徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

彩の月、果樹と宴の町にて 8

2019-10-22 09:37:14 | 小説











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  フェネネットの言葉は僕ら人間には分からないけど、フェネネットは他種族の言語と文字を理解できるらしいという話は聞いたことがあった。けどまさか書けるとは思わなかったし、何より達筆すぎるだろ……。
 「ふむ、まったくもってその通りよな。あれは、棘だらけの生き物と根比べの耐久レースをしているようなものよ。好き好んでそんなものを食すとは、舌だけ鉄でできておるのではないか?」
 アダムが何度も首を振ってそんなことを言うものだから、黒毛のフェネネットは鼻息荒くアダムに詰め寄っていった。前足を振り回しているところを見るに、たぶん抗議してるんだと思う。
 そんな彼(?)も、一緒に飲んでいた他のフェネネットに呼ばれたようで、すぐにぴょんぴょんと軽く跳ねながら戻っていった。とたん、金色の毛の二匹に軽く頭突きをされたり尻尾で脇をくすぐられたりして、笑い転げていた。一団の中で一番体が大きい茶色い毛のフェネネットがそれを見てため息をつきながら、僕にお辞儀をしてきたのがなんだかおかしかった。
 ご迷惑をおかけしました、というセリフが副音声で聞こえてきそうだ。なんて人間味のある行動だろう。

 マスターや他の客と世間話を交わしてしばらく経ったとき、外からいっそう賑やかな音楽が聞こえてきた。昼間聞いたものよりもさらにテンポが良く、思わずリズムに合わせて手でも叩きたくなってしまうような感じだ。

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彩の月、果樹と宴の町にて 7

2019-10-21 19:31:32 | 小説












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 マスターの指の先を追ってみれば、凛とした態度で上品にフルーツを食べている常磐色の毛のフェネネットがいた。
 「み、緑⁉ 聞いたことありませんよ……」
 「突然変異種なんだろうな。まあこいつも虐められてねえみたい……というよりむしろ過保護に守られてる感あるからな。大丈夫なんだろ。ほい、注文の品だ。酒はエメラルドクーラーとトリュフティーニだ。おすすめをってことだったからな、兄ちゃんの一杯目にはこれがふさわしいだろ」
 マスターが僕の前に置いてくれたグラスを見て思わず笑ってしまった。だって僕の髪と瞳の色は、母さん譲りの甘いミルクチョコレート色だから。
 「ああ、あとその黒毛のフェネネットな。どうも大の辛党なようなんだわ」
 マスターがそう教えてくれて、ようやく僕はこのフェネネットが何を言いたいのか察した。
 「そっか、君も辛いのが好きなんだね。もしかしたら、僕らが行った店にも行ったことがあるのかな。よろしくね、同士」
 差し出した僕の手の人差し指を、黒毛のフェネネットは嬉しそうに舐めて、額をこすりつけた。彼らなりの親愛を示す挨拶だ。
 ひらりと紙が横から飛んできたので何かと思ってみて見れば、さらりとした人間の文字が並んでいた。
 〝あんな気合の入った口の奴が二頭もいるとはな〟


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彩の月、果樹と宴の町にて 6

2019-10-20 14:38:36 | 小説











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 「俺のおすすめね……。ああ、分かった。ところで、お連れはずいぶんとご立腹なようだが、何があった?」
 「ええ。さっき、ここの裏にある黄色い屋根の料理店に行ってきたんですが、口にあわなかったみたいで。僕は美味しく頂いたんですけどね」
 「喧しいぞ。今我の口の中は焼けた鉄を口に含んだときのように猛烈に熱くてかなわんのだ!」
 「お前は焼けた鉄を口にいれたことがあるのか?」
 すかさず怒鳴り返してきたアダムとは別に、何かが動いた気がして首を振る。席ひとつ分空けたカウンターの上で飲んでいた一団の中から、こっちを見ているキラキラしたオレンジと目が合った。僕が気づいたと向こうも気づいたみたいで、走って僕の手にすり寄ってきた。
 「え、ちょ、君もしかしてフェネネット? でもこの毛の色……」
 フェネネットは、木の上に住んでいる四本足の細長い身体の種族だ。特徴的なのは、濃い橙色の瞳と長くてツヤツヤとした長い毛。この毛は普通、茶色から金色らしいんだけど、後ろ足で立って僕に何かをアピールしてくるこのフェネネットは、黒毛だった。照明が暗いせいで見間違えたかと思ったけど、どれだけ近くで目をこらして見てもやっぱり黒色だった。
 「ああ、そいつな。南のパイナップルの木に住んでいる群れの中で、なんでか一匹だけ黒毛なんだよ。といってもべつに虐められてる様子はねえし、何よりほら。もっと珍しいのがいる」



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彩の月、果樹と宴の町にて 5

2019-10-19 14:07:51 | 小説



 訓練学校に入ってから1週間が過ぎました。イラレの基本のパスの練習をしてました。来週から本格的に始まります。



 




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 でも、僕の隣に立っていた半獣半人の男性(馬や山羊などの下半身を持つ彼らは普通の椅子には座れないから、基本カウンターに案内されて椅子も下げられる)も涙目で水を何杯もあおっていたから、大の甘党のアダムだけが大げさだったわけじゃないかもしれない。実際、他にもいたお客さんの反応を見て、店主のお兄さんもレシピに手を加えていたようだったし。
 「次はあそこじゃ! 甘いものも充実してるという話のバーじゃ! 初めからああいうところにしておけばよかったものを!」
 「ああ、うん、悪かったって」
 円形の広場に面しているバーの木の扉を押した。カラランとベルが軽い音を立てた。いらっしゃい、と声をかけてくれたマスターは、一ツ目の大きな男性だった。店内は思っていたよりも広くて、カウンターとテーブル席の他に小さいステージがあった。きれいなエルフの女性が弦楽器をかまえて、ゆったりとした曲を奏でていた。
 空いていたカウンター席に座る。アダムはマスターから声がかかる前に、カウンターへ飛び降りると注文を始めてしまった。
 「我はホイップたっぷりアイスとフルーツ盛り合わせ、酒はさっぱりすっきり冷たいものを頼む!」
 「はいよ。そっちの兄ちゃんは何にする?」
 マスターは嫌な顔をせず頷いてくれた。
 「特に好みはないので、あなたのおすすめをいただけますか?」





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彩の月、果樹と宴の町にて 4

2019-10-18 18:20:18 | 小説











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 お酒であれば、カクテルでもワインでもビールでもウイスキーでもなんでも平気で飲むくせに、こと食になると、アダムの好みは年頃の人間の女の子と大差ない。けど残念、僕は辛党だった。
 「あ、こらっ! そっちではないぞトルル! あっちじゃ! フルーツとパンケーキの楽園(パラダイス)へ行くにはあっちの道を行かねばならぬぞ!」
 僕の頭の上に居場所を移したアダムはそう言って僕の髪を引っ張ったけど、無視した。そう思うんなら、自分で歩けばいい。
 「だからそっちではないと言っておるだろおぉぉ!」

 安くて温かくて美味しい食事というのは、やっぱりいつでも幸せな気分にしてくれる。おまけに、考案中の新メニューというのも食べさせてもらえて、僕は満足顔で食事処を出た。一方、僕の肩の上で器用に腹這いになっているアダムは、口を開けて外の空気をいまだ熱冷めやらぬ口内に送りつつ、苛立った声で言った。
 「おぬしのその強靭な舌だけは、何年経っても理解できぬわ」
 そんな恨みがましい目で見られても、どんな味か聞きもせずに口に入れたアダムの自業自得だと思う。
 若い人間の店主がくれた小ぶりの肉団子だった。噛んだとたん、熱い肉汁と一緒に指先まで痺れが伝わるような辛みという名の痛みが、口の中いっぱいに広がった。僕は美味しいと思ったんだけどな。



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