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2014年6月30日(月)11:39
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版
【ベルリン】欧州が次の日本になる方向に傾いているとするならば、それは欧州版アベノミクスが必要という意味なのだろうか。
安倍晋三首相は先週、低迷する経済成長を加速するための新しい措置を発表したが、欧州では、ユーロ圏は日本と同様の長期的な停滞局面入りしているのではないかとの議論が活発になっている。
ユーロ圏の回復のもたつきと、その他地域での政府支出依存度の高まりは、世界経済の成長にとって懸念材料だ。ユーロ圏18カ国は総額13兆ドルの経済圏で、極めて規模が大きく、その不振が他の諸国に影響を及ぼさないはずはない。
しかし、過去20年間にわたって年間1%程度の成長率にとどまっていた日本との比較がどの程度意味があるだろうか。そして問題と潜在的な治療法は、日本の場合とどの程度似ているのだろうか。よく知られているように、日本は1990年代に執拗なデフレ局面に陥り、物価の下落で消費者と企業は支出を先送りし、その結果、成長が弱いままだった。
ユーロ圏がそうした悪循環の瀬戸際にあるわけではない。欧州では、将来の物価に対する2つの重要な決定要因、つまり賃金とインフレ期待(予想)は、1990年代の日本よりも安定的だ。
だが、それはユーロ圏のインフレがすべて順調と言っているのではない。それは先月、年率0.5%に鈍化し、欧州中央銀行(ECB)の目標である2%近辺を大きく下回った。ユーロ圏のサブパー(基準以下の)インフレになると、ギリシャ、スペイン、イタリアといった低迷するユーロ圏参加国は、価格や企業コストをドイツよりも大きく低下させることが一層困難になる。
日本がデフレに苦しむようになったのは1998年ごろで、下降局面が始まって約7年経過してからだった。一方、世界的な金融危機がユーロ圏の成長を打ちのめしてから6年経過した。一部のエコノミストは、もう一つ別の打撃、例えば1997年のアジア金融危機のような打撃が加われば、欧州はバランスを崩してしまうかもしれないとみている。
例えばオランダの銀行INGのユーロ圏エコノミスト、Martin van Vliet氏は「われわれはもう一つの衝撃(つまり、あと一押し)で実際のデフレに陥るかもしれない」と述べた。
日本の2つの「失われた10年」と、欧州の危機後の落ち込みを比較したvan Vliet氏の最近のデータ調査によれば、ユーロ圏は別の意味で日本よりも一段と打撃を受けている。経済的な産出と雇用の落ち込みは、ユーロ圏のほうがはるかに深刻なのだ。
日本では経済活動は鈍化したが、成長し続けた。デフレ調整後の国民1人当たり国内総生産(GDP)は、特に2000年代にはちゃんとしたペースで増加すらした。また日本の雇用率は近年の欧州基準ないし米国基準で高い水準のままだった。
一方、欧州では人口動態上の問題はそれほど劇的でなく、若干の希望がもたらされるはずだ。ユーロ圏の労働年齢人口は縮小し始めており、それは消費需要、投資にとって悪く、年金生活者や公共債務の負担が重くなる。しかし国連の予測によれば、日本の労働力は1990年代に急激な長期衰退局面に入ったのに対し、欧州の労働力の縮小は今後何十年間も漸進的にとどまるだろう。ハーバード大学のケン・ロゴフ教授(経済学)は「人口動態はそれほど悪くない。欧州はまた日本よりも移民にオープンだ」と述べた。
最も説得力のある日欧比較は、政治的なマヒ状態かもしれない。日本の政府と中央銀行は10年間にわたって決定的な行動を起こすことができず、銀行問題を悪化するまま放置し、デフレをまん延させた。最終的に日本の社会は、この病が永続すると予想し、その予想がこの病を一層深刻にした。
日銀の黒田東彦現総裁は、問題は単なるデフレではなく、「デフレ的なマインドセット(先入観)」であり、それが慎重な行動を永続化したと論じた。
安倍首相の「三本の矢」についても、ユーロ圏内で議論が白熱している。 ユーロ圏の政策決定者たちは、破局回避に足るだけ行動するにとどまるのが通常で、その行動は、単一通貨ユーロがかつて付帯していた楽観論を復活するには余りに小規模で、余りに遅すぎた。
日本の努力が持続可能か、あるいは効果的かを判断するのは時期尚早だ。しかし「(日本の3本の矢である)金融政策、財政政策、そして構造改革の3つを協調的に推進するのは、称賛すべきであり、欧州でも採用可能だ」と、アダム・ポーゼン氏(ワシントンのシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所所長)は言う。
ポーゼン氏は、ユーロ圏は現在、「政策アジェンダ(目標課題)の構成要素の間で、敵対的で疑心暗鬼の分離」に悩まされていると指摘した。
しかし前出のロゴフ氏は、ユーロ圏の多くの参加国は高水準の公的債務を抱えており、その結果、大規模な投資のための余裕がほとんどなくなっていると述べた。
欧州連合(EU)当局は、そして強力な債権国のドイツは、これまでユーロ圏全体にとって厳し過ぎる金融政策と財政政策を堅持してきた、と批判家たちは言う。それはユーロ圏の債務諸国に対し、市場の規制を撤廃させるよう圧力を掛けるためだった。
しかしベルリン(ドイツ)では、公共事業投資を大胆に実施したり、ECBのマネー印刷を放置すれば、南欧諸国の政治家にミクロ経済上の改革の手を緩めさせるだけだとの懸念が根強い。
こうした政治的リスクは確かに現実的だ。しかしユーロ圏が大量失業、病んだ小企業、そして投資欠如によって半身不髄のままであり続ける可能性のほうがもっと大きなリスクかもしれない、と懸念する向きもいる。そうなることでユーロ圏は長期的な潜在力、かつて羨望の目でみられた豊かさ、そして高水準の公的、私的債務を抱えたままでいられる能力を損なってしまいかねない、というのだ。
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日本化に向かっている欧州と日本の主要指標