徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

朝の月、世界と舞台の隙間にて 15

2020-05-05 10:24:52 | 小説






 本文詳細↓



 「……どうして?」
 眉はハの字に下がり、瞳の中は揺らめいて、薄い唇は笑みをかたどったまま、声は穏やかで。ナイトウォーカーの顔にはとても複雑な感情が滲んでいて、僕には彼女の心の内を正確に読み取ることができなかった。
 「私と出会って最初のきっかけを得た。《雲を歩き海を呑む放浪者》と出会って理解者と師を同時に得た。夢の某に通い、この《世界》の人間が知れること以上の知識を得た。それはひとえに、英雄になることが君の運命だからではなくて?
 色んなものに導かれて、助けられて、君は今ここにいるのでしょう。偶然も重なれば運命になる。君の運命は、君が英雄になることをきっと望んでいる」
 僕は首を横に振った。違う、それは僕の望みじゃない。僕の望みは――
 「……そういえば、ちゃんと名乗ってませんでした。ナイトウォーカー、僕の名前はトルヴェール・アルシャラールです。春陽と野花の町で生まれ育ちました。剣の腕前は人並みだけど、記憶力の良さには定評があるんです。一度聞いたことは忘れません。あと辛いものが好きで、酸っぱいものが苦手です。趣味は日記を書くことです。もちろん、旅の間もずっとつけていましたよ。見てください、これだけノートがたまってしまった」
 あなたと仲良くなりたかった。そのために、まず自己紹介から。そう思っただけだったんだけど、きょとんと困惑していてちょっとかわいかった。



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