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投薬の「その後」確かめる 患者宅訪問、変わる薬剤師の役割

2014-10-05 17:18:22 | 健康
投薬の「その後」確かめる 患者宅訪問、変わる薬剤師の役割
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/life/snk20141002574.html へのリンク
産経新聞:2014年10月5日(日)14:25


 重度要介護の高齢者や認知症患者への訪問診療が広がるなか、薬がきちんと飲まれていないなどで服薬指導が課題になっている。薬剤師が患者宅に出向いて薬を飲む環境を整え、薬の効果や副作用を医師に報告。チーム医療で解決を図るところも。よりよい療養環境のため、薬剤師の役割に期待が寄せられている。(佐藤好美)

 滋賀県東近江市の永源寺診療所で、医療や介護の多職種が情報共有をする「サービス担当者会議」が開かれていた。診療所の花戸貴司医師が数日前に往診で抗生物質を投与し、薬を追加した在宅の高齢患者についてだ。

 地元、丸山薬局の薬剤師、大石和美さんは薬の追加を踏まえ、患者の「その後」を報告した。「先日訪問したら、呼吸数は20台に落ち着き、熱も36度台。酸素量も90%台に回復しています。水分摂取が困難な様子だったので、とろみをつけることを家族に提案しました。口腔(こうくう)内が乾燥しているので保湿ジェルを塗りたいのですが…」

 花戸医師が同意し、ケアマネジャーやヘルパーらも方針を共有した。

 永源寺地区は6千人弱が暮らし、自宅で亡くなる人が4~5割に上る。訪問看護師が入らない地域もある中山間地だが、大石さんはそんな地域も訪問する。花戸医師は「仕事が縦割りになると、抜けるところが出てしまう。みんなが一歩ずつ前に出ると、患者さんを細かい網の目で支えられる。医療資源が少ない地域だからこそカバーしあう面はあります」と言う。

 大石さんは15年前、父親が脳塞栓で倒れたとき、生家の薬局を閉めるために帰省した。だが、地域に唯一の薬局だ。店内を整理していると、閉めたブラインドの合間から近所の人がのぞきこんだ。「よう帰ってきたな。薬が無くなってしもた」「薬、作ってや」。以来、愛知県に夫を残し、単身赴任で薬局を継続してきた。

 患者を訪問する際は聴診器や血圧計、血中酸素濃度計も持参。患者の脈も取れば呼吸数も数える。肺炎やぜんそく、狭窄(きょうさく)の音は、父親を介護したとき、かかりつけ医に教え込まれた。その後もさまざまな場で医師からバイタルチェックの指導を受けてきた。

 その技術が今も生きるが、目的は明確だ。「薬が効いたか、効いていないか、効き過ぎていないか、思わぬ副作用がないか。それを判断するのが大事。そのために心臓や肺の音も聞く。先生にお知らせするまでが私の責任です」

 薬をきちんと飲んでもらうため、薬局には高血圧の薬「アムロジピン」だけで後発品も含めて20品目以上ある。飲み込みの機能が落ちている人には小粒の錠剤を選び、白内障の人には黄色の錠剤を避ける。見えにくいからだ。

 胃ろうの患者に処方された薬は、溶かしてチューブに入れる簡易な方法を家族に教える。溶かしたり粉砕したりしてはいけない薬もあるから、患者の状態と薬剤によって「飲ませ方」は異なる。

 薬剤師は、患者の病名や検査結果を知らされていないことが多い。だが、このあたりでは「お薬手帳」が威力を発揮する。通常よりひと回り大きいA5判に、花戸医師はカルテの写しも検査結果も貼る。延命治療の希望の有無を聞いたら、それも記入する。「患者さんも情報共有に参加できるように始めた。カルテは患者さんの情報だから、自分で持ってもらったらいい」(花戸医師)

 患者は分厚いお薬手帳を大事に持ち歩く。大石さんは「検査結果を継続して追える。患者さんに『この前の検査はお祭りの後だったから、数値が悪かったね。でも、去年より良くなっているから、薬をちゃんと飲んで、また頑張ろう』とエールを送れる。それが地域薬剤師の役割だと思う」と話している。

 ■人口・疾病構造変わる中、地域の健康拠点に

 薬剤師の仕事は、薬局や院内で処方箋(せん)を確認し、薬と情報を正しく渡すことだと思われてきた。厚生労働省幹部は「薬剤師が患者に触れてはいけないという『都市伝説』すらある」と嘆く。

 だが、職能を再評価しようとの動きもある。「日本在宅薬学会」(会員1300人)は第3世代の薬剤師「薬剤師3.0」を提唱。薬剤師を対象に血圧、呼吸、脈拍などを取る「バイタルサイン講習会」を行う。受講者は2300人を超えた。

 同会理事長で薬局も経営する医師、狭間(はざま)研至さんは「手技も大事だが、本当に大切なのは発想の転換。薬剤師さんは今まで、処方箋をチェックして薬を出す技術を磨いてきた。だが、出した後が勝負。患者さんが薬を飲んだのを踏まえ、『効きましたか』と問わないといけない。在宅はそれがしやすい場です」と言う。

 薬がきちんと飲まれていなければ、医師が意図した薬物治療が行われていないのに等しい。薬剤師が効き過ぎや副作用の情報を医師にフィードバックすれば、治療自体が変わる可能性もある。

 狭間医師自身も経験がある。在宅患者から幻覚を訴えられ、認知症の周辺症状だと思い、薬を足そうとした。だが、薬剤師に「前回処方した睡眠薬の副作用では」と提案され、減量したら軽快した。「薬学の見立てが入ると治療実績が上がる。薬の効果が出ないとき、薬剤師が原因を考え、意見を持ち、医師とディスカッションすることは、地域医療ではとても重要です」

 厚労省は、薬剤師が呼吸や脈をみることについて、「患者の疾病や病状を判断する『診断行為』は、医師にしか認められていない。だが、薬剤師が患者の状態を確認することは、患者に必要な情報提供や指導を行う際に、内容を適切に選択するために行うもので、薬剤師の職能の範囲」としたうえで、「薬局・薬剤師には、医薬品の提供だけでなく、後発品使用の促進や残薬解消といった医療の効率化、栄養・食生活など生活習慣全般にかかる相談応需など、地域に密着した健康情報拠点としての役割も期待される」(医薬食品局)とする。

 とはいえ、すべての薬剤師が、期待に見合う技能を発揮しているわけではない。患者や国民の理解と信頼も道半ば。窓口ではもっぱら「早く薬を出すこと」が求められる。

 狭間医師は言う。「まずは薬剤師が変わらないといけない。だが、国民にも『薬を買っているのか、健康を買っているのか』と問いたい。人口や疾病構造の変化で医療ニーズは急拡大している。今のメンバーで対処するしかないのに、全国に5万5千もある薬局が薬の払い出しの場所になっているのはもったいない」


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