弁護士川原俊明のブログ

川原総合法律事務所の弁護士活動日記

交通事故の加害車両が自賠責に保険に加入していない場合の救済

2011-11-14 13:34:05 | 交通事故
交通事故の加害車両が、自賠責保険に加入していなかった場合、被害者は、救済を受けることができないのか。

我が国では、車両には、自賠責保険の加入が義務づけられており、加入率は、90%を超えています。しかし、自賠責保険にも加入していない車両が一定数存在しており、不幸にも、無保険車が加害者となることがありえます。このような場合、加害者が賠償金を支払えないと、被害者は泣き寝入りすることになるのでしょうか。
我が国では、交通事故の被害者の救済のため、政府の自動車損害賠償保障事業という制度があり、まず社会保険による救済を受けた後、自賠責保険と同額になるまでその不足分について、損害の填補を受けることができます。
さらに、同事業の他に、対人賠償保険加入者に自動付保された無保険者傷害保険で損害の填補を受けることができます。この保険は、加害者が自賠責保険にも加入していない場合だけでなく、自賠責保険には加入しているが、任意保険に加入していない場合も広く損害の填補を受けることができます。被害者自身の自動車保険で、支払いを受けることが案外知られていないので、覚えておくとよいでしょう。ただし、この保険の適用範囲は、後遺障害や死亡案件に限られており、通常の傷害の治療費や休業損害などは、補償されない点に注意が必要です。無保険車による傷害の損害填補を受けるためには、傷害部分をカバーする人身傷害保険などに加入しておけば安心です。


逸失利益について

2011-11-10 11:22:35 | 交通事故
弁護士:今日は、交通事故の損害賠償請求訴訟で争点の一つとなる「逸失利益」について、お話したいと思います。
Aさん:逸失利益って何ですか?
弁護士:例えば、交通事故で不幸にも被害者が亡くなったとします。そうすると、その被害者が事故に遭わなければ得られたはずの収入が得られなくなってしまいますね。その本来得られたであろう利益、が逸失利益です。
Aさん:被害者が亡くなった場合にのみ問題になるのですか?
弁護士:いいえ。後遺症が残ってしまった被害者に対しても、その後遺症の程度に応じて逸失利益が算定されるのです。
Aさん:具体的には、どうやって算定されるのですか?
弁護士:「基礎収入から被害者本人の生活費として一定割合を控除し、これを就労可能年数に応じたライプニッツ係数を乗じて算定する」ことになります。
Aさん:・・・?
弁護士:いろいろ専門的な単語も出てきているのですが、要は、被害者の年収から生活費に使う分を引く。その額を就労可能な年齢分足す。そして、将来に渡って少しずつもらえるはずの収入を、今一括してもらえるわけですから、その分の利益を引くという計算になります。
Aさん:なるほど。でも、今の話は、被害者に収入のあることが前提になっていますよね。例えば、被害者が専業主婦の場合は、逸失利益は0になってしまうのですか?
弁護士:いいえ。そういうときのために、職種別・年齢別の賃金に関する統計、すなわち「賃金センサス」が参考になります。インターネットでもみることができますよ。これをみれば、自分と同じ年齢、性別、学歴の人の平均収入を知ることができます。そして、これを専業主婦の年収と仮定するわけです。
Aさん:子供の場合はどうなるのですか。
弁護士:裁判所では、賃金センサスの女性労働者の平均賃金を基礎収入とすることが多いようです。でも、今は、女の子でも大学進学率や就職率が高くなっていますね。そのため、全労働者の平均賃金を用いるべきだとの裁判例も増えつつあるようです。
Aさん:無職の人の逸失利益も同じように判断するのですか
弁護士:無職であっても、年齢や職歴、勤労能力、勤労意欲をみれば、就職していてもおかしくない、という人もいますよね。そういう場合は、逸失利益が認められることもあります。その場合の基礎収入は、年齢や失業前の実収入額などを参照して、個別に判断されることになります。
Aさん:私は、仕事もしていて、家に帰れば主婦として家事もしています。基礎収入は、給与所得分と家事労働分の合計額になるんですよね!
弁護士:残念ながら必ずしもそうではありません。一般論をいえば、実収入が賃金センサスの学歴計・女性全年齢平均賃金を上回っているときは実収入額により、下回っているときは専業主婦の取扱いと同様になります。
Aさん:なんだか不公平な感じがしますね・・・。
弁護士:逸失利益は、言ってしまえば「事故に遭わなければ得られた」という仮定のうえで語られるフィクションに過ぎません。それでもできるだけ実体に合った評価がなされるよう、弁護士も裁判所も日々努力しているところです。


ETCレーン内での事故

2011-11-07 10:14:40 | 交通事故
最近は、ETC割引の効果か、多くの車がETCを搭載しています。そして、それに比例してか、ETCレーンでの交通事故が多発しています。そこで、ETCレーン内での事故について、判例を踏まえてご紹介したいと思います。

高速道路のETCレーン内でA車が徐行していたところ、その後ろを走っていたB車がETCレーン内で追突したという事故を取り上げます。
ETCシステム利用規程8条1項には、「ETC車線内は徐行して通行すること」「前車が停止することがあるので必要な車間距離を保持すること」とされており、ETCシステム利用規則実施細則4条には、「ETC車線内で前車が停止した場合、開閉棒が開かないもしくは閉じる場合その他通行するに当たり安全が確保できない事情が生じた場合であっても、前車又は開閉棒その他設備に衝突しないよう安全に停止することができるような速度で通行」すべきと規定されています。
裁判例では、上記条項を指摘した上で、追突車両に一方的な過失を認めました(A車:B車=0:100)。
そして、「仮に、開閉棒が開かない場合で、A車が急ブレーキをかけた場合であっても」、これに追突することは上記規定・違反に反するB車の一方的な過失だとして、A車の過失を否定しています。
事例判断ですので、ケースバイケースな面もありますが、裁判所の基本的な考え方は、ETCレーンに侵入した前方車両がある場合、その後方を走る車両は、万が一、開閉棒が開かなかった場合であっても、追突しないよう、高度な注意義務が課せられているということです。
ETCは、渋滞緩和にもつながる便利なものですが、便利ゆえにより一層注意して利用したいですね。

人身傷害補償保険について

2011-11-01 10:30:21 | 交通事故
 人身傷害補償保険(以下、「人傷保険」といいます)とは、自動車の運行に起因する事故等であって、急激かつ偶然な外来の事故により、被保険者が身体に傷害を負うことによって、被保険者等が被る損害に対して、人身傷害補償条項および一般条項に従って保険金を支払うものです。
この保険の最大の特徴は、被保険者に当該事故に関する過失がある場合であっても、故意または極めて重大な過失がない限り、被保険者の過失の有無またはその割合に関係なく、保険金が支払われる点にあります。
人身傷害補償保険の上記の特徴から、被保険者に過失がある事案において、人傷保険金が支払われた場合、保険会社が代位取得できる損害賠償請求権の範囲については争いが生じます。
この点、裁判例は、人傷保険金を支払った保険会社が代位取得する被害者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について、「保険会社は、支払った人傷保険金が訴訟における被害者の過失割合に対応する損害額を上回るときにはじめて、その上回る額についてのみ、被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する(被害者は、その限度で加害者に対する損害賠償請求権を喪失する)」とする。
 以下、具体例を挙げます。
 ある事故によって、被害者は傷害を負い、裁判基準で算定すると1000万円の損害を受けましたが、被害者にも40%の過失が認められたため、加害者に請求できる損害賠償額は600万円でした。
 また、被害者は、人傷保険に加入しており、この保険会社の基準で算定すると被害者の損害額は800万円でした。
 ここで、被害者は、まず、人傷保険金800万円を受領した後(前述のとおり、人身傷害保険は、被保険者の過失にかかわらず全額が支払われます)、加害者に対して600万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。
 裁判例の考え方によれば、保険会社は、人傷保険金800万円と損害賠償金600万円との合計額1400万円が、被害者の損害額全額1000万円を上回る部分400万円について、被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得し、他方、被害者は、その限度で、加害者に対する損害賠償請求権を喪失し、請求額は200万円となります。
この場合、被害者は、保険会社から受け取った保険金800万円と、加害者から受領する損害賠償金200万円の合計1000万円を受け取ることができ、結果として、裁判基準で算定した当該事故で受けた損害額全額の填補を受けることができます。
 他方、被害者が、先に加害者から損害賠償金の支払いを受けた場合には、裁判例の見解を形式的に適用すると、問題が生じます。
 すなわち、被害者が加害者から損害賠償金600万円の支払いを受けた後に、保険会社に人傷保険金の支払いを請求したとします。
このとき、人身傷害補償保険の約款には、被害者が加害者から損害賠償金の支払いを受けた場合には、それによって賄われなかった分の損害についてのみ人傷保険金を支払うという計算規定があります。
そこで、保険会社は、上記約款の規定に従い、自社の基準に基づいて算出した損害額800万円から、被害者が加害者から受け取った損害賠償金600万円を控除した200万円を保険金として被害者に支払うこととなります。
この場合、被害者は、加害者から受領した損害賠償金600万円と、保険会社から受け取る保険金200万円の合計800万円しか受け取れないことになります。
かかる結論が合理性を有しないことは明らかですが、この点に関して、裁判所の見解および保険会社の取扱いが定まっていない現段階では、自らに過失のある交通事故においては、先に人傷保険金を受け取っておいたほうが得策です。


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弁護士 川 原 俊 明 
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交通事故において健康保険を使うためには

2011-10-25 14:45:09 | 交通事故
交通事故によって生じた傷害の治療を受ける際、病院は「交通事故は健康保険の適用外です」と言ってくることがしばしばあります。
 もちろん、加害者が全部の損害を弁償してくれるのであれば、健康保険を使わなくても問題ありません。しかし、相手方の保険会社から治療費の支払いを拒まれているときなどは健康保険が使えるか否かは死活問題です。
 病院側としては、保険診療(健康保険を適用した場合の診療)よりも、自由診療(健康保険を適用しない場合の診療)の方が、利益が多いので、健康保険適用を回避するため、「交通事故は健康保険の適用外です」と言ってくるのです。
 しかし、保険診療機関(健康保険が使用できる病院等)においては、健康保険適用の申し出があれば、病院がこれを拒むことは法律上できません。
 すなわち、交通事故においても健康保険を使うことはできます。
 ただし、交通事故において健康保険を使うためには、被害者が1つしなければならない手続きがあります。
 それは、「第三者行為による傷病届」を保険機関(市町村、健康保険組合等)に提出することです。
 健康保険は治療費の7割を保険機関が病院に支払いますが、実はこれ、立替払いなのです。
 すなわち、本来治療費は、加害者が過失の割合に従って払うべきものですから、これを保険機関が支払えば、その分、後で加害者からもらいますよ、というものです(健康保険法57条)。これを、健康機関から加害者へ「求償」すると言います。そして、「第三者行為による傷病届」とは、被害者が、この「求償」をしていいですよと、了解するものなのです。
 以上のことを理解したうえで、必要であれば、病院に対し保険診療をきちんと求めていきましょう。


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