岸信夫防衛相は31日、アフガニスタンに残る邦人らの国外退避に当たるため隣国パキスタンに待機させた自衛隊に撤収を命令した。自衛隊輸送機で国外退避した邦人は1人。当初は約500人の移送を目指したアフガン人は14人にとどまった。背景には、憲法上の制約により自衛隊の手足が縛られていた事情もある。
自衛隊が在外邦人を保護するにあたり、政府には2つの選択肢がある。1つは空港への自衛隊機派遣で、今回採用された枠組みだ。もう1つは自衛隊が市街の在外邦人を救出し、妨害勢力には任務遂行のための武器使用も可能とする枠組みだ。平成28年施行の安全保障関連法で可能となったが、これには現地政府の同意が必要となる。
しかし、今回の自衛隊派遣では、後者の選択肢は排除された。実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンは治安に責任を持てる状態ではなく、自衛隊活動の「同意」を与える主体とはなりえなかったからだ。政府は憲法9条が海外での武力行使を有事以外は禁じていると解釈しており、現地軍などと戦火を交える可能性があれば、自衛隊は市街で待機する邦人やアフガン人を救出できない。
政府は8月26日、アフガン人をバスで空港に運ぼうとしたが、空港周辺の自爆テロで断念した。これに対し、韓国政府は25日にバス6台で365人を空港に運んだ。1日の違いが明暗を分けたが、韓国がバスを確保したのが22日だったのに対し日本は21日。自衛隊の派遣決定が1日早ければ状況が変わった可能性もある。外務省関係者は「日本は『自衛隊は最後の手段』とする政治文化がある。これが遅れにつながったとすれば反省材料だ」と漏らす。
日韓両国の大使館職員は、いずれもカタールに一時退避した。空港にとどまることができた外交官は米英やカタールなど現地に軍を派遣していた国に限られ、日韓は対象外だったからだ。日本の大使館員は、出国を希望する邦人2人を優先して15日にチャーター機に乗せ、その後の空港内の混乱で2日後の17日までアフガンに足止めされた。(杉本康士、大橋拓史) 産経新聞