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長い、
長い沈黙があった。
「……遠いわね。凄く遠い」
ぽつりと、彼女はそう零した。
「とても時間がかかる方法を選ぶのね。《世界》の破滅のほうが先になるかもしれないわよ」
「そうですか? 悪くない勝負だと思いますけど。少なくとも、僕が英雄役を演じるよりよっぽど早いです」
「君ほど恵まれていて、君ほど真剣になってくれる人間がそう現れるとは思えない…………のに、困ったわ」
ふわりと彼女は降りてきて、僕の両頬を包んだ。突然のことに、表情筋が熱を持ったまま硬直した。
「その先を見てみたいと思ってしまった。君の選択がどんな結果を呼ぶのか、知りたくなってしまった。君は、とてもズルい子だったのね」
泣きそうで、でも楽しそうなドキドキを隠しきれない笑顔が僕の視界を埋めた。それがとても愛おしくて、彼女の手に触れようとして――
「そうと決まれば色ボケしておる場合ではないぞ!」
アダムの木槌で思いっきり殴られた。どれだけ文句を言っても暖簾に腕押し、ぬかに釘。まあナイトウォーカーが心から楽しそうに笑ってくれたから良しとするけど。
「そうだ、あと一つだけ。人だけが忘れてしまったこの《世界》の名前って何ですか?」
「それはね。楽園の箱庭を演じるための舞台
――――――――――――――――《オペラリウム》よ」
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