徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

彩の月、果樹と宴の町にて 3

2019-10-17 18:07:41 | 小説



 今日はイラレで線を引くことをやりました。曲線マジ曲者すぎて嫌になります。









 本文詳細↓



 宿でお湯を購入し、さっぱりしてくつろいでいるうちに夕暮れも過ぎて、町のランプに火が灯される頃になっていた。せっかくだから晩ご飯も兼ねて外に飲みに行こうと思う、って既に夢の中だったアダムに一応声をかけたら、速攻飛び起きて「我も行くに決まってるであろう!」と答えてきた。よだれを垂らしたままで。
 初老の宿の主人に出かける旨を伝えると、おすすめだという店を二、三軒教えてくれた。そして最後に付け足した。
 「そうそう。もし乱闘騒ぎや狼藉を働こうとする者を見かけたら、近くのゴーレムに一言伝えてもらえますかな。そうすれば、後はゴーレムたちが相手をしますので。まあ定期的に巡回もしているので、こちらからわざわざ声をかけることもそうないとは思いますがねえ」
 なんでも、果樹園の警備や夜の町の見回り、酔っぱらいの介抱などを頼んでいるらしい。
 「なにせゴーレムには、サボるとか誘惑に駆られるとかいうことがございませんからな。どんな生き物よりも頼りになるというものです」
 なるほど、もっともだ。
 「では、いってらっしゃいませ」
 薄墨色の外は、思っていたよりもずっと明るかった。赤や黄色やオレンジに着色されたガラスのランタンが、家の前、店の軒先、はたまた道に沿って、たくさん並べられていたからだ。
 さあ腹ごしらえ、というところで意見が割れた。

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彩の月、果樹と宴の町にて 2

2019-10-16 17:55:21 | 小説








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 「暖かくなったこれからの時期にこの町に来られる方の多くは、寝泊まりするために部屋を取られることってあまりないんです。だって、朝から晩までお酒を飲んでるんですから、そのまま道ばたでごろ寝でしょう?」
 彼女にはなるほどと言っておいたけど、絶対になるほどじゃない。そしてそんな事情があるからか、荷物を預ける貸し金庫はたくさん用意があるらしい。しかも、値段は宿泊する場合の三分の一だとか。値段には心惹かれるけど、そのために道ばたでごろ寝ができるかというと……僕らは柔らかいベットがあってお湯が使える宿のほうがよかった。
 女の子に言われた通り、中央広場近くの宿屋へ行けば、二階建ての部屋は半分も埋まっていなかった。どれだけ宿泊部屋の需要がないかがよく分かった。
 「ちなみに、今日は山桃の記念日ですので、お菓子や草木染めの屋台がありますよ。よければそちらにもお立ち寄りください。どうぞ楽しんでいってくださいね。真なる天地の喜びが多からんことを」
 女の子はそう言って僕らに手を振ってくれた。この町では毎日が何かの記念日になっていて、いつも祭や催しや大会が行われているらしい。〝宴〟の由来はここからきてるんだとか。
 さらに追記すると、宿屋のカレンダーによれば明日は歯の健康記念日で、明後日は雑巾がけの記念日であり髪結いの記念日らしい。色々謎だし、なんだったら清々しいほどの自由っぷりだ。


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彩の月、果樹と宴の町にて 1

2019-10-15 16:20:02 | 小説



 今日は訓練学校の開講式でした。めちゃくちゃ厳しいよって脅されたんですけど、生き残れっかな...
 というか、訓練生の人たちがすごかった。前職事務職ですとか言ったのウチだけやったんですけど。どういうことなの。










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 果樹と宴の町へようこそ! ポップな文字の踊る看板が、町のいたる所にかかっていた。色とりどりの花が咲き乱れていて、素朴で可愛らしい印象を受ける町だ。
 一方花より酒のアダムは、宴という単語に反応して、僕の肩で寝そべったまま足をぱたぱた動かしていた。まあ果物特有の甘く爽やかな香りと、町の奥のほうから聞こえてくる陽気な音楽。さらに頭の上で燦々と輝く太陽とくれば、浮かれるなというほうが無理か。
 さて、この果樹と宴の町というところは、なだらかな山に囲まれた平野にあった。といっても、いわゆる居住区は平野の真ん中辺りにこじんまりとあるだけで、あとは一面果樹が植えられていた。蜜柑、林檎、桃、葡萄、梨など、見える範囲だけでも数え上げればキリがない。そんな果樹園の間を縫うように整備された道を歩くと、木のアーチが架かった居住区の入口に着く。収穫をしている人たちにも、羽の生えた小さな妖精に指導されながらその場でジャムを作っている女の子にも、皆から声をかけられたから、この町の人はみんなおおらかで人懐っこいのかもしれない。
 レモン色の髪から渦巻く角がのぞいている獣人の少女に、まず宿屋の場所を尋ねた。そして知ったんだけどこの町、なんと宿屋が一軒しかなかった。仕入れの商人の他、ケーキやお酒を目当てに来る観光客は多いだろうに(実際、見かける人の半分以上が僕と同じ旅の装いだった)。
 その疑問をぶつけてみて、返ってきた答えがこちら。


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幕間 運命の席は夢の中を転がる−ケース2.座敷童の場合

2019-10-14 14:14:33 | 小説









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 (無貌の店員に、反対の壁側の席に案内される)
 「すぐに次の方をお連れしますので、お席からお立ちにならずにお待ちください」
 (グラスに残ったジュースを飲んで待つ)
 「失礼します、こちらのお席にお願いします。それでは只今から相席再開となります。ごゆっくりどうぞ」

 「えっと、こんばんは。
 ……はいっ、私はかえで屋の鈴女(すずめ)と申します。以後、お見知りおきくださいませ。
 ……かえで屋は、私が住んでいるお菓子屋さんの名前です。お店の裏に見事な楓の木があるので、それを屋号にしたそうですよ。私は座敷童という種族でして、誰かの家に憑く種族なのですが普段住人とは交流しないしきたりとなっています。なので、こうして人間の方と堂々とお話しするのは久しぶりです!
 ……お互い飲むものが少ないですね。一緒に取りに行きませんか? どんなものをよくお飲みに?
 ……そのときの気分次第、ですか。では、私のおすすめはどうですか? 菊の葉露から作られたお酒で、ほのかな甘みとさわやかな後味が自慢の一品! すごくいい値段がするので、こんなところでもないと飲めない名酒ですよ。私たち妖(あやかし)の種族は、人間が作ったお酒が大好きなんです。
 ……むぅ、そんな驚かなくてもいいじゃないですか。私だって人間に換算すると130歳ぐらいなんですからね! 陶器の一升甕(びん)ぐらい片手で持てますよ!

 ……蒼い月夜に出会った『彼女』を探して旅に、ですか。うーん、申し訳ありませんが私にも覚えがありませんねえ。座敷童の噂は一日で千里をゆくほどですから、それほど美しく月が似合う方がいるなら、耳に入っていてもおかしくはないのですが。
 ……悪魔、ですか。私はどちらかというと、変化の術を持つ種族を推しますが。なにせ悪魔にしろ、はたまた天使にしろ、この地から、いえ、この世界からすでに去った種族ですよ。この世界に現れることもそうないでしょうから、そんな話は忘れてしまいなさい。あなたには、この先も知らなくてよいことです。
 ……いえ、特に深い意味はないんですよ? あなたがお気になさる必要はありません。いいですね?
 ……いいお返事です。さて、とても楽しかったのに残念ですが、私はこのあたりでお暇させていただきます。あなたも帰られるなら、出口までご一緒しましょう。
 ……湯煙と錦の街に来られた時は、是非かえで屋にお立ち寄りくださいっ。旦那様の作られる三葉の練り切りは絶品なんですよ! それでは、また会うときまで」

 (無貌の店員が無機質な声で尋ねる)
 「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
 (無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる)
 「またのご来店をお待ちしております。お足もとにお気をつけてお帰りください」


 ―――――「おはようございます。どうかよい夢を」



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幕間 運命の席は夢の中を転がる−ケース1.三岐大蛇の場合

2019-10-13 11:04:10 | 小説







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 (無貌の店員、濃紺地に金字で何本かの線が引かれたカードを渡す)
 「すぐの相席となります。只今お席をご用意させていただきますので、こちらの伝票を持って少々お待ちください」
 (店の角の席に案内される)
 「それでは只今から相席開始となります。ごゆっくりどうぞ」

 (正面の青みがかった白い髪を持つ女性の赤い瞳が細められた)
 「はじめまして。わたしはシナツノヒメ。あなたは人間よね? こう見えてもわたし、人間じゃないの。何が化けてると思う? 
 ……妖狐? まったく、なんで人間っていうのは、化けているというとキツネやタヌキなんて言うのかしら。ガマガエルなんか論外。よかったわね、口を滑らせなくて。もし下手なこと言ってたら、丸呑みにしてたわよ。
 ……そう、正解は蛇。三岐大蛇(さまたのおろち)っていう、胴はひとつで三つの頭と三本の尾を持つ種族なの。こんな小さな椅子では座れないほど、本当は大きいんだから。それより何か注いできたら? 人間でも飲めるようなものも、一つか二つなら置いてあるでしょう。
 ……それじゃあついでにね、鬼の肝煮を取ってきてくれない? とっても美味しいのだけど、そうそう食べれるものじゃないのよ。やっぱり限定品は、食べられるときに食べとかないとね。
 ……鬼の肝に調理法があったのか、ですって? 何を言ってるの、人間の肝だって食べれるわよ。わたしはあんまり好みじゃないけど。
 ……なによ、そんな顔を青くすることないじゃない。わたしは好きじゃないって言ってるんだから。

 ……ああ、ありがとう。ご苦労様。

 ……驚いたわ。名前も知らない、人相書きもない、どこにいるかも分からない。そんな女のためにあなた、旅に出たの? とんだ粋狂もいたものね。
 ……そう、ずいぶん入れ込んでるじゃない。呆れた子。せいぜいその女が悪魔じゃないことを祈ることね。
 ……悪魔はもうこの世界から去った、ですって? まさか、彼らは確かに存在してるわ。あらゆる生き物に寄り添い、全ての欲望を肯定し、決して消えない炎をつけて煽るの。せめて己だけを滅ぼして終われるように気を付けることね。周りにまで火の粉をまき散らすなんて、よくある話なんだから。
 ……さ、それじゃ席替えしてもらいましょうか。私、人間の男って好みじゃないの。
 ……席替えをこっそり頼むのはね、席の雰囲気を悪くしないためよ。お互い同意の上なら席で頼んだっていいの。わたしはね、天狗の若旦那みたいに、豪放磊落として天衣無縫、情に厚くて腕っぷしも強い男がいいのよ。人間の時点で全然ダメ。お分かり?
 ……わたしとも話せてよかったですって? 人間ってのは世辞が好きね。それじゃあ、ごきげんよう」


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