徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

幕間 運命の席は夢の中を転がる−ケース1.三岐大蛇の場合

2019-10-13 11:04:10 | 小説







 本文詳細↓


 (無貌の店員、濃紺地に金字で何本かの線が引かれたカードを渡す)
 「すぐの相席となります。只今お席をご用意させていただきますので、こちらの伝票を持って少々お待ちください」
 (店の角の席に案内される)
 「それでは只今から相席開始となります。ごゆっくりどうぞ」

 (正面の青みがかった白い髪を持つ女性の赤い瞳が細められた)
 「はじめまして。わたしはシナツノヒメ。あなたは人間よね? こう見えてもわたし、人間じゃないの。何が化けてると思う? 
 ……妖狐? まったく、なんで人間っていうのは、化けているというとキツネやタヌキなんて言うのかしら。ガマガエルなんか論外。よかったわね、口を滑らせなくて。もし下手なこと言ってたら、丸呑みにしてたわよ。
 ……そう、正解は蛇。三岐大蛇(さまたのおろち)っていう、胴はひとつで三つの頭と三本の尾を持つ種族なの。こんな小さな椅子では座れないほど、本当は大きいんだから。それより何か注いできたら? 人間でも飲めるようなものも、一つか二つなら置いてあるでしょう。
 ……それじゃあついでにね、鬼の肝煮を取ってきてくれない? とっても美味しいのだけど、そうそう食べれるものじゃないのよ。やっぱり限定品は、食べられるときに食べとかないとね。
 ……鬼の肝に調理法があったのか、ですって? 何を言ってるの、人間の肝だって食べれるわよ。わたしはあんまり好みじゃないけど。
 ……なによ、そんな顔を青くすることないじゃない。わたしは好きじゃないって言ってるんだから。

 ……ああ、ありがとう。ご苦労様。

 ……驚いたわ。名前も知らない、人相書きもない、どこにいるかも分からない。そんな女のためにあなた、旅に出たの? とんだ粋狂もいたものね。
 ……そう、ずいぶん入れ込んでるじゃない。呆れた子。せいぜいその女が悪魔じゃないことを祈ることね。
 ……悪魔はもうこの世界から去った、ですって? まさか、彼らは確かに存在してるわ。あらゆる生き物に寄り添い、全ての欲望を肯定し、決して消えない炎をつけて煽るの。せめて己だけを滅ぼして終われるように気を付けることね。周りにまで火の粉をまき散らすなんて、よくある話なんだから。
 ……さ、それじゃ席替えしてもらいましょうか。私、人間の男って好みじゃないの。
 ……席替えをこっそり頼むのはね、席の雰囲気を悪くしないためよ。お互い同意の上なら席で頼んだっていいの。わたしはね、天狗の若旦那みたいに、豪放磊落として天衣無縫、情に厚くて腕っぷしも強い男がいいのよ。人間の時点で全然ダメ。お分かり?
 ……わたしとも話せてよかったですって? 人間ってのは世辞が好きね。それじゃあ、ごきげんよう」



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