◎浅蜊・蛤仔・鯏Short-neck clam あさり
マルスダレガイ科(ハマグリ科)に属する二枚貝で日本全国の湾内、河口の淡水と海水の入り混じった潮間帯から水深 10mまでの内湾の砂泥地(さでいち)、干潟(ひがた)に生息しており近年では、稚貝を集めて養殖し潮干狩りが行われています。
日本の周辺以外に、北はサハリンから、南はフィリピン沿岸まで広範囲に生息します。地中海・北アメリカの太平洋側に移植がおこないみられます。
語源は、貝塚から発見でき古くから採取し食べられておりすぐに砂地で漁り(あさり)出せることからといわれます。
産卵期が2回あり3~5、10~11月が美味となりますが、その後は味が落ちるようです。
アサリは一般に大きく成長すると殻長6cm程になる2枚貝ですが、一般的にスーパーなどで売っているものは3~4cmのものが多く出回っています。時には生長すると8㎝になるのもあります。
殻の表面には細かい成長線と放射状に入った線があり、表面の色柄は千差万別で多様性に富みます。また左右両殻で模様が異なるものがあり、普通は左右相称 なので珍しい例です。内面は白色です。軟体は白色からオレンジ色をして、足は斧形、出・入水管は先の黒いのが分かります。
最適水温帯は 20~25℃、10~30℃内で成長可能として産卵は春5月と秋10月頃の年2回が盛んで、卵は一度に50~200万個も産みます。直径65μm(0.065㎜)、受精卵は10時間ほどで0.1mmほどの繊毛のあるトロコフォアTrochophore期を経て産卵後 22時間でベリジャーVeliger(浮遊幼生)期の0.1~0.2㎜ぐらいになると足糸を出して砂に付着しています。その後に着底稚貝となり底生生活に入り、半年で 2.2cm、1年で 食用にできるほどの3cmに成長します。15~25㎜の初期成貝になるとメスとオスに分かれ性転換を行い寿命は8年程度といいます。
養殖は稚貝が多く育つ所では種苗(しゅびょう)して内湾の砂地に粗放的なまきつけ養成が行われ、1平方メートル当り0.5~5kg見当でまかれているようです。1年ほどで殻長で1.5倍ぐらい、重量で約3倍に成長します。春の大潮などに遠浅の内湾の干潟で行われる潮干狩に使われています。
国内では、愛知、千葉での生産量が多く生息地によって色彩が白くはっきりするものは砂地、黒っぽいは泥地産の傾向で変化が見られます。
1960年代は全国で年間約10万トンの漁獲量で、1980年代の14万トンを頂点とし、その後は減少の一途で1994年には5万トン、2009年には2万トン以下まで減少しています。減少の原因には乱獲、生息域の埋め立てなどの他に環境悪化で富栄養化・水質汚染、輸入稚貝を原因とするパーキンサス原虫Perkinsus qugwadi の感染に伴う繁殖力の低下などの可能性を指摘しています。さらに一方では、瀬戸内海のアサリが減少したのは、過度に海をきれいにしすぎたことが原因のひとつに考えられ、栄養塩の不足した海になったことも一因しているといいます。アサリは海水中の植物プランクトンをこしとってえさにするため、海水を浄化しますので海水をこす能力は非常に高いとしています。
近年、流通の主役は中国、韓国からの輸入ものが多くを占めます。
毒性物質を蓄積した有毒渦鞭毛藻などのプランクトンが分布する水域で育ったアサリを喫食すると貝毒により食中毒をおこす事があります。二枚貝類は、希に、海域に特定のプランクトンが特異的に増殖し、そのプランクトンを餌とした貝は毒を体内に蓄積させます。
麻痺性貝毒と下痢性貝毒の2種類の発生があります。
主に春先に麻痺性貝毒ではAlexandrium属により舌、口唇のしびれや運動失調が見られます。
主に夏季に下痢性貝毒ではDinophysis属が知られ下痢・腹痛等といった特有の症状が現れます。貝毒は調理などの加熱では消失できません。
貝毒は、海水中の原因とするプランクトン密度が低くなると、徐々に貝の体内から排出して消失していきます。海水のプランクトン量を定期的に調査することにより、貝毒の発生を検知しています。
◇貝毒Shellfish poisons かいどく
貝による食中毒でたまに発生して、有害プランクトン(渦鞭毛藻[うずべんもうそう]プランクトンが確認されている)の発生しやすい水温が高くなってくる4~9月にかけてみられます。
地域特性が見られ、また主に貝の内臓(肝臓・すい臓)で有毒成分にサキシトキシンSaxitoxin、ネオサキシトキシンNeosaxitoxin、ゴニオトキシンGonyautoxinなどがあります。
貝毒の規制値、貝毒の毒量は、マウスユニット(MU)という単位で表し、麻痺性貝毒では、体重20gのマウスを15分で死に到らしめる毒量を1MUとしています。下痢性貝毒では、体重20gのマウスを24時間で死に到らしめる毒量を 1 MUとしています。
規制値は、農林水産省及び厚生労働省の通知で定められ、貝のむき身重量 1gあたり麻痺性貝毒では 4 MU、下痢性貝毒は 0.05 MUとし出荷停止措置がとられます。数時間で下痢、おう吐、腹痛で始まり重篤状態、死に至ることもあるが、おおくは2~3日で回復しているようです。
砂だしは、海水濃度(2.7%)程度に2、3時間から一晩浸してから使うようにするとよいでしょう。砂地の栄養豊富な場所で育ったものは殻より身の成長が早く、身の詰まった平たいもの、貝の模様がはっきりしているのがよくおいしいとしています。
日常的に広く用いられぬた、酒蒸、汁物、味噌汁、佃煮、串浅利(生干し後あぶって食べる:三河地方)、かき揚げ、パスタ、チャウダー、バター焼き、炊き込みごはん(深川丼)として料理します。干物・缶詰にもしています。
加熱したときに出る汁にうま味成分と栄養素が含まれ特に煮汁を一緒に摂れる調理法がオススメです。加熱しすぎると身が固くなってしまうので、強火で長く煮過ぎないように注意しましょう。
日本では、あまり生食は、していませんが、海外では伝統的にポルトガルやチリなどでは生で賞味しているようですし、生食用としても地域によって日本での市販もあるようです。潮干狩りで採取してきたものは、生食の時期をよく確認しながら、砂出しし、腸炎ビブリオの危険があるのでよく水洗いしてから“ぬた”として調理しています。更にビタミンB1の分解酵素のアノイリナーゼがを持っています。
◇アノイリナーゼAneurinase あのいりなーぜ
チアミナーゼThiaminaseともいいます。貝類(あさり、しじみ、はまぐり)、こい、どじょうの内臓、シダ類に多くビタミンB1を分解し作用をなくしてしまう酵素ですが加熱によって破壊する事ができます。人の腸に存在することもありビタミンB1欠乏症になりやすいようです。日本人で1~3%にアノイリナーゼを生成する菌をもっているといわれます。ニンニクから発見されたアリインがアリナーゼによってアリシンになりビタミンB1と結合しアリサイアミンAllithiamineとなったものは、アノイリナーゼによって分解しません。
旨みの成分は、コハク酸(有機酸)で潮汁にしてあさりだけで充分な旨みが引き出せ少し青み(菜の花)を入れて春の磯の香りが味わえます。
◇琥珀酸Succinic acid こはくさん
自然界に広く分布しており、1550年にドイツの学者アグリコアAgricolaによって 化石樹脂のコハク(ラテン語succinum)を乾留して白色の結晶として得られています。
旨みがあるとして認められるようになったのは、1912年東大の高橋によって細菌培養ろ液中に著しい量のコハク酸を認め、それが旨みを持っていることを発見し後にこれが青木によってコハク酸によることを報告しています。
清酒、二枚貝(はまぐり、あさり、しじみ)、地衣類、酢に含む有機酸、カルボン酸の一種で微酸性、旨みの成分としています。
無色結晶、融点 185℃、沸点 235℃(無水物になる)、エチ アルコール、アセトン、熱水に可溶な物質です。動植物に広く分布、コハク酸ナトリウムの閾値(旨み成分が感じられる最低の濃度)は、0.02%でありグルタミン酸、イノシン酸との相乗効果はないといわれています。
化学合成的に無水マレイン酸Maleic anhydrideの加水分解によるマレイン酸の水素添加により製造できるとしています。
添加量が適量を超えるとエグミが感じられ他の味との相違が認められ味を損ないます。
アサリは海水では酸素を吸って生きていますが、海から引き上げられると、今度は体内のグリコーゲンを分解し、コハク酸という物質を作って生命を維持しようとし時間の経過とともにコハク酸が増えていきます。採取直後のアサリはコハク酸が100g中63mgなのに対して、パック詰めは98mgと増えています。コハク酸が増えていくと、苦味が強く美味しさが感じられなくなってしまいます。
コハク酸は加工食品に添加し醸造品に多く用いられ調味料、医療用に用いエネルギー代謝に関係する成分としても知られます。
肝臓での糖の合成を抑制して血糖値上昇を抑えることが知られるようになりました。2018年8月に、イギリスの学術誌で褐色脂肪は、首の後ろ、背中、わきの下、心臓大動脈の周囲、腎臓の周囲に限られ脂肪の1%程度、エネルギーの消費器官として体温調節、過剰なエネルギーを燃焼させ、自由にエネルギーを放出する役目をもっていますが、コハク酸が、その褐色脂肪を活性化させるというのです。
採取直後のアサリはコハク酸が100g中20~60mgなのに対して、数時間そのまま陸上に放置・パック詰めは40~240mgと増加します。コハク酸が増え過ぎると、苦味が強く美味しさが感じられなくなってしまうのです。体内のグリコーゲン(2.5~1%)を分解し、コハク酸という物質を作って生命を維持しようとし時間の経過とともにコハク酸が増えていくのですが再度暗い場所に置き海水、塩水に漬けることによってコハク酸が30~100mg/100g中と減り旨みのある量に変化します。
アサリ100g中生でエネルギー30kcal、水分90.3g、タンパク質6.0g、脂質0.3g、炭水化物0.4g、灰分3.0g、ナトリウム870mg、カリウム140mg、カルシウム66mg、マグネシウム100mg、リン85mg、鉄3.8mg、亜鉛106mg、銅0.06mg、マンガン0.10mg、ビタミンA:4μg、ビタミンD:(0)μg、ビタミンE:0.4mg、ビタミンK:Trμg、ビタミンB1:0.02mg、ビタミンB2:0.16mg、ナイアシン2.3mg、ビタミンB6:0.04mg、ビタミンB12:52.4μg、葉酸11μg、パントテン酸0.39mg、ビタミンC:1rmg、コレステロール40mg を含みます。廃棄率60%ですので、100gの実を取り出すのに貝殻ごとで250g必要です。
特徴的成分として鉄分(疲労回復、脳の活性化、貧血予防)が3.8mg、・ビタミンB12:
52.4μg 、タウリン:アミノ酸380~650mg/100g(肝機能強化・コレステロール、血圧低下作用)含みます。
◇マルスダレガイ科 Veneridae まるすだれがいか
動物界 Animalia Kingdom、軟体動物門 Mollusca Phylum、二枚貝綱 Bivalvia Class、異歯亜綱(いしあこう) Heterodonta Subclass、マルスダレガイ上科 Veneroidea Superfamily、マルスダレガイ目Veneroida Order:ハマグリ目、 マルスダレガイ科 Veneridae Family(12亜科:アサリ亜科・ハマグリ亜科・オキシジミ亜科・マルスダレガイ亜科など)と分類します。二枚貝最大の科で、約500~800種が属しています。 アサリ(アサリ亜科アサリ属)、ハマグリ(ハマグリ亜科ハマグリ属)などの食用種が多くあります。多くは泥や砂浜に潜って最小で4mm、最大で10cm程度の、小型の貝で占めています。
アサリは、旨味のコハク酸は熱水に可溶な成分ですので、殻ごと料理することが多いですね。おすましにいいお出しがでています。
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