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「大丈夫かい、凄い音がしたけど」
「ど、どうにか……。あとアダム、うるさい。……それより、これは?」
「これが竜(ドラゴン)ですよ。そして、この像が握るコレこそが旧き時代の青き天藍石……『聖宮(テメノス)の秘宝』です」
部屋の中には、大きく尖った耳がついた鰐の頭と蜥蜴の体と先が分かれた蛇の尾と二対の蝙蝠の羽を持つ生き物の大きな像が鎮座しているだけだった。床に立てば見上げるほどなんだろうけど、上下逆転している僕からすると幸いというか、目線に竜の顔があった。その、もの言わぬはずのオパールの瞳が僕らを探るように見てくるように感じて、僕は慌てて視線をさらに上へやった。
ナイフほどの鉤爪に守られるように、竜の左手に金を散らした瑠璃色の宝石があった。
おじさんが少し触ると、あっけないほど簡単にころりと手の中に収まった。
「罠とかがあるかと思ってたんですけど……」
「そうですね。けど、こう考えることもできます。ここまで辿り着けるほどの知力、武力、財力を持つ者なら秘宝を渡してもかまわない、と。本当に誰にも渡したくないなら、竜自身が番人となればいいわけですし」
知力は言わずもがな。99階の探索中、おじさんたちに助けてもらわなければ死にかけたことが何度あったか。そういう事態を乗り越えるだけの武力。長期間巨大な迷宮に挑むための装備を揃える財力。全て持ち合わせるものはごくわずかだと思えば、なるほど一理ある。