■「新たなW計画」の実行部隊
先月10月25日から2日間の日程でアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)主催の「日米同盟の変遷 防衛協力と統合の深化に向けて」と題するシンポジウムがキャピトル東急ホテルで行われた。
ここに前原誠司やプロテスタントの石破茂らとともに登場したのがニコラス・エバースタットと安倍晋三である。ここに更なる因縁も見出せる。
以前にも紹介したように、米軍産複合体の権化とも言うべきフェルディナンド・エバースタットという人物がいた。フェルディナンドは終戦直後の1945年9月にエバースタット・レポートを作成、戦争動員の迅速化と兵器開発の中枢としての国防総省、国家安全保障会議(NSC)、CIAの創設を提案した。つまり、この3機関の生みの親でもある。
W計画をきっかけにフェルディナンドが生み出したCIAを中心に、ドーマン機関人脈に児玉、岸、笹川などの巣鴨組が加わり、日本の裏と表を陰に陽に支配していくシステムが完成する。同時にこの人脈はブッシュ家をも巻き込みながら、勝共を合言葉に文鮮明率いる統一教会などとともに世界反共連盟(WACL)に結集、グローバルな反共ネットワークが出来上がる。今やこの反共ネットワークが原理主義的な宗教組織に匹敵する存在になっていることが、日本の保守系オピニオン誌の一部から読みとれる。
このフェルディナンドの孫こそが、『北朝鮮最期の日』の筆者であり、AEIの客員研究員を勤めるニコラス・エバースタットである。
そして、官房長官に就任した安倍晋三は、巣鴨組の岸信介の孫である。この二人が、冷戦終結の今も日米のネオコンやキリスト教右派を器用に操りながら、世代を越えて対北・対中強硬派人脈の中核として海洋勢力強硬派を構成する。
彼らが目指す民主化とは、米中衝突に備えてタングステンを米国に送り届ける北朝鮮の豪腕フィクサーを育て上げることかもしれない。しかし、後にロッキード事件でバッサリ切り捨てられた児玉誉士夫の生涯から、彼らの恐ろしさが見えてくる。
彼らと足並みを揃えるかのように、石原慎太郎・東京都知事は今月3日にワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、米中間で紛争が起こった場合に「中国にとって一番目障りな日米安保をたたくために、もし核を落とすなら沖縄、あるいは東京を狙うだろう」と指摘した上で、「市民社会を持つ米国は戦争で生命の価値観に無神経な中国には勝てない。中国に対抗する手段は経済による封じ込めだ」と主張し、インドやロシアと連携を強化するよう提言している。
一方でプロテスタントを中心とする海洋勢力強硬派の反共ネットワークとは距離を置きながらも、その動向を注視する集団が大陸勢力の中心に存在する。反共の本家本元として、神なき共産主義に宗教の自由を迫るカトリックの総本山、ヴァチカンである。吉田茂の孫として英米の海洋勢力本流人脈を受け継ぎながらも、カトリックとして大陸勢力につながる麻生太郎外務大臣誕生は、海洋勢力と大陸勢力とがぶつかる地の波乱の幕開けを暗示しているかのようだ。
かつて、この二つの勢力に翻弄され、挫折したのが靖国神社にA級戦犯として祀られている松岡洋右である。日独伊三国同盟にソ連を加えた四国協商で米英に対抗するという野望から、スターリンに対して「政治的、社会的」ならぬ「道徳的共産主義」にまで踏み込んで、「日本には、道徳的共産主義がある。日ソでアングロサクソンの影響力をアジアから排除しよう」と懸命に訴えたことがある。この神なき共産主義への接近がヴァチカンをも刺激し、二つの勢力に加えユダヤ勢力をも結集させ、日本は太平洋戦争へと追い込まれていくのである。
この歴史の教訓から、「敵」と「敵の敵」を冷静に見極めながら、「敵」への安易な接近や小泉首相や石原都知事のように表立って敵を刺激する行為は当面控えるべきであろう。むしろ、水面下で「敵の敵」を奮い立たせる工作に知恵を絞ればいい。さもなくば、石原都知事の語る核の惨劇が現実になる。あるいは、中国全土に劣化ウラン弾の雨が降り注ぐことになるのだろうか。
(本稿は、増田俊男氏が編集主幹を務める月刊『力の意志』2005年10月号掲載の「北のタングステンをめぐるWの衝撃」に加筆修正を加えたものである。なお松岡洋右の物語は、まもなく再開する予定のビッグ・リンカー・シリーズにて取り上げてみたい。)
佐藤祥司
先月10月25日から2日間の日程でアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)主催の「日米同盟の変遷 防衛協力と統合の深化に向けて」と題するシンポジウムがキャピトル東急ホテルで行われた。
ここに前原誠司やプロテスタントの石破茂らとともに登場したのがニコラス・エバースタットと安倍晋三である。ここに更なる因縁も見出せる。
以前にも紹介したように、米軍産複合体の権化とも言うべきフェルディナンド・エバースタットという人物がいた。フェルディナンドは終戦直後の1945年9月にエバースタット・レポートを作成、戦争動員の迅速化と兵器開発の中枢としての国防総省、国家安全保障会議(NSC)、CIAの創設を提案した。つまり、この3機関の生みの親でもある。
W計画をきっかけにフェルディナンドが生み出したCIAを中心に、ドーマン機関人脈に児玉、岸、笹川などの巣鴨組が加わり、日本の裏と表を陰に陽に支配していくシステムが完成する。同時にこの人脈はブッシュ家をも巻き込みながら、勝共を合言葉に文鮮明率いる統一教会などとともに世界反共連盟(WACL)に結集、グローバルな反共ネットワークが出来上がる。今やこの反共ネットワークが原理主義的な宗教組織に匹敵する存在になっていることが、日本の保守系オピニオン誌の一部から読みとれる。
このフェルディナンドの孫こそが、『北朝鮮最期の日』の筆者であり、AEIの客員研究員を勤めるニコラス・エバースタットである。
そして、官房長官に就任した安倍晋三は、巣鴨組の岸信介の孫である。この二人が、冷戦終結の今も日米のネオコンやキリスト教右派を器用に操りながら、世代を越えて対北・対中強硬派人脈の中核として海洋勢力強硬派を構成する。
彼らが目指す民主化とは、米中衝突に備えてタングステンを米国に送り届ける北朝鮮の豪腕フィクサーを育て上げることかもしれない。しかし、後にロッキード事件でバッサリ切り捨てられた児玉誉士夫の生涯から、彼らの恐ろしさが見えてくる。
彼らと足並みを揃えるかのように、石原慎太郎・東京都知事は今月3日にワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、米中間で紛争が起こった場合に「中国にとって一番目障りな日米安保をたたくために、もし核を落とすなら沖縄、あるいは東京を狙うだろう」と指摘した上で、「市民社会を持つ米国は戦争で生命の価値観に無神経な中国には勝てない。中国に対抗する手段は経済による封じ込めだ」と主張し、インドやロシアと連携を強化するよう提言している。
一方でプロテスタントを中心とする海洋勢力強硬派の反共ネットワークとは距離を置きながらも、その動向を注視する集団が大陸勢力の中心に存在する。反共の本家本元として、神なき共産主義に宗教の自由を迫るカトリックの総本山、ヴァチカンである。吉田茂の孫として英米の海洋勢力本流人脈を受け継ぎながらも、カトリックとして大陸勢力につながる麻生太郎外務大臣誕生は、海洋勢力と大陸勢力とがぶつかる地の波乱の幕開けを暗示しているかのようだ。
かつて、この二つの勢力に翻弄され、挫折したのが靖国神社にA級戦犯として祀られている松岡洋右である。日独伊三国同盟にソ連を加えた四国協商で米英に対抗するという野望から、スターリンに対して「政治的、社会的」ならぬ「道徳的共産主義」にまで踏み込んで、「日本には、道徳的共産主義がある。日ソでアングロサクソンの影響力をアジアから排除しよう」と懸命に訴えたことがある。この神なき共産主義への接近がヴァチカンをも刺激し、二つの勢力に加えユダヤ勢力をも結集させ、日本は太平洋戦争へと追い込まれていくのである。
この歴史の教訓から、「敵」と「敵の敵」を冷静に見極めながら、「敵」への安易な接近や小泉首相や石原都知事のように表立って敵を刺激する行為は当面控えるべきであろう。むしろ、水面下で「敵の敵」を奮い立たせる工作に知恵を絞ればいい。さもなくば、石原都知事の語る核の惨劇が現実になる。あるいは、中国全土に劣化ウラン弾の雨が降り注ぐことになるのだろうか。
(本稿は、増田俊男氏が編集主幹を務める月刊『力の意志』2005年10月号掲載の「北のタングステンをめぐるWの衝撃」に加筆修正を加えたものである。なお松岡洋右の物語は、まもなく再開する予定のビッグ・リンカー・シリーズにて取り上げてみたい。)
佐藤祥司