徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

寿の月、時計塔と架け橋の街にて 10

2020-03-10 19:55:18 | 小説






 本文詳細↓



 消えた。
 前触れもなく、音もなく、まるで最初からいなかったかのように、彼女は消えた。
 「……え」
 どれだけ待っても、彼女が時計塔から出てくることはなかった。
 たったの一声すらも、二度と聞こえることはなかった。
 「…………な、に……が……」
 ぽすっ、といつになく優しい音でアダムは僕の頭に手を置いた。促されるままのろのろと首を振ってみれば、もう誰も彼女のことなんか気にせず祭を楽しんでいた。
 「さっき? ああ、なんか言ってたね、興味なかったから無視したけど。君の知り合いだったの?」
 「祭の時期は浮かれて奇行に走る奴がいるからなあ。なんか目立ちたかったんじゃねえの?」
 「あー、さっきの。自由の人間たちよーって何か叫んでたやつ? 意味分かんないよねー」
 たくさん聞いて回った。でも答えはみんな似たり寄ったりだった。
 なんだか疲れて、時計塔の下に行儀悪く座り込んだ。
 「忘れよ、トルル。全ては太陽が見せた白昼夢(ファンタジー)だったのだ」
 アダムはそう言った。
 でも僕は、何故か覚えておかなきゃいけないと思った。
 僕にとってあの子は、「この街で出会ったコスモス色の髪のちょっと変わった女の子」でしかない。


コメント
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