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「お、おれは、その! た、頼まれただけで! お、鬼の内臓は、めったに出回らない珍品だからって! め、め、めてゃくちゃいい値がつくんだよ! だから、さ! そんなん言われたら……ほら、誰だって、やってみたくなるじゃん!? だ、だから、おれは、おれは、悪くないっつーか! なっ!?」
と命乞いをした。
後ろ手で縛られたまま、立ち上がることもできず。哀れ青ざめた貂の男は、尻で後ずさる。だが、行く先にも希望はなく、待つのは怒りを煮滾らせた鬼の折檻。十月の間、ずっとずっと追いかけ、ようやっと捕らえた怨敵ぞ。もはや逃がしてなるものか。
そのあと貂がどうなったのかは、知らぬことである」
スゥと目を細め、夜叉(やくしゃ)童子は笑った。なんの感情も乗せず。
「これにて、鬼事の怪は終いじゃ」
再び、カコーンッという鹿威しの音を聞いた気がした。
まるで腸(はらわた)に石を詰められたかのように苦しかった。
「……なんとも愚かな奴よ。鬼の一族は、見た目の恐ろしさに反して情に厚い種族。いかなる法も貂を守りはしなかったろう」
アダムが一息に大蛇の酒を呷ったのを見て、僕もつられて湯呑みに手を伸ばすことができた。湯気を立てていたお茶は、すっかり冷えてしまっていた。
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