パワハラなどの疑惑が内部告発された兵庫県の斎藤元彦知事に対し、86人の全県議が辞職を求める事態となっている。
斎藤氏が応じなければ、19日開会の9月議会で不信任決議案が提出され、可決される可能性が濃厚だ。知事の職責を果たすのが難しい状況となった以上、斎藤氏は潔く身を引く決断を下すべきだろう。
発端は幹部職員が3月、知事のパワハラなどを告発する文書を報道機関や県議に送付したことだった。4月には県の公益通報窓口にも通報したが、県は調査結果を待たずにこの幹部を懲戒処分にした。幹部は7月に死亡した。自殺とみられる。
県議会調査特別委員会(百条委)による全職員アンケートでは、約4割が斎藤氏のパワハラを見聞きしたと回答した。百条委が参考人として招いた公益通報保護法の専門家は県の対応について、通報を理由とした不利益な扱いを禁じた同法に違反すると指摘した。
斎藤氏はすべての疑惑を否定し、幹部の懲戒処分も「適切だった」と訴えてきた。一方で百条委の証人尋問では、職員に対し大声を出したり、勤務時間外にチャットで職員を叱責したりしたことなどを認め、「反省したい」とも述べた。一連の対応が不適切だったのは明白だ。
斎藤氏は辞職要求に対し「選挙で負託を受けた」として「これからも県民のためにやっていきたい」と応じない構えを見せた。これまで行財政改革などを遂行したことへの自負や、今後さらに手腕を発揮したいという思いもあるのだろうが、県議も選挙で負託を受けた県民の代表である。全県議の辞職要求は県民の声と受け止めるべきだ。
不信任案が可決された場合、斎藤氏は10日以内に議会を解散しなければ失職する。解散を選べば県議選が行われるが、改選後の議会で3分の2以上が出席し、過半数が賛成すれば不信任決議が成立し、議会から通知を受けた時点で失職する。
都道府県議会での不信任案可決は過去に4件あるが、知事が解散を選んだ例はない。斎藤氏は「自分がどういう道を進むべきかは自分が決める」と述べたが、県政の混乱が長引けば、困るのは県民だということを自覚すべきだ。失職に追い込まれる前に自ら辞職を申し出るのが政治家としての筋ではないか。
産経新聞