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「お薬手帳」めぐるネット上の激論 薬との付き合い方考える機会にしては?

2014-06-22 18:11:41 | 健康
「お薬手帳」めぐるネット上の激論 薬との付き合い方考える機会にしては?
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20140621561.html
2014年6月21日(土)21:45
産経新聞

 薬局などで処方薬を受け取る際に投薬情報を管理する「お薬手帳」について、「手帳の発行を断れば薬局の支払いが20円安くなる」との情報がインターネットで広がった。賛否両論さまざまな意見が飛び交ったが、折しも今月には一般用医薬品(市販薬)のネット販売が解禁。店頭に行かなくても、大半の市販薬を手に入れることができるようになった。そんな今こそ、患者自身が「薬」との正しい付き合い方を考えてみるよい機会ではないか。

「断れば安くなる」との指摘めぐり応酬

 お薬手帳は他の医療機関で出された薬との飲み合わせや過去の処方薬の確認をするため、医療機関で処方された薬の名前や処方量などをシールで貼るなどして記録、管理する手帳だ。

 そんなお薬手帳の“不要論”のきっかけを作ったのは、今年4月の診療報酬改定だ。

 診療報酬とは患者が医療機関に支払う医療の値段のことで、厚生労働相の諮問機関である「中央社会保険医療協議会(中医協)」が決め、2年に1度見直しをしている。患者は高齢者などの一部を除き、3割を自己負担する。

 従来、お薬手帳への記載などで薬局が得られる「薬剤服用歴管理指導料」は410円だったが、4月の診療報酬改定で手帳が不要な人への指導料が340円に減額された。3割負担だと、自己負担額は20円安くなる計算だ。

 これを受けて、ネットの短文投稿サイト「ツイッター」などでは、「手帳を断れば20円安くなる」との情報が拡散。「薬局がしつこくお薬手帳を勧めてきた。もうけるためじゃないか」「毎回持って行くのは面倒だった。安くなるならもう持って行かない」といった意見が出た。

 こうした声に対して「お薬手法は自分の健康を守るもの。20円のために健康を危険にさらすのか」「安くするために断るという考え方はなじまない」などの反論も続出。「きちんと手帳を持って行くまじめな患者が不利になるのはおかしい」という制度への不満や、「電子化してネットで全て管理するようにできないのか」といった提案もあった。

 東日本大震災では、カルテが流されて診療記録や処方薬が分からなくなった患者がお薬手帳を持参したことで、適切な処方や診察時間の短縮につながった。ある薬剤師は「お薬手帳の有用性がようやく認知されてきたと思っていたので、診療報酬が下げられるとは寝耳に水だった」と話す。

 しかし、医療費削減に取り組む厚労省は「薬局側には、患者に手帳のメリットを実感させる努力が必要」との立場だ。これを受け、薬局は薬の飲み合わせによる副作用事例などをまとめた冊子を作成したり、手帳の役割を知らせるポスターやチラシを用意したりと、有用性アピールに取り組む。

 ある大手薬局は「手帳が不要な場合は安くなることも伝えている。その上で患者さんに選んでもらうことが必要だ」と語る。「20円問題」が患者本位の医療につながれば、診療報酬を改定した意味もあったというものだ。

ネットと店舗、どちらが有利?

 お薬手帳をきっかけに巻き起こった議論は、患者が薬とどう付き合うかという根本的な問題を突きつけている。

 同時期、同じ問題を考えさせられる大きな変革があった。薬事法改正により今月12日、市販薬のネット販売が解禁されたのだ。発売から日が浅く、安全性が確立されていない「要指導医薬品」を除くほとんどの薬がネットで買えるようになるとあって、解禁初日時点で、ネット販売を扱う店舗は1000店を超えた。

 一方で、販売には厳しいルールが課された。販売サイトを開設するには、薬局やドラッグストアとして自治体の許可を得ていることが必要だ。オークション形式での販売や、市販薬の効能に口コミやコメントなどをつけることは認められていない。

 偽造薬による健康被害を防ぐため、厚労省は届け出があったサイトを厚労省のサイトで公開している。一般的な情報サイトとは違って、価格の安いものや口コミの良いものから業者を並べ替えて表示してくれるような機能はないが、正規のサイトかどうかは最低限、確認できる。

 ただ、ネット販売が解禁された現状の状況に、ネット販売業者自身が満足しているかというと、必ずしもそうではない。市販薬のネット販売を求めてきた医薬品のネット販売業者「ケンコーコム」(東京)は、要指導医薬品として市販後間もない薬が薬局などの店頭販売では認められたのに、ネットでだけ禁止されたことに反発。「ネットより店頭販売が優れている根拠はない」として、すべての市販薬を解禁するよう求めている。

 一方の薬局側も、ネット販売を契機に、販売方法がこれまで以上に厳しくなった。要指導医薬品を売る際は、購入者が実際に薬を使用する人かどうかを薬剤師が確認し、使用者でない人が買いに来た場合は、災害時などを除いて売ることができない。

 大手薬局の薬剤師は「購入者に薬の飲み方や副作用の注意を説明をしようとすると、不機嫌になるお客さんは多い。その点、ネット販売は注意画面の表示やメールのやりとりで済むことが多く、有利だと思う」と、対面販売ならではの難しさを語る。

「薬」について深く考えよう

 ネット販売解禁に向けた厚労省の検討会でも、ネット販売業者と薬局・薬剤師側の意見対立はたびたび起きた。店頭とネットのどちらが優れているかをめぐり、相手の“非”を批判し合う場面もあった。

 薬剤師側が「薬には副作用のリスクがあり、対面で販売して説明する必要がある」と主張しても、ネット販売業者側は「実際に店舗に買いに行っても、そんな説明を受けたことはない」と反論。議論が白熱する中、日本薬剤師会の幹部は沈痛な面持ちで言った。

 「私たちの仕事が、これほどまで世の中に理解されていないとは、思ってもいませんでした」

 実際には、100%安全な薬などない。処方薬も市販薬も副作用のリスクがあるし、他の薬との飲み合わせで予期せぬ副作用が現れることもある。人によっては、薬の成分にアレルギー反応を起こす可能性もある。そうした事態を防ぐための専門職が薬剤師であり、その拠点が薬局であるはずなのだが、十分に責任が果たされているとも、理解が得られているとも言い難い。

 ツイッターに「お薬手帳不要論」が駆け回っていたころ、ある女性薬剤師は取材にこう答えた。

 「飲み合わせで健康被害が出ても、手帳を断ったのだから薬局に責任はありません、ということで良いのでしょうか。患者の健康を守るのが私たちの仕事。薬剤師の存在そのものを否定された気がします」

 「お薬手帳」や「ネット販売」をめぐる議論の中心は、詰まるところ「これによって患者の安全は守れるのか」というところにある。その観点でいえば、一部で始まっているお薬手帳の電子化や、ネット販売の実効性あるルール改正など、今後も薬をより安全に使いやすくする工夫が必要だろう。副作用の情報を適切に提供し、再発防止を防ぐことも重要だ。

 健康を守るのは自分自身であることは言うまでもないが、それをサポートするのがお薬手帳であり、薬剤師だ。法律や診療報酬だけにとらわれず、皆が知恵を出し合って、プロの意見も取り入れながら、薬との正しい付き合い方を考えていくべきだ。


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