Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

ドイツ・バイエルン州の民間部門のデータ保護委員長による州内のウェブサイトの検証結果

2019-03-25 12:44:55 | 消費者リテラシィ

 2019年3月5日にインターネットの安全の日のシンポジュームでバイエルン州の民間部門のデータ保護委員(BayLDA:Bayerisches Landesamt für Datenschutzaufsicht)の委員長(Präsident)トーマス・クラーニック(Thomas Kranig)氏の講演が行われた。

Thomas Kranig:バイエルン州民間部門のデータ保護委員会サイトから引用写真

 講演の柱は、(1)サイバーセキュリティ(Cybersicherheit)、(2)トラッキング問題(Tracking)である。

 ところで、この講演内容をスライドで傍聴したように体験できるとしたらどうであろうか。

 筆者はこれに挑戦してみた。ただし、執筆時間の関係で(2)の部分のみ取り上げることとした。

 なお、この講演は法解釈論のみのためではない。ウェブサイトを具体的に検証した結果を踏まえ、EUのGDPR遵守の観点からチェックした結果である。しかし、その内容はわが国の関係者が見据えるべき重要な指摘が含まれている。

1.インターネットの情報保護面から見た安全性監査(Sicher im Internet-Datenschutzcheck „Tracking“)(スライド No.20)

 情報保護面からのチェック:「トラッキング」のプライバシー侵害にかかる苦情が統合されたバイエルン州内の選ばれた40のウェブサイトのトラッキングの実態に関するデータ保護調査(トラッキングの情報内容およびユーザーの同意を含む)結果

 

 2.調査した内訳としてどのウェブサイトのカテゴリーの割合は?(スライドNo.21)

①ハウス&リビング・・・7.5%

②自動車&電気製品・・・10%

③メディア・・・・・・・17.5%

④保険&銀行・・ ・・・12.5%

⑤スポーツ・・・ ・・・12.5%

⑥オンラインショップ ・27.5%

⑦その他・・・・・・・・12.5%

 

3.Webサイトのトラッキング・ツール:Webサイトには、広範なユーザー・プロファイルを作成するトラッキング・ツールが組み込まれているか?(スライドNo.22)

 今回レビューした40のWebサイトのうち全部にあたる40すべてのWebサイトにトラッキング・ツールが含まれていた。

 

《結果の評価(Bewertung des Ergebnisses)

 スコア・レビュー(筆者注1)のバックグラウンド・レビューされたサイトにはすべて、第三者のトラッキング・ツールが含まれており、第三者のサービスによるデータ処理を引き起こした。ユーザーがWebサイトにアクセスすると、ユーザーに知らされることなく、ユーザーのデータが自動的に表面に出ない形でバックグラウンドで第三者に送信されるのである。

 《背景(Hintergrund)》

 トラッキング・ツールは、次のようなさまざまな目的でWebサイトで使用されていた。たとえば、①広告の資金調達、②コンテンツの最適化、③セキュリティ上の理由などである。多くの場合、ユーザーの広範なプロファイルが作成される。さらに、使用状況プロファイルには、ユーザーの例えば、①政治的態度、②健康、③性的嗜好に関する結論などにつき、ユーザーのネット・サーフィン行動に基づいた特性と関心が割り当てられることもよくある。

4.透明性(スライドNo.23)

 ユーザーはトラッキング・ツールの使用について透明性をもってあらかじめ周知されているか?

①トラッキング・ツールの使用に関する情報はプライバシーポリシーに含まれている・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25%

②プライバシーポリシーにトラッキング・ツールの使用に関する情報は含まれていない、または不十分な情報のみ記載されている・・・・・・・・・75%

《結果の評価》

 保護法にいう「透明性」の要件を満たすデータ保護の規制を行っているウェブサイトはほとんどない。多くのウェブサイト運営者は、トラッキング・ツールの使用について黙秘している。その一方で、その他のものは、ウェブサイトに含まれていない様々なトラッキング・ツールを提供する。その結果、ユーザーは、どの目的のために処理されるかにかかわらず、透明性をもってあらかじめ通知されることはほとんどない。

 《背景》

 EU「一般データ保護規則(GDPR)(DS-GVO)」(筆者注2)の遵守が義務づけられるウェブサイトの運営者は、シンプルで理解しやすい言語でデータ処理についてユーザーに通知することが義務づけられる。その通知には、すべての第三者コンテンツと組み込んだトラッキング・ツールのネーミングが含まれる。さらに、ユーザーは、第三者によるトラッキングが、1)どのような目的で行われ、2)どのくらいの期間このデータが保存されるか、3 )どのようなデータが収集されるかについて通知する必要がある。

5.同意 (1)(スライドNo.24)

 クッキー・バナー(筆者注3)関してユーザーの「同意」を求めるWebサイトの割合はどうか?

①ユーザーの「同意」を求めない・・   ・・・・20%

②データ保護法に準拠していない「同意」を得る・・80%

《結果の評価》

 レビューされた40のウェブサイトのうち、30社はいわゆる「クッキー・バナー」を使用している。 クッキー・バナーは、ユーザーが自分のデータの処理に「同意」を得ることを目的としている。 我々の監査結果は、クッキー・バナーに関し得られたすべての同意が無効であることを明らかにした。

《背景》

 クッキー・バナーを使用するWebサイトの所有者は、合法的なデータ処理のためにユーザーの同意が必要であると見なされる。またウェブサイト運営者は、データ保護規定においてこれを明確にしている。同意が無効な場合、トラッキング・ツールの使用は保護法違反となる可能性がある。

6.同意(Einwilligung)を得るための要件(2) (スライドNo.25)

 Webサイトからの法的に有効な「同意」の要件は満たされているか?

 ①あらかじめ同意を得る:8/40ウェブサイト

 ②同意につき通知する:4/40ウェブサイト

 ③自発的に同意する:8/40 ウェブサイト     

ただし、①~③のすべての同意要件を満たしたのは0/40であった。

結局、全ウェブサイトの「同意」はすべて無効であった。

《結果の評価》

 得られた同意のどれも有効ではなかった。その結果、「同意」を要するトラッキング・ツールによるデータ処理は保護法違反となる。

《背景》

 その同意は、事前に付与されている場合にのみ有効である。すなわち、すべてのトラッキングの定型書式は、ユーザーが積極的に自由意思で「同意」するまではブロックされており、かつその同意は自発的である必要があり、ユーザーはデータの処理について事前に通知される必要がある。これらの条件の1つでも満たさない場合は、当該同意は保護法違反となる。

7.ユーザーのトラッキング・ツールによるデータ処理の阻止は可能か?(スライドNo.26)

 ユーザーは、ブラウザの独自の設定によっても、Webサイト上のツールを追跡することでプロファイリングを防ぐことができるか?

 

 1ウェブサイトのみでユーザーは自分自身をプロファイリングするのを防ぐことができた。

 1つのWebサイト上でのみ、ユーザーはWebサイトにアクセスしたときに本物の選択をすることができた。また、データをトラッキング・ツールで処理するかどうかを決定できた。レビューした他のすべてのWebサイトでは、ユーザーがこのデータ処理を許可するかどうかを決定する前に追跡が行われていた。「トラッキングしない」というブラウザを設定(筆者注4)できたとしても、Webサイト運営者しか確認はできなかった。

 「同意」が得られたかどうかにかかわらず、Webサイトへのアクセス時にユーザーは追跡される。また「トラッキングしない」設定を受け入れて追跡定型書式の実行を阻止したWebサイトは1つだけであった。他のすべてのWebサイトでは、ユーザーはWebサイトをはじめに呼び出すときにすでにトラッキングを防ぐことができなかった。

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(筆者注1)マーケティングオートメーションは、訪問者のWEBアクセスやメールの反応、セミナーなどイベントの出席、テレアポ電話の反応などのお客さまの行動を記録します。マーケティングオートメーションが記録した行動を、スコアリングの設定に基づいて数値(スコア)に変換します。これが、マーケティングオートメーションのスコアリング機能です。(KAIROS MARTKETING: スコアリングとは?MAツールのスコアリングの基本を学ぶから一部抜粋)

(筆者注2)EUの「一般データ保護規則」のドイツ語版は”Datenschutz-Grundverordnung DSGVO”である。

(筆者注3)「トラッキングCookie」と呼ばれるCookieがあります。これは、見ているWebサイトのCookieではなく、主にサイト内に埋め込まれたバナー広告を配信しているサーバーのCookieです。閲覧中のサイトの運営者とは別にバナー広告を配信している業者のサーバーからも、訪問者の端末にCookieが送り込まれるのです。(ウイルスバスターチャンネル「閲覧履歴を追跡されている?行動ターゲティング広告の仕組みを知る」から一部抜粋)

(筆者注4)多くのWebブラウザには、Cookieの扱いや追跡に関する設定項目が設けられています。iPhoneの標準ブラウザ「Safari(サファリ)」も例外ではありません。Safariの「プライバシーとセキュリティ」設定をチェックしてみましょう。「追跡しない」や「Cookieをブロック」といった項目が用意されています。

なお、「追跡しない」を有効にした場合、Webサイトに対してトラッキングの停止を求める宣言をしますが、実際にトラッキングするかしないかを決めるのはWebサイト側に委ねられます。(ウイルスバスターチャンネル「閲覧履歴を追跡されている?行動ターゲティング広告の仕組みを知る」から一部抜粋)

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日本の農林水産省は米国の食肉牛肉の安全・検査体制の問題点を本当に理解しているのか(その1)

2010-04-15 16:07:31 | 消費者リテラシィ


Last Updated:January 27,2021

 わが国の農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries :MAFF)が、さる4月8日に米国農務省(USDA)との間で2007年以降中断していた米国産牛肉の輸入制限問題について政府間協議を再開することにつき合意したことが報じられた。

 農林水産省は、カナダでは2003年5月、米国では同年12月に初の牛海綿状脳症(BSE)の発生の疑いに基づき緊急に輸入停止措置を講じたのち、米国やカナダと安全性協議のうえ2005年12月12日に米国およびカナダから日本向けに輸出される牛肉等の輸入停止措置の解除について決定を行った。(筆者注1)

 その後、「2005年12月12日、米国・カナダ産の牛肉等の輸入条件について合意した。現在、米国・カナダから輸入される牛肉等には、各政府が発行する衛生証明書が添付され、その証明書において、輸出プログラムに規定された条件を満たした旨の内容等が記載されていることが必要であり、輸出プログラムの主な条件は次のとおりとする。
(1) 全頭から特定危険部位(SRM)が除去されていること。
(2) 20か月齢以下の牛由来であること。
 なお、輸出プログラムにおいて、ビーフジャーキー、ハム、ソーセージ等の牛肉加工品やひき肉は輸入可能としない。」

 筆者も、これらの点は従来から理解していたし、今回の交渉再開についてもこれらの問題につき米国の食肉の安全管理体制が米国政府として保証できることが前提であると信じていた。(筆者注2)

 しかし、4月12日付けの“USA TODAY”の記事「市場に出回る汚染牛肉(tainted beef)に関する不安増加」を読んで大きな勘違いをしていることに気がついた。

 直接的な情報源は、連邦農務省の監察総監室(OGI)が3月25日付で公表した報告書「2010年畜牛に関する全米残留物検査プログラム結果報告(FSIS National Residue Program for Cattle)」である。

 今回のブログは、米国の牛肉内の化学物質残留物を含む食品の安全検査体制(NATIONAL RESIDUE PROGRAM:NRP)の概要を紹介するとともに、OGIが指摘した食肉の安全性管理システムの具体的問題点、規制法案の動向をまとめる。
 なお、“USA TODAY”記事の反響は大きい。登載10時間後時点でのコメント数は231件である。

 今回は、2回に分けて掲載する。

1.米国における食肉の安全性管理システムとその運用面の問題点
 基本的な理解のためにわが国の「米国食肉輸出連合会サイト」の解説を見ておく。
「米国では、食肉の衛生と安全性を確保するために、
1.連邦保健福祉省食品医薬品局(The Food and Drug Administration : FDA)
2.連邦環境保護庁(United States Environmental Protection Agency:EPA)
3.連邦農務省食品安全検査局(The Food Safety and Inspection Service : FSIS)
の3つの政府機関が主要な役割をはたしている。 この3つの政府機関は、それぞれが所管している法律に基づいて様々なプログラムを実施するとともに、合同の委員会を設けて協議し、緊密な連携プレーにより、食肉の安全性を厳しく規制している。」

2.食肉中の残留化学物質に関する安全性検査体制
 前記米国食肉輸出連合会サイトの説明では、「NRPには、大きく分けて2つの目的がある。ひとつは、化学物質が違法に残留した食肉が市場に出されることがないよう、製品をチェックすること、もうひとつは、今後の検査・監視体制をより高度で効率的なものにするために、残留実態を調査することである。NRPの検査方法も、大きく2つにわけることができ、ひとつは「モニタリング」、もうひとつは「強制検査(Enforcement Testing)」と呼ばれている。」
 制度全体については「 アメリカン・ミート・セーフティガイドブック(飼育・加工工場に関する食肉の安全性情報)(第二版)」がわが国でも翻訳・公表されており、これだけ読むとなんとなく信頼性が高い気がする。

 筆者なりに同ガイドブックから関係機関の役割分担を中心に関係個所を抜粋してみた。
(1)飼料等から移行する農薬への対策
農薬の残留基準は、飼料作物はもちろん、飼料を通じて汚染される可能性のある食肉に対しても設定されています。食肉への残留農薬の検査は、FSISが実行しています。FSISの残留農薬検査は、NRP(National Residue Program)にのっとって行われます。なお、FDAも毎年、食品中の残留農薬のモニタリング検査を行っています。併せて州レベルでも独自にモニタリング検査を行っています。

(1)-3.食肉への農薬残留基準
米国では、家畜が飼料作物に残留した農薬による汚染を受けないように、飼料作物に残留農薬基準を設けるとともに、食肉に対しても残留農薬基準を定め、監視を行っています。食肉に対する残留農薬基準の設定は、「連邦食品・医薬品・化粧品法(FFDCA)」に基づいてEPAが行います。実際の残留検査は、主にFSISが「連邦食肉検査法(FMIA:Federal Meat Inspection Act)」によるNRP(NationalResidue Program)にのっとって行いますが、FDAも、FFDCAに基づき独自にモニタリング検査を行っています。

(2)疾病予防と動物用医薬品
動物用医薬品は、主にFDAによって規制されています(ワクチンなどの生物製剤の製造・販売承認の権限は、USDAにあります)
動物用医薬品は、「連邦食品・医薬品・化粧品法(FFDCA)」と「連邦動物厚生法(AWA:Animal Welfare Act)」という法律により、規制されています。動物用医薬品のうち、ワクチン等生物製剤だけが、USDAの所管となり、AWAにより製造・販売および使用が承認されます。
 米国では、FDAが実施するトータル・ダイエット・スタディーに基づき、動物用医薬品の総摂取量が、ADIと比較して有意に低いレベルに抑えられるよう、各食品(食肉を含む)に対して残留基準を設定しています。そして、残留基準が遵守されているかどうか、動物用医薬品の残留実態を把握するために、FSISが、NRPによるモニタリング調査や工場内での迅速テストを行うことで、厳しく監視しています。

3.OGI報告が指摘するFDA、 EPAおよびFSISの連携システムの不完全性に関するUSA TODAYの指摘
 しかし、USA TODAYの記事は次のようなOGI報告の指摘内容と安全性神話に関する落とし穴を指摘する。

(1) 米国連邦農務省監察総監室(OGI)の監査報告(2010年3月25日付)のFSISへの指摘改善事項とFSISの回答

 全文で50頁の監査報告兼改善勧告書である。その要旨にあたる“executive summary”と14項目の勧告項目に対するFSISの同意内容が7頁にわたり明記されている。今回のUSA TODAYの記事はこの報告書にもとづくものである。

 なお、今回の監査はOGIの「2009財政年度総監計画(Annual Plan Fiscal Year 2009 October 1, 2008 – September 30, 2009)」に基づき行われた。参考までに総監計画のハイライトの重要部を抜粋すると次のとおりであるが、特にBSEを重要視している点などが顕著である。

(目標1)安全とセキュリティが農業や農務省資源とともに公衆衛生を保護すべき安全・安心な手段実現にかかる農務省の能力強化
①農務省の食物の安全と検査が有効にプログラム目的に即したことを保証すべく監査を行う。
②牛海綿状脳症(BSE)標本抽出計画の実施状況の監査を行う。
③「2008年農業法」の規定に基づき、食品安全検査局が州の検査計画に関連する条項を実施したかどうか決定する監査を行う。
④境界における農業利益の保護を継続すべく農務省のプログラムを確実に実施すべく監査する。
⑤動物、動物性食品、植物、および植物生成の密輸入調査。
(以下略す)

(2) OGIの主な指摘事項(USA TODAY記事から抜粋)
 連邦規制・監督機関であるFSISは、残留化学物質の規制や適正な試験を実施しておらず、結果意的に有害な殺虫剤、動物用抗生物質および重金属を含有する牛肉を市場での販売を許容している。すなわち、残留化学物質の試験プログラムである“NRP”は商業ベースで流通する食品に含有する危険物質をモニタリングするという任務を達成しておらず、結果としてそのような食肉を食べる一般大衆の健康への懸念が増加している。

 米国の牛肉の安全性検査プログラムは農務省食品検査局が運営しており、その検査はサルモネラ菌や大腸菌(E.coil)といった菌などの危険なものがないかといった検査に適合した形で行われている。

 しかし、その他の検査プログラムは環境保護庁(EPA)や食品安全検査局(FDA)からの支援で行われているが、EPAは殺虫剤や他の汚染物質の人体への許容レベルを設定し、またFDAは抗生物質や他の薬剤に係る許容レベルを設定する。

 すなわち、OGIはFSISにとってEPAやFDAの規制設定基準は十分に補完していないと結論付け、OGIはFSISに対し報告書第1節においてこれらの現行のNRPの再構築にかかる7項目の改善勧告を行った(FSIS, FDA, and EPA Need to Reestablish the National Residue Program)(報告書11~27頁参照)

 これに対し、FSISは3月2日付けで各改善勧告に対し回答(FOOD SAFETY AND INSPECTION SERVICE RESPONSE TO AUDIT REPORT)を提出した(報告書44頁以下)。
 その内容は、FSISは連邦保健福祉省食品安全検査局(HHS/FDA)とEPAの執行幹部や上級職員との会合において、3つの政府機関の間の了解覚書(MOU)の内容に即した内容のガイドラインの確立を計画的に試みるというものである。すなわち、 FSISはNational Residue ProgramにおけるFDA、およびEPAに対するFSISの取組みに関する1984MOUを見直して、改訂・更新を行う。 FSIS内部の決裁の後に、FSISは彼らのコメントとともにFDAとEPAとこれらの改正内容を共有する。 見直しされたガイドライン文書は協力的な定期的検査に関する文言を含むものとなる。

 すなわち、取扱量が大量である牛肉の検査において、危険度が高い殺虫剤や抗生物質と同一視することは結果において危険を封じ込める点で無力化してしまう。
 例えば、2008年メキシコの牛肉検査当局は銅の含有量が基準以上のため米国産の牛肉の出荷を拒否した。しかし、米国では安全基準となるものがなく、FSISは牛肉の製造業者が拒否された牛肉を他へ転売するのを阻止するうえで根拠がなかった。

 また農作物から流れ出た殺虫剤が牛の飲み水となるなど封じ込めは不十分である抗生物質や他の汚染物質が、しばしは農耕における化学物質の使用とリンクする。OGIは、例えば牧場主は薬を投与した牛のミルクを子牛にあてるため子牛はより高濃度の残留抗生物質がある。抗生物質の濫用は病気に対する耐性菌を作り出す原因となる。

 これらにつき、全米肉牛生産者・牛肉協会(the National Cattlemen's Beef Association:NCBA)のスポークスマンは牛肉生産者は残留殺虫剤や抗生物質の安全性については産業界や政府機関と協力して厳格な安全対策をうっていると述べている。

 しかし、連邦議会下院ルイス・スローター議員(Louise Slaughter)(ニューヨーク選出:民主党)は、今回のOGI報告は家畜に対する抗生物質の使用に関しいくつかの明確な制限を設けるよう議会による迅速な行動が必要であることを指し示しており、同議員が提案する7つのタイプの抗生物質を牧場で無差別に飼料に使用することの規制法案につき100人以上の議会の共同上程者(co-sponsors)がいると述べている。

(3)食肉の化学的残留物・薬品により潜在的に発症するであろう人体への副作用
OGI報告は、次のようなリストを紹介している。
①フルニキシン(flunixin)(筆者注3):便潜血(fecal blood)、胃潰瘍(gastrointestinal ulcers)および腎臓壊死(renal necrosis)

②ペニシリン(penicillin):生命に危害を及ぼすであろうアレルギー反応、神経障害(nerve damage)、結腸の重度炎症(severe inflammation of the colon)、唇、舌または顔の腫れ、出血、下痢(diarrhea)

③砒素(arsenic):非悪性の皮膚病、皮膚病、内臓悪性腫瘍(internal malignancy)、血管系疾患(vascular diseases)、高血圧(hypertension)

④銅(copper):溶血(血球破壊)(hemolysis)、黄疸(jaundice)、脂質プロファイル(lipid profile)の変化、酸化的ストレス(oxidative stress)、腎機能障害や死(renal dysfunction and death)

⑤イベルメクチン:寄生虫用剤(ivermectin):神経または神経細胞の中毒

 

***********************************************************************************************************:::
(筆者注1) 米国・カナダ産牛肉等への対応(輸入停止から輸入再開までの経緯)については農林水産省のサイトで詳しく説明されている。

(筆者注2) 当然のことながら、筆者は米国食肉輸出連合会の「NRPによる化学物質残留対策」解説等も読んでいた。

(筆者注3) 「フルニキシン」は牛、豚の細菌性肺炎における解熱および消炎、馬における運動器疾患に伴う炎症および痺痛の緩和、症痛時の鎮痛剤(は非ステロイド性抗炎症薬)
平成21年3月23日付けで、衛生審議会食品衛生分科会 農薬・動物用医薬品部会報告は「平成21年2月2日付け厚生労働省発食安第0202009号をもって諮問された食品衛生法(昭和22年法律第233号)第11条第1項の規定に基づくフルニキシンに係る食品規格(食品中の動物用医薬品の残留基準)の設定について、当部会で審議を行った結果をとおり取りまとめ報告している。

 

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[参照URL]
http://www.usatoday.com/news/washington/2010-04-12-tainted-meat_N.htm?csp=DailyBriefing(USA TDAYの記事)
http://www.asahi.com/politics/update/0408/TKY201004080334.html(日米BSEの協議再開の記事)

https://www.usda.gov/sites/default/files/24601-08-KC.pdf (連邦農務省の監察総監室(OGI)報告書)

https://www.americanmeat.jp/trd/safety/index.html#beef
(米国食肉輸出連合会の「米国における食肉の安全性管理システム」の解説)

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 





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オーストラリアFIDOサイトの消費者金融教育の取組み(その4-大学生向け金融クイズ)の正解と解説

2007-02-18 12:52:56 | 消費者リテラシィ

 Last Updated:March 7,2021

 今回は学生向けの金融クイズの問題にチャレンジした。実際チャレンジされた向きがどの位おられたか不明であるが、正解と解説を紹介する。
 なお、FIDOサイトだけでなく、オーストラリアの金融関係サイトの消費者金融教育の目標とするところは、①計画的な金融資産管理と貯蓄の重要性の理解(エクセルを使った具体的な収支シュミレーションを提供)、②退職年金基金制度の重要性と労働者としての認識・理解向上に注力している点である(そのための税金の軽減措置や長期的投資についての選択肢情報・シュミレーションを提供している)。

【質問1】正解は④である。FIDOサイト「FIDO Budget Planner」では1週間の収支予算管理のシュミレーションができる。

【質問2】正解は③である。大学は学生課等が学生向けの低利や無利息の融資制度を設けており、その利用を勧める。

【質問3】正解は②である。トリタは6カ月以内に返済できなかった場合、1週間あたりに対し65豪ドル(約6,000円)以上という極めて高い金利負担を負うことになる。債務額元本1,700豪ドルに対し、仮に3カ月元利金の返済が遅延したとすると彼女の金利負担は約780豪ドル(約72,000円)と言う、まるでわが国の「裏金融」みたいなことになる。補足すると、いくつかの大学ではPCのリサイクル利用システムを用意し、ソフトウェアについても割引購入が可能である。

【質問4】正解は①である。オーストラリアの大学では、一般的に学生向けに1,500
豪ドル(約14万円)を上限とする無利息の緊急融資制度を有している。また、大学ではカウンセリング・サービスや職業指導課等のスタッフが新しいアルバイト先や職能技術向上のための支援を行っている。

【質問5】正解は②である。オーストリアでは暦月で税引き前で450豪ドル稼ぐ場合、アルバイトやパートタイマーの場合でも雇い主は本人に代って年金基金の一部(時間給の9%)を負担する義務が生じる。さらに補足すると、18歳以下では1週あたり30時間働く場合やそれ以下でも雇い主から老齢年金の掛け金補助を受けられる場合がある。

【質問6】正解は③である。①の携帯電話を投げ捨てるの良いアイデアであるが現実的でない。アリナはプリペイド式や利用限度つきの携帯電話に切り替えるべきである。なお、電話会社によりピーク時を外した利用の場合、無料や安価な料金の扱いがあり、これらを自分で調べてみることがお勧めである。

【質問7】正解は②である。大学の実験室といえども安全でない。インターネットバンキング等は 安全なソフトウェアをインストールしたPCを使用することが必須であり、また肩越しに暗証番号等を盗まれないよう十二分に注意すべきである。

【質問8】正解は②である。ブレントは現金を見ることはない。したがって、オンライン・ギャンブルは自分がどの程度資金を使ったかの履歴をチェックすることができない。補足すると、このようなクレジット・カード債務額は将来の本人の信用評価にマイナス影響を与える点に要注意である。

【質問9】正解は①である。年齢に拘らず民間の健康保険に加入することは良い考えである。少なくとも事故時の緊急用に必要な保障を得るための選択肢を調査しておくべきである。

【質問10】正解は③である。同金額以上の収入が得られるようになると大学の手数料負担で政府へ返済する義務が生じる。補足すると、もしあなたに余裕があれば、繰り上げ返済のための貯蓄を行うべきである。

〔参照URL〕
次のURLが質問サイトのURLである。自ら答えを入力し、「submitキー」きーをクリックするとFIDOサイトから直ちに正否のコメントが戻ってくる。
http://www.fido.asic.gov.au/fido/fidowebquestionnaires.nsf/web_9BC0B2EE773AC0FBE925724A007E8227?OpenForm&Seq=1

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オーストラリアFIDOサイトにおける消費者金融教育の取組み(その3-大学生向け金融クイズ)

2007-02-17 19:11:39 | 消費者リテラシィ

 

Last Updated: March 7,2021

 オーストラリアにおける消費者金融教育問題に絡んで、2006年10月7日にオーストラリアの証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission:ASIC)の投資家向け専用サイトの金融クイズを紹介し、その正解と解説を11月3日に行った。

 最近、似非慈善事業的な投資詐欺や銀行の変額年金保険の中途解約リスク問題等金融教育をめぐる課題はますます大きくなっているように思える。しかし、わが国の実態は日本銀行や金融庁のサイトの内容を見ても決して十分とは思えないし、消費者保護の中心となる内閣府肝入りの「消費者の窓」サイトの情報不足や「国民生活センター」への苦情はいっこう減らない。

 さる1月30日にFIDOからメールが届き、その中に「大学生向け金融クイズ10問」が織り込まれていた。オーストリアでの留学や生活経験がない筆者であるが、あえてチャレンジした。正解率80%であったが、次回その正解と簡単な解説を紹介する。自信のある向きは直接チャレンジさてはいかがか。

 なお、わが国でも大学における学生向けの返済条件が弾力的な奨学金等融資制度が充実しているようである。新学期を迎え、いろいろもの入りの時期であるが安易にクレジット・カードに頼ることのないよう、両親や本人の自覚を期待したい。

質問1:新入生のあなたは大学のキャンパスの近くに引っ越そうとしています。今後の生活を考える上で、どのような費用を考えておくべきでしょうか。
①家賃や旅行費用
②食事代、電話代、光熱費等
③教科書、娯楽費、衣料費
④すべての費用が上がる

質問2:メルは技術系の学生です。彼女のクラスは3日間の短期講座として郊外学習を実施することになりましたが、その参加費用は190豪ドル(約18,000円)です。メルは教科書代に多くのお金を使ってしまい、今は余裕がありませんでした。どうすべきでしょうか。
①自分のクレジット・カード決済で支払う。
②郊外学習に参加しない。
③学生課に行って事情を説明し、大学が提供する返済方法が比較的自由な融資制度があるか照会してみる。

質問3:トリタは大学での勉強用に2,000豪ドル(約18万4千円)のデスクトップ型コンピュータ(laptop computer)を買いたいと思っている。しかし目下、預金は300ドルしかなく、彼女は大手小売店から6か月無利息で買うことに決めた。彼女のこの決定には、どのような不利な点があるでしょうか。
①不利な点はない。債務額は1,700ドル(約15万6千円)のままで済むのであり、十分な時間がある。
②もし、彼女が6か月以内に支払えなかったときは高い利息を支払うことになる。

質問4:マルコはいつも遅刻するので本屋のアルバイト(casual job)先を首になり、彼は共同住宅の家賃が払えなくなったため2人のルームメイトから怒られました。マルコはどうすべきでしょうか。
①学生課に行って自分の新しいアルバイトが見つかるまで無利息の融資制度が適用されないか相談してみる。
②自分の新しいアルバイトが見つかるまで、数週間ルームメイトから家賃を立て替えてもらう。

質問5:ジャスティンヌは19歳で大学生活を支援するため地方のピザ店で働いています。週給は約300豪ドル(約28,000円)です。彼女のボスである店長は彼女を老齢年金基金の掛け金に関する特典(any super)を認めていません。彼女は雇い主からそのような特典を得る資格があるのでしょうか。
①いいえ。彼女はそのような特典を得るための十分な収入がない。
②はい。彼女は18歳以上で1か月に450豪ドルを稼いでおり、そのような特典を得る資格がある。
③おそらく、彼女が採用されたときにどのような条件で採用合意したかによる。

質問6:アリナは携帯電話依存症(mobile phone addict)です。講堂の授業で退屈したときに友達にメールを送っています。高校生のときは両親が電話代を支払っていましたが、今度は彼女あてに請求書が来ます。どうすればよいのでしょうか。
①携帯電話の利用をやめる(電話機を投げ捨てる?)。
②ママやパパが何とか助けてくれるまで何もしないでいる。
③彼女自身が支払い可能な金額にあわせ、利用額の一定限度額付携帯またはプリペイド式の携帯電話がないか調べてみる。

質問7:マーゾックは大変機知に富む青年で大学の実験室でオンライン・バンキングやショッピングを行うことが大好きです。このような生活習慣で何か気をつけるべきですか。
①特にない。大学の実験室は安全な環境下にある。
②注意すべきです。公衆の場でオンライン取引きを行うのであり常に気を付けるべきです。

質問8:ブレントは研究の合間に行う賭け事が大好きです。そのため3つのギャンブル用口座をクレジット口座とリンクさせています。これは賢い考えといえますか。
①はい。クレジット口座と直接リックすることは自分のギャンブルの損失の管理をより簡単に行うことになります。
②いいえ。クレジット口座とリックしても損失の管理はできません。

質問9:シューモは1年以上大学に通っていますが、民間の健康保険に加入していないことに気がつきました。しかし、彼はまだ20歳です。本当に保険の保障を確保しなければならないのでしょうか。
①はい
②いいえ

質問10:オーストリアでは、多くの学生が「高等教育融資プログラム(Higher Education loan Program)」の中から自分に合ったコースを選んで返済しています。
もし、あなたの収入が一定額になったときに返済手数料の支払いを免除される「ヘルプ」の適用について、2006年・2007年予算で認められる最低年収額はいくらでしょうか。
① 27,552豪ドル(約253万円)
② 34,691豪ドル(約318万円)
③ 38,148豪ドル(約350万円)
④ 41,993豪ドル(約385万円)

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オーストラリアにおける消費者金融教育と年金問題(その2:金融クイズの正解・解説)

2006-11-03 11:01:29 | 消費者リテラシィ

 

 10月8日にオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission)の消費者向け専用サイト「fido」の金融クイズを出したが、その正解・解説を行っていなかった。次回のブログで正解・解説といっていたのにそのまま、別のブログ原稿の作成で多忙を極めていたといえば言い訳になるが、とり急ぎ原稿を作成したので掲載する(筆者注1)
 一方、わが国では保険金の未払い問題や掛けすぎ火災保険が大きな社会的問題化し、監督機関である金融庁も保険会社に対する行政処分、検査マニュアルの改訂、総合的な監督指針の改正、保険販売勧誘のあり方に関する検討会等保険会社に対する厳しい姿勢を強めているが、高齢化社会の共通的問題として欧米主要国やEU加盟国でも保険や企業年金のあり方について大きな問題となっている。
 例えば、ドイツの連邦経済技術省(BMWi)の10月27日付ニュースでは「保険仲介業者(わが国で言えば「仲立人」に関するEU指令(Insurance Mediation Directive;2002/92/EC)」に準拠した国内法案について議会で読会に入っている旨リリースしている(筆者注2)。実は、2006年4月に欧州委員会は同指令の国内法令化が遅れた6カ国を列挙した。その中の1カ国がドイツであった。
 これに関し、ドイツにおける保険契約法の約100年ぶりの全面改正や保険監督法の改正について金融監督機関であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht;ドイツ連邦金融監督庁)や改正の背景となった2005年7月の連邦憲法裁判所判決等につき別途詳しく説明する予定であるが、今回はまず金融クイズの正解・解説を紹介する。同サイトの解説は極めて簡単なものであり、下記の解説は筆者が金融実務的な観点から補足した内容である。

【設問1】正解は②である。広告文中の比較レート(comparison rate)は他の住宅ローンとの比較ではなく、ローンの表面金利(loan interest rate)に加え申込手数料(loan establishment fee)や取扱い手数料(ongoing fee)を加えたもので、実質ローン金利の比較が可能となる。オーストラリアでは2003年7月1日から施行された「改正消費者信用規則(Consumer Credit Code)」に基づき、金融機関ではこの実質金利比較表示が義務化され、金融機関のサイト上で実質金利比較計算が出来ることとなっている(筆者注2)

【設問2】正解は①である。当然のことながらアレックスは2倍の保障が受けられるのであり、保険会社からプレミアム付きで2倍を大幅に下回るという説明を聞いても安易に信じてはいけない。消費者は保険会社から必ず見積書をとることである。約款や価格の慎重な比較は十分な価値があるといえる。

【設問3】正解は②である。この問題は実際解くとなると6問中最も難しい。筆者は豪州の大手銀行(National Australia Bank;NAB)とHSBCオーストラリア銀行のクレジット商品の説明を読んで、おおよそ次の解釈を得た。なお、豪州の大手金融機関サイトでは若干金利差はあるものの6カ月間年利0%の優遇金利が受けられる「Low Rate Credit Card」を横並びでPRしている。この優遇金利を受ける手続きについて2行の利用約款等をもとに補足する。
(1)まず他行や小売店発行のクレジットカードの決済用残高を当該銀行の専用残高に移す。その金額が多ければ多いほど金利節約額は大きくなる(HSBCのサイトの計算シュミレーションではキムのように3,000豪ドル(約266,000円)を移し替えると6ヶ月間の金利節約額は約245豪ドル(約22,000円)となる)。
(2)この専用残高は、通常の返済用(bill payment)月次決済通知(monthly statement)請求とは別管理される。3,000豪ドルは無利息融資残高として6カ月間留保(月次最低元本返済額(与信残高の3%)のみに当てられる)されなければならず、設問でキムはその後カードを利用した600豪ドルを月次通知に基づき返済してしまったため、この優遇金利を受けられる残高は2,400豪ドルに減額されるのである(この部分に関する約款の説明は極めて分かりにくい)。
また、キムが返済した600豪ドルについては通常金利(NABのキャッシング(cash advance)では17.24%)が適用される。なお、この残高はATM引出しにも利用できない。

【設問4】正解は①である。サムが融資を受けた3,000豪ドル(金利16.5%)を月次最低返済額(fidoの計算シュミレーションでは、債務残高の2%または10豪ドルのいずれか高い方を適用)で返済すると、完済には31年1月かかる。この返済計算シュミレーションは簡単である。fidoの計算サイトhttp://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/byheadline/Calculators?openDocumentで「credit card calculator」の各項目に入力するだけでよい。総利息額も含めグラフで表示される。なお、このようなエクセル・シュミレーションによる説明は年金計算など消費者教育上極めて有効性が高いと思われるが欧米でも意外と少ない。

【設問5】正解は②である。ナットがまじめに1年間1,000ドルを退職年金用に追加的に積み立てると65歳時に受け取る概算の年金受給額(年額)は何もしなかった人より145,000豪ドル(政府による補助も含め)多くなる。この退職年金計算シュミレーションも簡単である(この計算シュミレーションは、あくまで概算で正確な金額等については免許を持つ年金アドバイザーと相談すべく注記されている)。

http://fido.asic.gov.au/fido/fido.nsf/ef531319dbd6d282ca256afd001db469/fa4209304026a728ca257007001a6de3/$FILE/super_calc_v6.xls

【設問6】正解は①である。オーストラリアでも女性の方が長寿で、95歳まで生きる男性の割合は4人に1人である。
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(筆者注1)2007年春から軽自動車税、公共料金、年金・健康保険料のクレジットカード決済からはじまり、その後所得税、住民税、固定資産税等への拡大予定が公表されている。これは本格的な電子政府の取組みの一環であることには間違いないが、クレジットカードはデビットカード(即時引落決済カード)やプリペイドカードと異なり、本来「与信カード」である。すなわち徴収側から見れば徴税率の向上につながるが、支払者(納税者)から見れば「金利負担」の問題があり、従来から利用されてきている「口座振替」に比べ大幅な負担増につながる懸念がある。金利負担を納税者に負わせるだけでなく、【問3】で見るように低利、または優遇金利と併用しなければ不公平であろうし、そもそも普及しないであろう。

(筆者注2)ドイツの対応は、欧州委員会が保険仲介者指令の国内法化を怠っているとして欧州司法裁判所に持ち出したことを受けたものである。
http://www.lloyds.com/Lloyds_Worldwide/International_compliance_news/Insurance_Mediation_Directive_update.htm

〔参照URL〕
ホーム - Moneysmart.gov.au
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オーストラリアにおける消費者金融教育と年金問題(その1:金融クイズ)

2006-10-08 09:26:15 | 消費者リテラシィ

 

Last Updated:March 7,2021

 預金金利の低迷と株価等の高騰を背景として「貯蓄から投資へ」と言う言葉が一般的になってきた。しかし、問題は2007年問題と言うより大量の退職金をターゲットとする銀行、証券、生損保等各金融機関の売込みが今後急速に拡大し、それに伴う金融トラブルがますます広がることが懸念される。
さらに、少子化時代を迎え公的年金制度の限界も取りざたされている。本ブログはこれら社会問題を真正面から取り上げるのではなく、金融商品のリスクや年金問題について消費者教育における海外との比較を行うことが目的である。

 わが国で金融教育サイトといえば、まず思い出すのが「金融広報中央委員会」のサイトであろう。一方、本ブログでも、過去紹介してきたオーストラリア証券投資委員会(Australian Securities & Investments Commission)の消費者向け専用サイト「fido」(筆者注1)で最近掲載された金融クイズがある。この両者のサイトの内容の比較を通じて、これからの消費者金融教育(あまり直訳過ぎるこの言葉は好ましくないが、とりあえず使用する)についての課題を数回にわたり提起する。
 なお、当然のことながらわが国と豪州では消費者金融の商品スキームや税制なども異なるし、また年金制度もわが国の公的年金を基本(筆者注2)とするものより確定拠出型個人年金を主たるスキームとする等、単純な比較は無意味である。
 しかし、それらの差異を含めても消費者金融教育の社会的重要性は変わらないと考える。

 今回は、fidoサイトから「金融クイズ」6つの質問を紹介する。回答方法は簡単なので、多少英語(豪州英語の知識も必要)に自身のある人は直接サイトのアクセスされたい。(筆者注3)正解と解説が直ちに戻ってくる。その他の人は、次回の本ブログで正解と筆者の補足説明を見ていただきたい。

 2021.3.7 追記

 オーストラリア政府のWebサイトMoneysmartは、政府の国家金融リテラシー戦略2008-2010の一環として2011年3月15日に正式に開始した。” Moneysmart”は、以前ASICによって維持されていた他の2つの消費者向けWebサイト、(1)FIDO(www.fido.gov.au)と(2)Understanding Money(www.understandingmoney.gov.au)に取って代わった。 FIDOは2000年にASICによって立ち上げられ、「オンラインで配信される財務情報("Financial Information Delivered Online")」の略語であった。 2008年7月、オーストラリア政府は、Understanding Money Webサイトの管理と保守を含む金融リテラシー財団(Financial Literacy Foundation )の機能をASICに移管した。

 この”Moneysmart”は、Webサイト、出版物、教育プログラムで構成されてる。 それは人々が経済的決定をするのを助けるための情報とツールを提供するもので、そのキャッチフレーズは「信頼できる簡単なガイダンス」である。

 現”Moneysmart”のconsumer and finacial literacy quizサイトも似た内容である。

質問1:あなたは年利7.5%の住宅ローンの広告を読みました。その数字の次に「比較利率(comparison rate)」として7.85%と書かれていました。この「比較利率」はどのようなことを意味しますか。
①現在提供されている類似の住宅ローンの平均金利のこと。
②広告されている住宅ローンについて金利プラス各種手数料を加えた金利のこと。

質問2:アレックスはちょうど自宅の改築工事を終えました。改築後の家は従来付保していた家の2倍の価値があります。改築後の家に住宅保険付保のため彼はどのくらいの費用がかかるでしょうか。
①一般的に、保険料は2倍となる。その理由はアレックスは2倍の保障を得るのであるから。
②一般的に、厳しめに見て保険料は2倍以下である。

質問3:キムは決済用残高の金額に拘らず6カ月間特別定低利の金利を適用するという理由から新しいクレジットカード手に入れました。キムは3,000豪ドル(約258,000円)を決済口座に移しました。その後、キムはこのカードで600豪ドル(約5,200円)使い、カードの月次計算書が着き次第600ドルを支払ったとすると、特別低利は残高で残っている3,000ドルになお適用されるのでしょうか。
①はい
②いいえ

質問4:サムは年利16.5%のクレジットカードで3,000豪ドルのキャッシングをしました。サムは毎月の支払額につき月次計算書に表示された「最低返済額(minimum payment due)」で返済します。サムが全額を返済し終えるのに何年かかるでしょうか。
①約31年
②約4年

質問5:23歳のナッツは今仕事を始め、年間45,000豪ドル(約3,870,000円)の収入があります。もしナッツが退職後の収入確保のために老齢退職年金(super;superannuationのこと)として1,000豪ドル上乗せして積んだ場合、65歳(受給開始年齢)までに上乗せしない人と比較して総受給額はどのくらい差がつくでしょうか。
①約83,000豪ドル(約7,138,000円)
②約145,000豪ドル(約1,247,000円)

質問6:典型的な55歳の女性が95歳以上で生存している確率は。
①3人に1人
②10人1人

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(筆者注1) 2006年1月11日付ブログ「オーストラリア証券投資委員会(FIDOサイト)が新年早々金融詐欺をめぐる「絵に描いた餅賞」を公表」参照。

(筆者注2)海外の主要国においても公的年金を補完する個人・企業年金において確定給付型から確定拠出型のへのシフトが起っていることは周知の通りである。わが国におけるこれらの問題を論じた公的審議会や論文が多い一方で、金融広報中央委員会のサイトでは個人確定拠出年金や企業年金の解説等は行われているが(ただし、執筆者がすべて外注とはいかがか)、年金計算書シュミレーションの対象は公的年金のみである、次回以降詳しく紹介する豪州の場合は計算シュミレーションだけでも大分類で「年金計算」と「その他」に区分、さらに「その他」では①老齢退職年金、②合同運用ファンド、③複利、④リスクとリターン、⑤収入に応じた予算計画、⑥クレジット・カードの返済計算、⑦クレジット・カード等複数のローンを受けている場合の計算、⑧年金生活でどこまで耐えられるかの計算、⑨持ち家担保融資(リバース・モアゲージ:最近わが国でも話題となりつつある)がどこまでもつかの計算である。欧米流の自己責任を基本としながら、社会として協力する姿勢が見られる。

(筆者注3)直接fido サイトからチャレンジされる方は次のURLを開き、次に「Money quiz」を開くこと。

https://static.moneysmart.gov.au/teaching/resources/smart-consumers-4-a-smart-future/Science_Yr10/applets/CFL_quiz/story_html5.html

〔参照URL〕

https://moneysmart.gov.au/

オーストラリア政府の退職老齢年金専用サイト(あくまで年金基金が中心になっているが)

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