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斑な薄墨色の雲の下、灰色の小石だらけの尾根を慎重に歩いていた。他に色といえば、見下ろした先の葉っぱの緑色ぐらいだ。木登りするには少し心もとないほどの細い木々の先で、広がった柔らかい葉が山を薄くおおっていた。
ここはカ・ディンギル山岳地帯。頂上もその上の空も見えないほど常に厚い雪雲がかかったケ・セルの山に次いで、標高が高い山が連なる無人の場所だった。
四方八方目を凝らしても、人の暮らす街が見えないようなここにいると、悩みや違和感があっても全てどうでもよくなってくるから不思議だ。
少し開けたところで昼食をとっていると、前から大きな荷物を持った人たちがやって来た。
「こんなところに人間とは珍しい。こんにちは、少年」
彼らは皆一様に鼻が長く、背中からは大きな黒い翼が生えていた。風の妖術使い、天狗だった。
「もしや君も、アルジャンナの遺跡を目指して?」
心当たりどころか聞き覚えもなかった。
「おや、同士かと思いましたが違いましたか。アルジャンナの遺跡は、何千年も昔に竜(ドラゴン)の一族が造ったと言われている石造りの塔の迷宮のことです。天を衝くほどに高い遺跡の一番上には、聖宮(テメノス)の秘宝と呼ばれる世界で最も美しい宝が眠っているらしいと聞いて、ならばぜひお目にかかりたいと思ってやって来たのですよ」
「言われてみればそんな話も聞き覚えがあるような気がするが、そんなものどこにあるというのだ?」