Re:SALOON & VBA

希い

でも
本当はいきたかったのです

海辺のひっそりとした町で
仕事はごく地味なもので
賃金はほんの少々なのに
ただ
少女が希んだというだけで

淋しい砂浜に立って
少女が好きだという
海の色をみる時間のために
特に
台風の通ったあとの
空にすいこまれてしまった色が
海にもどっていく
一年にほんの少しの時間のために

そうして欲しいと言う
少女の瞳は
そんな色だったのに

わたしは手を離したのです

わたしは
少女の翳りをみたくなかったのです
少女の代わるのを知りたくなかったのです
少女は風に包まれていなくてはならないのに
少女が両手を開いたので
わたしは少女にすいこまれる
それが恐ろしかったのです
わたしと少女が沈んだとき
少女は海の色を失った女になる
それが哀しかったのです

でも
本当はいきたかったのです



塚原将「たったひとつの季節に』より
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