア)と呼ばれる。メディケアは公立病院での無料の治療、病院以外での医療費の援助などの医療サービスや医療プログラム、医師、専門医、メディケアに参加している眼科医などの開業医による無料の治療、または治療費の援助を提供しており、その財源は所得税を主とする一般税収で賄われる。全医療関連費用の約3分の1は、民間の健康保険を含む、民間部門を通じて支払われている。
メディケアは、医師が処方するほとんどの医薬品の費用についても援助しており、オーストラリアの永住者全員と、査証申請者の一部がメディケアのサービスを利用することができる。
http://www.dfat.gov.au/aib/japanese/health.html
 なお、これらオーストラリアの福祉・移民情報等については非営利組織であるAdult Multicultural Education Services (成人多文化教育サービス) (AMES) は、現在、多文化言語および雇用サービスを専門とするオーストラリア最大のサービス提供事業者であり、政府との契約により支援され、毎年 50,000 人を超える人々への教育、サービスを成功的に提供している。 AMES は、日本語を含む85の異なる母国語を話す131カ国からの移民を援助しており、新しいオーストラリア市民とその家族、海外からの留学生、およびコミュニティへの多岐にわたるサービスの増加と向上のために、組織の財源を再投資している。
http://www.ames.net.au/livingInAustralia.asp?articleZoneID=2125&hContextId=40&lang=ja

(筆者注3) http://www.humanservices.gov.au/idc.htm


(筆者注4) Centrelinkはオーストラリア政府による退職者、求職者、学生、要介護者、寡婦、移民などに対する各種手当て、サービスを提供している。これら手当ての受給について難民、人道的移民永住ビザ保持者などについては待機期間なしに即時に支給される。オーストラリアには、必要と認める人に所得やその他の援助を行う社会的「セーフティネット」の制度がある。1997年以来、社会保険の支払いは「センターリンク」が単独に行っている。この機関は、その他の連邦政府のサービスへの窓口の役目も務めている。
 政府機関と民間の組織が協力して、高齢者、障害者、病人、失業者、先住オーストラリア人、子持ち家庭や、非英語圏からの移民などを支援している。また、さらなる経済的参加や社会参加に意欲的かつ余裕のある人たちに対しては、様々な奨励策も導入している。
 オーストラリアの社会援助制度に対する新しい取り組みは、5つの原則に基づいている。すなわち、①サービスの実施、②経済援助の簡潔化、③財政刺激策と援助の改善、④相互責任および⑤社会協力の育成である。
  なお、これら政府の各省庁のサイトを読んで気が付くと思うが、多国籍・多言語化社会に極めて積極的であり、例えば「外務・貿易省(Department of Foreign and Trade)」のサイトでCentrelinkを見ると、なんと62カ国語で同じ内容が見れる。また、Centrelinkの日本語版を見ると同国内から日本語で福祉制度などについて照会する場合、通話料(公衆電話や形態電話の場合を除く )は一律25セント(約21円)と記されている。
http://www.centrelink.gov.au/internet/internet.nsf/languages/jp.htm
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米国REAL ID ACT に基づくカード標準化とSSNのプライバシー保護強化立法の動き

2006-04-15 13:47:34 | 国民IDカード・認証技術問題

 Last Updated:March 12,2021

 米国は従来、EU各国と異なり国家レベルの法律に基づく身分証明書の考え方を強く否定してきた。1936年に収入を記録し、それに応じた社会保障給付が受けられ、雇用者が従業員に関するそれらの事務を管理するための識別キーとしてSSN(社会保障番号)カードが発行されたのがSSNの始まりである。このような限定された目的が、その後連邦や州の機関へ利用が拡大し、1970年代の急速なコンピュータ処理化と相俟って9桁の数字がまさに個人識別番号として、明確な利用制限等についての法律的根拠を持たないまま拡大したのである。その後も不法就労、低所得者医療扶助、福祉詐欺の防止、婚姻許可、死亡証明等多くの公共・行政分野への広がりを見せている。

 これと平行して、民間部門の利用制限は連邦法による利用制限がなかったことから、コンピュータ技術を活用した膨大な個人情報の収集をもとにデータ・ブローカー(実態は信用情報業者の場合がほとんどである)による検索・照合サービスのキーとしての利用が進んだのである。 

 しかし、一方でSSNなどの個人情報を違法に入手し、偽名、偽造文書の作成、金融取引の悪用等なりすまし詐欺(Identity Theft)被害の問題が大きな社会問題となってきつつあった。このような中、2001年9月11日国際テロ事件が起き、改めて市民・非市民の区別の明確化(移民問題)、出生証明や雇用管理におけるSSNの管理システムの強化が図られることとなり、SSNとなりすまし対策に関する法案もこの数年間で連邦議会に毎回のように提案されており、他方で州ベースではSSNの利用制限立法が多くなってきている点も見逃せない。(筆者注1)

 このような中で、2005年1月26日下院議会F .James Sensenbrenner Jr.氏は、「REAL ID Act of 2005(H.R.418)」法案を上程した。

 

F. James Sensenbrenner, Jr.

F .James Sensenbrenner Jr.氏

法案H.R.418の連邦議会の法案管理サイト(Congress. Gov.)(https://www.congress.gov/bill/109th-congress/house-bill/418)や法案追跡サイト(Govtrack)(https://www.govtrack.us/congress/bills/109/hr418)にあるとおり、2005年2月10日下院で賛成261、反対161、棄権11で可決したものの、上院では2005年2月17日第二読会や司法委員会までその後は審議されていない。廃案になっている。

 しかし、同法案自体重要な法整備の在り方を提起していることは間違いない。以下でその概要を取り上げる。

 同法の運営主体は、連邦・国土安全保障省(DHS)や州であり連邦主導型の施策をとっており、(1)運転免許証と(2)国民IDカードの2本は柱で構成されているが、主たる部分は後者といえよう。州の役割はDHS基準に適合したIDカードの発行であり、施行後はじめの3年間は連邦政府機関は202条に定めるIDカードの最低基準(記録項目)を満たさない場合は受け付けないなどが条文上明記されている。(筆者注2)

 以上、この問題を取り上げた背景には、わが国が本格的に取り組もうとしている電子政府、電子自治体やさらに重要な点は、これらの運用の厳格化のための新たな個人識別システムの構築である。先般英国で成立した「国民IDカード法」をはじめ欧州諸国、香港、マレーシア、シンガポール、韓国等はすでにIDカードシステムを運用済であり、わが国が従来是としてきた単一民族者社会自体すなわち「人的なりすまし」はありえないという考え方自身も見直すべき時期に来ているといえる。
 個人認証のあり方については、金融取引の厳格性確保(金融詐欺阻止)の観点から、民間金融機関における「生体認証技術」が優先的に導入されているが、このようなメーカー依存型ではない、人権保護に配意しつつも、これからのIT社会の個人識別制度のあり方を含む、少なくとも官民一体となった整合性のある取組みが今求められているといえよう。

 なお、この問題を論じるには、①米国におけるSSNの利用拡大の歴史的経緯と問題点、②なりすまし対策をめぐる州ベースにおける制限立法の内容に触れざるを得ないが、機会を見て改めて紹介する。特に、SSNとなりすまし阻止問題について、連邦議会への発言・証言を行ってきている連邦議会行政監査局(GAO) (筆者注3)EPIC(Electronic Privacy Foundation Center)の論じている内容を中心に比較、紹介する予定である。

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(筆者注1)EPICが2004年9月に連邦議会「エネルギー・商務委員会:商業・取引・消費者保護小委員会」で行った証言のURL:http://www.epic.org/privacy/ssn/ssntestimony9.28.04.html

(筆者注2) REAL ID Act of 2005の条文内容のURL:http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/D?c109:3:./temp/~c1091HCnqv::
なお、同法案は関連法案である「防衛にかかる緊急エネルギー供給の適正化、テロ行為による世界戦争及び津波救済に関する法律(Emergency Supplemental Appropriations Act for Defense,the Global War on Terror,and Tsunami Relief,2005:Public Law 109-13)」のDivision Bとして最終的に添付された。PL109-13の内容は以下のURLを参照。
   http://www.theorator.com/bills109/hr1268.html

(筆者注3) GAOのSSNに関する最新の議会報告としては、連邦議会下院の小委員会で行った証言(testimony)がある。
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英国の Identity Cards Bill(国民ID カード法案)が可決成立、玉虫色の決着

2006-04-01 18:39:01 | 国民IDカード・認証技術問題

 Last Updated:March 12,2021

 2005年5月に英国議会に上程され、英国やEU加盟国内の人権保護団体やロンドン大学等において議論を呼んでいた標記法案(筆者注1)が上院(貴族院)、下院(庶民院) で3月29日に承認され、国王の裁可(Royal Assent)により成立した。


 2010年1月以前は国民IDカードの購入は義務化されないものの、英国のパスポートの申込者は自動的に指紋や虹彩など生体認証情報(筆者注2)を含む国民ID登録が義務化されるという玉虫色の内容で、かつ法律としての明確性を欠く面やロンドン大学等が指摘した開発・運用コストが不明確等という点もあり、今後も多くの論評が寄せられると思われるが、速報的に紹介する。(筆者注3)

1.IDカード購入の「オプト・アウト権」
 上院・下院での修正意見に基づき盛り込まれたものである。上院では5回の修正が行われ、その1つの妥協点がこのオプショナルなカード購入義務である。すなわち、法案第11編にあるとおりIDカードとパスポートの情報の連携を通じた「国民報管理方式」はすでに定められているのであるが、修正案では17歳以上の国民において2010年1月(英国の総選挙で労働党政権の存続確定時)まではパスポートの申込み時のIDカードの同時購入は任意となった。

2.2010年1月以降のカード購入の義務化
 約93ポンド(筆者注4)でIDカードの購入が義務化される。また、2008年からは、オプト・アウト権の行使の有無にかかわりなく、パスポートのIC Chip(筆者注5)に格納され生体認証情報は政府の登録情報データベース(筆者注6)にも登録されることになる。

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(筆者注1)最終法案の内容は、このURLを参照。

(筆者注2)生体認証の指紋や虹彩については、法案のスケジュール(scheduleとは,英連邦の国の法律ではごく一般的なもので、法律の一部をなす。法本文の規定を受け,それをさらに細かく規定したものである。付属規定と訳されている例がある。わが国の法案で言う「別表」的なもの)に具体的に明記されている。

(筆者注3)国民IDカード法案やその他の国のIDカード制度についてTimelineやQ&A方式でBBCが詳しく解説している。

Timelinehttps://www.bbc.com/news/10164331

Q&Ahttp://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/8708054.stm

(筆者注4)93ポンドはあくまで議会で担当大臣(内務省)が答弁したもので、パスポートとIDカードを同時に購入したときの費用であり、個別購入費用については、なお流動的である。

(筆者注5)英国は、すでにわが国や欧米主要国と同様に「ePassports」の発行を始めている。現時点での生体認証方式は「顔認証( facial recognition)」であるが、各国とも国民IDカードとの整合性を取りつつ指紋や虹彩認証の導入のタイミングを計っているのが現実である。

(筆者注6)IDカードとePassportsにおけるデータベースの管理業務(the national identity register(NIR))は、新たな機関である「The Identity and Passport Service(IPS)」が2006年4月1日からを行う。

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