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情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

中国最高人民法院がプライバシー保護を踏まえた判決検索データベースにかかるオンライン公表規則を公布

2014-01-26 16:35:42 | 電子政府(eGovernment)

 Last Updated: April 30,2024

中国の最高裁にあたる「最高人民法院(Supreme People’s Court  )」は、2013年11月21日付け通達で裁判情報の迅速性、透明性と独立性、個人のプライバシー保護等を担保するとともに国内の全「高級人民法院(32ある)」 (筆者注1)の判決文検索サイトを構築するため、早期公表にするオンライン・データベース規則を制定し、2014年1月1日から施行する旨公布した。

  このニュースは、筆者は1月24日に米国の大手ローファーム(Hogan Lovells)のニュース (筆者注2)で知ったのであるが、わが国においてこの分野に詳しいとされる特許庁京都大学国際法政文献資料センター神戸市外国語大学学術センター図書館 等においても紹介されていない情報であることから、本ブログで取り上げた。 

1. 人民最高法院の規則通達の要旨

 最高人民法院关于 人民法院在互联网公布裁判文书的规定(2013年11月21日最高人民法院审判委员会第1595次会议通过)(以下「規則」という)の要旨を概観する。なお、条文番号は筆者が追加した。 

○規則の下で、国民の情報の入手権、司法の参加ならびに司法手続きの監視権を保証するため、全人民法院は全判決文(中国全体で3,000以上)につき判決日の7日以内にオンラインで公布し、一部例外を除き裁判の当事者名を本名で掲載することを義務付ける。(第8条) 

○規則は、国家機密(涉及国家秘密)、個人のプライバシー(个人隐私的)、未成年が関与した刑事事件(涉及未成年人违法犯罪的)、調停を介した和解事件(以调解方式结案的)、その他オンラインでリリースすることが適さない事件(其他不宜在互联网公布的)については例外としてオンライン・データベースには掲載しない。(第4条) 

○さらに、規則第7条は第4条に特に定める以下の例外の場合を除き、国民の知る権利に基づくアクセスを保証すべく裁判当事者の本名を保持する旨定める。

・婚姻関係の事件および家族法事件の当事者名(婚姻家庭)、遺産紛争事件当事者および法定代理人名(继承纠纷案件中的当事人及其法定代理人)

・刑事事件における被害者および法定代理人(刑事案件中被害人及其法定代理人)、証人(证人)および鑑定人(鉴定人)の氏名

・3年以下の刑を言い渡され、かつ常習犯でない刑事事件の被告の氏名(被判处三年有期徒刑以下刑罚以及免予刑事处罚、且不属于累犯或者惯犯的被告人)

 ○規則は、国民の知る権利とプライバシー保護のバランスを配慮すべく考慮されている。第7条はオンラインの判決文において次の情報は削除すべき点を義務付ける。

・自然人の自宅の住所(自然人的家庭住址)、電話番号など通信情報(通讯方式)、身分証明番号(身份证号码)、金融機関の口座番号等(银行账号)、健康状態その他の個人情報(健康状况等个人信息)

・未成年者に関する情報(未成年人的相关信息)

・法人またはその他の組織の金融機関口座番号等情報(法人以及其他组织的银行账号)

・企業機密情報(商业秘密)

・その他、公開が不適切といえる情報(其他不宜公开的内容) 

○上記にあげた例外項目と情報を除き、オンラインで公開される判決情報は、裁判の関係当事者間で扱われるバージョン内容と同一である。

2.参考情報

(1)オンライン判決データベース(中国裁判文书网)

(2)11月29日に最高人民法院がメデイア等に対し行ったQ&A(最高法院就在互联网公布裁判文书的规定答记者问) 中国語のみ 

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(筆者注1) 高級人民法院は、省・自治区・直轄市などに設置されている。詳しくは、 「中国民事裁判制度の概要」「ニイハオ中国ビジネス法ゼミナール」、 「中国ビジネス・ローの最新実務 Q&A等を参照されたい。 

(筆者注2) Hogan Lovellsの英文記事では、法定代理人等規則の内容を正確に翻訳していない箇所もあり、筆者の責任で原文に基づき補足した。 

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米国連邦商務省・国勢調査局が実施する「2012年経済国勢調査」の意義とわが国ビジネス等にとっての研究課題

2012-09-13 17:13:21 | 電子政府(eGovernment)



 わが国の製造・サービス産業等にとって米国市場は海外進出の観点から見た最大のビジネス目標であることはいうまでもなかろう。広大な国土を持ち異なる商習慣や制度等を持つことからビジネス展開の在り方研究はわが国の関係業界にとって極めて重要な経営課題である。

このような観点から考察する上で重要な情報源といえるのが、5年ごとに連邦商務省国勢調査局が実施する「経済国勢調査(Economic Census)」である。
 今回のブログは、わが国で行われている詳細な情報分析の前提となる米国の産業・経済分析の実態を正確に理解する意味で重要な意義をもつ「経済国勢調査」に連邦政府がどのように取り組んでいるかにつき概観する。

 なお、2012年3月に日本貿易振興機構(ジェトロ)が「米国有望製品・サービス市場調査 ~米国市場を目指す日本企業の取り組み事例~」を公表している。本資料は、2011年1月~2012年3月にかけて、ジェトロが発行する世界のビジネスニュース日刊通商弘報に掲載された企業などの対米展開事例集である。全316頁にわたる大部な資料であるが、その解析内容は極めて意味のあるものといえる。
(筆者注)

1.「2012年経済国勢調査」実施の概要
 本調査は合衆国法典第13編「国勢調査」(Title 13,U.S.Code)に基づき義務化されているもので、約400万社以上の企業が対象となる。2012年10月以降に大中企業は最小規模の企業に送られる記載見本と同様の記入用紙を受け取る。なお、記入回答方法は紙または電子的報告による選択肢が用意される。
 本調査結果は、2013年2月12日に還元される。

2.経済国勢調査に向けた国勢調査局の対応・準備
 同調査局は2012年9月10日、経済国勢調査の実施促進目的で“Economic Census/business census.gov”サイトを立ち上げた。同サイトは商業組合、商工会議所、メディア、公的機関が公表するために使用できるようビデオ、概要説明、物語性を持った考えおよび多くの人が関心を寄せるであろうポイントを含む。また、地域コミュニティや企業のオーナーに対する経済発展、経営意思決定および戦略計画立案等を提供する情報をも提供する。

 さらに、同サイトは特定の産業分野のビジネスに合致した形での情報資産を提供する。これら情報供給資産の1つである“business.census.gov/franchising.”は米国内の300以上のフランチャイジィング産業のビジネスをカバーする。
同時に、本サイトは各企業が2012年秋の調査対応を準備すべく経済国勢調査にかかる書式のサンプルへの直接リンク可能である。

 さらに、前回調査である「2007年経済国勢調査」からフランチャイズに関する包括的報告のハイライト部分および国際フランチャイズ協会(IFA)代表取締役Stephen J. Caldeira のビデオメッセージの閲覧も参考となろう。

3.経済国勢調査の意義と目的
 経済国勢調査は経済指標の基本的構成要素となる正確な評価基準(ベンチマーク)である国内総生産(GDP)、月間小売売上高(monthly retail sales)および生産者価格指数(Producer Price Index)等を提供する。また、同調査は米国における民主主義を形成するものとして州、地方政府、連邦議会やコミュニティのリーダーにとっての決定にかかる詳細な情報を提供する。

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(筆者注) これらの業種についてまとめるに当たり、同報告書では地域区分として、「全体」には米国全体につき、「地域」には原則として米国国勢調査(Census)が利用している次の4地域区分を採用している。(1)西部地区(West):人口 7,157万人(米国全体の23.3%) GDP 3兆4,420億ドル 1人当たりGDP 4万8,000ドル 、(2)南部地区(South):人口 1億1,332万人 (米国全体の37.0%) GDP 4兆8,553億ドル 1人当たりGDP 4万2,800ドル 、(3)北東部地区(Northwest): 人口 5,528万人 (米国全体の18.0%) GDP 2兆8,764億ドル 1人当たりGDP 5万2,000ドル 、(4) 中西部地区(Midwest):人口 6,684万人 (米国全体の21.8%) GDP 2兆8,539億ドル 1人当たりGDP 4万2,700ドル 。

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米国連邦司法会議が法廷での写真撮影や民事裁判ビデオ録画の一般公開パイロット計画を承認

2011-12-06 12:24:20 | 電子政府(eGovernment)

 

 わが国では2009年5月21日から「裁判員制度」が開始され、裁判や捜査等に関する国民やメディアの関心も高まりつつあるが、一方で去る9月10日、大阪地裁で元厚生省局長村木厚子氏に対する無罪判決が下された事件の内容を見るにつけ、わが国でも捜査や裁判の公正・公開性の重要度はますます増加するといえよう。

 このような中で、筆者の手元に9月14日付けで米国連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)が連邦地方裁判所法廷のカメラ撮影や一定の民事裁判手続きのデジタル・ビデオ録画の一般公開につき限定的ではあるが、今後最長3年間のパイロット計画
(筆者注1)の実施につき承認した旨のニュースが届いた。

 連邦司法会議については本ブログでも何回か紹介してきたが、タイムリーな話題として簡単に紹介する。また、これに関し、アイオワ州司法部から届いた最新情報として同最高裁判所主席裁判官であるマーク・キャディ(Mark S.Cady)が12月6日に連邦議会上院司法委員会「行政監視および法廷に関する小委員会(Subcommittee on Administrative Oversight and the Courts)」で証言するというリリースが手元に届いたので、関連情報として追加する。

Mark S.Cady

 なお、2010年9月現在の司法会議の構成メンバーを参照されたい。

1.パイロット期間
 最長3年間とする。

2.計画の評価対象
(1)連邦地方裁判所の法廷のカメラ撮影の効果、裁判手続のビデオ録画およびそれら記録の一般的公開の評価とする。その開発の詳細およびパイロット計画の実施については「同会議:裁判運営および事件管理委員会(Conference’s Committee Administration and Case Management)」により今後決定される。

(2)必要に応じ、本パイロットに参加する裁判所はパイロット試験計画に参加する裁判官に例外を提供するためローカル・ルール(適切な公的通知やコメントの機会の提供)を改正することとなる。

(3)本パイロット計画への参加は公判裁判官(trial judge)の裁量に基づく。
 
(4)パイロットの下で参加する裁判所は裁判手続を録音するが、その他の団体や個人」による録音は認められない。陪審メンバーの発言録音は認められず、また公判における訴訟当事者のパイロットへの同意が必要である。

2.実施結果の報告
 連邦司法センター(Federal Judicial Center) (筆者注2)は、本パイロット計画の中心的役割を担い、開始後1年目と2年目の終わりに中間報告を作成する。

3.電子メディアへの報道原則の見直しの経緯
 刑事裁判手続の電子メディアへの適用は1946年採択された連邦刑事訴訟規則第53条(筆者注3)の下ならびに1972年連邦司法会議により明白に禁止されている。しかし、1996年に司法会議は控訴裁判所におけるカメラ撮影禁止を撤回し、口頭弁論の放送を認めるか否かは巡回区控訴裁判所の裁量に委ねることとなった。
 今まで、第2巡回区控訴裁判所および第9巡回区控訴裁判所が当該報道(coverage)を認めている。

 なお、連邦司法会議は1990年代前半に6つの連邦地方裁判所と2つの控訴裁判所で民事訴訟事件において電子メディア報道を認めるパイロットプログラムを実施した。

4.アイオワ州最高裁判所主席裁判官等による上院小委員会での証言
 アイオワ州の司法部のリリースは関係者向けのためか、あまり説明内容は詳細でない。本ブログはわが国の読者が中心であるため、筆者なりに補足して説明を行う。
 なお、実は小委員会の証言の模様はライブ(WEBCAST)で見ることが出来るのであるが、(筆者注4)筆者がこの原稿を書いているのは12月6日の午前中である。米国はまだ12月5日の夜中であるため、その感想を記すことはあきらめ、ここでは司法部のリリース内容のみ紹介する。

・12月6日、アイオワ州最高裁判所主席裁判官マーク・キャディは、連邦議会上院司法小委員会においてアイオワ州裁判所における裁判手続中のビデオ等の報道の前向きな取組み内容につき証言する。
・アイオワ州司法部は、法廷でのビデオやオーディというメディア報道を認める米国内のリーダー的存在といえる。30年以上にわたり、アイオワ州の法廷は法廷内での録音、写真撮影とビデオ撮影を認めてきた。このような取組みを行う前は、米国の他州における裁判所慣行と同様、公判におけるメディア報道の手段はペン、鉛筆、紙およびスケッチ帳に限定されていた。
 1979年に徹底的な検討にもとづきアイオワ州最高裁は訴訟当事者の権利や公正な裁判を受ける権利を保護する一方で、公判傍聴時のオーディオ、ビデオおよび写真撮影を認める裁判所規則を採択した。
・また、最近時同最高裁は口頭弁論手続のビデオ放映を認めた。

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(筆者注1)「計画要旨(The Plan in Brief) 」の部分を仮訳しておく。
「本計画は、連邦司法部門の中核的価値を保存する一方で、挑戦と機会を利用するという伝統に合致し続けるものである。それは、効果的に使命を果たす司法部の能力に挑戦したりまたは複雑化する司法部門に影響する様々な傾向や問題を考慮に入れたものである。さらに、本計画は、未来が正義を提供するシステムの改良にとって非常に大きな機会を提供するかもしれないと認める。

 本計画は、連邦司法制度の(1)アクセスしやすさ、(2)タイムリー性、(3)効率性および(4)米国民の最もすばらしい法的な才能を司法サービスに引き付けるもので、非常に適任な幹部要員と補助スタッフのための選択に関し連邦政府の他の部門と共に力を発揮して、国民の信認や信用を受ける雇い主になると期待する。

 本計画は、行動について概説する議題が、司法部の成功を保存して、適切である場合積極的な変化を引き起こす必要がある場合に役立つ。

 そこに記された目標と戦略は目下進行中である。また考えられているあらゆる重要な活動、プロジェクト、イニシアティブや研究を含んでいないが、本計画は全体の司法部門に影響する問題に注目に焦点を合わせるもので、かつ司法部門全体と国民の利益となる方法でそれらの問題に対処するものである。

 本計画で特定されているのは、司法部門が現在記述しなければならない「7つの基本的な問題」と各問題に関し組合せとなる対応策である。
これらの問題の範囲は(1)司法の提供、(2)裁判データ等の有効で効率的な管理、(3)司法従事者、技術の可能性、司法過程へのアクセス、連邦政府の他の部門との関係の未来、および(4) 連邦裁判所への国民の理解、信頼および信任のレベルを含む。

(筆者注2) 1967年に設立された連邦司法センター(Federal Judicial Center)は、継続的な教育・研究のための連邦最高裁の機関である。その職務は概して3つの領域に分かれる。すなわち連邦裁判所に関する研究を行うこと、連邦裁判所の管理・運営を向上させる提言を行うこと、司法府職員の教育・訓練プログラムを作ることである。
 連邦司法センターの設立以来、裁判官たちは同センターが主催するオリエンテーションその他の教育プログラムを受けるという恩恵を受けてきた。近年は、治安判事、破産裁判所裁判官、管理職員たちも教育プログラムを受けることができるようになった。連邦司法センターは、ビデオや衛星中継技術を広範に活用しており、多数の人々が利用することができるようにしている。アメリカ合衆国日本大使館「Outline of the U.S.Legal System 」から引用。

(筆者注3) Rule 53の原文は次のとおりである。“Courtroom Photographing and Broadcasting Prohibited:Except as otherwise provided by a statute or these rules, the court must not permit the taking of photographs in the courtroom during judicial proceedings or the broadcasting of judicial proceedings from the courtroom.”

[参照URL]
・http://www.uscourts.gov/News/NewsView/10-09-14/Judiciary_Approves_Pilot_Project_for_Cameras_in_District_Courts.aspx
・http://www.uscourts.gov/uscourts/FederalCourts/Publications/StrategicPlanCover2010.pdf
・http://civilwatchdoginjapan.blogspot.com/2009/05/blog-post.html

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米国の電子政府強化のための連邦印刷局主導の連邦裁判所判決情報検索パイロット・システムが稼動

2011-12-05 19:47:18 | 電子政府(eGovernment)



(本ブログは執筆途上である)

 筆者の手元に「2002年電子政府法(E-Government Act of 2002)」(筆者注1)を受けて、その準備を進めていた標記パイロット計画の一部稼動に関する連邦裁判官会議”U.S.Courts”サイトの最新情報(2011年10月31日) (筆者注2)が入ってきた。その狙いとするころは司法情報のより一般的な解放と透明性確保と考えられる。
 筆者自身、米国の連邦、州等という多岐・多様にわたる司法情報を正確にフォローするとなると大変な手間と時間を要するが、米国の司法関係者やアカデミーやNPO関係者はさらに切実な問題であろう。
(筆者注3)

 その一例として今回のブログは本年10月に連邦印刷局(Government Printing Office:GPO)がサービスを開始した“FDsys”の「検索手順」等に関して解説する。その前に本年4月時点の連邦司法会議のリリースではGPOの“FDsys”サービス計画はよりアグレッシブな内容であった。
 春以降実施される予定の裁判所は2連邦控訴裁判所(第2、第8巡回区控訴裁判所)、7連邦地方裁判所(ミネソタ、ロードアイランド、メリーランド、アイダホ、カンサス、ニューヨーク北部地区およびアラバマ北部地区)、および3破産裁判所(メイン、フロリダ南部地区およびニューヨーク南部地区)であった(連邦司法会議(Judicial Conference)は2011年3月に最大30の連邦裁判所の追加を承認した)。

 なお、言うまでもないがGPOの“FDsys”サービスについてはわが国の国立国会図書館(NDL) が2011年4月に「連邦デジタルシステム(FDsys)の概要」というテーマで取上げている。しかし、その説明内容はまさに「制度全体の概要」(また、当然ながら“UNITED STATES COURTS OPINIONS - BETA”の解説はない)だけであり、わが国の司法関係者や研究者、学生等が“FDsys”を実際に利用し、判決情報を活用するには説明不足である点は否めない。(筆者注4)
 さらに疑問に思ったのは本文で言及したとおり、控訴裁判所の判決サイトには下級審判決とのリンク機能があると考えるであろう。しかし、この期待は裏切られた。わが国でも同様であるが、米国の判決情報は連邦、州とも最高裁や控訴裁判所の判決情報については各種のデータベースが取上げ充実している一方で、下級審判決のなると実際問題“PACER”を利用するしかないというのが現実であろう。

 本ブログの執筆にあたり、わが国を初めフランス、ドイツや英国の判例データベースの最近時の充実度につき比較を行った。その結果は最後に簡単にまとめたが、検索機能や下級審と上級審リンクや検索機能はいずれも米国の官民の判決データベースより優れていると感じた。この問題は電子政府のあり方という視点で改めて論じたい。

 今回のブログは、(1)BETA版の「検索手順」に焦点を当て解説を試みるとともに、(2)UCLA(カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)ロースクール図書館(Hugh & Hanzel Darling Law Library)のオンライン検索ガイドの特徴ある解説内容を紹介し、(3)最後に電子政府の主要目的の1つである判決の無料または低廉な検索サービスのあり方等について仏、独、英および日本の現状比較をまとめた。


1.パイロットシステムの一部稼動内容
(1)第一次計画の内容
 “U.S.Courts”の稼動計画の解説によると計画の概要は次のとおりである。第一次として4つ(3つと紹介しているが、GPOは4裁判所と記しているので本ブログでは4つに訂正した)(筆者注5)の連邦裁判所(第8巡回区控訴裁判所(U.S. Court of Appeals For The Eighth Circuit)(筆者注6)、ロードアイランド連邦地方裁判所(U.S.District Court for the District Rhode Island)およびフロリダ南部地区連邦破産裁判所(U.S.Bankruptcy Court for the Southern District of Florida)ニューヨーク南部地区連邦破産裁判所(U.S.Bankruptcy Court for the Southern District of New York))の判決につき広く内外の関係者による無料検索閲覧が可能となった。
 11月初めの時点では本年12月末には予定されている12のパイロット裁判所が“FDsys”上での利用が可能となる予定と説明されていたが、12月5日現在、FDsysサイトで見る限り8裁判所(第8巡回区控訴裁判所; アイダホ連邦地裁(United States District Court District of Idaho);カンサス連邦地裁(United States District Court District of Kansas);メリーランド連邦地裁(United States District Court District of Maryland);ニューヨーク北部地区連邦地裁 (United States District Court District of Northern District of New York);ロードアイランド連邦地裁:フロリダ南部地区連邦破産裁判所;およびニューヨーク南部地区連邦破産裁判所)である。
 また、2012年の前半にはさらに22の裁判所判決を追加すべく目下準備中であると説明されている。

 さらに、FDsysに加え従来各連邦裁判所判決のオンライン情報検索に関する登録・有料司法サービスである“Public Access to Court Electronic Records:PACER”制度(米国(連邦管轄)の場合、判決を含めたすべての裁判記録についてPACERという公的データベースからアクセス可能である。PACERは1990年代にダイアルアップでそのサービスを始め、現在はインターネットを用いて利用できる。料金は1頁あたり8セント(筆者注7)で、1文書の料金上限が2ドル40セントとなっているので30頁以上の文書でもキャップがあり、それ以上の料金はかからない。

 なお、この上限は「氏名検索」、「事件を特定しない報告類」や「連邦裁判所規則の写し」には適用されない。また四半期ごとの支払請求の利用額が10ドル以下の場合は費用請求は放棄され、実質的にほとんどのユーザーは無料となっている)等の実質的な一部無料化拡大が行われているほか、個別の対応として無料で判決をウェブサイトに掲載サービスを始めている連邦裁判所も数箇所ある(リリースには具体的裁判所名は明記されていない)。

 本パイロット計画は2011年3月の連邦司法会議において承認され、また2011年2月には印刷事業にかかる連邦議会との共同委員会(Joint Committee on Printing)において承認された。
 同プロジェクトに関しては当初次の12の裁判所での実施を想定していた。
①2巡回区控訴裁判所:第2および第8。
②7連邦地裁:ミネソタ、ロードアイランド、メリーランド、アイダホ、カンザス、ニューヨーク北部地区、アラバマ北部地区。
③3連邦破産裁判所:メイン、フロリダ南部、ニューヨーク南部

 しかし、2011年3月の司法会議において35裁判所の任意参加を待って拡大することを決定した。結果的に見ると連邦の判決検索サイトとしては現在機能している低額利用料の“PACER”と併用していくことになるといえる。

 本プロジェクトは計画実施が完了後、“FDsys”を介したアクセスサービスを今後とも継続するか否かの決定を行う予定である。

(2)FDsysの具体的な検索手順以下
 筆者は実際にFDsysの手順に即して判決内容の検索を行ってみた。ガイダンスの読んでいないので正確な手順でないかも知れないは目的とする情報は得られた。
FDsysのHP を開く。

②Featured Collectionsのボックスから一番右下の「United States Courts Opinions – BETA」を選択

③“Appellate”,“District”,“Bankruptcy”のいずれかが選択可能、ここからは個別にツリー構造で選択することになる。まず、 “Appellate”を選択すると「第8巡回区控訴裁判所」判決の2001年から2011年の年度一覧が表示される。

④ためしに2009年を選択してみる。全判決の一覧で出てくる。事件番号、原告・被告名、判決日が表示される。ここで2009年8月20日の「04-2901 - United States v. Travis Ray Burns」事件を選択してみる。

⑤「04-2901 - United States v. Travis Ray Burns」事件の判決原文(PDF)が表示される。

⑥「04-2901 - United States v. Travis Ray Burns」事件の控訴裁判所に係属開始から判決に至る経緯が一覧で表示される。さらにその中から必要な項目を選択し、閲覧できる。

2.UCLAロースクール図書館(Hugh & Hanzel Darling Law Library)のユニークな判例オンライン・データベースのガイダンスの概要
(1) UCLAロースクール(筆者注8)は創設から年数は約60年と歴史は浅いがユニークな校風をもっているといえる。その図書館である“Hugh & Hanzel Darling Law Library”のサイトでは「オンライン・リーガル・リサーチ」と題してわが国で広く・・・・

(2)「LexisNexisやWestLawを越えて」の意図するところは・・・

PACERの利用料負担問題に関し、米国の大学生はどのような特典があろうか。


3.国際比較からみたわが国の電子政府政策と判決データベースの高度化のあり方(私見)
(1)わが国の判例データベースの検索機能や一覧性の評価
 指宿教授等が指摘されているとおり、わが国では“PACER”や“FDsys”に該当するデータベースはなし、今後電子政府の計画の中でこの問題を優先的に取組む予定はないようである。
 しかし、翻ってみると保管データの量(情報検索の網羅性)は別として判例データベースの使いやすさだけで見ると、わが国の「最高裁の判例検索システム」や民間ベースではあるが「知的財産権判例データベース」は条件の入力方法や上級審と下級審が一覧で確認でき、また直接リンクされるなど優れている点も多いと思う。
 米国のFdsysや前記で取上げた判例データベースを見ると、この一覧性では劣るし、筆者自身も連邦地裁判決を探すのに大変苦労した。改善の余地は十分にあると考える。

(2)これからの電子政府と公的判決データベースのあり方
 米国と比較して網羅性という点でわが国の公的判例データベースの評価はどうであろうか。また、フランス、英国やドイツの判例データベースと比較した場合はいかがであろうか。簡単にまとめておく。
A.フランス





B.ドイツ



C.英国
 まず、“BAILII”を取上げるべきであろう。その対象範囲の広さや・・・・・る。


   ************************************************************************************
(筆者注1) 「2002年電子政府法(E-Government Act of 2002 (Pub.L. 107-347, 116 Stat. 2899, 44 U.S.C. § 101, H.R. 2458/S. 803)」は、①連邦最高情報責任者を置くこと、②各種プロジェクトと技術革新を支援するための電子政府基金を設立すること、③オンライン・ナショナル・ライブラリーを開設すること、④連邦の裁判所の判決録等をオンラインで提供することを主な内容としている。(国立国会図書館 平野 美惠子「調査と情報: 米国の電子政府法」第423号(2003年6月)から一部抜粋)。

(筆者注2)10月30日の”U.S.Courts”の第一次プロジェクトの実施裁判所名のリストの1つが抜けている。正確にいうと4つの裁判所であり、抜けていたのは「ニューヨーク南部地区連邦破産裁判所」である。筆者は“U.S.Courts”のサイト上でパイロット計画の件を読んで改めてGPOのサイトやUCLAロースクールの解説サイトを読んで確認した。“U.S.Courts”事務局宛コンタクト専用画面があるので訂正依頼をしておいたが未だに訂正されていない。この問題点は、本文で述べたとおり8裁判所に拡大されたためか、担当者から回答は来ない。

(筆者注3)


(筆者注4) 民間の連邦裁判区別判決情報・検索サイトとしては有名なものは“Find Law”がある。同サイトの第8巡回区控訴裁判所の検索サイトもあわせ参照されたい。

(筆者注5)



(筆者注6) 第8巡回区控訴裁判所の裁判管轄州は、 Arkansas、 Iowa、 Minnesota、 Missouri、 Nebraska、 North Dakota、South Dakotaである。同裁判所の判決検索サイトも従来から機能している。

(筆者注7)2011年9月に開催した司法会議において、2005年から据え置いてきた1件あたりの国民アクセス利用料(EPA)を2012年4月1日から「10セント」に引上げることを決定した。その背景には次世代の司法電子事件ファイリングの開発やその実装の必要性、また連邦議会から受益者負担の徹底を強くもとめられたことにある。
 一方で、司法会議は地方、州や連邦機関については今後3年間引き上げを免除し、また四半期の利用額免除を15ドルに引上げるといった措置をとった。これにより75~80%のユーザーは免除となると説明している。

(筆者注8) 弁護士の藤本一郎氏がUCLAロースクール生活や弁護士資格に監視まとめたサイト「藤本大学」の中でUCLAロースクールの図書館の概要を紹介している。

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米国連邦最高裁が「情報公開法」の解釈におけるいわゆる「法人のプライバシー権」の否定判決を下す

2011-03-05 14:50:09 | 電子政府(eGovernment)



 3月1日、米国連邦最高裁判所(U.S.Supreme Court)は、 「連邦通信委員会(FCC)」と「AT & T Inc.」の間で争われていた「連邦情報公開法(Freedom of Information Act:FOIA)」7(C)条(筆者注1)にいう「personal privacy exemption」の解釈につき、裁判官の全員一致(8-0)で法人には適用しない旨の解釈判決を下した。(事件番号:No. 09-1279 )

 筆者が、この判決を初めに知ったのは連邦司法省・情報政策局(Office of Information Policy:OIP)からの「FOIA速報(FOIA Post)」であった。
(筆者注2)

 この裁判は連邦控訴裁判所という下級審判決に対する政府の最高裁への裁量上訴という事件で、その統一的解釈や判断が強く求められていたこと、さらに米国の主要プライバシー擁護団体
(筆者注3)やメディア、言論の自由擁護団体等から「法廷の友(Amicus Curiae)」が出されるなど話題の多かった裁判でもある。

 今回のブログは、(1)同裁判の経緯や主な争点を整理、(2)プライバシー擁護団体など第三者による専門的意見である“Amicus Curiae”の内容、(3)この問題を迅速に報じた連邦最高裁
(筆者注4)やOIPの背景にあるオバマ政権の電子政府の中核となる「オープン・ガバメント政策」の意義や連邦政府のCIO等IT強化体制そのものについて解説を行うものである。

1.「FCC対AT & T Inc.」裁判と今回の最高裁判決の要旨
(1)FCCの&T社の告訴、裁判の経緯、争点と判決の要旨(筆者注5)
 コーネル大学ロースクールの解説では第3巡回区控訴裁判所判決等にもとづき事実関係を説明している。以下、要約する。
[事実関係]
 “FOIA”は、連邦機関は一部適用除外の場合を除き、開示要求者に対し保有する記録を開示しなければならない。この開示を拒否したときは要求者は連邦地方裁判所に告訴することが出来ると定める。
 本件において問題となった同法が定める開示の例外の場合とは、次の3つの場合である。
①連邦機関は、特権的または機密性の高い企業機密および1個人から入手した商業営利または金融取引情報(例外規定§552(b)(4))
②個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するであろう個人的かつ医療情報ファイルおよび類似のファイル(例外規定§552(b)(6))
③個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するであろう法執行目的で収集した記録または情報でその収集した範囲内のみのもの(例外規定§552(b)(7)(C))

 米国の第2位の携帯電話事業者であるAT&T社はFCC (筆者注6)の連邦による費用の還付と引き換えに小学校や中学校への通信機器やサービスの提供を行う「米国民ブロードバンド普及プログラム(E-rate Program)」 (筆者注7)に参加した。
 AT&T社はE-rate規則に違反したことをFCCに通知したが結果的に政府は同社に払いすぎていたことになった。FCCの法執行局(Enforcement Bureau)は調査を行い、AT&T社が応じた範囲で情報の提出を求めた。最終的にAT&T社は50万ドルの支払に合意した。

 一方、競合相手である通信サービス業者の非営利団体である“COMPTEL”はFCCに対し調査の内容としてAT&T社から入手した情報および「E-rate Program」に関する情報の開示を要求した。  2005年8月、FCCは一部開示は承諾したが、一部についはもし開示するとFOIA§552(b)(4)に該当するまたはAT&T社にとって競争力への侵害を引き起こすという理由により開示を拒否した。
 価格情報に加え、AT&T社の従業員や顧客を特定する情報の開示は、FOIA§552(b)(7)(C)に該当すると言うものであった。
 FCCはその他の調査から得られた請求書や電子メールを含む全記録を開示することとし、AT&T社が主張した「自社のプライバシー権」の基づく例外規定の適用を拒否した。
 このFCCの決定に対するAT&T社からの行政不服審査請求(administrative appeal)に対し、FCCは“personal privacy rights”を有する「corporate citizen(社会の一員としての企業の責任や義務)」の主張を退けた。

 AT&T社はこの問題の解決につき第3巡回区控訴裁判所にFOIA§552(b)(7)(C)には法人を含むという解釈の見直しを求めた。同裁判所はFCCへの差し戻し再手続命令(remanding)にあたり、個人の場合と同様に法執行による法人に対する不面目(public embarrassment)、ハラスメントや恥辱(stigma)がありうると判示した。

 2010年9月28日、連邦最高裁は訟務長官の裁量上訴(certiorari)を認め、法人がFOIA§552(b)(7)(C)の適用を受けられるか否かの判断を行うこととした。

 最高裁のジョン・ロバーツ(John Roberts)裁判長は判決文において以下の解釈を下した。(エリーナ・ケーガン(Elina Kagan)判事は訟務長官(solicitor general)として本件の最高裁への裁量上訴(certiorari)を申請しているため口頭弁論や裁決には参加せず。) (筆者注8)

「形容詞は通常はかかる名詞の意味を反映するが、それは常にではない。時としてそれらは自身の異なる意味を帯びる。・・・通常我々は、法人(corporations)や法主体(artificial entities) (筆者注9)について言及するときに「個性(personal characteristics)」、「身の回り品(personal effects)」、「私信(personal correspondence)」、「個人的影響(personal influences)」や「個人的な悲しみ(personal tragedy)」という言葉を口にしない。
 これは、法人が個人的な手紙、影響、悲しみを持つことはなく、そのことを表すために“personal”という言葉を使わないからである。
 我々は、FOIAの目的の意味からして法人を含むという理由で適用除外規定である7(C)条を法人に適用する主張は組しない。
 すなわち、個人のプライバシーへの不当な侵害(unwarranted invasion)を構成するという理由に基づく法執行情報の開示要求に対するFOIAによる保護は、法人までは拡大しない。」
 また、同裁判所は、FOIAの「個人およびその医療ファイル(persona and medical files)」という言葉についても法人には適用しない旨明示した。

 なお、最高裁は判決文中、1974年にFOIA改正時に司法長官が「メモ(Department of Justice’s Attorney General’s Memorandum on the 1974 Amemdments to the FOIA)」において「7(C)例外規定は、法人およびその他の法主体に適用できるとは思えない」ことを引用している。

(2)最高裁は、2010年1月19日に口頭弁論(oral arguments)を行い、メリット・ブリーフ(筆者注10)や“Amicus Curiae”についての論議が行われた。口頭弁論の内容の詳細についてはコーネル大学ロースクールやピッツバーグ大学ロースクールのサイト「JURIST」が詳しく報じているので略す。

2.連邦最高裁における業界団体やプライバシー擁護団体ならびにメディア等の法廷意見(Merit Brief)や「法廷の友(Amicus Curiae)」の主な内容
(1)“COMPTEL”の主張(本裁判につき米国法曹協会(ABA)サイトがまとめた“Merit Brief”33-34頁参照)
 連邦議会はFOIAの制定目的は市民(citizenry)が適切に情報を得て政府機関の活動をチェックするというものであり、また法人につきプライバシー権に基づく開示の例外を与えることはこの法の制定目的を害すると強く主張した。

(2)“Reporters Committee for Freedom of the Pres”や報道機関22社の主張
 法人につきプライバシー権を与えることは国民への危険な安全情報記録や企業の公衆衛生義務違反など重要な法人の情報を求めるジャーナリストやニュース・メディアの番犬機能を阻害する。(ABAがまとめた“Amicus briefs”“Merit Brief”18頁参照)

(3) “Citizens for Responsibility and Ethics in Washigton”の主張
 我々やメディアの任務の目標は、BP社の原油流出事故のように健康への危機と環境被害への対応に関する政府の対応についてひろく国民に情報提供することにある。仮に法人の開示の例外を許すならこのような情報への我々のアクセスは極めて制限される。(ABAがまとめた“Amicus briefs”“Merit Brief”16-17頁参照)

(4)前記の意見に対し、AT&T社や米国商工会議所(United State Chamber of Commerce)は次のような反論を提出した。

 FOIA§552(b)(7)(C)の例外規定の制定目的は、法執行機関により重大な結果をもたらす個人や法人を保護することであり、企業のプライベートな情報を競争相手を含む公衆に情報開示することは、この目的を弱体化する。(Brief of Respondent 43頁参照)
 さらに、開示が要求された情報について合法的な公益が存するときは、政府は公益が企業のプライバシー権を上回ると判断するなど公平な考慮を優先させるのであり、報道機関の番犬機能は侵害されない。(Brief of Respondent 45頁参照)
 反対に、AT&T社としては法人に“personal privacy”の権利を認めないことはそれらの情報への経済や産業界の競争者の自動的なアクセスを認めることなり、競争力を傷つけると主張した。(Brief of Respondent 43頁参照)
 また、競争的な「個人」情報の開示に直面した法人は法執行機関の調査の真っ最中においてお互いに自発的な協力を躊躇する可能性についても主張した。(Brief of Respondent 43頁参照)

 一方、米国商工会議所(Unites States Chamber of Commerce:Chamber)はAT&T社の主張を擁護すべく次のような“Amicus Curiae”(23頁)を述べた。

 この例外が否定されると法人の法執行機関の調査への法遵守に水を差すと述べ、さらにAT&T社がFCCに対し自主的に法違反の事実を報告した点に注目し、企業機密が漏洩する惧れがあるとなるとこれらの対応についても法人は不承不承となることを指摘した。
 また、中小企業の場合、所有者の“personal privacy”が法人との重なる面が多いため特定の被害が発生する点も指摘した。

3.オバマ政権の電子政府の中核となる「オープン・ガバメント政策」の意義や連邦政府のCIO等IT強化体制の実態
 前政権であるブッシュ政権の電子政府政策の目玉は2002年成立した「電子政府法(E-Government Act of 2002)( Public Law 107–347)」であり、また連邦省庁横断型の電子政府サービス用ポータルサイト“First.gov”(現在は“USA.gov”)等のように、ITの導入による行政の効率化や国民の利便性向上であった。

(1)2009年12月「オープン・ガバメント指令」
 2009年誕生したオバマ政権は、従来の電子政府政策の方向性を、最新のウェブ技術を活用した政府情報の積極的な公開、および政府決定プロセスへの市民参加を促進する「オープン・ガバメント政策」、すなわち民主主義の強化に重点を置いている。オバマ大統領は、連邦政府全体を統括する初めての最高情報責任者(連邦CIO)最高技術責任者(連邦CTO)を新設して連邦政府のIT強化体制を整えると、2009年12月8日、オープン・ガバメント実現の3原則「透明性 (Transparency)」「国民参加 (Participation)」「官民連携 (Collaboration)」を中核に据えた「オープン・ガバメント指令(Open Government Directive)」を発令した。同指令の特徴は、1) 連邦政府が設置したイニシアチブを手本に行動計画を策定するよう、各省庁に対して4カ月以内という明確な期限を設けて求め、連邦政府の役割強化と政策における具体的な成果を追求している点、2)「透明性」、「国民参加」、「官民連携」の実現を、行政コストの削減・自然災害対策・医療サービスの向上・雇用創出につなげるという方向性を明示している点である。

(2)「透明性(Transparency)」に関する動き
 連邦政府は、オープン・ガバメント指令と同時に、「米国民に向けたオープン・ガバメント進捗報告書(Open Government Progress Report to the American People)」を発表した。同報告書では、指令の3原則の定義に加え、各イニシアチブが分野・目的別に紹介されている。この定義によれば、「透明性」とは「政府の保有する情報を国民に公開することで行政の説明責任を果たすこと」である。透明性実現のため、“DATA.gov”(筆者注11)“IT dashboard”、 “Open government”“USA spending.gov”“Recovery.gov”、官報のXML化などのイニシアチブが実行されている。(以上の説明はNTT データの米国マンスリーニュース2010年11号から一部抜粋の上リンクをはった。)

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(筆者注1) §552. Public information; agency rules, opinions, orders, records, and proceedingsの条文内容は次のとおりである。
(a)連邦機関の開示義務に関する原則規定
(b)例外規定
(4) trade secrets and commercial or financial information obtained from a person and privileged or confidential;
(6) personnel and medical files and similar files the disclosure of which would constitute a clearly unwarranted invasion of personal privacy;
(7) records or information compiled for law enforcement purposes, but only to the extent that the production of such law enforcement records or information
(C) could reasonably be expected to constitute an unwarranted invasion of personal privacy,
(以下、略す)」

(筆者注2) “OIP”の記事は最高裁の判決文の内容については細目を紹介しているが、この裁判そのものについて全体像についてはコーネル大学やピッツバーグ大学のレポートの方が分かりやすい。

(筆者注3) 団体名を以下列記する。 “Reporters Committee for Freedom of the Press”“American Society of News Editors”
“Citizens for Responsibility and Ethics in Washigton” ”ACLU”
“Electronic Frontier Foundation”
“National Security Archive”“Openthegovernment.org”“Associated Press”

(筆者注4)連邦最高裁は3月2日のウェブサイト“Recent Decisions”で「判決要覧(syllabus)」と本判決文(原文)を公開している。このような情報開示の迅速性も政府が進めるオープン・ガバメントの一環といえよう。

(筆者注5) 対象期間が2011年1月19日の口頭弁論までであるが、コーネル大学ロースクールの「法情報研究所(Legal Information Institute)」が裁判経緯、法的解釈上の争点等について詳細に解説している。関係する資料等についてはリンクが張られているので検索の手間も省ける。

(筆者注6) 連邦通信委員会(FCC)の基本的な機能や任務ならびにその組織の概要についてFCCの工学・技術局技術調査部のGeorge Tannahill氏が2009年3月4日、「日米相互認証協定(MRA)」国際研修会でわかりやすく解説しているのでその要旨を紹介しておく。

「①FCCは、公益のために民間電気通信産業分野の規制を所管。無線サービスに混信を起こす可能性を最小限にするため、送信機その他の設備の技術基準を制定。また、市場出荷される機器が技術要求事項に適合するよう認証制度を管理。
②FCCの業務の根拠を定めるのは連邦行政規則(連邦規則集第47編(47 CFR))でその内訳として「管理規則(すべてのその他の規則条項に適用される一般要求事項を規定)」と「無線業務規則(ユーザーの免許及び機器認証試験の要求事項を規定)」が定められている。
③FCCの組織中、法執行局(3/3(26)参照)は監視、監督の立場から必要に応じ罰金等の行政処分を行う。」

(筆者注7“E-rate”とは、「1996年制定の電気通信法(Telecommunications Act)で定められた、「米国内のあらゆる人々に対して平等の通信サービスを提供する」という「ユニバーサル・サービス」規定に基づく補助金制度として、位置付けられている。1997年に、独立の政府機関である連邦通信委員会(Federal Communications Committee: FCC)がE-rateを含めた「ユニバーサル・サービス」施行規則を制定し、1998年よりE-rateによる割引が実施されている。」
“E-rate”の財源としては、全米の通信事業者が拠出する「ユニバーサル・サービス基金」から捻出されている。この基金の補填のために、通信事業者は一般の電話加入者に対し電話料金の10%程度を「ユニバーサル・サービス料金」として徴収する、といったことが成されている。また、E-rateの運用に関する実務については、FCCの監督のもと、Universal Service Administrative Company(USAC)という民間の非営利機関が担当している。
E-rateが実施されてはや10年近くになるが、E-rateは学校や図書館でのインターネット接続、またブロードバンド接続の促進に貢献しているとの評価がある一方、運用状況に対する批判も多い。(以下略す)」

(筆者注8) 米国の訟務長官(solicitor general)とは、連邦最高裁判所で連邦政府が当事者となっている訴訟に際し、政府のために弁論(amicus curiae)を行う官職であり、連邦司法省の公務員である。ケーガン判事は元第47代訟務長官でその任期は2009年3月~2010年5月であった。)

(筆者注9) 翻訳の専門家も法的な用語として「Entity」の的確な訳語は難しいらしい。ちなみに、契約翻訳専門家によるブログである「契約翻訳ヴァガボンド」が苦労話を展開している。その中で、世界的な英米法辞典「Black’s Law Dictionary Eighth Edition」の説明が引用されている。
“entity. An organization (such as business or an governmental unit) that has a legal identity apart from its members.

corporate entity. A corporation's status as an organization existing independently of its shareholders. ● As a seperate entity, a corporation can, in its own name, sue and be sued, lend and borrow money, and buy, sell, lease, and mortgage property.(略)

public entity. A governmental entity, such as a state government or one of its political subdivisions.”

 この大辞典は筆者が大学院時代に利用し、今も手元にあるのは“Revised Fourth Edition”(定価6,720円)であるが、以下のとおり極めて簡単な内容である。
“Legal existence.Department of Banking v.Hedges,136 Neb.382,286 N.W.277,281”

(筆者注10)  “Merit Brief”とは、裁判用語で「裁判上の具体的争点に関し主張する制定法や判例法に基づき裁判で使用する目的の法的意見書をいう。」
本裁判において1月19日に提出された“Merit briefs”および“Amicus briefs(Amicus Curiae)”は以下のとおりである。(米国法曹協会(ABA)サイトによる)。
(1)Merit briefs
・Brief for Petitioner Federal Communications Commission, et al.
・Brief for Respondent Comptel in Support of Petitioners
・Brief for Respondent AT&T, Inc., et al.
・Reply Brief for Petitioner Federal Communications Commission, et al.
・Reply Brief for Respondent Comptel in Support of Petitioners

(2)Amicus briefs
・Brief for the Reporter's Committee for Freedom of the Press ― ALM Media, LLC, the
American Society of News Editors, the Associated Press, the Association of American
Publishers, Inc., Bay Area News Group, Bloomberg L.P., the Citizen Media Law
Project, Daily News, L.P., Dow Jones & Company, Inc., The E.W. Scripps Company,
the First Amendment Coalition, First Amendment Project, Gannett Co., Inc., NBC
Universal, Inc., the National Press Photographers Association, Newspaper
Association of America, the New York Times Co., NPR, Inc., the Society of Professional
Journalists, Stephens Media LLC, Tribune Company, and the Washington Post in
Support of Petitioner (reprint)
・Brief for Collaboration on Government Secrecy in Support of Petitioner
・Brief for Free Press in Support of Petitioner
・Brief for the Project on Government Oversight, the Brechner Center for Freedom of Information, and Tax Analysts in Support of Petitioner (reprint)
・Brief for Citizens for Responsibility and Ethics In Washington, the Electronic Frontier
Foundation, the American Civil Liberties Union, the American Library Association, the
Association of Research Libraries, the National Security Archive, and
Openthegovernment.Org in Support of Petitioner
・Brief for Constitutional Accountability Center in Support of Petitioner
・Brief for National Association of Manufacturers in Support of Respondent AT&T, Inc.
・Brief for the Chamber of Commerce of the United States of America in Support of
Respondent AT&T, Inc.
・Brief for the Business Roundtable in Support of Respondent AT&T, Inc.

(筆者注11) ホワイトハウスの発表では、“DATA.gov”は2009年5月に47のデータを用意して発足したが、約1年後の2010年5月にはデータ数は25万を越えた。同サイトへの総アクセス件数は9,760万件となっている。

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米国の低所得者給付金支払デビット・カード化完全移行と銀行非取引世帯救済対策の現状と課題(その2完)

2010-05-14 23:20:00 | 電子政府(eGovernment)

(3) 連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした銀行界へ強力なイニシアティブを持った具体的調査や改善策
  銀行口座を開設できないまたは十分な金融サービスを受けられない人々(unbanked and underserved populations)に対し連邦政府は銀行界へ強力なイニシアティブを取るべく連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした具体的な調査や改善策が行われている。

A.2009年2月、FDICが「非銀行口座保有者の口座開設に向けた銀行の努力に関する調査結果および改善勧告の要旨(FDIC Survey of Banks’ Efforts to Serve the Unbanked and Underbanked)(12頁)」を発表

①銀行による金融教育および奉仕活動
・77%の銀行は自身の取引市場における非銀行取引先の重要性を理解しているが、これらへのサービス拡大をビジネス戦略の優先項目としているものは18%以下である。
・非銀行取引先に対する教育方策として最も効果的なものの順位を選ぶと、金融教育集会が第一で、次いで消費者新団体等他団体による勉強会への参加や奉仕活動への参加をあげている。
・63%の銀行は非銀行取引者向けの教育教材を用意しており、小冊子やパンフレットを作成している。
・37%の銀行は非銀行取引者向けのサービス拡大に向けた他団体主催の勉強会に参加している。
・53%の銀行は非銀行取引者向けの金融教育集会を開催している。
・58%の銀行は2007年中に高校やコミュニティ主催のイベントにおいて金融教育や奉仕訪問を実施している。

②銀行にとって非銀行取引先への挑戦課題と理解される項目
・優先順位をつけさせたところ、第一に収益性、次に規制監督機関対応や詐欺懸念であった。

③銀行の小売サービス中心店舗やその戦略上の非取引先のアクセスしやすさの改善
・59%の銀行は午後5時以降や土曜日の午後1時以降営業時間の延長を実施しており、また52%の銀行は外国語担当者を雇う等外国語能力の強化を図っている。
・64%の銀行が過去5年間に非銀行取引者向けにインターネットバンキングやモバイルバンキングの利便性の向上につきPRしている。57%の銀行がATMを店舗外ATMを設置し、さらに43%は臨時(出張所)店舗ATM を追加している。うち13%の銀行は低所得者層の居住区のコミュニティセンターやスーパーに設置している。
・非取引者向けに具体的努力している項目として、49%は政府小切手の現金化(check cashing )、41%は為替(money order)受付をあげる一方で、請求書支払(18%)、プリペイドカード発行や残高補充(reload)への対応率は低い。

④非顧客に対する銀行サービスの内容
・96%の銀行は非顧客に対し、自行が振り出した小切手の現金化は行うが、現金給与(cash payroll)やその他の銀行振出のビジネス小切手を扱う銀行は3分の1以下である。
・非取引先に対し、37%の銀行は自己宛小切手や為替で対応し、国際送金を受付ける銀行は6%である。
・小切手の現金化時の本人確認手段として、92%の銀行は運転免許証また86%は州政府発行の写真付IDカード(state-issued photo identification card)の提示を求める。メキシコ政府が市民に対して発行するラミネート耐水加工済み写真つきIDカードである“Matricula Consular identification”や納税者識別番号(Taxpayer identification number:ITINs)で受付ける銀行は極めて少ない。

⑤銀行口座の開設の実務慣行や取扱方針
99%の銀行では口座開設時に政府発行のID確認またはパスポート(92%)が必要である。“Matricula Consular identification”を受付ける銀行は27%、ITINsを受付ける銀行は38%である。
・過去口座で問題を起こしたり信用履歴で問題がある場合の当座預金口座開設手続に関し、87%の銀行は“ChexSystems”(筆者注10)のような第三者機関によるスクリーニングを求める。

B. 2009年12月、連邦預金保険公社が2009年1月に実施した「全米銀行口座非保有世帯追加調査結果(FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)」を公表
 本調査は、2009年1月中に連邦商務省国勢調査局(U.S.Bureau of the Census) (筆者注11)がFDICに代行して実施した国勢調査の追加詳細調査である。
 1月の調査局によるサンプル追加調査は、全米全体の対象世帯数約54,000の約86%にあたる約4,700世帯が参加して行われた。
 その結果は、驚くべきもので米国の全世帯数の約4分の1(25.6%)を占める非銀行取引世帯は低所得ならびに(または)少数民族に偏っているというものであった。

 これらの調査は米国における非銀行取引世帯の正確な推定値の収集に加え、人口学的特性およびそれらの世帯が非銀行取引になっているその理由を洞察することである。調査は全米、州や大都市統計地区(metropolitan statistical area:MSA)レベルでの推定値につき初めて実施したものである。その詳細な結果は、FDICが開発したウェブサイト“www.economicinclusion.gov”で閲覧できる。

 FDICの調査では全米の総世帯数の7.7%(約900万世帯)が非銀行取引であり、16歳以上の成人約1,700万人が該当する。この「非銀行取引」に関しFDICの質問は「現在あなたの家庭ではいずれかが当座預金または貯蓄口座を持っていますか?」に対し「いいえ」と答えたものである。

 非銀行取引世帯の割合は、全体として人種(racial)や民族(ethnic)グループにより偏っており、黒人(21.7%)、ヒスパニック(19.3%)、米国インデアン/アラスカ系住民(15.6%)の世帯割合はアジア人(3.5%)、白人(3.3%)に比べ著しく高い。

 また追加サンプル調査で新たに判明した17.9%(2100万世帯:16歳以上の成人約4,300万人)が非銀行取引であった。ここでも人種や民族による非銀行取引世帯の割合は高く黒人(31.6%)、米国インデアン/アラスカ系住民(28.9%)、ヒスパニック(24.0%)、であった。アジア人(7.2%)、白人(14.9%)であった。
 これらをあわせ考えると、少なくとも25.6%(約3,000万)の世帯が非銀行取引であることになる(成人約6,000万人)。さらに全体で見ると黒人は54%、米国インディアン/アラスカ系住民は44.5%、ヒスパニックは43.3%である。

〔サンプル調査で追加的に判明した結果〕
①非婚姻関係にある家族世帯の非銀行取引の割合が婚姻関係にある世帯に比べ著しく高い。非婚姻関係の女性世帯で約20%、男性世帯では14.9%が非銀行取引であるが婚姻関係にある世帯では約4%である。

②年収3万ドル(約280万円)以下の低所得世帯(約700万)では約20%が銀行口座を持たない。他方、年収が3万ドルから5万ドルの世帯では、7万5,000ドル以上の世帯では1%未満である。

③世帯主が大卒以下、45歳以下で平均より非銀行取引の割合が高い。

④41.1%の非銀行取引世帯が、将来的にも銀行口座開設の可能性はないと考えている。

C. 米国連邦政府主導(FDICが中心)の経済弱者の銀行取引開始に向けた取組みポータル
 米国連邦政府の経済的弱者支援サイト“EconomicInclusion.Gov. ”は、以下の3つの具体的活動を行っている。
(1) 「FDIC経済支援諮問委員会(Advisory Committee on Economic Inclusion:ComE-IN)」 2006年、FDICは「連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act)」 (筆者注12)に基づきシーラ・ベア総裁および同理事会はComE-INを設置した。委員会は次のようなリィテール金融サービスにかかる見直しを含む経済弱者の銀行サービス利用機会の拡大に的を絞り、重要な機能をもつ助言や勧告を提供することが基本的役割である。
・小切手の現金化、為替(money order)、remittances(送金)、プリペイド・カード(stored value card)、短期融資(short-term loan)、貯蓄口座など個人の貯蓄促進や金融資産の安定化

(2)経済弱者に対する銀行に寄与度努力調査とその公表
 2008年度、FDICは経済的弱者である個人や家族に対するFDIC加盟銀行の努力評価のための全米調査を行った。2006年2月15日成立の「2005年連邦預金保険改革適合化等に関する法律(Federal Deposit Insurance Reform Conforming Amendments Act of 2005)(以下「改革法」という)」 (筆者注13)第7条に基づくもので全米規模の強制調査としては初めてのものである。改革法は、FDICに対し当座預金口座、貯蓄口座や小切手の現金化などを行うことがほとんどない個人や家族を従来の金融システムを取り込むことへのFDIC加盟銀行の努力内容調査を2年に1回行うことを義務付けている。

(3)金融弱者支援同盟の設立と加盟金融機関の拡大
 金融弱者支援同盟(Alliance for Economic Inclusion:AEI)は、既存の広域金融機関やコミュニティ団体およびその他の協力者による全米規模の経済弱者が金融サービスを平等に利用できるようFDICが主導するものである。
 その目標とする点は、貯蓄預金口座、手ごろな送金手段、小口ローン、金融教育プログラム、代替的なサービス手段ならびに資産形成プログラム等である。現在、全米規模で983の銀行とコミュニティ団体が参加し、次のような具体的活動を行っている。
・11万6,000人以上が新規銀行口座の開設済である。
・31の銀行が小口ローンの提供済または開発途上にある。
・23の銀行が送金サービスを提供済である。
・10万2,000人以上に対し金融教育を実施した。

 なお、米国全体の社会保障支援給付金制度については、その適格性について各自が自分で検索できるサイト(Benefit Eligibility Screening Tool:BEST)が用意されている。すなわち、①メディケア、②就労者傷害時給付金(Social Security Disability)、③退職者給付金(Social Security Retirement)、④遺族金年金保険給付金(Social Security Survivors)、⑤特別退役軍人給付金(Special Veterans)、⑥SSI につき、同サイトですべて確認できる。

2.連邦財務省のDirect Express Debit Cardsの全面的拡大計画
 財務省が中心となって4月19日から紙の処理を電子化に切り替えることで取扱件数を劇的に減少させる3つの先行的主導を開始した。第一に財務省は社会保障給付金、特別退役軍人給付金、追加的所得保障給付金、鉄道退職者および人事管理庁給付金の受給者に対し、次のような給付の電子化を実施する。

(1)個人受給者は指定銀行口座への口座振込またはDirect Express Debit Cardを介して給付金を受け取る。今日、約100万人の米国人がDirect Express Debit Cardを通じて給付金を受領しており彼らはその安全性、利便性を理解している。そのカード発行請求は2011年3月1日から開始される新規登録から適用され、既存の小切手受給者に対して適用される。現在連邦給付金の受給者の85%は口座振込またはDirect Express Debit Cardと言う電子的な手段で受け取っている。小切手から電子決済への完全移行により最初の5年間で3億ドル(約280億円)以上の事務経費が節約できると見込んでいる。

(2)第二に、現在企業は法人税の納付連邦税納付書(Federal Tax Deposit Coupon)
により納付しているが、2011年度からは一部例外を除き四半期の納税額が25,000ドル以下の企業は電子的な納税が義務化される。現在、全民間企業の約98%が財務省の無料の「電子的連邦税支払システム(Electronic Federal Tax Payment System:EFTPS)」を介して納付している。連邦税課税庁(IRS)の調査によるとEFTPSを利用する企業のエラー率はその他の企業に比べ31倍低いことを示しており、電子化への変更により最初の5年間で約6,500万ドル(60億4,500万円)の事務経費が節減できると見込んでいる。

(3)最後に、財務省は連邦官吏に対しては2010年9月30日、民間企業については2011年1月1日までに紙による給与天引き貯蓄債券のオプションを廃止する(これはあくまで給与振込についてであり、贈答品としての紙の貯蓄債券の購入は可能である)。これらの従業員の給与支払に係る貯蓄管理費用につき最初の5年間で約5,000万ドル(約46億5,000万円)節減できると見込んでいる。

(4)電子決済化に伴う政府の電子振込導入に伴う個人の預金保護対策の公布
 財務省および給付金の支給を行う連邦機関は、口座に入金後に受給者の債権者からの差押を防止するための保障規則策案を公布した。これは高利貸等が受給者に代行してマスター口座を設けることを阻止することにつながるものである。

3.わが国の給付金制度との比較
 米国では誰もが銀行口座を作れるわけではない。個人信用で成り立つ社会であり、一定の所得を含む信用力がないとクレジットカードだけでなく銀行口座も作れない平等社会である。小切手と言う旧来型の手間のかかる決済制度からカード決済への円滑な移行も課題が多い。
一方、わが国の場合の給付金支給事務の効率化の課題はどのようなものであろうか。
本格的に解説する機会は別途設けることとし、手近に確認できるサイトのみを紹介する。
①日本銀行「国庫金支払事務の電子化・効率化レポート」
②厚生労働省情報政策会議決定「社会保険業務に係る業務・システムの見直し方針」( 2005年6月21日 )

 

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(筆者注10) “ChexSystems” は預金取扱金融機関を会員とする預金口座認証専門の共同ネットワークで口座につき取扱ミス(過振りや銀行による口座閉鎖等)に関する情報履歴を保有している。

(筆者注11)わが国の国勢調査は5年に1回実施され2010年10月1日が調査時点である。
米国では10年に1回在留邦人を含む全人口に対する調査を行っており、2010年がその全世帯数調査の年に当たる。なお、米国では、連邦憲法の規定により、10年に1回、日本人を含む米国内に居住する全ての人を対象として国勢調査を行っている。調査に対する回答内容は、72年間は秘密情報として管理され、他者(財務省連邦税課税庁(IRS)、 連邦捜査局( FBI)、中央情報局(CIA)等連邦機関や法執行機関を含む)に使用させることは法律で禁止されている(違反して開示した場合は最高25万ドル(約2,330万円)の罰金刑または5年以下の拘禁刑が科され、その併科もなされる)。
 一方、わが国の国勢調査の根拠法である統計法第19条の2では「統計官、統計主事その他指定統計調査に関する事務に従事する者、統計調査員又はこれらの職に在つた者が、その職務執行に関して知り得た人、法人又はその他の団体の秘密に属する事項を、他に漏らし、又は窃用したときは、これを1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」と定める。
 また、保存期間はマイクロフィルムまたは電磁的記録により「永久保存」とされている(国勢調査施行規則第8条)
 なお、米国の2010年国勢調査では調査員は全地球測位システム(GPS)機能付ハンドヘルド・コンピュータを使用する。同端末は被調査者の住所の最新確認(address canvassing operation )を行うもので各訪問中に使用する。調査員は居住中または居住可能な道路や通りの最新構造の確認を行い、その内容に基づき住所の確認、追加、削除を行う(当然のことながら集められたGPS情報の機密性は国勢調査に関する連邦法(Title 13 U.S.C.)規定により保護される)。

(筆者注12) 連邦諮問委員会の法的根拠につき、例えば東京工業大学教授の遠藤悟氏が「米国の科学政策」と題する個人サイトで「米国の諮問委員会の役割」で詳しく解説されている(連邦政府の諮問委員会は、1972年成立の連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act - PL92-463)に基づき個別法、大統領、議会、機関が設置するものである)。(なお、遠藤氏のサイトは米国の連邦関係機関へのリンクにも配意したもので体系的に理解するには参考となる。ただし、科学分野の専門家の限界といえようかFDIC等経済金融分野の活動についてはまったく言及していない点は惜しまれる。また、GAO(連邦議会行政監査局)を「会計検査院」、GSA(共通役務庁)を「総合サービス庁」、HHS(連邦保健福祉省)を「連邦健康福祉省」、FDA(連邦保健福祉省・食品医薬品局)を「食品薬物庁」と訳すなど初歩的な誤訳が気になる)。
また、大阪大学准教授の平川秀幸氏もややデータは古くなるが「米国規制政策の法的枠組み」と題して解説している。

(筆者注13) 米国の連邦レベルの預金保険制度としてFDICと信用組合(credit union)を対象とする全米信用組合管理機構(National Credit Union Administration:NCUA)があり、両者の保険内容はほぼ同一である。預金保険制度改革は2002年以降連邦議会に改正案が上程されていたがいずれも可決せず、2006年2月8日に主要部分をなす「2005年連邦預金保険改革法(Federal Deposit Insurance Reform Act of 2005)」が成立、および同法と関連法との整合性等を図る「2005年連邦預金保険改革適合化等に関する法律」が成立した。(「連邦預金保険改革法下のアメリカの保険料システム」農林金融2008年3月号47頁以下から一部抜粋)

[参照URL]
・http://www.fms.treas.gov/news/press/directexpress_launch.html(2008年6月10日、財務省財務管理局(U.S.Department of the Treasury’s Financial Management Service(FMS))が社会保障費の支払につき小切手からDirect Express Debit Cardへの移行計画を公表)。

補足2021.2.25 現在のFMSのDorect Express Debit Cardの解説サイト

また、2011年4月26日財務省Bureau of theFiscal ServiceはiU.S. Treasury to "Retire" Paper Check for New Recipients of Social Security and Other Federal Benefits, Saving Taxpayers $1 Billion」を発表し、その冒頭で「米国財務省は、連邦給付を申請している何百万人ものベビーブーム世代やその他の人々に対する紙の社会保障小切手を廃止する。これにより、納税者は今後10年間で10億ドル節約できる。 2011年5月1日以降、社会保障、退役軍人、またはその他の連邦給付を新たに申請する人は、電子支払い方法を選択する必要がある。紙の小切手はオプションではなくなる。 現在、紙の小切手で連邦給付を受け取っている人は、2013年3月1日までに直接預金に切り替える必要がある。・・・・」

http://www.fdic.gov/unbankedsurveys/unbankedstudy/FDICBankSurvey_ExecSummary.pdf
2009年2月、FDIC「非銀行口座保有者の口座開設に向けた銀行の努力に関する調査結果および改善勧告の要旨(FDIC Survey of Banks’ Efforts to Serve the Unbanked and Underbanked)(12頁)」
http://www.fdic.gov/news/news/press/2009/pr09216.html
FDICが2009年12月2日公表(FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)した非銀行取引世帯に関する低所得や種数民族に偏った全世帯の4分の1が該当する旨の研究結果リリース
http://www.treas.gov/press/releases/tg644.htm
2010年4月19日、連邦財務省が社会保障等個人向け公金支払システムの完全電子化(カード化)開始を公表
https://economicinclusion.gov/
米国連邦政府の経済的弱者支援サイト“EconomicInclusion.Gov. ”経済的包摂

 なお、経済的包摂とは、すべての消費者が安全で手頃な金融商品やサービスにアクセスできることを意味する。また、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)とは、貧困や難民などに関わらず、誰もが取り残されることなく金融サービスへのアクセスでき、金融サービスの恩恵を受けられるようにすることを意味する。

 当座預金口座の所有権は、経済的包摂に向けた第一歩である。保険付き預金取扱機関の当座預金口座は、消費者に預金を保管し、金融取引を行い、貯蓄を構築するための安全な場所を提供する。(以下、略す)

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

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米国の低所得者給付金支払デビット・カード化完全移行と銀行非取引世帯救済対策の現状と課題(その1)

2010-05-14 21:27:59 | 電子政府(eGovernment)


Last Updated:February 25,2021
 

 2010年4月19日、連邦財務省ティム・ガイトナー長官(Timothy  F. Geithner)は財務省と数百万の個人や民間企業を取り込む結果として連邦経費4億ドル(約364億円)の節減および1,200万ポンド(約540万トン)の紙の節約をもたらすことが期待される大規模な弱者救済給付金プリペイド・カード・システム(Direct Express Debit Card)や企業の電子納税の普及拡大や確実な資金振込の徹底化策計画を発表した。

Timothy F. Geithner 氏(2021.2現在はPrivate equity firm( 未公開株式投資会社).Warburg Pincusの社長である

 また、本計画によりコスト削減、関係者向けサービスの向上、さらに紙(政府発行小切手)から電子取引への移行により公金の受給者や納税者にとって信頼性、安全性やセキュリティを高めるとともに財務省の環境問題に対する影響を考慮することになるとしている。

 今回拡大の対象となる“Direct Express Debit Card” は、連邦財務省が2008年6月10日にその導入を公表したものである。筆者なりに調べたが、なぜかわが国では詳しい解説が見当たらない。そもそも米国の社会保障制度のうち、①社会保障における障害(Social Security disability insurance program :SSDI)、②補足的保障所得(SSI)についての法的にみた正確な解説がないのである。
 筆者は連邦社会保障庁(Social Security Administration:SSA)
(筆者注1)のサイト等で改めて調べてみた。 (筆者注2)

 保険、労働問題や社会保障等を専門とするウィンスコン州のピッツ法律事務所の解説は、米国の連邦SSDI等の適用条件の厳しさ
(筆者注3)や手続きの特異な複雑さを指摘している。適用申請手続には原則弁護士はつかないが、請求が地方の社会保険事務所から却下されたときの再審査請求を行政法審判官(Administrative Law Judge) (筆者注4)に提訴するときに弁護士の支援が必要になるとされている。このように社会的弱者に厳しい米国の実態を垣間見た気がするが、この問題自体が社会保障上の大きな問題であり別途論じたい。

 今回のブログは、“Direct Express Debit Card”システムの概要および連邦政府の最大の課題でもあるFDICを中心とする連邦政府の弱者たる国民金融サービスの改善およびその効率化の取組み状況について解説する。

 なお、本文で説明するとおり米国では海外からの移民や低所得者等銀行口座を開設
(筆者注5)できない人々が多くいる(米国の全世帯数のうち7.7%にあたる約900万世帯)。口座が作れない結果として、①パーソナルチェック(当座取引)  (筆者注6)が利用できない、②クレジットカードが使えない、③各種融資が受けられないなど、多くの不利益を被っている国民層があり、連邦政府は銀行界へ強力なイニシアティブを取るべく連邦預金保険公社(FDIC)を中心とした具体的な調査や改善策につき具体例をもとに模索し続けている。 (筆者注7)

 今回は、2回に分けて掲載する。


1.“Direct Express Debit Card”制度の概要
(1)2008年6月の財務省の制度導入に関する説明
 米国の社会的弱者である社会保障給付金の受給者(連邦社会保障庁 (筆者注8)が担当)や追加所得保障給付金(Supplemental Security income :SSI)の計約400万人に対し、“Direct Express Debit Card”の運用を10州(アラバマ、アーカンサス、フロリダ、ジョージア、ルイジアナ、ミシシッピー、ノースカロライナ、オクラホマ、サウス・カリフォルニ、テキサス)で開始した。

 同カード利用の具体的な利点は次のとおりである。
①SSDIおよびSSI (筆者注9)の受給者は、銀行口座を持たないため毎月の受給にあたり政府発行小切手の受取に依存していた。
②政府発行小切手については、小切手詐欺・盗難や天候不順による交付遅延等があった。カードには法律で認められる最高額までFDICが保障する金額が入力されており、保持者はATMや小売店でPIN入力により安全な利用が保証される。仮にカードが紛失・盗難にあったとき、カードは再発行される。
③需給者にとって、利用の無料化または低コスト化がかなう。カード発行の申込費用や月次利用料はかからない。オプション利用による手数料が一部適用されるが基本的には無料である。
 例えば、カード保持者は小売店のレジでキャッシュ・バックを無料で受けたり、銀行や信用組合の店頭で現金の引出が可能となる。さらに、保持者は合衆国内の給付金受取のため指定された口座から現金を1回は無料で引き出すことができる(同ネットワーク以外のATM引出しについてはATM所有機関等に割増手数料が課されることがある)。
④利便性として、保持者はATM、電話およびオンラインにより無料で同プリペード・カード残高の照会ができる。

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(筆者注1) 連邦社会保障庁は、年金加入者の記録、社会保障税の納付記録、給付額の算定、給付等年金制度の運営に当たる。より具体的に言うと、退職年金、障害者および寡婦(夫)年金の申請取扱い、社会保障番号(ソーシャル・セキュリティー・ナンバー)の発行、年金受給開始後の住所変更、受け取り方法の変更、給付金用小切手の再発行、死亡による支給停止などの業務を行う(米国日本大使館サイト等より引用)。オンライン公式ウェブサイトが“Social Security Online ”である。

(筆者注2) 米国の主な公的社会保険制度は、社会保障法に定められたOASDI( Old-Age,Survivors and Disability Insurance )プログラムとメディケア・プログラムであり、その財源は、主に、連邦保険拠出法の趣旨を具体化した内国歳入法§3101に基づいて賦課される社会保障税と同法§3121が定めるメディケア税によって各々調達され、社会保障給付は、原則として、社会保障税やメディケア税等を一定期間以上納めることによって得る受給要件に基づいて行われる(務税大学校教授松 田直樹氏「国税と社会保険料の徴収一元化の理想と現実」から抜粋)。

(筆者注3) ピッツ法律事務所の指摘では、米国の社会保障法規でいう「障害」の意義はしばしば保険契約(insurance policies)や他の法律と異なるものであると記されている。具体的には連邦行政規則集(C.F.R.)第20編第404部が連邦法における老人、相続人や障害者保障に関する規則部分である。また、その1505条が障害の基本的定義規定である。

(筆者注4) 米国の「 行政法審判官(administrative law judge)」においても,やはり問題となるのは,行政法審判官が行政機関においてどれだけ独立して職務を行うかということである。・・・・・・この問題が注目されたのは,社会保障局の行政法審判官統制プログラムが実施された時であった。社会保障局は各行政法審判官の申請認容率を均一化するため「質保障プログラム」を行っていたが,しばしば行政法審判官の独立を害するとして、問題となっていた」立命館大学 正木宏長氏「行政法と官僚制(4)」や内閣府サイトから抜粋。

(筆者注5) 銀行等民間金融機関やゆうちょ銀行に個人が口座を開設する場合の条件につき簡単に解説しておく。これは消費者向け金融リテラシー上重要な点であるが、わが国でははたしてどのサイトや窓口で正確に説明しているであろうか。以下の内容と比較して欲しい。

1.口座名義人が日本国籍を有し満18歳以上であること(学生、無職でも可)
自身で手続やその意味が出来ないできない行為無能力者(行為能力とは、単独で完全に有効な契約などの法律行為をすることが出来る能力で「意思能力」がない者が該当)、制限行為能力者(未成年者(民法5条)・成年被後見人(同法8条)・被保佐人(同法12条)、被補助人(同法16条)の4つが該当)の場合は代理人への委任状および代理人自身の本人確認書類(原本)を持参した手続が必要である。
 さら具体的なケースでの解説が金融実務面では重要となり、顧客への丁寧な説明にも留意すべきであろう。
(1)口座名義人が満12歳以下(13歳未満)の場合
 法定代理人たる親権者(原則として父・母)双方の代理人取引届出が必要となる。この場合、名義は未成年者であってもその財産管理を法定代理人が行うものである。なお、銀行によっては未成年者がみずから口座取引を行うことを希望しかつ銀行が相当と認めたときは本人が取引を認めることがあると定める例があるが、わが国の民法の不法行為の責任能力(自己の行為が違法であること=法的に非難を受け何らかの法的責任が生ずること)を認識できるだけの知能)が12歳と解されていることから、認めるとしても一般的には15歳以上と考えられよう。
ただし、この年令確認はインターネット・バンキング(テレフォン・バンキングではさすがに預金者とのやり取りから不自然さを感じることもあろう)」のような場合はかならずしも可変暗証等の仕組み自体を12歳の未成年者が行うリスクは消えない。このためか銀行は「利用約款」で暗証番号などの管理責任を明確化(「当行が本規定にしたがって本人確認を行った上、取引を実施した場合、「契約者ID」、「パスワード」等について不正利用、その他の事故があっても、そのために生じた損害については、当行は責任を負いません。但し、「契約者ID」および各「パスワード」の管理について、契約者の責めに帰すべき事由がなかったことを当行が確認できた場合の当行の責任については、この限りではありません」等)という免責規定の内容を定めているのが一般的である。

(2) 口座名義人が満13歳以上で20歳未満)の場合
取引者につき法定代理人または名義人本人の選択が可能となり、本人が行う場合は未成年者と法定代理人(父・母)の同意書(賠償同意を含む)の「連名同意書」を提出する例が一般的である。

2.本人確認書類
 次の本人確認書類の場合には、窓口で原本を直接提示することにより本人確認を行う。(銀行協会のHP から引用) なお、本人確認制度の目的はあくまで、 マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止するための対策の一環として、金融機関をはじめとする各種の事業者に対する法律(犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)の遵守である。このため筆者も経験したがわが国でもこの制度の厳格適用の開始によりいわゆる略字の姓名による新規開設届出は受けつけられない可能性が高いので要注意である。
1.運転免許証
2.旅券(パスポート)
3.住民基本台帳カード(写真付のもの)
4.各種年金手帳
5.各種福祉手帳
6.各種健康保険証
7.外国人登録証明書
8.取引に実印を使用する場合の当該実印の印鑑登録証明書

 次の本人確認書類の場合には、窓口で原本を提示するとともに、当該取引に係る書類などを顧客に郵送し、到着したことを確認することによってご本人の本人確認を行う。
1.住民票の写しまたはその記載事項証明書
2.印鑑登録証明書
3.戸籍謄本・抄本(戸籍の附票の写しが添付されているもの)
4.外国人登録原票の写しまたはその記載事項証明書
5.官公庁から発行・発給された書類

3.届出印鑑(市販の三文判でも可であるがシャチハタ等は不可)

(筆者注6) 米国の銀行にパーソナルチェック用の当座預金口座(checking account)を開設することをいう。なお、わが国の説明は一般的にと言うかほとんど「米国の銀行や信用組合の当座預金口座には利息(付利)がない」と書かれている。これは明らかな誤りで、米国の金利比較専門サイトで見れば一定の当座預金の場合には条件によっては金利がつく商品がある。
 当座預金の付利のための条件とはどのようなものであろうか。ためしに“Bankrate .com”サイトでミシガン州デトロイト地区の銀行の非インターネット・バンキングでの“Checking Account”につき比較してみた。なお、同社サイトで見るとおり、米国の取引銀行の比較は金利を含む利用条件がほぼ横並びのわが国と比べ面倒くさい。反面、比較研究材料は多い。

①非付利タイプの銀行:11行、口座開設時預入額0ドル(1行)~200ドル(1行)、月間口座維持手数料0ドル(7行)~8.95ドル、口座維持手数料無料化残高0ドル(9行)~1,500ドル(1行)
②付利タイプの銀行:12行、平均金利(APY)0.01%(1行)~1.25%、口座開設時預入額1ドル(3行)~3,000ドル(1行)、月間口座維持手数料3ドル(3行)~25ドル(1行)、口座維持手数料無料化残高0ドル(3行)~15,000ドル(1行)

(筆者注7) 米国における銀行口座開設が出来ない個人の問題に関する実態を踏まえた分析としては、モナッシュ大学ビジネス経済学部スティーブ・ワーシントン教授の小論文“Financial services for the unbanked in the U.S. — why, who, and what?”( Steve Worthington, Professor, Department of Marketing, Monash University)が参考になる。

(筆者注8) 連邦社会保障庁(Social Security Administration:SSA)は委員長Michael J. Astrue氏をヘッドとし、従業員数は約62,000名、本部はメリーランド州のバルチモアにある。地方レベルのサービス提供に当たるため10の地方事務所、6つの事務処理センター、約1,300の出張所をもつ。

(筆者注9) 補足的保障所得(SSI))は、65歳以上であるか、視力障害またはその他の障害を持ち、収入や経済リソースが限られている障害者に毎月手当が支払われるプログラムである。SSI受給資格がある場合、自分がどの州に住んでいるかに応じて、メディケイドや食料切符の形で、毎月手当を受け取ることになる。メディケア保険料は全州で支払われます。
 補足的保障所得は、本人や家族が以前に職業に従事していたか否かには関係なく支払われます。
(Christpher & Dana REEVE FOUNDATIONの日本語サイトから抜粋、引用(一部筆者の責任で加筆))

[参照URL]
・http://www.fms.treas.gov/news/press/directexpress_launch.html(2008年6月10日、財務省財務管理局(U.S.Department of the Treasury’s Financial Management Service(FMS))が社会保障費の支払につき小切手からDirect Express Debit Cardへの移行計画を公表)。

【補筆】2021.2.25 現在のFMSのDorect Express Debit Cardの解説サイト

また、2011年4月26日財務省Bureau of theFiscal ServiceはiU.S. Treasury to "Retire" Paper Check for New Recipients of Social Security and Other Federal Benefits, Saving Taxpayers $1 Billion」を発表し、その冒頭で「米国財務省は、連邦給付を申請している何百万人ものベビーブーム世代やその他の人々に対する紙の社会保障小切手を廃止する。これにより、納税者は今後10年間で10億ドル節約できる。 2011年5月1日以降、社会保障、退役軍人、またはその他の連邦給付を新たに申請する人は、電子支払い方法を選択する必要がある。紙の小切手はオプションではなくなる。 現在、紙の小切手で連邦給付を受け取っている人は、2013年3月1日までに直接預金に切り替える必要がある。・・・・」

http://www.fdic.gov/unbankedsurveys/unbankedstudy/FDICBankSurvey_ExecSummary.pdf
2009年2月、FDIC「非銀行口座保有者の口座開設に向けた銀行の努力に関する調査結果および改善勧告の要旨(FDIC Survey of Banks’ Efforts to Serve the Unbanked and Underbanked)(12頁)」
http://www.fdic.gov/news/news/press/2009/pr09216.html
FDICが2009年12月2日公表(FDIC National Survey of Unbanked and Underbanked Households)した非銀行取引世帯に関する低所得や種数民族に偏った全世帯の4分の1が該当する旨の研究結果リリース
http://www.treas.gov/press/releases/tg644.htm
2010年4月19日、連邦財務省が社会保障等個人向け公金支払システムの完全電子化(カード化)開始を公表
https://economicinclusion.gov/
米国連邦政府の経済的弱者支援サイト“EconomicInclusion.Gov."経済的包摂”

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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欧州委員会「情報社会・メデイア担当委員」ヴィヴィアン・レディングのデジタル時代の近未来課題(その2完)

2009-10-20 16:42:21 | 電子政府(eGovernment)

Last Updated: March 4,2021

3.欧州委員会の近未来デジタル課題とは(Future Commission’s Digital Agenda)
 バローゾ欧州委員会委員長と私は、すでに立法措置の目標となる「真のデジタル単一市場(genuine digital single market)」の主たる障害と取組むことを目的とした明確な「EUのデジタル課題」を定義する次期任務(next Commission)への取組みを発表した。消費者は完全な汎ヨーロッパ・サービスの利益を得られなければならず、また企業は新しい市場へのアクセス権を得なければならない。今日、単一市場の重要な問題は「オンライン」に関する問題で起こる。もし我々が電気通信規則の近代化やブロードバンドの立ち上り(take-up)の推進、超高速で競争的かつ安全な次世代ネットワークに関する仕事に関しネットに基づくサービスを巻き取らないとすると、単一市場はひそかに弱体化することになろう。しかし、目的地に進むに価値がないとすれば最善の高速道路が十分でないがゆえに、デジタル・サービスやデジタル・コンテンツにより簡単にアクセスできることが必要となる。

 今日、デジタル・サービスの自由化の動きは、加盟国の国内レベルでの細分化された規則により著しい障害に出会っており、この問題が解決されない限り企業や消費者は知識経済(knowledge economy)の最大の可能性に達し得ないであろう。消費者側における信頼性の欠如の問題の解決を支援するため、メグルナ・クネワ消費者保護担当委員(Meglena Kuneva)と私は2009年5月に消費者のオンラインに関する諸権利について説明する多言語オンライン情報ツール“eYou Guide”を立ち上げた。

Meglena Kuneva氏(ブルガリア)

 私は“e-Commerce”がネットの生命力であり、すべての関係者が残されたままの障害に協力して取組むべきとするICOMP(Initiative for a Competitive Online Marketplace) (筆者注14)に賛同する。e-Commerce市場で活動する経営者たちを支援するためe-Commerce指令(the eCommerce Directive) (筆者注15)に追加されるべく審議が行われている「消費者の権利に関する指令案(the Draft Consumer Rights Directive)(筆者注16)を優先すべきであり私は欧州議会に支援を再確認した。消費者および単一市場が問題となる時、SMSやデータローミング規制の採択の時と同様、欧州議会は我々にすべてのヨーロッパの消費者の利益のため何をなすべきかまた欧州議会が迅速な採択を行うべきか示してくれた。しかし、デジタル・サービスの単一市場化に関し我々がデジタル・コンテンツの越境利用規定についてみる時、そのギャップはさらに明確になる。デジタル技術は創造的仕事のコミニケーションをより容易にさせ、免許権に関する伝統的実践内容はその限界に到達すると思われる。デジタル技術は価値連鎖(value chain)  (筆者注17)において新たな役者と役割をもたらすとともに創造的コンテンツの手続や流通に関する条件を変えてきている。コンテンツ部門は著者、プロデューサー、出版社、著作権管理団体(collecting societies)および配給会社(distributing companies)等「伝統的なプレイヤー」に限定されない。消費者は、自らがコンテンツを作り出すいわゆる「生産消費者(prosumers)」となってオンライン・メデイアにおいて次第に重要な役割を演じるとともに一般的に「メデイア多元論(media pluralism)」と民主主義の利益に対するサービスを供給する。

 しかし、ビジネス・モデルと技術供与はこれらの新しいコンテンツに十分適合できないため、このことが法的オンライン・コンテンツの有用性を制限するだけでなくニューメデイア・サービスの開発・供給そのものを停止させてしまう。

 我々の未来は新しいタイプのメディアで満たされるであろうが、今日ニューメデイア・サービスはコンテンツ権の明確化のため極めて複雑で割高でかつコストがかかる手続に直面している。その結果、プロバイダーは特定のEU加盟国の大国のユーザーのみ(小国のユーザーにとって不利益なかたちで)サービスを提供することを決定する。正直に言おう。デジタル・コンテンツの供給に関し、EUは世界最大の市場であること主張できない、27の別々の市場なのである。このことはこれらの問題に取組む際に米国を目標とする法的手段における競争的有利性に貢献するのである。

4.本のデジタル化への挑戦(The challenge of books digitisation)
(1)本のデジタル化と“Orphan Works”
 私が第一におく優先課題は、①大量の本のデジタル化、②著作権の保護期間が存続しているが著作権者の識別・連絡先の特定ができない著作物すなわち“Orphan Works” (筆者注18)問題である。我々の文化遺産がEU市民にとって近づきがたいままであることは容認できない。文化遺産は1クリックで読めてかつそうあるべきである。欧州の出版社や著者の権利が尊重されかつ公正に報酬が保障されることが可能となる欧州著作登録(European Rights Registry)(筆者注19)または欧州著作権登録システム(European System of Rights Registries)を含む「本のデジタル化」を奨励する一連の欧州規則を新たに設けるべきである。そのためには既存の“ARROW(the Accessible Registeries of Rights Information and Orphan Works)”や“Europeana”  (筆者注20)のような革新的プロジェクトの役割を強く認識することが求められよう。

(2)コンテンツ・オンラインでの主導権
 第二に、我々はユーザーが自由に買えまたどこでも楽しめ、いかなるオンライン・プラットフォーム上支払対象となるコンテンツに関するルールと調和した市場が必要である。
 コンテンツ・プラットフォームに関する今回の委員会の「付託・要請文(mandate)」の最後の前でコンテンツ・オンライン・プラットフォーム(Content Online Platform) (筆者注21)の議論の結果を考慮し、チャーリー・マクグリービー委員(Commissioner Charlie McGreevy)と私はコンテンツの権利者、インターネット・サービスプロバイダーおよび消費者の利益に関し、デジタル単一市場への道を敷き詰めるにあたり一連の可能な政策や立法上の選択肢に関する「考え方をまとめた文書(reflection paper)」(筆者注22)と合せ公の議論を刺激したい。
 我々は、デジタル・コンテンツの消費者ニーズと権利者の間のバランスについて再評価するため働くつもりである。その主要目的は、欧州のどこで制作されたものでもデジタル・コンテンツに簡単かつ楽しくアクセスできることとなろう。
 我々はEUの他の委員会と協同してコンテンツ・クリエーターが消費者の高い期待に合致させる一方でそれらのクリエイターの権利を保証するつもりである。サービス・プロバイダー、消費者および権利の保有者にとって共に仕事を行い、バランスの取れたアプローチを実現することが最善の方法であり、また私はICOMPにこのような過程に参加するとともに前向きに取組むよう要請したい。

5.情報社会におけるプライバシー問題(Privacy in the Information Society)
 しかし、欧州のデジタル課題はコンテンツ問題に限るべきでない。すなわち、次期委員会が目指すべき取組み課題として次のような切迫した課題がある。私が極めて注意を払っている1つの問題は「オンライン環境におけるプライバシーと個人情報保護問題」である。私はプライバシーに関し特定の意味を持つ3つ-①ソーシャル・ネットワーキング、②行動ターゲティング広告 (筆者注23)、③RFID(ICチップ)-技術・商業面の開発に関する問題を引用したい。
 第一に、ソーシャル・ネットワーキングは参加者がどこにいたとしても新しいコミュニケーションの利用形態面および人々を集めるという特性において強力な潜在能力を持つ。しかし、ネットワーカーは自分のネットワーク上に掲載されたあらゆるウェブ上のプロフィールについて誰がアクセスしてどのように使用しているかに認識しているであろうかを知りえない。私の意見では「プライバシー」保護はソーシャルネットワーキング・プロバイダーとそのユーザーにとって最優先の問題であるべきである。私は少なくとも未成年のプロフィールについてはネット検索エンジンは不履行かつ利用不能でなければならないと固く信じる。欧州委員会は、すでにプロバイダーの自主規制によりソーシャル・ネットワーキングサイトへの未成年に関し注意して扱うよう呼びかけている。私はすでに対処しなければならない時のため「新規則」を準備している。しかし、それは他に手段がない場合のためである。
 第二に、欧州委員会に対し繰り返し指摘されているプライバシー問題が「行動ターゲティング広告」の問題である。それは、広告目標でより明確なかたちでネットユーザーの閲覧状況をモニタリングするシステムであり、当該個人の事前の同意がある場合のみ使用が可能である。
 「透明性」と「選択」がこの今回の討議のキーワードである。本委員会は我々のプライバシー権に対する尊重を保証するため「行動ターゲティング広告」について緊密にモニタリングしている。私はEU加盟国がこの義務を怠ったときとるべき行動に躊躇するつもりはない。その初めての例が、本委員会が「Phorm事件」(筆者注24)で英国に対して取った行動である。
 第三に、プライバシーに影響する最新の技術傾向は有名なICチップ(RFID)である。RFIDはビジネスをより効率的またよりよく組織化するものであるが、私はもしそれが 消費者に対して使われる(on the consumers)のではなく、消費者によって使われる(by the consumers)のであれば欧州において歓迎されると信じる。いかなる欧州人もどのような目的で使うのか予め説明を受け、またその除去やスイッチを切るという選択肢なしにその所持物にICチップ1つを登載すべきでない。人々によって受け入れられたときのみ「モノのインターネット」は機能するであろう。
 我々は現在EUの電気通信規則の改正と合せEUのプライバシー法の強化しており、それらにおいて個人情報のコントロール権に確実化が必要なとき新しい主導とともに戻るつもりである。とりわけ、これらの個人情報が影響するであろう第三国 (筆者注25)と提携しつつ実行することになろう。

6.欧州のウェブサイトに対するより多くの信頼
 デジタル欧州戦略(Digital Europe Strategy) (筆者注26)は、ヨーロッパのウェブサイトが消費者の信頼を組み込むため自己規制システムの開発に新しい機動力を与えることになろう。消費者の信頼は欧州のデジタル・サービスの信頼性と品質を保証する信頼性付与機関(European trusted authorities)または「トラスト・マーク(trustmarks)」を通じ構築される。欧州のトップ・ドメイン名である“dot.eu”は、EU内の「eu.ドメイン」に登録する各企業が欧州の法律に従わねばならないためこの成功が重要な点である。
 “.eu”を探すと何らかの形式で基本的な保護が与えられ高度な規格に合致する企業は“.eu”を採用することで差別化できる。「トラスト・マーク」問題は非常に長い期間検討されてきたが欧州システムとしてはほとんど進歩していない。それは産業界の団体や消費者団体―特に私は欧州消費者連盟(the European Consumers’ Organisation: Bureau européen des unions de consommateurs:BEUC)を想定している-は私が信じるところの持続可能性のある欧州トラスト・マーク(海外でインターネット・サーフを行う我々のユーザーに信頼や巨大なオンライン市場の利益を与える)の確立のためともに集合すべきである。その必要があれば、本委員会は行動を起こす準備が出来ている。

7.ブロードバンド・インターネット(Broadband Internet)
 デジタル課題は新しい委員によってさらに発展されるであろうし、私は彼らの決定すべきことを先取りしないよう慎重であるべきである。しかし、私が取るであろう1つのリスクはブロードバンドが近未来の課題の重要な役割を果たすと確信して予測することである。私は5年間の欧州委員会の情報社会とメディア担当委員として、部分的ではあるが欧州経済回復計画においてブロードバンドを極めて高い優先的に位置づけていることの背景である。
 我々は本日ロードバンド戦略について時間をかけた議論の時間はないが、3つの質問すなわち「なぜ」「何を」「いつ」について答えることで我々の考えを紹介するとともに欧州経済回復においてブロードバンドが重要な役割を果たすことについて説明したい。
(1)なぜブロードバンド・インターネットなのか
 我々はICT投資と経済の業績が直接リンクすることを知っている。それはあらゆる産業部門を水平的にかたちで改革能力や生産性を改善させ、自然資源の最適化を支援してくれる。それは、また公共部門の効率性と効果向上の重要な操縦者であり、また我々市民の生活の質を向上させるのに不可欠である。ICTは、我々により多くのエネルギー効率や正確な環境モニタリングさらにより良い公共医療サービスや高齢化社会の状態の改善に関しユニークな解決策を与えてくれる。
 ICT革新を配備、使用する点でリーダー的であるEU加盟国は、高い経済成長と市民に提供するサービスにおける世界標準(world benchmarks)を確立し、またより低炭素経済(lower carbon economies)に向けた動きを牽引している。
 なぜブロードバンドなのか:答えは簡単である。ICTの最善の使用における基本的な慣らし状態(pre-condition)は高速ブロードバンドの配備である。
 欧州委員会が提案するものは何か:経済回復パッケージの一部として我々は農村村落における高速インターネットを拡大、アップグレードするための資金的保証を行った。この資金支援はブロードバンドへのアクセスを持たない農村地域の23%を目標にしたものである。
 この提案(Rural Development Plans)の目的は次の2つである。すなわち、①すべての欧州人は、どこ住む人もブロードバンド・インターネットの利益を享受出来ることを保証すること、②可能な限り迅速に資金供与を行い、即効性の刺激を経済に与えることである。後者に関し、その成果は期待したよりやや遅いといえる。その最新の成果は「農村部開発計画(Rural Development Plans)」 中、ブロードバンドに割り当てられた50億200万ユーロ(約6,677億円 )のうちわずか315万ユーロ(約4億1,900万円)であった。私は加盟国の数か国が本委員会が承認した農村部開発計画の資金利用に配慮する決定に消極的なことに失望している。しかし、私は当該国を引続き納得させるつもりであり、さらに極めて高速のブロードバンドを支援する一連の規則手当てとガイドライン策定を進めている。
 ブロードバンドを推進しかつ始めるためには、また、先進的越境ウェブベース・サービスにとって好ましい条件の要求も促されなければならない。言い換えれば、「デジタル単一市場」とは私が先ほど話した「デジタル課題」の主目的なのである。
(3)最後の質問、結果はいつでるのか
 最初に悩むのは経済を刺激するため資金の緊急注入問題である。しかし、また一方で我々はデジタル社会の水平線に向けて短期的な先を見る必要がある。ICTは景気循環によって引き起こされる必然的変動にもかかわらず、近代化が確実なペースで続く部門である。私は景気回復の「若芽(green shoots)」について話してはいない。私は、継続的に我々に生産性利益を獲得を獲ることを許し、経済を成長させ、またより高い生活水準を成し遂げる長期の技術発展について話している。すなわち、このことは欧州の経済回復の重要性はもとより、より生産的なビジネスや一方ではその組織また他方では革新的生産物およびより消費者の選択の重要性を提案したい理由である。

8.結論
 私は欧州を見通すことについて自信がある。それは我々の莫大な強さだけではない。すなわち、安定した民主主義、単一市場、そして成功した単一通貨等過去5年間欧州委員会が成し遂げてきたもの、とりわけ歴史において最大の拡大に成功し、遠大で法的に拘束力を持つエネルギーと気候変化目的を持つ初めの地域となった点である。そして、あなた方の携帯電話から安い電話がかけられるようになったことを忘れないでほしい。
 しかし一方で、私は奇妙な方法で我々が危機によってかえって強くなったと考える。その危機が我々に欧州および地球規模での経済の相互依存性について教えてくれたからである。
 今、我々は自らの繁栄を守るため将来に向け政策の協調や早期化を行うべきであることを知っている。我々は目的の新たな意味を認識している。私は、今ますます強力になりまた解決と創意において欧州が21世紀の経済の主役になると信じている。

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(筆者注14)  “ICOMP” はオンライン出版社、広告主、インターネットやネットワークサービス・プロバイダーおよびオンライン広告代理店などインターネット・ビジネスに関する業界団体の業界主導のための団体である。ヨーロッパ、北米、中東の14カ国40社以上の企業、業界団体、消費者団体、個人がICOMPプリンシプルを支持している。 ,

(筆者注15) 2000年6月8日に、欧州議会・閣僚理事会は、欧州域内市場における消費者と事業者に情報社会サービスの一定の法的確実性の提供に関する指令いわゆる「電子商取引指令(2000/31/EC)」を採択した。本指令は、加盟国間のオンライン・サービスの自由な流通を確保することによって域内市場を適切に機能させることを目的としており、具体的には、サービス・プロバイダーの設立、商用の電気通信、電子契約、オンライン媒介サービス事業者(intermediary service providers)の透明性・情報要件および責任制限、裁判外紛争処理等に関する国内法令を調和させることを意図している。本指令の重要な特徴のひとつが、いわゆる「域内市場条項(Internal Market clause)または「本国の原則(‘country of origin’principle)」を採用していることである。この原則は、情報社会サービスは原則としてサービス・プロバイダーが設立された加盟国の法律に支配されるというもので域内電子商取引について生じる適用法の問題を一定の範囲で解決したものといわれている。

 加盟国は2002年1月17日より前にその内容を国内法に編入しなければならないとされていた(第22条第1項)。しかし、実際における各国の立法は遅れている一方で現在の立法状況について一覧形式のEU公式資料はない。このため筆者は“epractice.eu”サイトの電子政府(eGovernment)の資料(factsheets)および当該国のポータル等を基に調べ、参考までに27カ国中4カ国の立法化状況(関係法律名および成立・施行年月日など)を以下のとおりまとめた(調査時間の関係で残りの23カ国については省略する)。
 なお、EU加盟国法等外国法に精通されている読者であれば理解されると思うが、EUの公式資料だけでは正確な法律名は説明されていないため筆者なりに補足するとともに法律の原文にリンクさせたので、関心のある方は法律の原文(英訳化もかなり進んでいる)を直接当たられたい。

①オーストリア: ”eCommerce Gesetz; ECG”2002年1月1日施行。
②ベルギー:2003年3月11日に次の2つの法律が採択された「ベルギー憲法第77条が目的とする情報社会サービスの特定の側面に関する法律p. 12960(Loi sur certains aspects juridiques des services de la société de l’information visés à l’article 77 de la Constitution)」「情報社会サービスの特定の側面に関する法律p. 12963(Loi sur certains aspects juridiques des services de la société de l’information)」
③ブルガリア:「電子商取引法(ЗАКОН ЗА ЕЛЕКТРОННАТА ТЪРГОВИЯ В сила от 24.12.2006 г. Обн. ДВ. бр.51, изм. доп. ДВ бр. 105/2006 г., ДВ бр. 41/2007 г. )」2006年6月23日成立(法律第51号)、2006年12月24日施行」。(英訳条文
④キプロス:「電子商取引法」2004法律第156号(I)。2004年4月30日成立。キプロス官報 (112(Ι)/2000, Νόμος που προνοεί για την αναγραφή της τιμής πώλησης και της τιμής ανά μονάδα μέτρησης των προϊόντων τα οποία προσφέρονται από τους εμπόρους στους καταναλωτές προκειμένου να βελτιωθεί η ενημέρωση των καταναλωτών και να διευκολυνθεί η σύγκριση των τιμών) 

(筆者注16) 「いわゆる消費者の権利に関する指令案(the Draft Consumer Rights Directive)」は欧州委員会が2008年10月8日に採択のうえ欧州議会およびEU理事会に提出し、2009年9月28日に議会において討議方針説明(position paper)が行われている。
 その内容の詳細や審議経過については欧州委員会保健消費者保護総局(the Directorate General for 'Health and Consumers:DG-SANCO)消費者対策課(Consumer Affaires)のサイト,、欧州委員会サイト”Cnsumer rights drective”で詳しく解説されている。なお、DG-SANCOの守備範囲は、①食物・食品の安全性、②消費者保護、③公衆衛生をその柱としており、EUの“2009 H1N1”といった緊急問題も扱っている。

(筆者注17)「バリュー・チェーン」とは、1985年Michael Porterがベストセラー「競争優位の戦略(Competitive Advantage: Creating and Sustaining Superior Performance)」で提唱したもの。 競争優位を生み出すためには製品の付加価値(販売価格―原料コスト)だけに着目せず、生産活動を主活動と支援活動に分け、それぞれの活動が価値(value)を生み出すという構造でありことを認識し、各活動を分析、最適化を行うことで競争優位につなげるという考え方。これまでは、個々の企業間での連鎖過程を主に意味していたが、企業群、業界のネットワーク間での連鎖までも含めて、バリュー・ネットワークという新しい企業の定義も出てきている。(経済産業省商務情報政策局情報セキュリティ制政策室資料等より抜粋)

(筆者注18) 英国図書館(BL)の試算では,著作権の保護期間が存続している同館蔵書のうち40%がOrphan Worksである,とされているほどであり,欧州デジタル図書館高次専門家グループ(HLEG)ではこれらをデジタル化し,インターネットで公衆送信するための環境整備の必要性を提起していた。この提起を受けて,HLEGの著作権サブグループは2007年9月から,利害関係者を集め,Orphan Worksの利用に先立つ「著作権者の真摯な調査」のガイドラインを策定してきた。この利害関係者会議には,国立図書館・文書館などの文化機関,出版社・著作者・実演家等の権利者団体の双方から代表が参加し,著作物の形態に基づく4つのセクター(文書資料(text),視聴覚資料(audiovisual),視覚・写真資料(visual/photography),音楽・音声資料(music/sound))ごとのワーキンググループでの協議および全体での協議を行ってきた。こうした協議の結果,2008年6月4日,欧州委員会のレディング(Viviane Reding)情報社会・メディア担当委員長臨席のもと,BL,フランス国立図書館(BnF),英国公文書館(NA),欧州国立図書館長会議(CENL)や各権利者団体が,『Orphan Worksのための真摯な調査ガイドライン』に合意し,覚書に署名を行った。(国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータルNo.132 2008年7月23日号より抜粋。

(筆者注19) Reding 氏の主張は“Book Rights Registry”をさしていると思う。そうであるとすると最近わが国でも話題となっているGoogle社が進めている書籍のデジタル化の話とつながる。国立国会図書館の9月8日付けカレントアウェアネス・ポータルで次のような記事がでており、参考までに紹介する。「Google社は、書籍のデジタル化について、欧州で販売中の書籍に限り権利者に事前に許諾を得る方式に変更すると発表しています。同社は、米国で絶版であっても欧州で販売中である書籍については権利者の事前許諾を個別に得るまではGoogleブックスに加えないとしています。また、同社は欧州の出版社と欧州の著者をBooks Rights Registryの委員会に追加する提案も行っているようです(GoogleがEUに大幅譲歩、書籍スキャンをopt-in方式に変更し、Book Rights Registryで2議席も約束)」。

(筆者注20) 欧州デジタル図書館 “Europeana”は2008年11月20日に公開された。これは,欧州連合に加盟する27か国の,合計1,000を超える国立図書館・文化機関等が提供している,合計200万点以上の各種デジタルコンテンツ(書籍,地図,録音資料,写真,文書,絵画,映画など)へのアクセスを提供するポータルサイトの機能を果たすものであり,登録ユーザがデータを保存できる個人用ページ“MyEuropeana”やタグ付与機能など,Web 2.0機能も有している。公開時点で提供されている200万点のコンテンツの過半数(52%)はフランスの機関によるものであり,オランダ,英国がともに10%と続いている。有名なコンテンツとしては,ベートーベンの交響曲第9番を筆頭に,マグナ・カルタ(大憲章),フランス人権宣言,ダンテの『神曲』,フェルメールの絵画『真珠の耳飾りの少女』,モーツァルトの自筆書簡・楽譜,シベリウスの作品の演奏,ベルリンの壁崩壊時の映像などが含まれている。(国立国会図書館カレントアウェアネス・ポータル2008年12月10日号より抜粋)

(筆者注21) 同委員会が取組む “Creative Content Online”については“Audiovisual and Media policies”サイトで詳しく説明されている。

(筆者注22) Reding氏に直接確認していないが、文脈からみて「考え方をまとめた文書」とは2009年5月に委員会が発表した“Content Online Platform”であろう。

(筆者注23) 行動ターゲティング広告(Behavioral Targeting Advertising: BTA)とは、インターネット広告の一種で、各ユーザーをWebサイト上での行動履歴に基づいて分類し、ユーザーごとに最適な広告を配信できるようにした方法のことである。行動ターゲティング広告においては、クッキー情報を元にしてWebブラウザ単位でユーザーの行動が追跡されており、そのWeb上での行動履歴が専用サーバーに蓄積されている。この行動履歴を数百の行動パターンに分析し、次回の広告配信の機会に反映させることによって、ユーザーにとって最も適した広告内容が配信可能になっているとされる。
 従来のバナー広告やリスティング広告などのような広告配信の仕組みでは、広告の内容は広告媒体であるWebサイトのコンテンツに合わせて選択されていた。これに対して行動ターゲティング広告では、広告媒体サイトのコンテンツに関係なく個々のユーザーに合わせた広告を配信させることができるという利点がある。(「IT用語辞典バイナリー」から引用)

(筆者注24)「Phorm事件」については、欧州委員会のプレス発表等に基づき作成されたわが国の解説記事の問題点につき、ブログ(Foreign Media Analyst in Japan)が2009年4月27日付け記事「NRIの英国政府の“phorm”に対する取組みと欧州委員会の強硬姿勢の紹介記事の具体的問題点」で指摘している。しかしNRIの記事はいまだに修正されていない。この無責任さが問題である。(「平野龍冶」は筆者の第二ペンネームである)

(筆者注25) Reding氏に確認したわけではないが、ここでいう「第三国」は主に米国を指すものと思う。その根拠はEUと米国政府間の「セーフ・ハーバー協定」の存在である。2009年10月6日に米国連邦取引委員会(FTC) は、連邦商務省(U.S.Department of Commerce)の強力な支援のもとで欧州連合(EU)・米国連邦政府間の「プライバシー保護に関するセーフ・ハーバー合意(筆者注1)」に基づく米国企業6社に対する遵守指針違反に基づく個別告訴につき和解に達した旨発表した。
 セーフ・ハーバー合意のもととなったのは1998年10月に発効した個人情報保護に関するEU指令(「個人データ処理に係わる個人の保護及び当該データの自由な移動に関する1995年10月24日の欧州議会および理事会の95/46/EC指令」)である。同指令は、十分なレベルの個人情報保護を行っていないEU域外の第三国に対して、EU域内の個人情報の移転を禁ずることを定めたもので、これにより域外の事業者がEU市場から締め出される懸念が生まれた。
 これに対して米国は、法規制の導入による個人情報保護を提案するEUとは異なり、民間による自主規制を尊重する立場をとっており、法規制のあり方についても個別法によるセグメント方式を採用している。このため、米国政府はEUに働きかけ、1999年4月に個人情報の取り扱いについての保護基準を導入することで合意し、その具体的指針となるセーフ・ハーバー協定を結んだ。セーフ・ハーバー協定は、1)本人への通告(notice)、2)消費者の選択、3)第三者への情報の移転、4)本人のアクセス権、5)セキュリティ対策、6)データの一体性、7)法執行の7つの保護遵守指針(privacy principles)からなり、ここに示される条件を遵守する企業はEU指令のいう「適切な」個人情報保護を行っているものとみなされる。

(筆者注26)「 デジタル欧州戦略(digital Europe strategy)」についてReding 氏が2009年7月9日に“Lisbon Council”(ベルギーに設立された非営利団体(NPO))でスピーチしている。Reding 氏のスピーチはYoutubeでも確認できる。彼女なりのキャラクターがにじみ出たスピーチである。


〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/09/446&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://ec.europa.eu/research/fp7/index_en.cfm
http://ec.europa.eu/news/science/071113_1_en.htm

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 

 




〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/09/446&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://ec.europa.eu/research/fp7/index_en.cfm
http://ec.europa.eu/news/science/071113_1_en.htm

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米国の連邦裁判所規則等の期限改正法案が成立、議会の審議のフォローアップ・データベース

2009-05-14 10:05:31 | 電子政府(eGovernment)

Last Updated: March 5,2021

 2009年5月10日未明に米国連邦裁判所サイト“U.S.Courts”(筆者注1)からオバマ大統領が5月7日に標記法案(H.R.1626)(筆者注2)に署名し、成立したニュースが届いた。この法案は連邦裁判手続に関する29の連邦法の改正に関するもので、米国でも裁判官や弁護士という裁判実務家には関心が高い問題であるが、一般人には極めてなじみが薄い問題である。

 今回あえて取り上げた背景は法案内容の正確な理解とともに、このようなメディアもほとんど問題としない法案の内容について審議過程を調べようとしたら、わが国ではどれだけの時間がかかるであろうか、一方、米国ではどうかといった比較制度的な問題意識から取り上げるものである。

 筆者から見ると、本会議だけでなく委員会等における法案上程の背景や審議状況をリアルタイムかつ正確に把握できることは、民主主義国家では当然であり米国もその例外でない。
 
1.本法案提出の背景となる連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)の「裁判過程における期間計算に関する規則」の改正および「2009年制定法上の期限計算に係る技術的修正に関する法律(the Statutory Time-Periods Technical Amendments Act of 2009)」(H.R.1626)の可決
(1)この法案提出の契機は、2008年9月16日連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)(筆者注3) (筆者注4)において、連邦裁判手続における期間計算に関する以下の4つの裁判所規則(書式を含む)の改正案が採択されたことである。
 また、同会議は改正案につき1934年連邦最高裁判所規則制定権法(Rules Enabling Act of 1934)(筆者注5)に基づき、連邦最高裁に移送し、制定・公布するものである。
連邦控訴規則(Federal Rules of Appellate Procedure;FRAP)
連邦破産訴訟規則(Federal Rules of Bankruptcy Procedure;FRBP)
連邦民事裁訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure)
連邦刑事訴訟規則(Federal Rules of Criminal Procedure)
なお、同会議において同時に①から④の各規則について期間計算以外(non-time computation rules and forms)の改正案も採択された(2009年12月1日施行予定)。


(2)著名な連邦上院司法委員会委員長(Senate Judiciary Committee Chairman)パトリック・リーヒー議員(Patrick Leahy)(バーモント州選出:民主党)が4月28日の連邦議会で行った議会のスピーチ記録等に基づき本法案の提出経緯等をまとめるのが最も正確で効果的であろう。

「マダム・プレジデント(筆者注6)、私は4月27日に上院が「2009年制定法上の期限計算に係る技術的修正に関する法律(the Statutory Time-Periods Technical Amendments Act of 2009)」(H.R.1626)を可決したことをうれしく思う。この価値のある政府提出法案(good-government bill)は、弁護士および裁判官が裁判過程における手続の遵守期限を計算するにあたり、一貫性がありかつ標準となる方法を新たに作り上げるものである。すなわち、条文数は少ないが米国の司法制度の有効性を向上させるうえで重要な超党派(bipartisan bill)の法案である。先週(4月22日)、同法案は下院の継続審議で可決している。

 本法律は、裁判手続の期限(deadlines)に関し、最近行われた連邦期間計算規則に関する連邦司法会議(Judicial Conference of the United States)の勧告を完全に組み込んだ法律である。裁判官や実務家にとって現在の締切期限の規定につき混乱や複雑さを減らす意味をもっており、かつ既存の期間の短縮をもたらさないことを保証するものである。
 多くの研究とパブリックコメントのもとに司法会議の裁判所規則に関する常任委員会(standing committee)および控訴、破産、民事、刑事に関する諮問委員会(advisory committee)において現在の手続の期間計算期限につき予見性と統一性を提供する目的で新しい規則案を提案することとなった。今回提案する法案では、司法会議が指摘する現行の期間計算は混乱する内容でかつ誤った期限や訴訟当事者の重要な権利を失わせるという指摘に部分的に対応するものである。
 現在の期間計算規則は、週末や休日は期間が30日未満の裁判所への期限計算上カウントしないが、30日以上の場合はカウントするという規定内容である。

 一方、本改正法案では、公判運営に影響する多くの民事および刑事手続法を改正して、司法会議の提案する規則改正案と整合性をとることになる。第一に、改正法案は「○○日は○○日」と言うカレンダーどおりに期間計算することによっては実質的に期間が短縮化される定め方を見直すべく制定法上の期間の定め方を変更する。例えば、裁判実務家が週末を含むすべての日数を計算することで期間が実質的に短縮化するのを防ぐため「5日間」を「7日間」に、また「10日間」を「14日間」に変更する。事実上、この改正は制定法上同一期間を維持する効果をもたらすであろう。さらに期末が休日や週末にかかるときは期限は翌営業日に延長されることになる。

 連邦司法省と司法会議は、2009年12月1日(司法会議の裁判所規則改正の施行日)以前における改正規則の施行を強くうながしており、今回連邦議会がこれに応じられたことをうれしく思う。
 本法案については支援してくれた連邦司法省、米国法廷弁護士会(American College of Trial Lawyers)、控訴弁護士協議会(Council of Appellate Lawyers)、米国弁護士会の訴訟、刑事裁判部を含む幅広い関係者に感謝する次第である。

 最後にオバマ大統領が適宜本法案に署名されることを楽しみにしている。」

2.米国連邦議会の法案審議過程の調査に関する代表的専門サイト
 本章の説明は、わが国の法学部学生や院生だけでなく、海外情報の紹介メディアや総研の調査スタッフ等においてもマスターすべき内容なのでその点を理解して欲しい。なお、言うまでもないが、これらの立法情報専門サイトが最も必要とされる「検索機能」等においてEUの主要国でも類を見ない充実度が見られる点である。(筆者注7)


(1)“Thomas”(連邦議会図書館Library of Congressのサイト)
 “Thomas”は1995年1月の第104連邦議会会期開始時に稼動を始めた。その目的は広く国民に無料で連邦の立法に関する最新情報を提供することであり、その後、特性や内容等を含む情報範囲の拡大を図り、現在は次の10項目について情報提供を行っている。なお、(2)以下で説明するとおり議会情報の多様化や世論形成の新たな挑戦サイトが出始めているが、その原データはいずれも“Thomas”であることと、それらは多くは“Beta 版”といえるものである。しかし、内容の良し悪しは別にして、多くの米国の若手層が政治に正面から取組む姿勢はわが国とは明らかに異なるといえる。

A.法案(Bills)、決議(Resolutions)
(1)現議会の上程法案(1989年第101議会から現議会の全法案)の検索(用語および法案番号)
(2)法案およびその修正要旨の検索(1973年から現議会までの全法案)
(3)多角的な法案の検索(Search Multiple Congress)
(4)法成立後“Public Law”(筆者注8)番号に基づく検索
(5)議会下院における公式投票記録 (筆者注9)
(6)議会上院における公式投票記録
(7)法案提案議員(上院・下院)のサイトの閲覧
B.議会の活動状況
(1)昨日の本議会
(2)今、下院では(新しい順で全法案の審議状況すなわち「動議」「投票」「審議」等が参照できる)
C.議会の記録
(3) 最新の日付の上院・下院の活動状況のダイジェスト版が閲覧でき、必要に応じ全文にリンクすることもできる。
(4)議会の公式記録の検索:言葉や語句(phrase)、議案番号、日付での検索が可能である(1989年以降)。
(5)議会記録のインデックス
D. 審議スケジュールとカレンダー
(1)会期中の審議スケジュールと毎日の議事目録(Calendar) が閲覧できる。
(2)今週の下院の審議日時(特に継続審議などで成立が間近な法案等)
E.委員会情報(Committee Information)(連邦印刷局(GPO)の印刷物により下院・上院の委員会の記録全文の検索が可能)
F.大統領候補指名
G.条約(条約番号、条約の伝達日、略称、正式名、条約のタイプ:軍事、航空、通商、領事)、国内法の法的措置(legislative actions)、索引用語)
H.政府機関の公式サイトへのリンク
I.学校の教師が議会について教育活動をするための情報
J.本サイトのヘルプ・デスク

 なお、連邦議会図書館(LC)は2012年9月19日、立法情報を提供する新サイト"Congress.gov"β版を開設した。

このサイトは、使い勝手の良さを売りにしており、約1年間利用者の声を聞き、機能改善を図ったうえで、従来の立法情報システム”Thomas”や関係者向け”Legislative Information System:LIS)に置き換わった。

(2)“GovTrack.us”
 “GovTrack.us”は、ジョシュア・タウベラー(Joshua Tauberer) (筆者注10) (筆者注11)が2004年9月に新たに立ち上げたサイトである。独立系、超党派、非営利、オープンソースサイト(筆者注12)で国民が毎日連邦議会の法案審議の状況を追跡することで議案、議員の活動をチェックできるというものであり、 “Webby Awards”(米国で最も権威あるWebサイト賞)の2006年政治部門で同賞を受賞している。
 今回、代表者が自らサイトの利用方法やその利用の限界について説明しているので参考までに紹介する(“About This Website”を読むと文書作成はあまり得意でないのか全体として言いたいことが分散されている)。筆者なりに同氏が主張したいであろうと思われる点を中心に再構成しておく。
A.閲覧可能情報
①連邦議会上程の法案、②上・下院の投票記録、③議員自身の情報(オフィシャルサイトへのリンク)、④委員会情報、⑤公式の議会記録である。

B.個別ユーザーに要求に合わせた法案追跡ツールの提供
 本サイトは調査ツールであるが同時に無料の追跡ツールでもある。”Search Govtrack”と言うツールに関心テーマ、議員名、法案番号、委員会名等を登録すると追跡結果が自動的に得られる。

C.データ入力結果の迅速性
 法案の審議状況や条文そのものについては約24時間遅れるが、氏名点呼投票(roll call vote)の場合は公式サイトが公表するのとほぼ同じ1時間以内にサイトに掲載される。統計数字はほとんど毎週更新するが、現会期の議会情報は初めの数週間は更新されない。

D.過去のデータの閲覧
第103議会(1993-2000)までさかのぼっての検索が可能である。ただし、条文は106議会(1999-2000)までしかさかのぼれない。

E.利用者数
 1日当り約3万人が利用しており、毎晩数百から数千のメールを送信する。

F.サイト協力者
 2008年7月以降、ダニエル・ガブリエル(Daniel Gabriels)、ケビン・ヘンリー(Kevin Henry)やマク・ドレッシャー(Mike Drescher)が加わった。

(3)“OpenCongress”
 民間プロジェクト(Sunlight Foundation等NPOの1プロジェクト)でその内容は上記2つのサイトと比較するとより国民の関心の度合いを測りながら併せて審議状況をフォローしている。すなわち、法案、委員会、報告書等の議会情報に議会や議員に関するニュースやブログを集約して提供している。さらに特徴的な点は最もよく閲覧されている法案の閲覧数などのランキングも公表するのである。国民だけでなく議会の議員も無視しえない情報 が含まれている。

 なお、”OpenCongress”は、2004年に参加型政治財団(Participatory pOLITICS fOUNDATION:PPF)によって設立された。”OpenCongress”は当初、サンライト財団を創設と主要な支持者として2007年に建設され、一般に公開された。PPFは、米国議会を追跡するための最も訪問された非営利サイトにサイトを成長させるべく2013年にそれを運営し始めた。2013年10月29日、PPFは、オープンコングレスがサンライト財団に現金で買収することに合意したと発表した。2016年、サインライト財団は”OpenCongress”を閉鎖し、「他のNPO組織との同盟を模索する中で、関係コミュニテイとりわけ”GovTrack.us”に「他のNPOとの提携を模索する」ことを”GovTrack. us”に指示した。(Wikipedia等から一部抜粋)

(4)“the Open House Project”
 “google”は世界中の言語やテーマ別に各種グループを組成しているが、上記Sunlight Foundation等が中心となって米国の連邦下院の活動とインターネットの機能的融合を目指すプロジェクトが“Open House Project”である。現在の参加者数は筆者も含む588人であり、政府や立法に関する情報の専門家、議会事務局、NPOやブロッガー等が下院の運用をいかにインターネットと統合するかという研究ならび一般国民が彼らの仕事の内容を理解しアクセスが達成できるよう参加型の改革を提言することが目的である。同プロジェクトは議会の手続を抜本的に改革するといったものではなく、その運用原則は処理手順の自動化(Paving the Cow paths)を目指すものである。

 すなわち、その具体的意見集約の方法としては、まず“list-serve”というディスカッションの場でトピックスを選ぶ。その情報が下院の機関に届くとブログやwikiに書き直すとともにオンラインで共有するかたちで報告書を書き上げるのである。これらの貢献者達の活動は2007年5月8日C-Span(筆者注13)のカメラが並ぶ記者会見の中でブラッド・ミラー(Brad Miller)下院議員(ノースカロライナ州選出:民主党)と共和党員院内総務ジョン・ボエナー(Minority leader John Boehner)(オハイオ州選出)との白熱した議論において議会で達成可能なアクセス改革のあり方についてみずからの意見の一致を表したのである。また、同報告書はペロシ下院議長やステニー・ホイヤー(メリーランド州選出:民主党)からその内容につき保証を得ており、マスコミから多くの報道面の評価を受けた。
 なお、現在上院の仕事やウェブに対する国民のアクセス権を確保するため超党派のプロジェクト“Open Senate project”を構築中である。

   ***************************************************************************::

(筆者注1)“U.S.Courts”についてわが国で正確かつ最新データに基づき説明している市販文献を見たことがない。本ブログだけでなく米国の立法、裁判情報を理解する上で必須な情報であり、司法関係者でも理解不足の点もあるので、この機会に注記であらためて出来るだけ詳しく説明しておく。

(筆者注2)下院での法案(H.R.1626)と標題と同一内容の法案(S.630)が上院で上程されていたが(S.630の提案者はリーヒー上院議員他3名である)、下院法案の成立により実質的に審議の余地がなくなり(mooted)、廃案になったと“Govtrack U.S”等で説明されている。

(筆者注3)「連邦司法会議」は、1922年に連邦裁判所の裁判行政全般にわたる基本的裁判政策の策定組織として巡回裁判区の上級裁判官による「上級巡回区裁判官会議(the Conference of Senior Circuit Judges)」としてスタートした。1948年に連邦議会は新たな法律「連邦司法会議法(Judicial Conference of the United States :28 U.S.C 331 )」を制定し会議名を「連邦司法会議」に改称した。また、1957年から地方裁判所判事もそのメンバーに正式に加わった。2021年3月現在のメンバーは連邦最高裁判所長官(John G. Roberts,Jr.)と全米11巡回区、“District of Columbia裁判所”、“連邦巡回区裁判所(Federal Circuit)”、国際通商裁判所(Court of International Trade)(筆者注4)の首席裁判官各1名および連邦控訴裁判所(D.C. Circuit)の主席裁判官15名の計26名である。
 その任務(mission)すなわち連邦司法制度全体の運営は、合衆国裁判所事務局(Administrative Office of the United States Courts;AO) が担当している。司法会議の多数の裁判官に統計データを提供するだけでなく、同会議に提供される情報や提案の受け取り窓口と情報センターの機能も果たしている。AOは、連邦司法制度と司法会議の連絡役であり、連邦議会、大統領府、専門団体、一般国民との対応に際して、司法府側の立場を代弁する役割を務めている。とりわけ重要なのは、連邦議会で司法府の代表を務めることであり、関係する裁判官とともに、司法府の予算案、判事増員の要請、裁判規則の改定提案を連邦最高裁に行うなど、重要な案件について詳しい説明を行う。(“U.S.Courts”サイトの運用・管理もAOが行っている)(米国大使館サイトからの引用文にU.S.Courtsサイトの説明に基づき訳文を追加、適宜修正を加えた)

(筆者注4)国際通商裁判所(Court International Trade)について説明しておく。
 「1980年関税裁判所法(the Customs Courts Act of 1980)」に基づき連邦議会は国際取引訴訟などから生じる増加・複雑化する紛争問題に効率的に対処するため連邦裁判制度を用意している。すなわち、同法に基づき実質的に従来の連邦関税裁判所(the United States Custom Court)の地位、裁判管轄および権限を明確化と拡大を行い、現在の「国際通商裁判所」に名称を変更したものである。

(筆者注5)1934年6月19日成立した「連邦最高裁判所規則制定権(授権)法(Rules Enabling Act of 1934)」に基づく、連邦最高裁の裁判所規則制定権能と連邦議会の立法権との委任関係は、元々は現状よりは簡単な構造であったとされている。しかし、裁判所の運用の実態は必ずしも簡単なものではなく判例や米国の専門論文でもこの問題がしばしば取り上げられている(本ブログはその解説を目的とするものではないので詳しくは“Find Law”カルフォルニア大学デービス校のローレヴュー等を参照されたい)。

(筆者注6)“Madam President”は誰を指すのか。大統領に対し“Mr.President”は誰でも分かるであろう。筆者も捜し当てるのに一応苦労した。実際、連邦議会の公式スピーチでも“Madam President”がしばしば登場する。“Google”で検索しても出て来ないし、ヒラリー・クリントンが大統領になっていたとしたらそう呼ばれるであろうかも知れない。
 答は、上院共和党議員の“Mrs Patty Murray”(ミセス・パティ・マリー)である。連邦下院の議長ナンシー・ペロシー(Nancy Patricia D'Alesandro Pelosi)を“Madam President”と呼ぶなら分からないでもないが、“Murray女史”がなぜ“President”なのか、それは民主党上院院内総務(Democratic Conference Secretary of the United States Senate)だからである。なお、同女史を含めの連邦議会委員の公式サイトは5月10日現在接続不可となり一切閲覧できない。その理由は不明である)。

(筆者注7) 松橋和夫「アメリカ連邦議会上院の権限および議事運営・立法補佐機構」国立国会図書館レファレンス平成15年4月号および同「アメリカ連邦議会上院における立法手続」同平成16年5月号が連邦議会における全体的立法手続の説明として有用である。

(筆者注8)米国では、連邦議会で法律が制定されるとまず"Public Law"として発行される。これは、議会に提出された法案の名称を踏襲している。その後、分野別に体系化された"United States Code"として編纂される(LexisNexis.jpサイトから引用)。

(筆者注9) 参議院では平成10年(1998年)1月に召集された第142回国会から押しボタン式投票が導入された。参議院における議案の採決は、記名投票を行う場合を除いて、押しボタン式投票により行うこととなっており、押しボタン式投票の導入により、議案に対する各議院の賛否を迅速に集計・記録できるようになった。投票結果は、「会議情報」の「本会議投票結果」(個別法案をクリックすると各議員別の賛成・反対結果が確認できる)から見ることができる(衆議院では同様のかたちで投票結果を見ることができない。その理由は不明である)。
 なお、参議院の投票結果は個別法案に対する投票結果であり、米国の専門サイトで見るように各議員の投票結果のトレンド見るには別途手作業が必要であり、そのようなことを行っている団体や機関(NGO)やメディアはないであろう。要するに主権者は「かやの外」なのである。

(筆者注10)Joshua Tauberer氏は大学院生でかつソフトウェアの開発者である。“GovTrack.us”を立ち上げたほか、RDF(筆者注11) 形式の米国国勢調査データを管理している人物でもある。

Joshua Tauberer氏

(筆者注11) Resource Description Framework (RDF) とは、ウェブ上にある「リソース」を記述するための統一された枠組みであり、W3Cにより規格化がなされている。RDFは特にメタデータについて記述することを目的としており、セマンティック・ウェブを実現するための技術的な構成要素の一つとなっている。RDFの応用例にはRSS (RDF Site Summary) やFOAF (Friend of a Friend) などがある。(Wikipediaから引用)

(筆者注12)「オープンソース」とは、ソフトウェアの設計図にあたるソースコードを、インターネットなどを通じて無償で公開し、誰でもそのソフトウェアの改良、再配布が行なえるようにすること。また、そのようなソフトウェア。(IT用語辞典より引用)

(筆者注13) C-SPAN(Cable-Satellite Public Affairs Network)は、1979年3月19日に開局したアメリカ合衆国のホワイトハウスや連邦議会を中心に、政治報道を専門とするケーブルチャンネルのことである。
〔参照URL〕
http://www.uscourts.gov/rules/index2.html#hr1626
http://www.govtrack.us/congress/record.xpd?id=111-s20090428-21
http://thomas.loc.gov/
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連邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)による行政Watchdogの役割と機能

2008-11-29 07:41:26 | 電子政府(eGovernment)

 

Last Updated: Febuary 25,2022

 本ブログでも過去に取り上げている米国連邦議会の独立補佐機関であるGAOについて、わが国ではWikipediaや一般medeia を含め正確に解説しているブログ等がない。(筆者注1)

 わが国の立法府のトップの交代劇の良し悪しは別として、議会(=国民)による行政プログラム・チェック機能は一体どうなっているのであろうか。果たして昨今の中央官庁や外郭団体の無責任ぶりも見るにつけ、米国と同様の「議会の委員会や独立機関による行政watchdog」の導入等による抜本的な改革なくして、わが国の憲法の理念に基づく本格的な議会と行政のチェック・アンド・バランスによる改革は実現されないであろう。単なる総選挙で主権者たる国民の真意を問うといった方式の改革論議の有効性自体も限界が見えている。

 この点に関し、米国では議員の個人的政策スタッフの身分制度改革等についてわが国とかなり異なる点が多いが、特に議員の活動を支える委員会スタッフやGAOやCBO(Congressional Budget Office:連邦議会予算局)やCRS(Congressional Research Service:連邦議会調査局)という議会の独立補佐機関の機能強化が重要であることはいうまでもなかろう。

 ところで“GAO”の訳語は一体何とすればよいのであろうか(筆者注2)。訳語の適否だけでなく、GAO本来の機能、権限や活動の実態についてより正確に紹介するのが今回のブログの目的である。
 なお、連邦政府に対する議会の委員会や委員会スタッフのかかえる課題については、筆者が個人的に親しい民主党のパトリック・リーヒー(Patrick Leahy)上院議員(上院司法委員会委員長)等に直接意見を聞く機会を持ちたいと考えている。

1.連邦会計検査院から連邦議会行政監査局への名称変更の背景と意義
 GAOはもともと1921年予算会計法(Budget and Accounting act of 1921)に基づき、連邦議会の要請を受けて行政部門から独立し連邦各省庁の施策や予算の執行状況を監査・調査する連邦議会の下部機関として設置された。各省庁の内部監査については1978年監察総監法「Inspector General Act of 1978」に基づき個々に設置されている監査総監(Inspector General)がおり、GAOの定める監査基準(Yellow book)に基づき年2回各省庁の長に報告することになっている。
 2004年7月に連邦議会は、GAOの人材活用の柔軟性を確保するため「2004年GAO人的資本改革法(GAO Human Capital Reform Act of 2004)」を制定し、その一環として名称変更を行っている。

2.GAOの人事・任命と基本的任務
 1921年法に基づき連邦議会行政監査局長(Controller General)や副局長は大統領が上院の助言と承認に基づき任命し、任期は15年である。2008年現在の局長は1998年11月に就任した7代目であるDavid Waker氏(2022年の現局長は2018年3月13日就任したGene L.Doraro氏である)。

Gene L.Doraro氏

 Waker局長は、議会との関係強化すなわち、①連邦政府の行政プログラムおよびその運用についての国民への説明責任(accountability)、②完全性(integrity)、③高信頼性(reliability)の3本の中核価値に基づき各種の改革を進めてきている。
 具体的内容としては、会計・財務監査(financial audits)、行政プログラムの査定(program review)・報告・証言(testimonies)、勧告(recommendations)、調査(investigations)、法的な決定・裁定(legal decisions)、行政政策の分析(Policy analyses)である。
 連邦議会の非党派的、非政治的補佐機関はGAOのほかに議会調査局(CRS)、議会予算局(CBO)がある。GAOの予算規模が約4.8億ドル、要員数が約3,300人であるのに対し、CRSは約8,100万ドル・694人、CBOは約3,600万ドル・約230人であり、規模の差は大きい。その共通性はスタッフにおいて高度に専門性が高く(筆者注3)、かつ議会スタッフとの間も自立性が高いといわれている。

3.GAOの2000年予算度組織改組
 Waker局長は、就任後2000年予算年度に従来の5部編成から3部門(総監査部門(General Counsel)、主要運用部門(Chief Operating)、主要管理部門(Chief Administrative)に改組した。特に主要運用部門は次の13チーム編成に改組した。
①教育・職場・所得保障、
②金融市場および地域向け投資
③健康管理
④国土安全および司法
⑤自然資源および環境
⑥物的インフラ
⑦買収および資金調達管理(Acquisition & sourcing Management)
⑧防衛能力および管理
⑨国際問題および国際取引
⑩応用調査およびその方法(Applied Research & Methods)
⑪財務管理および確実性、電子的監査証拠(Forebsic Audits)/特別調査
⑫情報技術(Information Technology)
⑬戦略的問題(Strategic Issues)

 以上見ても分かるとおり、その守備範囲は極めて広い。さらに最近時にGAOが行った連邦議会向け報告や証言の主要テーマをみてもさらにその範囲が広がる。
①基地の再編および閉鎖
②大規模災害への準備、対応および復興
③国土安全保障
④移民
⑤インフルエンザ
⑥イラク:戦争と復興
⑦軍人および退役軍人の健康管理と傷病手当
⑧テロリズム
⑨輸送問題と安全性
⑩連邦レベルの選挙

4.議会補佐機関としての課題
 筆者は米国政治の専門家ではないが、ここで述べたテーマは筆者が日頃GAOレポート等において読む個別テーマと重なる。確かにGAOレポートは個別行政機関からの直接聴聞や調査に基づくものが主たる内容を構成しており、民間シンクタンクのものと取組みのスタンスが異なる点も多い。
 最近時に読んだもので、重要な指摘と思えたものを最後にあげておく。
2007年8月GAO-07-1053 連邦議会向け報告「証券取引委員会(SEC)―よりリスクベースかつ透明性を高めたOCIE(Office of Compliance Inspections and Examinations)部検査ホットラインのありかたについて組織改編に向けた課題」
 OCIEはSECの法令遵守検査部門である。OCIEはワシントンD.C.ならびに全米11か所の地方事務所を有しており、自主規制機関、ブローカー兼ディーラー、証券代行、投資会社および投資顧問業等の証券登録者(registrant)の検査を行っている。GAOはOCIEの検査結果および証券登録者の意見等を集約した結果、受検査者向け苦情ホットラインについて、その独立性を確保するため現行のOCIEの一部署からオンブズマン機能局(筆者注4)またはOCIE外の外部機関に移転する等の勧告を行っている。これを受けてSECは総論賛成で本勧告の目的に沿った検討を行う旨回答している。
********************************************************************************
(筆者注1)自動翻訳ソフトであろうが次のような笑ってしまう訳例もある。「GAO米国連邦会計検査員(General Accounting Office)は、連邦政府のプログラムに関する会計的請求の処理、議会の立方・監督機能の補助、叉、生産性向上に関する勧告等の機能を有する機関です」。
 またNTTデータが使用している「政府説明責任局」の訳語も「アルク」の訳語(その源は米国日本大使館サイトの訳語であろう)を無批判に引用しており、その機能や権限についての正確な訳語とはいえまい。NTTデータが「電子政府政策におけるGAOの役割」で説明している内容を理解したうえであれば正確で分かりやすいといえようが、2004年6月以前の会計検査院としての機能(financial audits)をも引き継いでおり、より正確な訳語としては「連邦政府施策の結果・説明責任を主たる任務とする議会行政監査局」といえよう。
また、「マルチメデイア・インターネット辞典」ではGAOが発表する主要な議会への報告について、2002年7月から2007年8月の間の情報を細かに紹介しているが、GAOについては「米国政府監査室(General Accounting Office)」という訳語で「政府関連調査レポートなどをフォローして、報告する政府機関の名称。毎日、膨大な調査報告書をPDFで公開している」と解説するのみである。同じGAOでも本文で述べたとおり原語は2004年7月に“General Accountability Office”に変わっている点も説明していない。

(筆者注2)GAOの訳語自体も「連邦会計検査院」とするものが圧倒的に多い。GAOについて、国立国会図書館レファレンス平成17年6月号で渡瀬義男氏が「GAO(会計検査院)の80年」と題して変革の歩みを詳細に解説されている。 また、日本銀行の「金融研究」2006年8月号「米国の連邦政府における内部統制について」の中でも森毅氏がGAOを「会計検査院」と訳されている。わが国の「会計検査院法(昭和22年法律第73号)」に基づく「会計検査院」の委員の身分や独立性および国会との関係との比較からみても、「会計検査院」という訳語は疑問に思う。また、GAOの2004年7月名称変更以後における活動内容および他の補佐機関との整合性から見ても、わが国で用いる訳語としては、筆者が推す「連邦議会行政監査局」という訳語の方が「政府説明責任局」よりは分かりやすいと思うがいかがであろうか。“Accountablity”は確かに説明責任、財政責任であるがGAOの任務は国民(=連邦議会)に対する説明責任(財政民主主義)が中心的任務なのである。
 なお、2008年11月14日付の朝日新聞ワシントン支局の記事「危険病原体、警備に不備」と題する囲み記事で出ている。この調査報告書は2008年9月に公表されたものであるが、原文は
“BIOSAFETY LABORATORIES :Perimeter Security Assessment of the Nation’s Five BSL-4 Laboratories ”である。筆者が注目したのは記者がGAOを「米議会の行政監査院」と訳している点である。米国ではごく常識的な情報に基づいて書いたのであろう。既存の不正確な訳語に頼るわが国のメディアの悪弊はやめて欲しい。

(筆者注3)GAOだけでなくCRSやCBOの採用サイトは給与、福利厚生や教育面など処遇について極めて詳細である。CRSの例でみても採用専用HP がある。

(筆者注4)米国連邦機関内のオンブズマン機能の例としては、筆者が知る限り連邦預金保険公社(FDIC)のオンブズマンがある。機関内のオンブズマンの独立性について関心があり、調べようとしていたところである。

〔参照URL〕
http://www.gao.gov/

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EU加盟国における電子政府の税申告・納付・還付システムの取組の最新動向

2006-10-07 11:39:34 | 電子政府(eGovernment)

 

Last Updated :October 8,2022

 わが国では2000年11月29日に高度情報化通信ネットワーク社会形成基本法」が成立し、電子政府の取組みの要請・期待が高まるなかで、以降、毎年「E-Japan 重点計画」が策定され、最近では「IT政策パッケージ2005」「重点改革」が決定されている。(筆者注1)一言で「電子政府」、「電子自治体」といっても範囲が広すぎて国民には理解できない点が多かろう。これはEU加盟国でも例外ではない。しかし、少なくとも電子政府に関する「政府の専用ウェブサイト」を比較してみると、行政(国や地方自治体等)が提供する市民生活に密着したサービス機能一覧や説明の平易さ等に差があるといいえよう(筆者注2)
 全体的な比較は改めて行うこととして、今回は最近公表されたEU加盟国6カ国の個人向けeTaxationの特徴について紹介する。(筆者注3)

 なお、IDABC は 2005年から2009年の間に実施した欧州電子政府サービスの行政、企業、市民へ相互運用可能な提供 の略である 。それは、ヨーロッパの市民や企業への国境を越えた公共部門のサービスの提供を奨励し、支援し、ヨーロッパの行政間の効率性と協力を促進するものであった 。IDABCは、その目的を達成するために、勧告を発行し、ソリューションを開発し、欧州の行政機関が電子的に通信できるサービスを提供しながら、欧州の企業や市民に近代的な公共サービスを提供していた。しかし、IDABCの活動はガイドラインの作成にとどまらず、相互運用性をサポートするためのインフラの計画と実装も伴う。(EU IDABCプロジェクトから抜粋、仮訳)

1.スェーデン
 2005年に、210万人以上の市民が国税庁(the National Tax Board)が用意した所得税(income tax)の電子納税申告を利用した。この数字は2004年比で約2倍である。スェーデの納税者は国税庁から送信されてくるあらかじめファイル化・計算された電子納税申告書を受け取る(このときに、「soft electronic ID(国税庁が指定した暗証番号とパスワード)」が必要であるが、電話やSMS(ショート・メッセージ・サービス)でも確認可能である。インターネットで申告する時に納税者は、この国税庁が定めたsoft IDまたは電子IDを使う。210万人の利用に伴い国税庁は経費節減額を約275万ユーロ(約4億700万円)と見込んでいる。国税庁は今後5年間でさらに電子申告件数とそれに伴う経費節減が増加すると期待している。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/4296)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/se/index_en.html

2.ベルギー
 同国は国税システムのプログラムの近代化と統合に現在まで約1,250万ユーロ(約18億5,000万円)を費やしてきている。このプログラムは税管理のあらゆる分野すなわち、①税計算、②申告、③登録、④徴収、⑤早期払い、⑥クレーム処理に関するものである。主な目的は以下の通りである。
(1)膨大な納税者情報の統合を通じてサービスの改善、すなわち手続の簡素化、処理時間の短縮、納税センターのマニュアル処理を排除する。
(2)徴税機関の官吏の税務会計処理を簡素化し、内部事務処理の効率化が可能となる。
(3)近代的なIT環境を取り込んで維持コストを削減する。
今日まで、ベルギー政府は異なる納税システムにより所得税、法人税、付加価値税(VAT)等を別管理してきた。このため納税者は申告時に納税に必要な基本情報につどついて異なる様式に記載しなければならなかった。単一データベースへの再構築により、納税者は複数の納税申告に際し、たった1度の登録で済むことになる。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/4060)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/be/index_en.html

3.フランス
 フランスは2006年でオンライン申告の稼動2年目となる。第一段階では電子申告は税当局により完成され、納税者は単にその内容をチェックし、署名後、税当局に返送するのみであった。オンライン納税者は特定の月に申告利用することが認められ、その場合に毎月の銀行の引落し命令(bank order)または直接引落し(口座引落し)(direct debit)により納付する場合、20ユーロ(約2,960円)の税額免除が行われるというという特典が認められた。
 申告の的確性とオンライン納税を行うため、フランス市民は「電子的承認(electronic certificate)」を行わねばならないが、がすでに100万人のユーザーがその適用を受けている。その他、2006年の目玉はすべての公的な納税様式のためサーバーを立ち上げることにある。行政が定める様式の3分の2のは2006年末までにはオンライン化が進み、2008年までには100%切り替わる予定である。
 フランスでは電子申告の原則が急速に拡がっており、2005年には370万人が利用し、2006年中にはその数は1,000万人に上ると予想されている。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5460)

4.ポルトガル
 会社やその他法人に対し年税のインターネットによる進行の要請に引続き、同国の政府は個人の所得表の電子的提出を促進する各種手段を採用した。これらの新たな手段は納税にかかるエラーの早期発見でありこれは納税者の申告内容について可能なミスを修正しひいては税返還の遅延回避を実現するものである。
このサービスの基幹システムはすでに稼動しており、残りのシステムもまもなく稼動予定である。さらに、新たに「オンライン・ヘルプデスク」や電子様式にかかるガイドラインの見直し、納税者に申告提出の状況を知らせる「eTax alert」サービス、納税者との間の通信のセキュリティ対策としてパスワードの導入などが含まれる。
2005年中に、170万の申告がインターネット経由で行われ、その数字は2004年比増である。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5373)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/pt/index_en.html#1329_2

5.アイルランド
 アイルランド歳入委員会事務局(Ireland‘s Office of the Revenue Commissioners)は2005 年の早い時期に、SMSによる新たな納税照会サービスを開始した。これは納税者からの携帯電話による、①税額控除(tax credits)、②テキスト(text)形式による納税様式やパンフレットの請求である。呼び出し手は、個人ID番号と必要なサービスコードを入力するのみでよい。
 納税徴収機関もまた、税額控除の進捗状況の確認のためテキストメッセージ形式を使用することが出来る。この新SMSサービスが始まって最初の2週間の間に同事務局は電話での件数と同じ約8,000件の請求を受け付けた。
同サービスの立ち上げの成功は、「モバイル政府(m-government)」の未開発部分への可能性を確認出来たことになる。最近の調査では、アイルランド国民の回答者の48%が電子メールの送信やウェブサイトを都度開けることよりもSMSによる情報の請求を熱望しており、15歳から25歳に年代層でみるとその数字は61%になる。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/3996/)
なお、同国の個人所得税等についての概要のURL:
http://ec.europa.eu/youreurope/nav/en/citizens/working/taxation/ie/index_en.html

6.ハンガリー
 2006年3月以来、「e-tax提出」「義務的申告(duty return)」は、同国の「ハンガリ電子政府センター」で運用が行われている。同プロジェクトの開発費用は、750万ユーロ(約11億1,000万円)以上であるが、これにより同国の納税の大部分並びに月間・四半期ごとの税申告が電子的に行えるようになった。同国では広い範囲の納税者が法的に毎月、納税申告を行わねばならず、2006年3月には、約5,000の異なる事業所で働く200万人がこのシステムに登録した。2007年には義務的なこの電子的提出件数は120万人の雇用者に広がり、ユーザー・データベースがさらに増えると予想されている。
(詳細URL:http://ec.europa.eu/idabc/5603)
******************************************************************************:
(筆者注1)わが国のIT戦略の全体的な取組のサイトのURLは次の通り。
国家IT戦略 | e-Govポータル

 なお、はたして筆者が「IT政策パッケージ2005」「重点改革」の内容を見ようとするといずれもリンクできない。たった16年前のサイト情報がなぜリンク不可になるのか。国民の知る権利はどうなっているのか。同様の事例は他にもあると思う。

(筆者注2)一例として英国の電子政府サイト(Directgov)とわが国の電子政府サイトのURLを記しておく。実際の使い勝手で比較していただきたい。
1.英国:http://www.direct.gov.uk/Homepage/fs/en
大分類として4つに区分される。(1)調べたいテーマ別(教育・学習、不動産売買や地域社会とのかかわり、貯蓄・金融サービスや納税・還付手続等の問題、旅行や輸出入手続、犯罪阻止・被害者としての裁判手続、雇用、健康管理や医療問題、レジャーや趣味・リクリエーション、人権やプライバシー保護等の社会問題)、(2)人々が関心を寄せるテーマ(両親と子供、家族、ハンディのある人々、50歳代、海外での仕事等)、(3)地域行政機関からサービスの受け方(中古本の再生、粗大対策ごみ、違法駐車の罰金対策)、(4)トピック(若者の技術研修支援、地域の医療サービスの受け方)。またこれらとは別に、①(事業者向け起業情報・政府電子入札等)、②スコットランド、北アイルランド等自治政府、③中央政府、④地方自治政府へのリンクが可能となっている。
また、各テーマの中身を一部見ておく。今回取り上げる「税」のコーナーを見てみよう。「金融問題、税及び給付金(benefits)」から入り、さらに「税金」は所得税の申告納税手続きのイロハから始まり申告書の作成方法(オンライン)、納税申告用ソフトウェアの使い方、支払い方法等についての説明がある。
2.日本(電子政府の総合窓口):http://www.e-gov.go.jp/index.html
個人向けサービスの「納税」や企業・事業者向けに「税」の項目があるが、ここでは「e-Tax(国税電子申告・納税システム)(URL:http://www.e-tax.nta.go.jp/gaiyou/gaiyou1.html)」、「eLTax(地方税ポータルシステム)(URL:http://www.eltax.jp/outline/index.html)」、「ペイジー(国庫金電子納税システム)
(URL:http://www.boj.or.jp/type/exp/kokko_denshi/kokko_a.htm)について、まったく触れられていない。一般市民に総合窓口のページ検索でこれらの内容まで行き着く作業を求めるのか。

(筆者注3)電子政府の現状を正確に理解するうえで最も大事な点は、目的・範囲の明確化ならびに開示原則の徹底であろう。無駄な予算の支出はどこの国でも許されないし、行き過ぎたかたちは国家による国民の監視強化につながる。その意味で、民間の機関であるが「better Europe practices(beep)」が電子政府の取り組みの評価を客観的かつ丁寧に行っている。政府発表の記事だけでない客観性が求められるのは世界共通であろう。なお、beepは電子政府について、4つの主要目的のもとにさらにキー・ファクターを整理したマップを作成している。機会を見てbeep独自の各国の電子政府の評価について 詳しく紹介するが、同マップにも極めて基本的かつ重要な視点が整理されて盛り込まれている。ぜひ読んでいただきたい。
Better eEurope Practices -- BEEP - Information Policy (i-policy.org)

〔参照URL〕
http://ec.europa.eu/idabc/jsps/documents/dsp_showPrinterDocument.jsp?docID=5965&lg=en
*****************************************************************************::
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欧州34カ国の閣僚が障害者に優しい公的ウェブサイト構築に向け再スタートに署名

2006-06-25 15:49:56 | 電子政府(eGovernment)

 

Last Updated: Febuary 21,2022

6月12日にラトビアにおいて、EU加盟国、EU加盟予定国、欧州自由貿易連合加盟国(EFTA)(筆者注1)およびその他の国々の計34カ国の閣僚が2002年6月13日に行った「eInclusion」(筆者注2)決議の要求(2006年半頃までに実行)期限を延期し、2010年までに実行する旨の「eInclusion」目標宣言書に署名した。

 当初の目標設定から約7年後となり、今回の決議を担保する新たな法律の制定も予定されていないため、関係者の中には法的な拘束力のない単に道義的規範ないし同盟国からの圧力による強制しかないという問題指摘もあり、責任者であるEUの「情報社会およびメデイア委員会」委員長のヴィヴィアーヌ・レデイング(Viviane Reding)
(筆者注3)に対する風当たりが強くなると見られている。

1.1999年12月の「eEurope」主導(initiative)の採択
 IT分野における欧州域内での格差および米国との格差を是正し、全ての欧州市民のための情報社会を構築することを目的として、採択された。このイニシアティブは、EUの重要課題である雇用、経済成長および社会の結束を固める上で、重要な政策であると位置付けられており、また、2000年3月にEU加盟国の情報化を阻むさまざまな障害を分析し、以下の10の行動計画が公表された。その7番目が障害者対策である。
(1)デジタル時代における欧州の青少年教育(European youth into digital age)
(2)より安価なインターネットへのアクセス(Cheaper Internet Access)
(3)電子商取引の促進(Acceleration E-Commerce)
(4)研究者及び学生の為の高速インターネット(Fast Internet for researchers  and students)
(5)スマートカード(Smart Cards for secure electronic access)
(6)ハイテク中小企業への支援(Risk capital for high-tech SMEs)
(7)障害者の電子的な参画(eParticipation for the disabled)
(8)オンライン健康管理(Healthcare online)
(9)高度運輸サービス(Intelligent Transport)
(10)オンライン政府(Government online)
 この中では、デジタル技術の発展は、障害者が直面する各種障害を乗り越えるのに大きく寄与するとし、「Design-for-All」というコンセプトを用いた製品の開発をEU加盟国において推進することが計画されていた。しかし、障害者の電子的な参画を可能にする法的枠組みの整備はEU加盟国の間で格差が大きく、またEU市場における製品基準の統一も遅れているなど、欧州委員会の取り組む課題は多いとされてきた。なお、2000年以降のeEuropeのフォローの内容は以下のURLに詳しい。
http://ec.europa.eu/information_society/eeurope/i2010/archive/eeurope/index_en.htm#eEurope_2003

2.「eEurope2002行動計画(アクションプラン)」の採択
 前記2000年3月に発表されたeEuropeに基づく行動計画は、同年6月の欧州理事会において「eEurope2002」として、さらに改訂、具体化され採択された。e-accessibilityでは、eEurope2002の目標である「全ての欧州市民のための情報社会」の実現には、障害を持つ人々が情報技術への(可能な限り)最善のアクセスをすることができるようにすることが不可欠であるとし、W3C (筆者注4)が勧告として公表しているWeb Accessibility Initiative(WAI)のガイドラインの採択するというものであった。

3.2002年決議におけるアクセシビィテイの要件と加盟国の受け止め方
 W3C/WAIガイドラインの「4.優先度2(アクセスできないユーザーが出ないようなチェックポイント)」および「5.適合性レベルのレベルAA(優先度の1および2を満たすもの)」の遵守を求めるものであった。しかし、その後の取組みの前進はほとんど見られず前欧州閣僚理事会の議長国であった英国は全域における436の公共部門サイトの調査を命じ、2005年11月に公表された報告ではレベルAがわずか3%で、AAやAAAを満たした国は皆無であった。今回の34カ国の署名は以上のことが背景にある。また、今回の署名において各大臣は2007年までに「アクセイビィティの標準化と共通的なアプローチに関する勧告」に同意している。
 加盟国の中には今回の決議の対象が「公的ウェブサイト」のみであることは、政府や欧州委員会の設定した目標であり、より広い取組みが必要であるといった意見や障害者のIT分野の格差是正は公的部門の課題より一層高いレベルに位置づけるべきであるとしている。

4.英国におけるe-Governmentと取組みの特徴
 英国の電子政府サイト(www.directgov.uk)をみてすぐに気がつくと思われるが、公的情報の流れのシームレス化を最優先にすべく、政府機関間、政府と民間ビジネス間、政府と市民間(IDeA)、政府と地方自治体間(Info4local)、英国政府と外国政府間の情報の相互運用性を担保すべくe-Government Interoperability Framework(e-GIF)の徹底化を進めている。その1例がe-GIF認可機関(e-GIF Accreditation Authority)である。次の2つのプログラムを運用してその効果向上を意図している。(1)関係機関(外部サービスプロバイダー、教育プロバイダー、製造プロバイダー、中央政府機関およびその代理機関、地方政府、NDPBs(中央省庁の管轄下にない公益法人)、国営医療機関(National Health Service等)に、毎年認可条件を遵守しているかどうかについて検査に入り、その包括的報告書をまとめ、主な概要はウェブサイト上で公開する。(2)技術面から見た認可条件のチェック(相互接続、データの統合、コンテンツ、e-Servicesの アクセス性、ICカード、特定のビジネス分野の6部門を能力調査)するとともに、デザイン、開発・テスト、展開・支援、調達、販売、教育の役割について評価を行っている。なお、これらの機関業務は専門家による有料登録制となっている。(筆者注5)(筆者注6)
*****************************************************************************************************
(筆者注1) EFTAは、現在ノルウェー、アイスランドの北欧2カ国と、スイス・リヒテンシュタインの計4カ国で構成されている。1960年に、イギリス、デンマーク、ポルトガル、ノルウェー、スウェーデン、スイス、オーストリアの7ヶ国で発足した。EUと同じく、EFTAは、加盟国間における貿易障壁 (関税や数量制限)を撤廃し、域内貿易の自由化を目標に掲げている。しかし、EUとは異なり、外部(第三国やその他の国際機関) との貿易については、関税や規則の統一を目指すものではない。つまり、EUが関税同盟に当たるのに対し、EFTAは自由貿易地域である。
EFTAの公式サイト:About EFTA | European Free Trade Association

(筆者注2) 2000年10月17日にEU閣僚理事会(European Council)は新たな情報と通信技術の出現はアクセスできる人間と出来ない人間との間に新たな差別を拡げるという観点から「貧困と障害者の社会からの除外に排除」を目指して『eInclusion @EUプロジェクト』を設置した。
eInclusion@EUのURL:eInclusion@EU - Wave III // ZSI - Centre for Social Innovation

以下、仮訳する。

eInclusion@EU - 第III波:eインクルージョンの監視とベンチマークに向けた選択された側面と活動

eInclusion@EUプロジェクトは、EUおよび加盟国レベルでの「エビデンスに基づく」eインクルージョンおよびeアクセシビリティ政策の発展に貢献することを目的とした調整行動であった。関連する主なアプローチ:*EU全体および国際的にからの政策関連情報およびデータの照合および分析*これらのトピックに関する最先端の合成のプロジェクト準備において詳細な注意を引くべき重要なトピックの特定、関連する利害関係者間の情報に基づいた対話を支援するためのワークショップの開催および促進、および*これらすべてに基づいて、 将来のEUおよび加盟国の政策に情報を提供するための重要なトピックに関する証拠に基づく政策ロードマップの準備である。

eInclusion@EUプロジェクトの枠組みの中でのデータ収集のウェーブIIIでは、3つの課題に関する情報収集に焦点が当てられた。これらは次の通りである。

  • eインクルージョンの分野における首尾一貫した欧州の研究と政策分野(いわゆるERPA)の確立につながる可能性のある国家研究と政策活動。
  • eインクルージョンのベンチマークと監視に向けた国家活動。
  • 最初のデータ収集ウェーブで既に特定されたいくつかのeアクセシビリティ関連のアクティビティの更新。

(筆者注3) http://ec.europa.eu/comm/commission_barroso/reding/index_en.htm
なお、6月11日の閣僚宣言ではICT(Information and Communication Technologies)に取り組む上で最優先課題は国家レベルでの中高年齢労働者に対する労働環境の改善が挙げられている。


(筆者注4) W3C/WAIのガイドライン「Web Content Accessibility Guidelines 1.0」は、障害のある人向けだけでなく、使用者の利用デバイスやツール(デスクトップ、ブラウザ、モバイル、車搭載PC等)を問わず、また利用環境(うるさい場所、暗い場所、手がふさがっている等)を問わず利用できるという目標を立てている。


(筆者注5)英国E-GIF Accreditation Authorityの参照URL:
Home Page - e-GIF Compliance Assessment Service (archive.org)


(筆者注6)e-GIFの管理者向けにその役割と優先課題について図解ガイドがある。
http://www.egifaccreditation.org/pdfs/Manager_Guidance.pdf

〔参照URL〕
http://europa.eu.int/information_society/events/ict_riga_2006/doc/declaration_riga
http://www.out-law.com/page-7005
**********************************************************************:

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EUの電子政府強化に向けた2010年までの行動計画(i2010)が採択・公表される

2006-05-22 16:39:37 | 電子政府(eGovernment)



 去る4月25日に欧州委員会が採択した「電子政府行動計画(EU i2010 eGovernment Action Plan)」の概要によると25カ国における行政の効率化(政府機能の近代化)により税収の削減効果は毎年数千億ユーロに達すると見込まれている。

 情報・通信機能の近代化・効率化がキーとなるのであるが、電子インボイス
(筆者注1)(筆者注2)(筆者注3)による公共調達の100%実現により、EU全体で毎年約3,000億ユーロ(約42兆3,000億円 )の経費が浮くと予想しており、すでに加盟国25カ国は2005年マンチェスターで署名を行っている。(筆者注4)

 この署名に基づき、このほど委員会が採択した行動計画は2010年までにすべてのヨーロッパ人が加盟国と提携して明確に利益を理解できるかたちで次の5分野において取り組み目標を達成するというものである


1.いかなる市民も後に残さない:2010年までに性、年齢、国籍、所得ならびに障害の有無に拘らずべての市民がデジタルテレビ、パソコン、携帯電話等広範囲の技術にアクセスできる環境を実現する。

2.効率性の向上:英国の年金プログラムの変革は、公務員の窓口での対面サービスのための時間を50%開放し、その他の業務のための時間的余裕を作り上げた。すべての加盟国は2010年までに「効率性向上における高いレベルの効果」および「行政面の負荷削減」について情報通信技術を使って成し遂げる。

3.電子公共調達(electronic public procurement)の適用:加盟国は2010年までに公的分野のオンライン調達について100%又は少なくとも50%までを実現し、年間400億ユーロの予算節減を可能にする。

4.EU全体にわたる公的サービスへのアクセス可能の実現:加盟国政府はウェブサイトの利用や公的サービスの相互利用における国家電子認証による安全なシステムを確立する点について同意した。この行動計画では2010年までにその実現を見通した。

5.市民の参加権および民主的な決定プロセスの強化:行動計画は、政策決定にあたり国民の効率的政治参加を実現するため、情報通信技術を用いた実験の支援を提案する。

************************************************************************
(筆者注1)「インボイス」は貿易取引において必須とされることから、わが国の専門家(英和辞典、翻訳ソフトも含め)も含め「送り状」と訳すことが一般的である。しかし、これは明らかに誤訳であり、正しくは「請求書」である。すなわち英国の起業者向け(株式会社や個人所業主)政府支援サイトでは顧客向けに「commercial invoice」を発行する場合の内訳項目に関する法的要件を解説しており、また付加価値税(VAT)の登録事業者の場合についても同様に説明している。ちなみにインボイスには次のような種類がある。①commercial invoice(商品の売買時に使用する。商品の明細、支払期日、船積予定、単価、合計等を明記する)、②customs invoice(税関用インボイスで輸出通関時に申告用に使用する)、③proforma invoice(見積書と同じ役目を持つもので、輸入相手国が事前の輸入許可や輸入認可などを義務付けている場合に、輸出車が買い手に同インボイスを事前に送り、輸入国政府の輸入許可を受けるのが目的)、④tax invoice(国内取引で消費税、物品税など中間間接税がかかる場合に使用する)、⑤shipping invoice(船便や航空便の出荷時に貨物代金以外にかかる費用の請求を買い手に行う際に使用する)。
 電子インボイスは、これらのインボイスを従来の紙ベースから電子署名に基づく電子書類をインターネット経由で税関、買い手など送付するとともにファィリングするもので電子商取引化において欠かせないものである。

(筆者注2)付加価値税 (VAT)は、品物やサービスの公的または私的な消費に課される税をいう。流通チェーンや生産のすべての段階で徴収され 、各段階で加えられる価値に基づいて国に支払われるため、「付加価値税」という名前がついている。付加価値税は一般的に、課税対象となる事業者によって支払われなければならないが、各事業者は、原則的に、販売する時に付加価値税を課し、原則的に、購買する時に支払う付加価値税額を差し引く権利がある。結局、この税金は、購入する時に付加価値税を差し引くことのできない「最終消費者」が負担する間接税である。

(筆者注3) EUにおいてVATの請求書に関する加盟国間の規則の統一化と電子化に対応するため、閣僚理事会指令(2001/115/EC)が2004年1月1日付けで発効している。そこでは請求書の発行者や内容が真正であることを保証するため「デジタル署名(電子署名ではない)」又は「EDI(電子データ交換)」の方法が定められている。
http://europa.eu.int/eur-lex/pri/en/oj/dat/2002/l_015/l_01520020117en00240028.pdf

(筆者注4)欧州委員会が公表したEU加盟国における電子政府の経済的効果の例を見ておく。イタリアでは、2003年中にパソコン購入にかかる費用が電子公共調達の導入により平均34%削減し、それまでの間に32億ユーロ(約4,512億円)の経費節減を実現した。またポルトガルでは、電子公共調達により30%の経費削減を実現した。

〔参照URL〕
1.ニュース・リリース:http://europa.eu.int/idabc/en/document/5542/194
2.行動計画の全文:http://ec.europa.eu/information_society/activities/egovernment_research/doc/highlights/egov_action_plan_en.pdf
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EUにおけるICTの取組みと国民が電子政府サービスに求めるものは何か!

2006-05-06 21:48:53 | 電子政府(eGovernment)

 

Last Updated: Febuery 21,2022

 わが国の電子政府の取組みが極めて一元的かつ体系的とは言いがたいが、着実に進んでいることは間違いない(筆者注1)。この分野での先進国が並ぶEUのIT社会への取組みを概観するとともに、その重要な目標の1つである「高品質の公共サービス」について加盟国の国民の本音はどこにあるのか、この問題につき中心となる「eUSER」プロジェクトの調査結果がこのほど公表された。


 EUのIT社会へ取り組み自体かなり複雑な経緯をたどるとともに経済・社会システムの変革問題等と複雑に絡む問題も多く、これらの問題を整理しながら、各種問題点についてのポイントを紹介する。このことは、わが国が今後取り組むべき「電子政府」や「電子自治体サービス」への課題をまとめる上でも参考となろう。

1.EUのICT(情報通信技術)政策の過去と今後
 EUは1999年12月の欧州委員会報告「eEurope-すべてのUE加盟国の国民のための情報社会」に基づくeEurope戦略(リスボン戦略)が欧州理事会で2000年3月に承認されたことに始まっている。これを受けて2000年5月に「eEurope 2002 Action Plan」が策定され、2001年3月に欧州委員会はその評価を含めた報告書「eEurope 2002-効果と優先課題」を発表している。さらに2002年5月には後継の3年計画である「eEurope 2005 Action Plan 」を策定し、同理事会の承認を受けている。 
 その後、2005年2月には経済成長の低迷、労働生産性の・失業率の改善等が見られないことから、eEurope戦略の原型となったリスボン戦略そのものの見直し、すなわち成長と雇用問題を重点分野とする戦略に見直し、2005年3月の理事会で「i2010(2010年に向けた欧州情報社会)(i2010 – A European Information Society for growth and employment)」を承認した。(注1-2)

 この見直しの過程で知識や技術革新の持続とともに①ブロードバンド最ビスの提供を中心とする単一欧州情報空間の創設、②EU以外の主たる競争国との格差の縮小のため、研究・開発の効率性向上、③国民すべてが共有でき、かつ高品質な公共サービスが提供されることによる生活の質の向上、の3本柱とするものである。
 
2.ICT政策実現のための重点的研究開発プロジェクト
 前記戦略に基づくEUの研究開発政策は、欧州委員会が補助金給付を行い、市場での活動の前段階で一期間毎に計画を見直しつつ各国機関や民間企業、大学等が共同研究開発を行うフレームワークプログラム(FP)が1984年以降行われている。現在は第6期(2002年~2006年:5年間の総予算のうちICT分野が3割強を占めている)の最終段階にあるが、第5期(1999年~2002年)の6テーマのうち4テーマを変更している。

 また、2007年から2013年の期間で取り組む第7期の内容は、基本的に第6期項目を承継しているが、具体的には、①健康管理、②食料・農業・バイテクノロジー、③情報通信技術、④ナノサイエンス・ナノテクノロジー・素材・新製造技術、⑤エネルギー、⑥環境と気候変化、⑦輸送・航空学、⑦社会経済と人文科学、⑧宇宙とセキュリティ研究の8分野である(その他、溶融エネルギー研究と核分裂・放射線防御はユーロアトムFPが取扱う)。また、より知識集約型のプロジェクトを目的とするもので、同委員会が2005年4月に提案した7年間の総予算規模は727億2,600万ユーロでFP6の総予算178億8,300万ユーロに比べ、単年度比較で約2.9倍となっている。(筆者注2)

3.IST(Information Society Technology)を中心とする情報通信技術分野の研究開発活動
 ISTの目的は、知識集約社会の中心となる技術分野においてEUのリーダーシップを確立させ、ビジネスや産業分野に改革と競争を導き、ひいてはEU全体の利益をもたらすことにある。Advisory Groupをかかえており、FP6では次のような優先テーマ・重点プロジェクトに取り組んでいる。(筆者注3)
 
(1)主要な社会・経済における新たな挑戦
①グローバルな信頼性とセキュリティの枠組み造り
②革新的な政府のためのICTの研究(電子政府関連)
③ネットワーク化されたビジネスのためのICTの研究
④運輸関係の共同化システム(ESafety)
⑤より健康な生活のための統合化された生物医学情報
⑥技術で補強された「eLearnig」
⑦先端的なグリッド技術(筆者注4)、システム、サービス
⑧環境リスク管理のためのICT
⑨eInclusion(生涯学習統合プログラム(Integrated Lifelong Learning Programme)のもと、デジタル識字率や他の情報通信能力向上のため、デジタル化による社会進出を促進するためのプログラム)
⑩拡大EUにおけるICT研究の統合
⑪高齢化社会における生活補助環境(Ambient Assisted Living)

(2)コミュニケーション、コンピューティングおよびソフトウエア
①万人のためのブロードバンド
②3Gを超えた携帯電話、無線システムおよびホーム・プラットフォーム
③ネットワーク化されたAVシステムとホーム・プラットフォーム
④組み込み型システム
(3)構成要素とミクロシステム
①徴微細エレクトロニックス(Nanoelectronics)
②ミクロ・ナノに基づくサブシステム
③ナノ・ミクロ統合のための技術と素子
④光通信の構成要素(photonic components)

(4)知識とインターフェイス技術
①Multi modal Interface(マン・マシン・インタフェースの形式を増やしたユーザー・インタフェースで、ペン入力や音声入力などあらゆる入力手段があり、出力も画像や音声などを利用したマルチメディアに対応し、3次元表示もできる)
②意味論(Semantic)ベースの知識と内容に関するシステム
③認知システム(Cognitive System)
④先端のロボット工学
⑤オーディオ・ビジュアルの内容に関する検索エンジン

(5)将来および想定される新技術

(6)国際協力(International Co-operation)

***********************************************************************************
(筆者注1)2002年OECDの「Information Technology Outlook」においてICT分野における国民1人当たり研究費の投資額の平均比較が行われているが、EUが80ユーロ(約11,360円)に対し、わが国が400ユーロ(約56,800円)、米国が350ユーロ(約49,700円)となっている。このICT分野の予算問題は、2006年3月に欧州議会・EU理事会において「情報社会・メデイア委員会」委員長のヴィヴィアン・レデイングがEUにおける予算額の減少によるEU全体の競争力低下問題としての警告をわが国や米国と比較のもとに行っている。
http://cordis.europa.eu/fetch?CALLER=FP7_NEWS&ACTION=D&RCN=25397&DOC=5&CAT=NEWS&QUERY=

(筆者注1-2) 欧州委員会は2006年4月25日、”COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE COUNCIL, THE
EUROPEAN PARLIAMENT, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL
COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS:
i2010 eGovernment Action Plan: Accelerating eGovernment in Europe
for the Benefit of All ”を公表している。

(筆者注2)FP6の予算
https://op.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/a3811644-2445-11e9-8d04-01aa75ed71a1
FP7の予算
https://ec.europa.eu/defence-industry-space/eu-space-policy/space-research-and-innovation/seventh-framework-programme-fp7_de
EUにおける2005年行動計画(eEurope Action Plan 2005)の目玉としてeサービスの具体的プロジェクトのために資金援助策として、コスト支援を行う「eTEN」が取り上げられている。先行するプロジェクトへの資金支援を行い、平等な汎EU化を目指すもので、対象となるプロジェクトの範囲は、①eGovernment 、②eHealth、③eLearning、④eInclusion、⑤信用とセキュリティ(EU域内の電子署名、暗号化の普及)等である。
https://ec.europa.eu/information_society/activities/ict_psp/documents/pollink_brochure_einclusion.pdf

(筆者注3) ISTの研究成果は、「IST Results」のサイトで確認できるし、ニュースの受信を登録することも出来る。また、EU全体のR&Dの研究成果の総合窓口ポータルである「CORDIS」でもIST関連の情報の入手が可能であるし、一定の手続きを踏んでパスワード等を登録すれば、「Professional Search」が出来る。

(筆者注4) 「Grid」とは情報コンセントに接続するだけでネットワークを通じて安全、安定、容易に情報サービスが享受できる次世代インフラである。また、「Grid computing」とは、コンピュータ資源を有効に利用し、高速ネットワークによる無限大のスケーラビリティを実現する広域ネットワークを用いた分散並列計算環境のこと。

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英国における電子政府政策は非民主的であるとの批判と通信事業者からの反論

2006-04-16 07:55:47 | 電子政府(eGovernment)

 Last Updated:March 12, 2021

 英国のロンドン大学の情報システム学部教授のイアン・エンジェル教授(Professor Ian Engell)(筆者注1)は、英国が現在取り組んでいる電子政府のあり方について次のような批判を行っている。なお、同教授の専門分野は、組織化された国家によるIT政策、すなわち①戦略的情報システム、②コンピュータとリスク(発生の機会と危険度の両面から見た)問題、とりわけすべての「社会技術システム(socio-technical systems:STS)(筆者注2)および急激な国際的なインフラの拡散に伴う組織のセキュリティへの脅威等である。

Professor Ian Engell


 一方、大手通信事業者であるNortelヨーロッパは政府システムと民間システム互換性(アクセスの効率性が優先する)を重視すべき点を強調している。ここで議論されているのは、本年3月30日に成立した「国民IDカード法案」の問題(筆者注3)と共通性があることである。協調されている点は、技術万能でないIT社会のあり方であり、またIT社会における民と官のシステムの相互運用性の是非の問題であり、自ずからわが国の電子政府について取り組む上で配慮すべき意見として紹介する。

1.同教授の意見
 英国の電子政府は機能面で見れば5つ星であるかもしれないが、わが国の国民の20%にとっては機能面では盲人と同じである。公務員の教育によってコンピュータ処理のレベルが自動的に向上し、特に公的サービスをオンライン化することで対面サービス職員を削減できるとする考えは、明らかにおろかな考えである。
 経済性を重視したこの舵取りは、行政窓口で国民と接する立場にある公務員の労働権を奪うことになる。今、政府が押し進めているのは技術的に窓口事務が円滑に行えない担当職員を解雇して人件費削減を行おうとしているが、それは民主的ではなく、まったく反対の政策である。

2.英国の電気通信事業者であるNortelヨーロッパ(Nortel European)の代表者であるピーター・ケリー(Peter Kelly)の反論
 政府のe-Governmentを通じ、新パスポート(Epassport)やNHS Direct online(24時間年中無休で医療に関する質問、医療百科事典、近くの病院・公共医療機関・歯医者・メガネ屋・薬局等の検索等)(筆者注4)等のサービスが受けられるといった5つ星の市民サービスが可能となった。民間企業は電子政府との共同化推進のため政府と同一の概念をもって取り組んでいる。
 中央データベース化され、サイロのように安全対策が取られた政府の各部門間でのアプローチを可能とすることで、より情報の流れやアクセスの容易性が確保されるといえる。その意味で、セキュリティが最大の課題であり、電子政府に当初から組み込まれたことに意義がある。情報は正しい場所にいる正しい人にとってアクセスしやすくなければならない。
 また、民間部門のシステムは政府のシステムと手順において適切に機能するものでなければならず、民間部門が政府に提供する技術的能力を担保するためにも政府の機能面の同意が必要である。

3.同教授の再反論
 重要なことは、営利の追求を主たる目的とする民間企業と政府は基本的な目的を異にするものであり、同一のビジネスモデルを利用できるのかという点である。市民は民間企業における顧客ではない。市民と国の関係はそれとは異なるものであり、両者を同一的に考えること自体が問題である。すなわち、国や政府という保護者(Guardians)と民間企業の間には、「倫理」という相互に互換性を必要としない相違点がある。最も懸念する点は、政府機能の商業化が組織的な 汚職・腐敗(corruption)につながる点である。
 また、さらに懸念されることは監視社会化である。警察は我々が逮捕者数の目標を紹介すると、より多くの人々を逮捕する。これは、交通監視員(traffic wardens)やスピードカメラにおいても同じ状況にある。今、政府が提供しているものは、監視(surveillance) と市民への干渉(interference)である。

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(筆者注1) 同教授のサイトのURLを記しておく。著書の要旨やテレビでのインタビュー・ビデオなども見られる。本blogで紹介した内容についても幅広い関心の背景に触れることができよう。

(筆者注2) STSの考え方は元々は英国で出来たとされるが、その後、北米で開花したと言われている。コンピュータと社会・倫理の問題は重要領域と位置づけられており、1991年にAssociation for Computing Machinery(ACM):アメリカ合衆国の情報工学分野の学会。1947年設立)およびIEEE(Institute and Electronic and Engineers)からなる専門委員会は新たなコンピュータ科学のためのカリキュラムの枠組みを作成している(1994年には全米科学財団が資金援助を始めている)。コンピュータ教育指導者のためのケースによるカリキュラム・ツールのサイト(ComputingCases.org)があり、そこでSTSについて具体的に説明されている。http://computingcases.org/general_tools/sia/socio_tech_system.html


(筆者注3)「国民IDカード法案(Identity Cards Bill)2006 c. 15」の詳細については、4月1日付本blogを参照されたい。3月30日付のチャールズ・クラーク内相の声明内容等は法案経緯(Wikipedia )の通り。
 

(筆者注4)英国電子政府のポータル(Directgov)からアクセスできる「NHS Direct」(https://en.wikipedia.org/wiki/NHS_Direct9)参照。わが国の解説参照。

〔参考URL〕
https://www.zdnet.com/article/rushed-access-card-bill-raises-suspicions/
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Copyright @ 2006 芦田勝(Masaru Ashida ). All rights reserved.No reduction or republication without permission.

 





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