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フェネネットの言葉は僕ら人間には分からないけど、フェネネットは他種族の言語と文字を理解できるらしいという話は聞いたことがあった。けどまさか書けるとは思わなかったし、何より達筆すぎるだろ……。
「ふむ、まったくもってその通りよな。あれは、棘だらけの生き物と根比べの耐久レースをしているようなものよ。好き好んでそんなものを食すとは、舌だけ鉄でできておるのではないか?」
アダムが何度も首を振ってそんなことを言うものだから、黒毛のフェネネットは鼻息荒くアダムに詰め寄っていった。前足を振り回しているところを見るに、たぶん抗議してるんだと思う。
そんな彼(?)も、一緒に飲んでいた他のフェネネットに呼ばれたようで、すぐにぴょんぴょんと軽く跳ねながら戻っていった。とたん、金色の毛の二匹に軽く頭突きをされたり尻尾で脇をくすぐられたりして、笑い転げていた。一団の中で一番体が大きい茶色い毛のフェネネットがそれを見てため息をつきながら、僕にお辞儀をしてきたのがなんだかおかしかった。
ご迷惑をおかけしました、というセリフが副音声で聞こえてきそうだ。なんて人間味のある行動だろう。
マスターや他の客と世間話を交わしてしばらく経ったとき、外からいっそう賑やかな音楽が聞こえてきた。昼間聞いたものよりもさらにテンポが良く、思わずリズムに合わせて手でも叩きたくなってしまうような感じだ。