私の研究日記(映画編)

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『1000年の山古志』(Theater)

2009-11-16 00:07:37 | さ行
監督:橋本信一
プロデューサー:武重邦夫、関正史、川島正英
撮影:松根広隆
音楽:森拓治
編集:小島俊彦
ナレーター:長谷川初範
製作:2009年(日本)
時間:2時間

 新橋のTCC試写室にて鑑賞(2009年9月24日)。

 早いもので、新潟県・中越地震の発生から5年の月日が経つ。この作品は、5年前の震災で被災した山古志村の人々が、生活を再建していく姿を捉えたドキュメンタリー映画である。

 阪神・淡路大震災(1995年)の発生から3年後の1998年、被災者生活再建支援法という法律が制定された。自然災害で住宅が被災したという場合、この法律によって、公的な支援金の給付を受けることができることになっている。自然災害の被災経験のない私のような人間には、生活の要ともいえる住宅の再建は、確かに災害被災者にとって大切なことだろう、と素朴に考えてしまうが、映画を見た今になって思うと、その考えはどうやら思慮が乏しかったようだ。

 自然災害で被災するということは、例えばこの作品に登場する人々のように、それまで住んできた場所、営んできた生業、それまでの生き甲斐を失うということである。それは単に家や仕事を失ったというだけではなく、その人が歩んできた過去を断ち切られてしまうことでもある。そういう意味で、大きな自然災害の後に被災者が迫られる問題は、単に住宅を再建するということばかりではなく、人生をどう立て直すかという問題なのかもしれない。見ながらそんなことを考えた。

 「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という言葉があるが、新潟県・中越大震災も、発生したばかりの頃はマスコミがあんなに大騒ぎしていたのに、今では触れられることすらめったにない。それはマスコミばかりではない。当然私も含んでいるが、震災に対していまだに興味や記憶を保ち続けている人はほとんどいないだろう。震災で被災した人々の救出や避難はもちろん重要なことだが、災害の後、被災者が人生をどう立て直していくかということも、同様に重要な問題であるはずだ。われわれは震災について本当に知らなければいけない時期に、震災への関心を失ってしまっているともいえるだろう。
 そういう意味で、この作品は、震災後数年にわたって被災者の様子を淡々と描き出すだけの映画だが、人生を取り戻していく苦労や喜びを知ることができるとても貴重な作品だと思う。美しい山古志の自然も必見。


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