私の研究日記(映画編)

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『素晴らしき哉、人生!』(DVD)

2008-09-24 15:50:09 | さ行
 DVDにて『素晴らしき哉、人生!』を見た。以前見た『スミス都へ行く』のフランク・キャプラン監督作品。主演は、これまた『スミス』と同じジェームズ・スチュワート。

 物語の舞台は、アメリカの小さな町ベタフォード(地図で調べたが見つからなかった)。作中、世界恐慌や戦争が起きていることから、時代は1930年代から40年代が想定されていると思われる。
 物語は、冒頭から印象的。クリスマスの華やいだ映像の中、死の淵に立つジョージ(ジェームズ・スチュワート)を救ってほしいという、彼の妻と子供たちの祈りの声とともに物語が始まる。これが何を意味するのかという疑問が湧いてくるが、物語の全貌が見えないこの時点では知りようがない。従って、否応なく物語への関心が高まっていく。見事な導入であるといえるだろう。
 主人公ジョージは、父から受け継いだ小さな低所得者向け住宅金融を経営する青年。美しい妻メリイ(ドナ・リード)と子供達とともに暮らしている。身を粉にして働いているが、若い頃に抱いていた夢をどれ一つ叶えられず、鬱屈とした気持ちも抱えている。
 ある年のクリスマス、ある事件が起き、そのことでジョージは強欲な資産家で会社の株主でもあるポッター(ライオネル・バリモア)によって、死の淵へと追い込まれていく。会社を救うために、ジョージに残された選択肢は、ただ一つ、死ぬこと。こうして、自分などこの世に生まれてこなければと不運を嘆きながら、川にかかる橋の柵に体を寄せた。橋の下には冬の冷たい水が流れている・・・。

【ネタばれ注意!!】
 この後の展開には、思わず鳥肌が立ってしまった。窮地に立つジョージを二つの奇跡が救うのである。

 まず、冒頭の妻や子供たちの祈りは、ここに繋がってくる。祈りに応じ、二級天使クラレンスが登場。自分など存在しなければと自棄になっているジョージに対し、天使がとった秘策はジョージの存在しない世界を見せることだった。その世界のベタフォードは、ポッターに支配され、至る所でネオンがケバケバしく光る町。ジョージに救われるはずであった薬屋の店主は不幸に陥り、戦争で活躍するはずの弟は幼くして死んでいる(本当はジョージが助けるはずであった)。低所得者向けに建設したニュータウンには住宅の影も形もなく、ただ薄暗い墓場が広がっている。愛するメリイは結婚できず、図書館で働きながら細々と暮らしていた。愛する子供たちは当然生まれてすらいない。散々な目に会いながらも、ジョージは無事元の世界に戻ってくる。そして、元の世界に帰れた喜びから、妻と子供たちの待つ我が家に帰っていった。身はたとえ無事であっても、元の世界の彼が不幸のどん底にいることに変わりはない。だが、帰宅した彼の所へやって来たのは、思いがけないもう一つの奇跡だった。ジョージの窮地を知った町の人々が、彼を助けるためやって来たのである。そこへ、クラレンスからのメッセージが届く。

Dear George
 Remember no man is failure who has friends.Thanks for the wings! Love Clarence

こうして、天使からの思いがけないクリスマスプレゼントにより、ジョージは救われたのであった。

 私などしょっちゅうだが、自分の存在意義が分からなくなったことの1回や2回、誰にでも経験があるだろう。巷で、ちょうど話題になっている『悩む力』(姜尚中、集英社新書)で、姜尚中教授は、生きる意義を確認するには自己-他者の絶え間ない相互承認が必要であると訴えている。この映画でジョージの存在しない世界が含意するのも、『悩む力』と同様のメッセージであるといえるだろう。すなわち、一人の個人は本人が考えている以上に多くの人生に関わっており、そういう意味で誰の人生にも価値があると。

 穿った見方をすれば、話が出来すぎの作品ともいえるが、作品のメッセージが明確でストレートに心に響いてくる。とても励まされた。アメリカ映画協会が「元気が出るアメリカ映画ベスト100」の1位に選んだだけのことはある。素晴らしい作品であった。

 ところで、作品の公開は1946年。日本は戦後の荒廃の真っ只中にある時期だ。こうした古典映画を見るといつも思うが、印象に残る冒頭といい、物語の斬新な展開といい、60年以上前の作品とは思えないほど面白い。現在の映像技術に慣れ親しんだわれわれのような現代人は、古典作品の映像をお世辞にも美しいとはいえない。それでも面白いと思うのだから、ストーリーの面白さと役者の演技力が相当優れているという証拠でといえよう。

 ちなみに、 主演のジェームス・スチュワートは、この映画の公開時38歳。彼が31歳の時に公開された『スミス都へ行く』(1939年)から7年の歳月が経っているが、 『スミス』と比べると凄みが倍増したかのような迫力があった。調べてみたら、この間、彼は陸軍パイロットとして爆撃機に乗り込み第二次世界大戦に従軍したそうである。こうした経験が、芸に凄みを増すきっかけとなったのだろう。

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2 コメント

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Unknown (Whitedog)
2008-09-29 23:06:42
クリスマスに観る映画といえば、これと、「グレムリン」です。かなり極端ですけど(笑)
おっしゃるとおり、60年以上前の作品とは思えませんよね。ちょっと設定を変えればリメイクできそう(失敗するでしょうけど…)な気もします。
こんな昔にパラレルワールドチックな映画があるのが驚きです。素晴らしいです。
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Unknown (モッサン)
2008-09-30 04:26:36
Whitedogさん、コメント頂きありがとうございます。

確かにこの映画はクリスマス映画として、うってつけの作品ですね。私にとってクリスマス映画というと、これまで『若草物語』と『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』でしたが、『素晴らしき哉、人生!』も加えたいと思います^^。
『グレムリン』(笑)。グレムリンたちの不気味な歌を聴くと、確かにクリスマスという感じがしますね^^。
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