中国国防省は25日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)1発を発射し、太平洋の予定海域に落下したと発表した。中国が弾道ミサイル実験の実施を公表すること自体が極めて異例。中国のミサイル実験は最近では主に広大な国土を利用して国内で行われており、太平洋に着弾させるのも珍しい。台湾情勢を巡って対立する米国を強く牽制(けんせい)する狙いがある。
米本土全体を射程
香港の中国文化研究院のサイトによると、中国は1980年5月、初のICBMとなる「東風(DF)5」の発射実験に成功した。実験の予定は事前に国営新華社通信を通じて発表された。
DF5は北西部・甘粛省酒泉から発射され、9070キロを飛翔(ひしょう)し、太平洋の公海上の予定海域に着弾した。DF5は液体燃料型のサイロ固定式ミサイルで、米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、射程は1万3000キロ。これにより、中国は旧ソ連の欧州部と米本土への核攻撃能力を獲得した。
ただ、サイロ式のICBMは位置が特定されるため、特に精度の高い米国の先制核攻撃には脆弱(ぜいじゃく)だ。このため、中国は2006年以降、車両移動式で固体燃料型のDF31の配備を開始。CISCによると、DF31は射程7000キロから1万1700キロで現在、改良型のDF31AGが米本土全体を射程に収めているとみられる。
ただ、DF31は核弾頭は1発しか搭載できない。単弾頭のミサイルは、米国がアラスカなどに配備する地上配備型弾道ミサイル迎撃ミサイル(GBI)で迎撃される確率が高まる。
多弾頭搭載を想定
中国はDF31の後継となるDF41の発射実験を12年7月に初めて実施した。DF41は複数の核弾頭が個別に大気圏に再突入するため、ミサイル防衛を突破しやすいとされるMIRV(多弾頭独立目標再突入体)の搭載を想定している。CSISによると17年までに7回の実験が行われた。2回目の実験では、中国北部・山西省から発射され、西部に着弾したことが確認されているという。
産経新聞
中国による鉄鋼の過剰生産に対し、通商上の対抗措置をとる動きが拡大している。ベトナム、ブラジル、韓国などが反ダンピング(不当廉売)調査を開始し、中国製鋼材を対象とする同調査の開始件数が今月上旬時点で昨年の約5倍に急増していることが分かった。鉄鋼関税がゼロの日本は今後、各国の対抗措置のあおりで中国製鋼材の流入の勢いが増す恐れもある。
日本除くG7は防壁設置
中国は、不動産不況の影響などで国内の鉄鋼需要が低迷し、生産余剰の安価な鋼材の輸出を拡大している。輸出に振り向けられる年間の需要と供給のギャップは年間約1億トンに上る。これは日本の鉄鋼最大手の日本製鉄と、同社が買収する計画の米鉄鋼大手USスチールの合計の年間生産能力約8600万トンを上回る膨大な規模で、各国で鋼材価格を押し下げるデフレ圧力となっている。
中国の過剰生産を問題視する先進7カ国(G7)では、米国が今月27日に電気自動車(EV)への100%制裁関税を導入するのに合わせて、鉄鋼関税も25%に引き上げる予定だ。カナダも10月に米国と同様の措置をとる方針。欧州は鉄鋼のセーフガード(緊急輸入制限)を導入済みで、日本を除くG7各国は対中国への防壁を設けている。
海外の鋼材流入が増加
さらに、中国の最大の鋼材輸出先のベトナムが7月に反ダンピング調査を始めたのに続き、8月にはブラジルとオーストラリア、今月には輸出先第2位の韓国も調査を開始。各国の公開情報などによると、今年の鉄鋼製品に関する新たな反ダンピング調査の開始件数は今月上旬に既に昨年の5件を大幅に上回る23件に達し、このうち中国製を含む調査は16件と昨年の3件から急増している。
一方、中国を含めた海外から日本への鋼材流入も増加基調だ。
7月の日本の鋼材輸入量は前年同月比19・2%増の約50万トンと、18カ月連続のプラス。このうち中国からの輸入は5カ月連続の増加で、32・4%増の高い伸びだった。代表的な普通鋼鋼材の輸入先は、約6割を占める韓国が最大で、中国からの輸入は約2割と相対的には小さいものの、令和5年度の実績は既に過去最高に達している。
アジア各国などで反ダンピングの関税引き上げが広がれば、無関税の日本に海外鋼材が一段と流れ込んでくる懸念があり、経済産業省も「輸入動向を警戒心をもってみている」(製造産業局金属課)という。
人手不足と資材高による建設工事の停滞などで日本の鉄鋼需要は弱く、輸入品の増加が続けば国内鉄鋼各社の今後の設備投資計画にも悪影響が出かねないだけに、日本も通商上の対策を検討する必要性が出てきそうだ。(池田昇) 産経新聞