私の研究日記(映画編)

ここは『智に働けば角が立つ』の姉妹ブログ。映画の感想や、その映画を通してあれこれ考えたことを紹介しております。

『ハッピーフライト』(CATV)

2009-10-17 20:44:35 | は行
監督・脚本:矢口史靖
製作:亀山千広
撮影:喜久村徳章
美術:瀬下幸治
音楽:ミッキー吉野
出演:田辺誠一、時任三郎、綾瀬はるか、吹石一恵、田畑智子、寺島しのぶ、岸部一徳 他
製作:2008年(日本)
時間:1時間43分

 自宅CATVにて鑑賞(9月6日)。

 あらすじ。「機長昇格への最終訓練である、乗客を乗せた実機での操縦に臨む副操縦士。その試験教官として同乗する威圧感バリバリの機長。初の国際線フライトに戦々恐々の新人CA。CA泣かせの鬼チーフパーサー。乗客のクレーム対応に追われる日々に限界を感じるグランドスタッフ。離陸時刻が迫り必死にメンテナンス中の若手整備士。窓際族のベテランオペレーション・ディレクター。ディスパッチャー、管制官、バードパトロール…。1回のフライトに携わるまさに多種多様なスタッフ達。そんな彼ら使命はただ一つ!飛行機を安全に離着陸させること。その日のフライトも、定刻に離陸、そのままホノルルまで安全運航!!のはず…だったが…」(『映画生活』からの引用)。

 大学でグライダーをやっていた私(⇒こちらを参考『智に働けば角が立つ』)の先輩には、航空会社勤務の方が多い。そういう私も、大学院進学と就職で悩んでいた大学4年生当時、実は気まぐれで某航空会社の入社試験を受けたことがある。気まぐれで受けた大学生を採用するほど某航空会社は甘くはなかったが。

 という前置きはともかくとして、パイロットやCAなど、華やかな印象のある航空会社だが、飛行機を安全に離着陸させるために、管制や整備などの地道な地上作業が行われていることは余り注目されない(厳密には管制の仕事って航空会社じゃなくて、空港管理会社の仕事だと思うけど)。そこには厳しいルールがあったり、仕事で身に付いた独特な習性があったり(飛行機の形をしたチョコを思わず並べてしまう管制官など)と、この映画を通じて、普段余り見ることのできない航空会社の裏方を垣間見ることができる。なかなか面白かった。

 仕事特有の変わったルールや仕事を通して身に付いた変な習性は、航空会社に限らずいろいろな仕事に付きものだと思うが、そこで働いている人々ほど、その面白さに気付かないものである。ぜひ鉄道会社や銀行、お役所など他の仕事でシリーズ化してもらいたい。
 

『幸せはシャンソニア劇場から』(Theater)

2009-10-15 23:03:22 | さ行
監督・脚本:クリストフ・バラティエ
製作:ジャック・ペラン、ニコラ・モベルネ
撮影:トム・スターン
美術:ジャン・ラバス
音楽:ラインハルト・ワグナー
製作:2008年(フランス・チェコ・ドイツ)
時間:2時間
出演:ジェラール・ジュニョ、クロビス・コルニアック、カド・メラッド、ノラ・アルネゼデール、ピエール・リシャール、ベルナール=ピエール・ドナデュー、マクサンス・ペラン



 シネスイッチ銀座にて鑑賞(9月5日)。

 あらすじ。「1936年、パリにあるミュージックホールのシャンソニア劇場は、経営不振のため閉鎖となる。30年以上この劇場で幕引きを務めたピゴワルは妻にも逃げられ、息子のジョジョとも引き離されてしまう。失意の日々を送るピゴワルだが、芸人仲間のジャッキーとミルーと一緒に、再度営業を始めようと劇場を占拠してしまう。そこに、歌手志望の美しい娘・ドゥースがやって来る。ドゥースはアナウンス嬢として採用されるのだが…」(『映画生活』からの引用)。

 息子を取り戻すために劇場を再建しようとする父親の奮闘、仲間との友情を描いた作品である。主人公ピゴワルを演じたのは『バティニョールおじさん』でバテニョールを好演していたジェラール・ジュニョ。その彼を存在感で圧倒していたのがドゥース役ノラ・アルネゼデールである。男性なら溢れ出でんばかりの彼女の魅力に心奪われるであろう。少なくとも私は始終うっとり状態だった(笑)。ちなみに、後でそのノラ・アルネゼデールが新人の女優さんだと知って、二度ビックリ。ベテランの女優さんだとばかり思っていた。大物の片鱗というか、今後の活躍を期待せずにいられない女優さんである。

 ストーリーといい、演出といい、俳優陣といい文句なしの秀作だと思う。面白かった。




『路上のソリスト』(Theater)

2009-10-05 00:39:04 | ら行
監督:ジョー・ライト
製作:ゲイリー・フォスター、ラス・クラスノフ
撮影:シーマス・マクガービー
美術:サラ・グリーンウッド
音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:ジェイミー・フォックス、ロバート・ダウニー・Jr.、キャサリン・キーナー、トム・ホランダー、リサ・ゲイ・ハミルトン
製作:2009年(アメリカ)
時間:1時間57分

 シネプレックス幕張にて鑑賞(2009年8月23日)。

 あらすじ。「ロペスはある日、べートーヴェンの銅像のある公園で2本しか弦のないヴァイオリンを弾くホームレス、ナサニエル・エアーズに出会う。彼の演奏する音楽の美しい響きにひかれコラムのネタに取材をはじめる。まもなく彼は、ナサニエルが将来を嘱望されたチェロ奏者で、ジュリアード音楽院の学生だった事を知る。なぜ才能ある音楽家が、LAの路上生活者になったのか?そして、家も家族もない彼が、なぜ音楽だけは捨てずに生きてきたのか? やがて、ロペスはナサニエルの感動の物語を発見するのだった」(『映画生活』からの引用)。

 社会派映画を作ったつもりはない、というのが監督ジョー・ライトの弁だが、この発言には若干無理があると思う。

 物語の舞台はロサンゼルス。あらすじにあるように、ナサニエルはこの町のホームレスである。彼を通じて垣間見られるロサンゼルスの貧困の様相は、他の映画作品やテレビドラマからは、とても想像がつかない。むしろ思い出すのは『ツォツィ』や『スラムドッグ$ミリオネア』のような途上国のスラムである。



 というこの作品を見ていて、「はっ!」とさせられるのが、ホームレスの中に混じる障害を持った人々。ナサニエルもその内の一人である。身障者の雇用がなかなか進まない日本では、家族の経済的支援が支えになっているからだと思うが、障害を持つことは必ずしも貧困を意味しない。障害が貧困に直結しやすいアメリカ社会の一側面を捉えた作品といえるだろう。

 また、作中、興奮したナサニエルがロペスを組み伏せ、自分はロペスをMrと敬称で呼ぶのに、ロペスは自分のことをただナサニエルとしか呼んでくれない、と非難する場面がある。温厚だった彼の豹変にアッと驚き、緊張する場面だ。と同時に、同情されたり哀れみの目で見られることはあっても、決して対等の立場では扱ってはもらえない身体障害者や貧者の尊厳について考えさせられる場面でもある。スティグマ※の傾向が強いアメリカならではの問題であり、少なからず日本にも当てはまる問題なのではないだろうか。

 『路上のソリスト』というタイトルから、去年見た『奇跡のシンフォニー』のようなドラマチックな展開を期待してしまったが、決して楽しみながら鑑賞できるという作品ではない。見る前の印象と違ってズシリと重みのある作品だった。むしろ、監督ジョー・ライトの言葉とは裏腹に、見応えのある社会派作品といえるだろう。

 ホームページは、すばらしい音楽を堪能することができるのでお勧めである。

※スティグマというのは、ナサニエルのような身障者や貧者に対し、例えば「社会的弱者」というようなレッテルを貼ること。福祉国家に関する研究書などを読むと必ず出てくる言葉である。アメリカ(や日本)のようにGDPに占める社会保障費の少ない国ほど、社会保障支出(あるいはチャリティも)は健常者と同様の生活を営むことができない人々に集中するので、この傾向が強くなるという。確かに、日本の「生活保護」などその典型的な例といえるだろう。スウェーデンのような北欧諸国では、手厚い公的な福祉サービスを受けることは当然であり、スティグマは生じにくいのだそうだ。