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ナイトウォ―カーが現れてから、ただの一言も発しなかった連れの名を呼んだ。今の僕には甲板の木目しか見えてないから、アダムがどんな表情をしているのか分からない。でも、笑ってはいないだろう。なにか、痛みや悲しみを堪えるような顔をしているに違いない。
「……アダム。お前はいつも、僕が世界について考えようとするのを止めていたな。僕に何も言おうとしなかったし、知らせようとしなかったな」
「……」
「一番最初に人間にこの茶番劇を勧めた世界一のお調子者、《雲を歩き海を呑む放浪者》。僕は、エアリエルがそれと同じ名前でお前を呼んでいたのを覚えているよ」
「……」
「なあ、アダム。僕は全てを知ったよ。いいかげん、お前のことも教えてくれないか……?」
裸足で甲板を歩いてくる音がして、やがて頭の上に慣れた重みが加わった。
「我から改めることなど何もない。ただの冗談だった、こんなはずではなかったと嘯くには、事はあまりに大きくなりすぎた。今の我はただ、人間を自由へ導く英雄を待っているというナイトウォーカーの考えに共感し、もしも本当にそんな時が来たのなら、我は英雄の傍で手助けするつもりでいるだけのこと。こんなお調子者でも、生きている長さではブロッケンどもにも負けぬ。貸してやれる知恵ぐらいあろう」
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